まんがパウチ (レビュー・ネタバレ)

漫画の絵とストーリーを、真空パウチするように書きとめました。
【ファイアパンチ】【カラダ探し】など

こはねちゃんの犬  (漫画紹介)

2017年11月22日 | 漫画紹介


【作者】江戸屋ポロ
【連載】サンデーGX 単行本3巻(完結)
無料漫画アプリ「サンデーうぇぶり」で読めます

【ジャンル】「SとM」「つんでれ女子」「幼馴染の恋」
【この作品が好きな人に】「愛されるより〇したい」「ホモンクルス」「となりの怪物くん」

【概要】
俺、今日から幼なじみの犬になります。
幼なじみのこはねに流血の大怪我をさせて以来、他人の体液に恐怖を覚えるようになってしまった圭吾は、ひっそりとした学校生活を送っていた。
そんな圭吾の前に転校生として現れたこはねが、圭吾の体液恐怖症を“治療”してあげると宣言したことから圭吾の学校生活は一変して……?罪の意識、痛みの中に潜む快楽、純粋な恋心……
さまざまな感情が入り混じる“体液克服”SM青春ラブストーリー


【感想】
3巻一気に読んでしまう面白さでした。起承転結、途中のハラハラ感、各キャラの個性がしっかりしていて、またキチンとオチていて読後の満足感も高かったです。
性的な描写を浅いラインで抑えながら、あとは読み手の「感覚」に性的快楽感を委ねたような描写だと思いました。

SM緊縛系漫画かと思いきや、それは話のアイテムで、心に闇(トラウマ)を持った人達が、その隙間を埋めていく作業として「束縛」という手法によって「他者」と繋がろうともがき、葛藤する話でした。登場人物のほとんどが悲しい人達です。
メインは、他者とのつながりと自分の存在意義、人を愛すること、傷つけることの心理の方にあると思います。

そういった人間関係と心理の筋とは別に(同時に)、SM的な面白さも味わうことが出来ます。
「痛みと性的快感が同じである」「その感覚をもっと欲しい」「自分は変態だ」「人と違って何が悪い」「SとM」「同性愛」・・・あたりの事が、かわいい絵と青春の中にちりばめられています。
前半は、かわいらしいこはねちゃんが、ムチと飴の交互の出し入れで圭吾を調教していく様が詳細で、性的快楽に堕ちていく男子の心理描写に、そこに「はまって抜け出せない」気持ちが理解できそう・・・な気がしました。

要所要所に出てくる緊縛シーンの紐の描き方がやたらリアル?で、読みながら、自分はSだなー、自分はMだなーというのを考えてしまうかも。SMと言ってもソフトなものだと思います。


【ストーリー】
幼少期、活発で我慢強い男の子だった「圭吾」は、仲のよかった幼馴染の「こはね」に大出血を伴う怪我を負わせてしまい、その止まらない流血を見たショックで倒れてしまう。以来、圭吾は人間のあらゆる体液(汗、涙、唾液、鼻水などの体内から流れ出る液体)に強い恐怖を抱き、身体症状が出るまでとなる。
こはねは、圭吾がショックで寝込んでいる間に引っ越してしまい、謝罪も出来ていないまま、圭吾の心の底で深いトラウマとなって沈殿していた。



圭吾の体液恐怖心は、嘔吐、めまい、気絶を起すなど日常生活にも支障をきたす肉体的症状として現れ、中学高校と目立たず大人しい生徒として、地味で孤独な日々を過ごしていた。



高校で出会った「池端」は、汗をかくことが出来ない体質で、互いに人に理解されにくい体質の悩みと孤独を知る者同士で「親友」として唯一無二で心を開ける存在となり、白鳥圭吾は孤独ではなくなっていた。また、そんな2人に優しく接してくれる美人の「椿先輩」もいて、静かながらもそれなりに楽しく高校生活を送っていた。

そんな圭吾の生活が一変するのは、トラウマの原因「立花こはね」が同じクラスに転入してきてからだった。
被害者であるこはねの気もちを謀りかね、贖罪の責任に沈む圭吾にこはねが迫る。
「ねぇ・・私に身体を預けてみない?私なら治してあげられるよ、ね。このままじゃ好きなコとキスもできないよ?ワンコ」



ワンコとは、幼くふざけ合ってじゃれていた頃の呼び名。こはねの事を圭吾は「ねこ」と呼んでいた。
こはねの提案を断った圭吾に、こはねは圭吾に負わされた傷を見せて脅迫する。元より圭吾に断る権利などなかったのだ。

こはねの「治療」は、圭吾の体を唾液でびちゃびちゃになる程に舐め、首筋に噛みついて噛み跡を残すこと。
圭吾は恐怖で気絶しそうになると、こはねは血が滲む程に圭吾に噛みつく。気絶もできず、ただひたすらこはねの「治療」が終わるのを耐え続けるのみだった。圭吾の首筋についたこはねの噛み跡は、「まるで首輪みたい」だった。









だが圭吾は、次第にこはねの"治療"に言い知れない快楽を感じていて、こはねに支配されていく自分を感じて怯えた。
気持ち悪いと、気持ちいいの境界線の区別がつかない、不快と快楽の狭間に落ちていくのだった。

こはねが「治療をやめる」と言いだすと、今度は続けて欲しい衝動に駆られ、どうしようもなくこはねの「治療」を自ら望んでしまうのであった。



そんな圭吾にこはねが言う。
「身体は嫌がるのに、心は望んでいるの?そう、わかるよ・・・。身体はいつだってわがまままで、心ばかり我慢させられるの・・。だから、これで心を自由にしてあげられるよ。よく今まで我慢したね、偉かったね・・・」






圭吾は自分を飼い犬のように扱い、指示を出すこはねに、いいようのない、大きな安心感を抱くようになる。だがそれは逆に、こはねと離れると途端に襲われる不安症状という副作用も付随した。
圭吾は次第に自分で考える事を辞め、こはねに依存していく。それでいい、互いに互いがなくてはならない補完関係であると信じていたが、そんな二人の秘密を知る人物によって、二人は引き裂かれ・・・・・・。



【各話詳細】


こはねちゃんの犬 1巻-1話「再会」
こはねちゃんの犬 1巻-2話「捕縛」
こはねちゃんの犬 1巻-3話「不調」
こはねちゃんの犬 1巻-4話「共謀」
こはねちゃんの犬 1巻-5話「決壊」


こはねちゃんの犬 2巻-6話「回顧」
こはねちゃんの犬 2巻-7話「選択」
こはねちゃんの犬 2巻-8話「直面」
こはねちゃんの犬 2巻-9話「服従」
こはねちゃんの犬 2巻-10話「散歩」
こはねちゃんの犬 2巻-11話「思慕」
こはねちゃんの犬 2巻-12話「共闘」


こはねちゃんの犬 3巻-13話「屈辱」
こはねちゃんの犬 3巻-14話「決意」
こはねちゃんの犬 3巻-15話「混乱」
こはねちゃんの犬 3巻-16話「執着」
こはねちゃんの犬 3巻-17話「転機」
こはねちゃんの犬 3巻-18話「開放」
こはねちゃんの犬 3巻-最終話「求愛」


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こはねちゃんの犬 最終話 ネタバレ

2017年11月22日 | こはねちゃんの犬(完)


「こころをひと「つに」という言葉が大嫌いだった。
皆と違うこころを持つ自分が、見透かされそうで・・、責められているようで・・・。
疑問を抱くのもおかしいのだろうか。
こころはひとつになんて、出来ないんじゃないか。



椿先輩に聞かれた。「あなたは誰の犬?」
俺は答えた。 「僕は…誰の犬にもなりません。」

その答えに、椿先輩は焦ったように圭吾に詰め寄った。
「何を言ってるの?いつか私に足をくれると言った約束は?私は圭吾君の為に、今までつないできたものを全て捨てたのに・・・」

「体液が怖くなってから、人との接触を避けねばいけないと知り、自分は『何の為に生きる』のかわからなくなりました。一人で生きるのは寂しすぎて、でも死んでしまう程の理由はなくて、そんな時に、こはねが・・・、椿先輩が・・・『誰かの為に生きる』という選択肢をくれた。ここに存在していいという安心感。生きる意味を、依存する依存されることで、自分を肯定する事が出来た。」



椿は頷いて「そうよ、そこまでわかっていてなぜ拒むの?お互いに一生、不安なく過ごせるのに」と意見に賛成した。

圭吾は椿の言葉を聞いてから、また話を続けた。
「不安はなくなる・・・。けれど『不安がないことが幸せ』ではないと、知ってしまった。
その依存関係は、お互いがお互いの望む形になれなければ、破綻していく。自分を殺して、相手の望む姿で生きていくこと、そうする事が幸せだという人も、きっといる・・・・。けど、俺は自分を殺せなかったし・・・・、椿先輩が"こはねの役"をしてくれる姿は、見ていて辛い。」





椿は・・・いまにも泣きそうに、苦しそうに顔を歪ませて悲痛に叫んだ。
「・・・どうして、嫌よ、また私を捨てるの?じゃあ誰をっ・・・、なんの役をやったら、私は必要とされるの!?」




圭吾は「椿先輩は椿先輩のままでいいんです。出会った頃のように、先輩はそのままで魅力がある人なんです!」と言ったが、椿は笑い飛ばした。圭吾の知る姿ですら、相手の望む通りに生きていた姿なのだ。
幼少期から、そうやって生きてきた、全部がまがい物。もう本当の自分がどれなのかもわからなくなっていた。

椿には、『最後の切り札』があった。
「誰かの為に生きられないのなら・・・、せめて・・・」

あいつみたいな無様な死に方はしない、と心に誓っていた。
椿が中学生の頃、離婚した父親が孤独死をしていて、椿は第一発見者だった。誰にも発見されることなく、誰にも看取られず、遺体は腐敗して溶けて床に大きな染みとなっていた。
捜査員達の話が耳に入る。
「こんな死に方は嫌だね、人の死に方じゃないよ。死んでからも他人に迷惑かけるなんてよ、ったく」



父と離婚していた母親から、いつも『役立たず』と罵られ、「あんたはいずれあいつみたいになる」と呪文のように言われた。



どうせ人の役に立たないのなら、誰かに惜しまれて死ねないのなら、華々しく散る様を誰かの眼球に残して死にたい。というのが、その頃からの椿の『最後の切り札』で、『とっておき』で『希み』だった。その最後があるから、生きてこれた。

だが・・・・、椿の最期の希望が、こはねによって妨害された。



肩にハサミを突き刺したまま、こはねは椿に訴えかけた。「今っ・・・死んでいいんですかっ?誰でもない誰かさんで死んだって・・誰の心にも残らないですよ・・・??」

それだけ言うと、こはねはずるずると倒れていき、圭吾はとっさに飛び出してその体を支えていた。
こはねの肩からは、血が滲み、今にも垂れ流れようとしていて、圭吾は体が硬直していくのを感じて恐怖した。

こはねは、「大丈夫!!離して圭吾ッ!!自分で何とかできるから!」とこの期に及んで、圭吾を気遣った。
だが、圭吾は「嫌だ・・・」と拒んだ。
こはねの体から流れ出た血が、じわじわと圭吾の手をつたって、ポタポタと床に流れ落ち出していた。



「嫌だ・・、何度も何度も脳裏を焼いたイメージ・・・、こはねの身体から血が流れて止まらなくて・・・、こはねの命がこの手からすり抜けていった・・・・。もう見たくない、見たくないんだ!!もうこのイメージに支配されたくない。」
そう言って、圭吾は泣いていた。



こはねは、圭吾に向き合って、圭吾に教えるように言った。
「圭吾、血が流れるのは、生きている証拠なんだよ、だかラ大丈夫・・・」
そこでこはねは力尽きて、圭吾の腕の中で崩れ落ちた。「圭吾・・・私を助けて。」



圭吾は、今度こそこはねを失いたくはなくて、流れる血をものともせずに、こはねの身体を抱いて走った。




残された椿は、へたへたと床に崩れた。
最後の寄り所にしていた死に方さえも、今の私には叶えられないなんて・・・・。なんでかな、そんなに多くを求めたつもりはなかったのに・・・。欲しかったのはただ一つ・・・・。

そこに駆け込んできたのは、前野だった。前野は、椿の姿を見るや「生きてる・・・生きてる・・・よかったぁ」と泣きじゃくって椿に抱き着いて大泣きした。「私は椿先輩に憧れています、けど、皆が憧れるような椿先輩を好きになったわけじゃない、椿先輩だから好き」



自分が生きている事を、泣くほど嬉しいと言ってくれている人が・・・いる。椿は自分の為に泣く前野を抱きしめて泣いた。泣いて泣いて、泣いた。私は自分が大嫌いだった。だけど、私を好きと言ってくれる前川を、否定したくないから、少しは自分を好きになってみようか・・。






あれからどの位時間が経ったのか。こはねは、病院で治療を受けて回復し、起き上がれるようになっていた。
こはねの病室を訪ねた圭吾は、こはねが元気にしているのを見て、嬉しくて嬉しくて、ボロボロと涙が溢れ出て止まらなかった。
「よかった、本当に・・・。頭ではわかっていても、凄く怖かった・・・」と涙をぬぐった。



自分の為に泣いてくれる圭吾を見て、こはねも涙が溢れてきたが、その涙を圭吾に見せるわけにはいかなかった。そんな事したら、圭吾が怖がって気絶していまう。だけど、圭吾はこはねに泣き顔を自分に見せるよう頼んだ。
「泣き顔・・・見せて。頼む。血は克服しつつあるけど、他の体液は大丈夫か確認したい」

こはねは、おそるおそる泣き顔を圭吾に向けた。



圭吾は、涙でぐちゃぐちゃになったこはねのおでこに優しくキスして、流れる涙をその唇でつたって、こはねのつややかな唇にキスをした。





圭吾とキスできる日が来るとは思ってなかったこはねは、その頬を紅潮させながら、「あーあ、呪いがとけて残念。私のせいで苦しむ圭吾はそれはそれで、愛おしかったのに。私ね、圭吾の泣いている顔が好きなの。もっと困って見せて・・・・」
そう言うと、こはねの小さな舌を、圭吾の唇に押し込んで、自分の唾液と圭吾の唾液を音が出る程にべちゃべちゃに混ぜて、キスを迫った。



熱いキスを交わす二人の病室の外では、見舞いに来た池端と乾井が入るに入れず、困っていた。
乾井は「あーやっぱり腹立つなぁ、でも、この笑顔を見たかったんだよなぁ」と呟いた。



その意見に池端も同意した。「うん、自分に向けられた笑顔でなくても」「幸せそうだから、それでいいか」
意気投合した池端と乾井は、男二人で泣ける映画を見て、やけ食いをする為に病院を後にした。







≪完≫






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こはねちゃんの犬 18話「開放」ネタバレ

2017年11月21日 | こはねちゃんの犬(完)



圭吾は、ケータイの中のこはねのアドレスを消す事は出来なかったが、思考を停止して、椿先輩に身を委ねた。
首輪をつけられ、紐で繋がれ、椿先輩の犬として飼われて、可愛がられる。



この感覚は久しぶりだ、と圭吾はぼんやりと、体液が怖くなってからどう生きてきたかを思いだしていた。
何が起きても動じないよう、気持ちを封殺するだけ。人間として自分の感情や意思を持たずに、人形のように、飼い犬のようにただ流される。



一方、こはねは乾井との付き合いが続いていた。だけどこはねの気持ちが乾井に傾くことはなく、何かあれば、「では別れましょう」とズバリ切り出すこはねに、乾井は手を焼きながらも、自分を犠牲にしてでもこはねを救いたいと思っていた。
こはねは、そんな乾井の優しい気持ちにつけいり、利用する事は出来なかった。
「自分を犠牲にしてでも・・・。私もその気持ち知ってるからわかるよ。でもね、乾井君の犠牲は、いずれ払った分の見返りを求める。結局、『助けたい』という言葉すら、私にとっては『脅迫』と同等。」ときっぱりと遮断した。

どう頑張ってもつけいる隙のないこはねに、とうとう乾井が弱音を吐いた。
「・・・そんなに俺のこと、好きになれない?」

こはねは、慈しむような目で乾井に言った。「乾井君はいい人よ、私の為じゃない・・・、乾井君の最善を選んで。」
それが、こはねが乾井にしてあげれる、彼の"開放"だった。



椿は、従順な圭吾をうまく飼いならせていると思っていた。
学校の廊下で偶然圭吾と出会うと、ただそれたけでウキウキと嬉しかった。自分だけの特別な存在。
だけど、圭吾の目に光が灯り、穏やかで慈愛に満ちた目のその先に居るのは、自分ではなく、立花こはねだった。


そして、自分に向けられた圭吾の瞳は、色も光も感情も失った空洞でしかなかった。


なんで・・?なんで?
物心ついた時から、椿は親からネグレクトされていた。何を頑張っても、どういい子にしていても、決して自分の存在を認めてもらえる事はなかった。存在そのものを、母親から否定されて続けて育った。その叫び声を、親にぶつける事など出来るはずもなかった。
まっすぐに育つなんて、どうすればいいか、誰も教えてくれなかった。
だから手に入れたかった。自分だけを見て、裏切らず、自分を捨てない相手を手に入れたかった。
なのに・・・・、なのに・・・、また、どうして、なんで!?私を置いて行かないで!!独りにしないで!!私を見て、こっち向いて!!!
ずっと叫びたかった言葉を、圭吾にぶつけた。叩いて叩いて、殴って殴って・・・圭吾は一切抵抗しなかったが、椿の流す涙に失神していた。










池端が割って入り、気を取り戻した圭吾に、椿は「飼い主は二人も要らない」と言って立ち去った。
椿だけだと思っていたのに、その椿先輩から見放されたことに、圭吾は愕然とする。何もかも、うまくいかない・・・。



池端は、狂気が増していく椿先輩と、その狂気に身を任せて沈んでいく圭吾を見てはいられなかった。
「逃げて、圭吾。次は何をされるかわからない・・・、僕のせいだ、ごめんね、ごめんね圭吾・・・」


圭吾は、死んだような虚ろな目で、深い自己嫌悪の中から池端に声をかけた。
「謝らなくていいよ、池端のせいじゃない。選ばれないで流されてること、それを選んだのは僕だよ。今、とっても楽なんだ・・・。飼われて管理されていれば、選択する義務は減る。もう間違いを犯さぬよう、自分のせいで犠牲を増やさぬよう、誰一人傷つけたくないんだ。・・・なのに、なんで・・・。また傷つけた。泣いてる先輩を見つめることも、ままならない・・・」

池端は、「立花さんも、泣いてたよ」と圭吾に教えた。
それを聞いた瞬間、魂のない人形のようだった圭吾は動揺し、池端の胸倉を掴みかかった。
「なっ・・!なんで!?なんでこはねが泣くんだよっ!!?」



「あーくそ、ほんと殴りてぇ。でも殴ったら立花さん怒るからなぁ」と言って教室に入ってきたのは、乾井だった。「あんたさ、誰一人傷つけたくない?ふざけんなっ!!あんたのせいで、俺は酷く立花さんにフラれてすっげぇ傷ついてる。いいか、あんたが選ぶ選ばない関係なしに、人と関わる限り、誰かを傷つけるんだよっ!!
『なんで?』じゃない。『どうしたいか』なんだよ。立花さんって名前を言うたびに、目ェ輝かせておきながら、どこまで自分を騙すんだ!?」




乾井は、圭吾の胸倉を掴んで一気にそうまくしたてると、「ちょっと来い」と圭吾を引っ張って、こはねの元へと連れ出した。



乾井に連れてられて来た圭吾を見たこはねは、拒絶するように、くるりと圭吾に背を向けた。
拒絶・・・、これに耐えられなかった。なんで拒絶されるのかわからなかったから。拒絶された後の自分の心をどうしていいかわからなかったから・・・。でも、さっきの乾井の言葉が圭吾の中でこだまする。
『なんでじゃない、どうしたいか、なんだ』

どうしたいか、それは圭吾の閉じて封印した心の奥にずっとあった。言えなかった言葉を、乾井の後押しでやっと口に出すことが出来た。
「こはね、好きだ・・好き。立花こはねが好きだ。」
言いながら圭吾は自覚した。



こはねは背を向けたまま、「嫌」と首を横に振り、拒絶を示した。
だけど、今やっと気づいたのだ。怖かったのは"拒絶"じゃなく、認めるのが怖かったんだ。だってこの感情には、全てを投げうっても構わない、そんな危うさがある。圭吾は、嫌がるこはねに構わず告白を続けた。
「好きだ、好き。好きなんだ、こはね」

こはねは肩を震わせて、苦しそうに言葉を詰まらせた。
「嫌、聞きたくない・・・・だって泣くもの。泣いたら圭吾が気を失ってしまうから・・・、聞きたくない」



圭吾は背を向けて泣きじゃくるこはねに、自らの意思で手を伸ばした。
「こはね・・・、好き。」



思いを言葉に乗せて、相手に伝えることができた。制御できない自分を認め、感情のほとばしるまま素直になれた。


だが、圭吾の手にしたこはねの髪を、無残に斬る者が邪魔をする。
大きなハサミを手にした椿が、そこに居た。
「飼い主は二人もいらない。圭吾くん、あなたは誰の犬?」





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こはねちゃんの犬 17話「転機」ネタバレ

2017年11月21日 | こはねちゃんの犬(完)



何かに捉われた4人に、転機が訪れる。

椿先輩に自分の認めたくない、誰にも知られたくない性癖を指摘された池端は、誰もいない学校の校舎裏に逃避してきた。
いっそ死んでしまいたい・・・。壁に書かれた落書きと、死にたい感情がリンクし、池端は吐き気をもよおした。
圭吾の抱える、精神的な痛みが体の不調として現れる現象・・・。



その人気のない場所に先から居て、池端に気づいたこはねは池端を心配して声をかけたが、池端はこはねを振り払った。その勢いで思わずこはねの頬をぶってしまった池端は、言い訳するのを辞めて、こはねに自分を殴るよう言った。
「立花さん、僕を殴って。謝りたくないから、殴って。」



するとこはねは、何の躊躇もなく池端の頬を力一杯ぶったので、言いだした池端がびっくりした。まさか本当にぶつとは。
でもこはねは、「私も逆の立場だったら、同じ事を言うと思ったからよ」と言うと、また自分の世界に戻っていった。



しばしの沈黙を破ったのは池端で、「立花さん、こんな気味の悪い所に何でいるのさ」と聞いた。
こはねは「ここ、落ち着くのよ。私が居るべき場所って感じで。光の中にいる自分に違和感があるの。」と答えてまた沈黙した。

また沈黙が続いた後、もう一度池端が聞いた。「乾井君にもああいうこと、してるの?
こはねはフッと軽く笑って「しないわ、蹴る気もおきない。そもそも好きじゃないの、事情があって付き合ってるだけ。酷いのよ私。でも私もかすかに希望を持ちたかった。唯一無二なんて怖いの・・・。もし嫌われても生きていけるのか・・・、誰かが代わり得るんじゃないかって、そう思いたかった・・・。」
そう言ったこはねは泣いていた。

こはねも、もがいていた。圭吾から離れて生きる道を模索したがそれは失敗に終わり、それは同時に、圭吾でないとならないという事実を強く再確認させる作業となっていたのだ。
池端も、圭吾という存在でなければならない気持ちは痛いほどにわかる気がして、二人はまた沈黙した。





圭吾を唯一無理の存在とするもう一人の女、椿は演劇部に出席していた。
性癖を指摘された池端は欠席していたが、強い拒絶を示したはずの前川は出席していた。

その日は、今度上演する「赤毛のアン」の読み合わせだった。椿はアンの平凡で起伏のない物語に興味はなかったが、マシュウとアンの会話シーンに、無意識に涙を流してしまっていた。
それは、アンが「もし私がマシュウの欲しがっていた男の子だったら、きっと役に立って、生活も楽にしてあげられた」と言うと、マシュウが「わしは1ダースの男の子より、お前を選ぶよ。いいかい、1ダースの男子よりお前がいいのじゃ。アンはわしの娘じゃ・・・」というシーンだった。

性別も、理由価値も、存在価値も、美醜も血縁も関係なく、ただ生まれてきて存在している、ただそれだけを唯一無二の存在として愛されたシーン。






椿は、自分の覚悟のなさを痛感した。覚悟が足りてないのは自分だ・・。
その日の放課後、椿は自分が飼いならした犬達を全員呼び出すと、忠誠の証を出させて壊し、解散宣言をして主従関係を清算した。



逃げ場など持つ必要がない。自分が唯一無二を欲したのなら、自分も全てを捨てて圭吾にだけその身を捧げる覚悟が必要だった。
これで、もう私には圭吾くんだけ。




圭吾も自宅で一人、悩んでいた。
椿先輩のおかげで、カッター事件の冷たい視線や罵声は止み、快適な学校生活を取り戻せている。先輩はこんなにも自分を思って、自分を守ってくれているのに、感謝は深くしているのに、どうしても先輩の「治療」は受け入れられないでいた。
こはねの"治療"には、大いなる安心感があったのに・・・と考えてしまう自分に、罪悪感のようなものがあった。
逃げ場を作っていてはならない。こはねを想っていてはならない。先輩の期待に応えなければならない。



ケータイの中のこはねのアドレスは、もう手が届くことはないこはねとの繋がりの接点で、そこを心の拠り所にしてしまっていた。決別しなければ・・・。俺にはもう、椿先輩しかいないのだから・・・。




だが、圭吾はどうしても、どうしてもこはねのアドレスを消すことが出来なくて、そんな自分に涙した。



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こはねちゃんの犬 16話「執着」ネタバレ

2017年11月21日 | こはねちゃんの犬(完)



椿に「足を斬らせて」と言われた圭吾は、一瞬驚いた様子を見せただけで、またすぐに元の無気力に戻った。
「怖い?」と聞く椿に、圭吾は落ち着いて淡々と「いいえ、自暴自棄になっている分、先輩に斬ってもらえたら、俺、幸せに感じるかもしれません。こんなことを提案した椿先輩を責めて、不自由なことを盾にして、一生、先輩に依存するだけの生活が続くんですよね。」と確認した。

椿はものわかりのいい圭吾に、笑顔で「そうよ、圭吾君」と答えた。



圭吾は光のない暗い目のまま、「でもどうしてですか?どうしてそこまでして俺のこと、それがわからないんです。先輩に一生尽くされるような男じゃないです。俺は自分史上最高に、自分が嫌いです。自分の事なのに自分で決められない。人の意見に右往左往して、今も先輩に決定権を委ねそうになってる。」

椿の顔から笑顔が消えた。
「悪いことかしら?そういう人はたくさんいるわ」

圭吾の話しは続く。
「他の人ではなく、自分が後悔すると思うんです。先輩は俺の憧れです。悲惨で絶望的な中学生活から、それでも諦めきれずにしがみついてしまった、青春のしっぽです。救い上げてくれる蜘蛛の糸です。俺にとって特別な人です。だから先輩の事がもっと知りたい・・・」

そこで椿は「私の事なんてどうでもいいのよ!!!」と声を荒げて圭吾を怒鳴りつけた。

しばしの沈黙の後、椿は「・・・・そうよね、足を貰おうっていうのに、それじゃダメよね。圭吾君が自分に納得できて、私が自分のことを話せるようになったら・・・その時は、足をくれる?」と圭吾に聞いた。圭吾に決定権を委ねた。



その放心したような瞳の椿に、虚ろな目の圭吾は「はい、約束します」と答えるのだった。
椿の解決する事のない過去へのトラウマを懸けて、圭吾への強烈な執着は決定的なものとなっていた。




圭吾を解放して自宅に帰った椿は、自分の現実の中に身を投じざるを得なかった。
母親らしき女性は、弟だけを我が子として溺愛し、椿の存在を完全に無視していた。ここに自分の居場所は、ない。
だけど、消えるのはそっちだ。大丈夫・・私は消えない。消えたりしない。私は孤独じゃない。
椿は、「早く・・・圭吾君の足が欲しいな・・・」と呟きながら寝入った。



家で無視され、虐げられている椿だが、学校では男女問わず憧れの輝かしい存在として認められていた。
勉強できて、美人で気が利く、後輩にも優しい、先生からの信頼も厚い、超完璧人間として見る他人の目に、椿は興味がなかった。内面と外面とのギャップ。それらは外面だけを見ての判断でしかなかった。

椿は、「そう、客観的に見たらそんな感じなのね・・・。しいて言うなら、男に生まれたかったかな」とやんわり自分を否定した。



椿の様子の変化に気づいた池端は、椿に直談判に向かった。
「先輩、もう圭吾の事を解放してあげてください。」と。

だが、取り繕う面倒をやめた椿は池端の申し出を断った。
「違うでしょ、僕のところへ返して、でしょ。私だったら自分の欲しいものを、他人の手に委ねたりはしないわ。」

池端も引かない。 「僕には圭吾しかいないのに、先輩には他にいくらでも慕ってくれる人がいるじゃないですか!!圭吾以外じゃダメですか?なんで圭吾なんですかっ!!?」

椿は「圭吾君だから欲しいの。トラウマに強く支配され、身体に変化を与えてしまうほど、罪悪感に囚われてしまう人だから好きなの。・・・印象、性格、声、容姿、匂い、しぐさ。人が人を好きになるにはいろんな理由がある。食事の好みがそれぞれ違うように。信じられない?それは池端君の主観であって、共感できないからって他人を咎める理由も権利もない。」と言ってから、池端の方を振り向いた。



「だから、私も池端君の"その気持ち"を、否定することはない」



池端は、自分の感情をとっくに見透かされていて、面と向かって指摘されたことに居たたまれなくなって、走り去った。
一人残った椿は、ミントをむしゃむしゃと食べていた。「苦いわ、とても食べ物とは思えない。でも、不思議とクセになる・・・」

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こはねちゃんの犬 15話「混乱」ネタバレ

2017年11月21日 | こはねちゃんの犬(完)



椿に連れ帰られた圭吾は、今後は、椿による「治療」を受けることになった。
まずは、ローションを体に塗ることから。「これは体液じゃない、大丈夫、大丈夫・・・」
椿に促されて、そう復唱しながらローションを体中に塗られるが、どうしても我慢できるものではなく、気絶しそうな悪寒が止まらず、体の震えが止まらず、結局毎回圭吾が気絶して"治療"は終わる。







椿の治療を黙って見守っていた池端が、倒れた圭吾を心配して飛び出してきた。椿先輩のしようとしている事は、わからぬでもない。だが池端の目に、椿先輩も立花さんも同じに見えていた。では、自分は圭吾をどうしたいのだろう・・・。僕は・・・?。池端自身そこはわかりかねていた。




圭吾の治療を失敗した椿は、倉庫に前川を呼び出した。
前川は以前、こはねが圭吾に"治療"していた現場を目撃したことがあり、その様子を確認する為だ。前川によると、こはねが圭吾の体を舐めても噛み付いても、体液で体を濡らしても、圭吾は意識を保ち続けていたと言うのだ。椿は気に食わなかった。

前川の頬には、圭吾に切りつけられたことになっているカッター傷があり、椿は足でその傷をグリグリと血が流れるまでにいじりながら質問した。 「これ、圭吾君に切らせたんですって?」
前川は「はい、だってご主人様は、私の事を傷つけてくれないから・・・。どうしてご主人様は私の事を傷つけてくださらないのですか?」とすがるような目をして逆に質問を返してきた。



椿は、前川の傷をえぐるのを辞めて、歩き出してから答えた。


椿は面白くなかった。自分だけの犬が手に入らない、前川ら今の犬達もちがう、外に出ると外の世界には人が多すぎた。
雑踏を眺めながら、「どうしてこう人が多いの、目を瞑るように、全部消えてしまえばいいのに・・・」と思う。
「大丈夫、私はあいつみたいにならない。信じていた人に捨てられて、あんな滲めに死んだりはしない。その為には早く躾けないと・・。そう、新しい首輪が必要ね・・・。」と独り言をつぶやく椿に狂気が滲んでいた。






椿も、何かにがんじがらめに捉われて、身動きできなくなっていたのだ。


翌日、椿は池端が来ない事を確認してから「治療」として圭吾を呼び出すと、動けないように圭吾を椅子に縛りつけた。
圭吾はわかっていた。こはね以外の治療は体が拒絶してしまうこと、こはねがいなくなった以上、もうこの体質を治すことは不可能なこと。
だけど、椿先輩は「他の治療法があるの。これでもう大丈夫よ、圭吾君には新しい依存先が必要なのよ。それを今、用意してあげるね」と圭吾の意見を聞いてはいない。

その椿が手に取ったのは、のこぎりだった。
「私に、圭吾君の足を斬らせて?これで二人は運命共同体になれるでしょう?安心して圭吾君は私に依存して。一生、圭吾君が死を迎えるまで、私が責任を背負うから。片方だけでいいから、ねぇ?」







椿の狂気が暴走する。






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こはねちゃんの犬 14話「決意」ネタバレ

2017年11月21日 | こはねちゃんの犬(完)



こはねは、あの日以来、どこか何かに苛つきながらも乾井・・・イヌっちと付き合っていた。
「イヌっちって私の外見が好きなんだ?聞かなくてもわかる。だってあなたは私を何も知らない。それなのに、あんな手を使って付き合おうなんて、外見以外の何があるの。」と乾につっかかった。
乾井は「そりゃあ外見はきっかけだけど、内面も知りたいって思ったから、それが恋の始まりだと思うんだ」と弁解した。

私の・・・内面・・・。
一人になると、圭吾の泣いている姿を思い出し、盛り上がる気持ちの倍以上に・・・苛む感情・・。
冷めてくる瞬間に押し寄せる自己嫌悪・・・。



こはねは乾井に「私は私の内面が嫌い。だからあなたには、絶対に、内面を知られたくない」と言い切った。
ここまで完全なる拒絶を受けても、乾井はくじけなかった。
「それ言われたら1ミリも付け入る隙無いじゃん、でもいいや、今が楽しければ。ものは試しだ、ダメならダメでいいじゃん」と笑顔をみせた。

そんな今を楽しむ乾井が選んだデートコースは、「泣ける映画」だった。
こはねは、泣ける映画になど興味がなかった。圭吾に涙ものなんて、必要ないものだから。

はじめは渋々つきあっていたこはねだったが、乾井は感情豊かに泣きたい時に、清清しいくらいに泣いていて、だんだんこはねもつられたのか、映画を見て泣いていた。圭吾の前では流すことが出来ない涙。
そんなこはねに、乾井は「泣くとすっきりするでしょ、人間って体液を流すことで、ストレスを発散できるんだって。今日はよく眠れるよ、立花さん」と、泣いているこはねの方を向くことなく、話しかけた。


もしかすると、泣ける映画を選んだもは、決して泣かず、決して表情を崩さず、強気に脅迫に応じているこはねの為を思ってのことなのかもしれない・・・。圭吾と違って、喜怒哀楽をキチンと表現し、流したい時に体液を流す乾井の健全さと明るさは、こはねには新鮮だった。



映画後の水分補給にと立ち寄ったカフェでは、他愛のない屈託のない会話に、乾井の作るおしぼりひよこに、こはねはつい乾井のペースに乗せられていて、傍から見れば仲睦まじい高校生カップルだった。

そんな二人の様子を暗い顔で見ていたのは、椿先輩と圭吾だった。
"たまたま"二人のデート現場を見かけた椿が、「真実を確認して欲しくて」圭吾を呼んだのだ。



暗い顔をした圭吾は、椿に聞いた。
「好きだってやっと気づいたのに・・・それを伝えることもダメですか・・・」
椿はにっこりと「それは、私に聞くことじゃないでしょ」と圭吾をたしなめた。

圭吾は、明らかに判断力が低下していた。消え入るような声で「す、すみません・・」と謝りつつも、カフェを出るこはね達二人を、おどおどとした目で追うも身動きの出来ない圭吾に、椿は「いいわよ。だって圭吾君の味方は私だけだもの。」とその意志を汲んで、二人を追うことを許容した。




外にでた乾井は、こはねに提案した。
「今日はありがとう。今日は強引に誘ったけど、次からは立花さんの意志にお任せしようと思う。」

するとこはねは即座に「じゃもうナシで。諦めて。私から誘うことは今後ないから」とキッパリと断った。
意志に任せると言いつつも、自分はこはねとつきあっていたい事など、自分の感情をきちんと言葉に乗せて伝えてくる乾井に、こはるも言葉で答えた。
「乾井君、今日の事で、乾井君が悪い人じゃないかもしれないって思えたからこそ、付き合い続けるのはしんどい。私はやっぱり・・・乾井君に・・・ううん、誰にも内面は見せたくない。」

乾井は聞き返した。
「誰にも?でも立花さん、それじゃ恋愛できないよ。俺だけじゃなくて誰にもって言うのなら・・・、白鳥とも。」



それに答えたこはねの顔は、どこかすがすがしかった。決意が固まったぶれや悩みのない顔で、「それでいいの。私ね、キスもセックスも、結婚も出産も、みんないらない。私は誰とも、恋愛なんかしないの。」と言った。



二人の会話を影から聞いていた圭吾は、頭を抱えてうずくまった。
自分がいくらこはねの事が好きでも、こはねは違うのだ。乾井と付き合わないように、自分とも付き合う気などないのが、こはねの本音だったのだ・・・・。

こはねとの恋愛は・・・ない。こはねにそのつもりはない・・・。その絶望に、ギリギリでかすかな期待を持って保つことが出来ていた精神が、ボロボロと崩れていくようだった。



椿は、「もう無理よ」と声をかけると、崩れ落ちるように力をなくした圭吾を抱きかかえて連れ帰った。
これで、私のもの。


しかし、乾井の反応は圭吾と違っていた。
感情を押し殺すことでしか人と接することの出来ない圭吾とこはねと違い、人の感情の機微を知る乾井は、その言葉の奥にある悲しい想いに気づき、こはね自身も気づかぬ心理に同情して涙した。

こはねは、そこで泣き出す乾井の反応に驚いたが、乾井は言う。
「んだよ、それっ。だって、それみんな、白鳥の、白鳥圭吾の為だろっ!!体液を回避するって事は、それを全部諦めるってことだろっ!!なんで・・・そこまで・・・」
 


言いかけて乾井は気づいた。
「俺、やっぱり立花さんとは別れない。だってそうだろ、こんな状況俺しか助けられない。これは運命だ。
君の人生を捨てさせたりしない!俺がっ・・・君にかけられた首輪、俺が解放してあげる」




こはねもまた、過去に捉われ、身動きができない側の人間だったのだ。



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こはねちゃんの犬 13話「屈辱」ネタバレ

2017年11月21日 | こはねちゃんの犬(完)



前川さんの策略にはまった圭吾は、学校や警察へは前川さんが自分がふざけて起きた事故だと説明した為にお咎めなしだったが、学校の生徒達はそういうわけにはいかなかった。
圭吾が登校すると、奇異で怖いものを見るような目で圭吾を見、遠巻きに噂話しが飛び交い、いたたまれない雰囲気が漂っていた。
しかし、圭吾は元々クラスから孤立していたし、今はこはねという理解者がいる。
大丈夫・・・大丈夫・・・・こはねは『私も圭吾がいなくちゃ生きていけない』と言ってくれていた・・・、大丈夫。
圭吾は自分に言い聞かせた。

平静を装っていた圭吾に、自分勝手な正義を振りかざす大野大輝がつっかかってきて、「みんなに謝罪しろ!!」とまくしたてた。関係のない皆さんも、今回の事で浮き足立って、不安を覚えたこと、平和を乱したことに謝罪しろ、と。



圭吾は、無言で立ち上がると、「皆さんお騒がせしました・・・!!ご迷惑をおかけして申し訳ありません!!」と大きな声で謝罪して一応前を向いて・・・大野へ向かって深深と頭を下げて謝罪した。

そこで大野が「と、いうわけでみんな、白鳥を許してあげてください」とまとめると、大野への賞賛の拍手が沸きあがり、圭吾は大野の優しさのおかげで、許しを得たことになっていた。

圭吾は、じっと頭を下げたままその屈辱の拍手を聞いていた。
大丈夫・・・大丈夫・・・・俺にはこはねがいる・・・。



しかし、遅れて教室に入ってきた乾井の嬉しそうな声が、圭吾の心を突き破る。
乾井は立花こはねの手をひいて教室に入るやいなや、「おーい、1組のみんなぁ!!聞いてくれたまえ!おれ達なんと!付き合うことになりましたぁー!!!」クラスの話題は一気に乾とこはねに集中し、圭吾を放置して盛り上がっていた。



事態が呑み込めずに呆然とする圭吾のスマホに、こはねからのメッセージが届いた。
[放課後、屋上で待ってる。話しがあります]
圭吾は、互いに噛み合った左手の薬指を思い出し、自分に言い聞かせた。何か事情があるんだ・・大丈夫・・・・・。





放課後、屋上に先に行って待っていた圭吾は、やってきたこはねに自分から話をきりだした。
「話ってアレだろ、朝の・・・乾の件。」
こはねは否定してくれると期待していたが違っていた。
「そういうわけだから。もう治療とかああいう行為はできないし、しない。それを伝えたくて。」

それでも圭吾はフッと笑って、言葉を押し出した。
「わ・・わかっているよこはね、乾に言わされてるんだろ?じゃなければ、こはねが乾と付き合うなんてあり得ない・・・」

こはねは圭吾の口を手で塞ぐと「ねぇ圭吾、圭吾にとって"つきあう"ってそんな"大事な事"だった?嘘でもない。言わされてもいない。これは私の本心から。私達の関係は、もうおしまい。」ときっぱりとまるで宣言するように言うと、こはねは圭吾の前から立ち去って行った。



圭吾は、こはねの後ろ姿に、小さな声で絞り出すように「こはね・・・俺を捨てないで・・・」と言ったが、こはねが振り返ることはなく、駆け出すように去って行った。



一人になった圭吾は、愕然と膝から崩れ落ちた。ダイジョウブジャ・・・ナイ。
振り向かなかったこはねは、泣いていた。
(欲しいのはその言葉じゃない・・・)




こはねが乾井の元に戻った時には、もう泣いてはいなかった。怒りにも似た光をその目に宿したこはねは、何かを決意したかのようだったが、そんな事は圭吾の知る由もない。


圭吾はその場から立ち上がれず、膝を抱えて座りこんでいた。
そんな圭吾に声をかけたのは、椿先輩だった。
椿先輩は、尋常ではない様子の圭吾に寄り添って座り、その手を取って優しく話しかけてくれた。
「どうしたの?嫌なことでもあった?大丈夫、私なら圭吾君を裏切ったりしないよ、私は圭吾君のこと信じてる。私が守ってあげる。」

圭吾は「・・・・なんで」とだけ言葉をこぼすと、椿は「圭吾君が、好きだから。」と答えた。



好き・・・・・?好きって・・・・なんだっけ・・・。
その感情がなんなのか、どんなものなのか、思い出せないでいた。

でも、涙はひとりでに流れ出て、自分の手にぽたぽたと流れ落ちる。
あれ・・・?俺・・・・こはねのこと・・・・

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こはねちゃんの犬 12話「共闘」 ネタバレ

2017年11月21日 | こはねちゃんの犬(完)



乾井を追い払ったこはねと圭吾は、二人で手を繋いだままこはねの家まで帰ってきた。乾井が追いかけて来やしないかとこはねを家まで送ったのだ。
こはねは「送ってくれてありがとう。一人で帰れる?」と圭吾を心配した。

圭吾は「何の心配だよ、俺、これでも男なんですけど」と答えたが、こはるが心配しているのは、人ごみの中を一人で歩かねばならない体液恐怖症の方だった。
圭吾はそこでハッとした。そういえばここ最近、駅や学校、人混みの中でも必要以上に不安を感じるような事はなくなっていた。
「こはるの治療、効いてきているんだと思う・・・」と言った圭吾の顔を見て、こはねは幸せそうに微笑んだ。



こはねは圭吾の左手を取って、その手にキスをした。
「圭吾のさっきの言葉、私も同じだよ。私も圭吾がいないと、生きていけない」



そう言うとこはねは、圭吾の左手の薬指をガリリと噛んで、それから自分の左手を差し出して言った。
「昔の人は左手が、服従とか信頼の象徴だったんだって。特に薬指には太い血管が通っていて、心臓と・・・心と繋がっているって信じられていたの。私にもオンリーの証を、薬指にちょうだい」

圭吾は言われるがままに、こはねの左手の薬指を自分がそうされたように噛んだが、こはねがするように跡はつかなかった。
あまり跡がついていないと不満そうなこはねに、圭吾は「女の子の指、そんなに強く噛めるかよ」と言って、自分の言葉に照れた。女の子・・・。

ふと見ると、こはねはうっすらとついた自分の指の圭吾の噛み跡にキスをしていて、「今日はこれで許す」と頬を染めて言う。
間接キス・・・そう思ったとたん、圭吾は顔から火が出るような気持ちになって慌てた。



付き合ってはいないけど、そんな事以上にこはねを大事に思う気持ちを、こはねの前で告白した日、二人は幸福の中にいた。
これから襲い掛かる試練を、二人は知らない。



圭吾の告白が面白くないのは、乾井だった。
とはいえ、相思相愛の二人の間に割って入る隙もなく、モンモンとしている所に現れたのは、演劇部の椿先輩だった。
突然乾井に声をかけてきた椿先輩は、乾井のしていたスマホゲームを見ると、乾井からスマホを取り上げて「私もこのゲームやってる、あらあらこのレベルじゃこの先のステージきついわよ。協力プレイを申し出たいと思って・・・」と言って、スマホを返した。



椿から返されたスマホには、"強力な武器"がインストールされてあった。
椿が動き出す。圭吾を奪取する為に。

その日の放課後、クラスの大勢がまだ教室に残っている時、前川さんが圭吾に声をかけてきた。
前川さんは圭吾に「これ持って」とカッターを手渡すと、突然カッターを持った圭吾の手を握って、自分の首にそのカッターを押し付け、首から血を出して倒れた。






騒然とする教室の中、前川さんの首から流れる血を見た圭吾は、体液恐怖症の発作を起こして気絶した。
遠のく意識の中で、圭吾は必死にこはねの名を呼んだが、そのが届くことはなかった。



その頃、こはねは校門近くで圭吾がでて来るのを待っていた。
だが、出てきたのは圭吾ではなく、乾井だった。
乾井は、白鳥圭吾がクラスの女の子をカッターで切りつけた事、圭吾も倒れた事をこはねに告げた。
そんなはずはない・・・!!:圭吾は流血に怯えているはず!!と動揺して圭吾の元へ駆け出そうとするこはねの手を掴んだ乾井は、いつもクールでポーカーフェイスな立花こはねの目に、涙が浮かんでいるのを見て、興奮を覚えずにはいられなかった。
「へ・・・へぇ、そんな顔もするんだ」

このタイミングで乾井はこはねに交際を迫った。当然こはねは無碍に乾井を断ろうとしたが、乾井はスマホの動画をこはねに見せた。
そこには以前、圭吾と公園デートをしている時の・・・圭吾の手を縛っていた時の隠し撮り動画が再生されていた。
こはねが、圭吾に「いい子にして、私のワンコ」と喋る声も入っている。



乾井は「確かにこれは"つきあっている"って感じじゃないね。まるで、ご主人様と犬、だね。ねぇ立花さん、俺さぁ君の事とても好き、大好き。断られたらきっと腹いせにこの動画、クラス・・いお学校中にバラまいちゃうかもなぁ・・・」とこはねを脅迫した。



そうか・・・、圭吾が誰かを切りつけた事件もそういう事か。カンのいいこはねは、一連の事が自分を取り巻く包囲網である事に気付いた。圭吾・・・・、圭吾は私が守る。

こはねは、左手の薬指についた圭吾の噛み跡にキスをすると、キッと強気な顔をあげて乾井に言った。


乾井はにっこり笑った。「そうこなくっちゃ。人生は一度きり。楽しくいこうぜ・・・






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こはねちゃんの犬 11話「思慕」ネタバレ

2017年11月21日 | こはねちゃんの犬(完)



クラスの乾井君は皆に、軽い、チャラいとよく言われる。
本人のモットーは「人生一度きり、楽しく行こう!」であり、今現在の人生は、可愛いのに笑った顔を見せない「立花こはね」にぞっこんであること。だが、いくらアタックしても決して報われることのない恋だった。そしてこの乾井、決して諦めることもなかった。



その日も乾井は相変わらず立花さんにアタックし、相変わらず冷たく立ち去られていた。諦めない事がモットーの乾井は、スタスタと立ち去る立花さんの後を追って行き、立花さんが同じクラスの目立たない・・・いや、暗い白鳥圭吾に何やら話しかけているのを見かける。うずくまる白鳥を、幸せそうな微笑みで見つめているの立花こはねのその顔は、今までクラスの誰にも見せたことのない、恋する少女のような、まばゆい光を放つ微笑みに見え、乾井は衝撃を受けてその場を離れて教室に戻った。






教室で乾井は、級友に指摘される。
「イヌっちの恋愛って、傷を負うような事を避けてるってカンジ」

確かに、不安になったり、傷ついたり、怒ったり、そういう"感情"に振り回されるのは苦手だ。
それでも・・・・、立花こはねの自分以外に向けられたあの笑顔を、自分のものにしたいと思った。こんな強い思いは初めてだっで、その為なら、傷を負ってもいいとさえ思えた乾井は、学校の門の前で立花こはねを待ち伏せた。

立花こはねは白鳥圭吾と一緒に歩いてきて、乾井を見つけると足早に無視して通り過ぎようとしたが、乾井はひるまず声をかけた。傷つくのが怖くないわけではない、ただ、怪我をする事を恐れないその先は、きっと、もっと楽しいんじゃないかと思ったのだ。
「待って立花さん、立花さんはそいつと付き合ってんの?」

その言葉にこはねと圭吾は反応して、足を止めた。こはねは「私達は・・・・」と言ったきり、黙ってしまった。

暫くの沈黙の後、こはるの言葉を繋いだのは圭吾だった。「付き合ってません。俺たち。」

「でも、誰にも渡せない大事な人です。乾井さんにとってこはねの存在がベストであっても、俺にとってこはねの存在はオンリーなんです。誰もこはねの代わりにはなれないし、失ったら生きていけない。」と圭吾は言いながら、こはるの手をしっかりとギュッと握ると、こはるも圭吾の手を握り返していた。






つきあってもいないのに・・と乾井が反論しようとして辞めた。圭吾の言葉に酔うようにうっとりとしたこはねの恍惚の顔を見て、言葉を失ったのだ。
それから二人は互いに手を握り合って仲良く立ち去って行くのを、乾井はただ呆然と見送っていた。
立花こはねが白鳥圭吾に惚れている事は、明白な事だった。だけど、自分の気持ちはそう簡単に割りきれるものではなかった。




その頃学校では、池端が何日も圭吾から連絡がない寂しさに耐えかねて、演劇部の椿先輩に圭吾奪還の相談をしていた。
「圭吾、今日も連絡もなく・・・もう僕のことなんか視界に入ってないみたいで・・・」そう言うと、先輩の前なのにボロボロと涙が溢れて止まらなくなった。
この体質の事にも理不尽な事にも、我慢強いのが自分のとりえだと思っていたのに、自分でも驚くほどに心は脆かったことに池端はショックだったが、椿先輩は、「生まれつき我慢強い子なんていないわ、圭吾君を想う気持ちが、あなたをそうさせていたのね。」と優しく受け止めてくれた。
圭吾を取り返す、その為ならどんな事でも椿先輩への協力を惜しまない、と池端は先輩に誓った。




その時、椿先輩のスマホに着信があり、それを見た椿先輩は楽しそうに笑った。
「ふふふふふ、やだ、可愛い。お友達が送ってくれた動画、なんてことない"犬の散歩"なんだけど、犬のしぐさが私の好みで、私も飼いたい。ご褒美をあげたら、どんな顔して喜ぶのかな・・・」
それは、こはねが圭吾を"散歩"させていた時の隠し撮りの動画だった。




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