むじな@金沢よろず批評ブログ

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国民党大会で馬英九・蕭萬長コンビを正式決定

2007-06-25 03:53:31 | 台湾政治
国民党の第17次全国代表大会第2次会議(党大会)が24日午前9時から午後5時まで桃園市のドーム球場で開かれ、馬英九、蕭萬長をそれぞれ正副総統候補に正式決定した。私も念のため見学することにした。

◆前日に急遽決まった副総統候補人選
副総統候補の人選は、馬英九の指導力不足もあって難航し、これまでに9人の名前が挙がったが、党大会前日の23日になって急遽、9人目の蕭萬長に決まった。蕭萬長は財政経済専門のテクノクラートで、李登輝時代末期には行政院長に抜擢、2000年総統選挙では国民党副総統候補になった。李登輝系本土派として知られ、国民党下野以後は民進党政権に接近し経済顧問になったり、李登輝のシンクタンク群策会の設立にも参加したりした。しかし2004年に陳水扁が再選されると、民進党政権とは疎遠になり、2005年ごろから「両岸経済交流強化」を盛んに唱え、民進党政権に批判的になった。23日の出馬宣言でも、すべて台湾語で発言し民進党政権を「鎖国」と攻撃したくらいだ。江丙坤といい、国民党本土派のテクノクラートはいったん民進党にも近づく姿勢を見せながら結局本土派として貫徹できず、国民党内保守派に辛め取られ、中国にも接近する事例が多い。エリートの弱さというところか。

◆馬英九の政治力不足
しかも蕭萬長といえばもはや過去の人。それをわざわざ引っ張り出してこざるを得なかったのは、国民党の人材払底であり、馬英九の人望のなさ、政治家としての資質の無さを示すものであろう。
そもそも、今回の副選びで、馬英九はどういうわけか、自ら期限を設定し、さらに「本土派南部出身台湾人」にこだわった。普通の政治家なら期限を設定するリスクは避けるものだが、馬英九はなぜか設定して、自分で自分が追い込まれ、首を絞めていた。期限を決めたため、民進党色が強い南部出身者からは次々断られていた。つまり相当追い込まれていたわけだ。これで蕭萬長が引き受けなければ副なしで24日の大会を迎える可能性もあったわけだ。

◆党大会の雰囲気と手順は混乱
さて24日朝から始まった党大会だが、私は寝坊して遅めに行ったので、最初の呉伯雄と連戦の挨拶、正副総統の「造勢」(総決起集会)の場面は間に合わず、その後の党規約改正案の討論と午後一番の政策討論の一部だけ見学して引き上げた。
しかし驚いたのは、国民党の集会の雰囲気というのは、本来はもっと手際がよいが、権威主義的で重苦しいものがあったはずだが、今回の大会は、重苦しさはなく台湾人の集まりによくあるほんわりした雰囲気になっていたのは良いとして、手順もめちゃくちゃになっていた。そういう意味では国民党も「本土化」したといえる。ただ中国官僚政治独特の手際のよさというか、一種の形式主義はなくなったことで、国民党のある意味での強みも喪失したといえる。

◆基盤は本土化したのに馬英九を選ぶ矛盾
また、基盤は台湾人が担っていて、壇上でも壇下でも台湾語が多用される傾向があって、雰囲気も本土化したというのに、総統候補として選ばれるのは、「本土」性から最も縁遠い馬英九というのが、最大の皮肉であり、矛盾だといえるだろう。つまり、ここではいまだに国民党の悪しき外来権威主義政党としての「法統」観念、大中国意識がなぜか幅を利かせるのであろう。それでいて弛緩しきった大会の雰囲気ともあいまって、この政党が2008年で勝つことは絶対にないだろうし、未来もないだろうと確信した。
本当に国民党が将来的にも台湾で生き残りたいのであれば、中南部の農会や廟会に見られる、民進党以上にコテコテの泥臭く、間抜けな本土性に依拠して、緩やかな本土保守派の連合体として再編される必要があるだろう。少なくとも馬英九のような頑迷固陋な大中国意識者が台頭できるような仕組みやイデオロギー性を持っていては、今の台湾ではもはや主流になれないだろう。ただし、もし本土保守連合体として再出発すれば俄然、有利になるだろう。

◆馬英九は経済オンチのようだw
馬英九の演説現場は間に合わなかったが、あとで演説原稿を手に入れ、馬英九は機械みたいな男だからほぼ原稿通りに読み上げたようなので、それを読んだのだが、例によって美辞麗句に散りばめられた乙女チックな内容だった。現在の貧富格差拡大(M字型社会)や生活難(むじなの突っ込み:いずれも本当かいな?)、自殺の増加、治安の悪化(突っ込み:自殺や治安の悪化は、地方自治体の施策に第一の責任があり、地方は国民党が圧倒的に多いのだが?)治安は、民進党政権が台湾独立のイデオロギーに汲々として経済をおろそかにした結果であり(突っ込み:馬英九自身の統一目標はイデオロギーじゃないの?)、国民党が政権を奪回すれば、経済を重視し、社会的にも寛容性にあふれる多様性を尊重し(突っ込み:白色テロを公式謝罪もしていない国民党が「寛容や多様性」というとは驚きだw)、汚職も司法への干渉もない社会を実現する(突っ込み:そういう馬自身が横領で起訴され有罪が確定的なのは?)。
2008年以降は年率成長率6%以上(突っ込み:今の台湾の経済レベルでそんなことしたら、景気過熱だw)、2011年までに一人当たり国民所得2万ドルを目指す(突っ込み:統計上の国民所得が増えても、韓国みたいにインフレが高進して購買力が低下するなら何にもならないわけだが)、失業率3%以下を目指す(突っ込み:対中経済開放を進めたら、失業率は増えるのでは?)。
また貧富格差に対処するため福祉を増やし(突っ込み:財源は?)、両岸交流を円滑化し経済成長のために台湾全体を自由貿易区とする(突っ込み:経済自由化をすれば普通は貧富格差が拡大するだろうが)
などと述べた。
しかし、いちいち突っ込みをいれたのを見るまでもなく、相互に矛盾撞着していて、とうていすべてを実現することは不可能な主張だ。
そもそも治安が悪化したというなら、それは県市レベルの自治体の責任だから、国民党に降りかかってくる問題なのだし、M字型社会を批判しながら、両岸交流を進めるのは矛盾もいいところだ。また台湾のような準先進国レベルでは経済成長率は4%程度が妥当なのに、なぜか6%と設定して、京都議定書の精神を無視するような暴挙を掲げているし、米ドル換算の所得が増加しても、インフレになったら意味がない。
よく国民党側は今の台湾の一人当たり所得が韓国に追い越されたことを指摘するが、その一方で韓国はインフレが進みすぎていて、M字型社会がもっと極端に現れている負の側面を無視している。
つまり、国民党の経済政策主張は、野党ぼけなのか、かつての高度成長政策時代の思考を抜け切れていない時代錯誤なのか知らないが、あまりにも現在の実体経済を無視した経済オンチの典型というべきものだ。オンチぶりは日本でいえば共産党のそれに近い。これでは国民党が責任野党として政権奪還する可能性はないといってよい。こんな国民党がまかり間違って政権をとったら、台湾経済はおしまいだ。

◆馬英九は銀行員か裁判官が最適
もっとも、馬英九が少女チックな美辞麗句を本気でいっているらしい姿勢を見ると、どうも馬英九本人はそんなに悪い人ではないのだろうとは思う今日この頃ではある。
国民党内で馬英九を推す人間の評価を聞いても、相対的にクリーンで悪いことはしないタイプだという。特別費横領事件で起訴されておいて、クリーンもないものだと思ったが、よくよく聞いてみると、どうやら国民党の基準ではクリーンということらしいし、しかもここでいうクリーンとは、単に国民党幹部の子弟としてしかも姉数人に囲まれて、なよなよと甘やかされて育った箱入り息子が、長じても優等生としてかわいがられて、権力闘争を経ることなるどんどん抜擢されてきた、単なるラッキーボーイというか、子供がそのまま大人になったような、世間知らずなボンボンであるというだけのようだ。
そういう意味では、社会の穢れや悪や人生の苦しみを知ったうえで、あえて勇気を持って不正と立ち向かう林義雄のようなタイプとはまったく違う意味での括弧つきの「クリーン」ということだ。
副総統候補人選をめぐるもたもた、昨年の陳水扁打倒運動の際の決断と判断力の無さなどを見ると、要するに、単に人間社会の陰の部分を知らない「夢見る少女」だから、もともとダーティな部分を知らず、従ってクリーンだというだけに過ぎない。
だから、最近馬英九が出した単行本「原郷精神」(天下文化)という本でも、馬英九の主張は単なる美辞麗句のオンパレードで、それでいて台湾社会の核心がまったくわかっていない「単なる夢見る少女の作文」に過ぎないものになっているのだ(これについては後日詳述)。
しかも、ある意味では糞マジメなのだろう。想定外の事態にはかっとなりやすいようだし、記者の質問にも、トップと思えないような細かな数字に拘泥し、優等生的で決まりきった発言しかできない。
つまり、馬英九という人間は根本的に政治家に向いていないのだ。無能だから向いている職業もないだろうが、あえていうなら単純に貸し出し審査を行うだけでディーリングは担当しない銀行員か、世間知らずがやたら多い裁判官くらいだろう。政治家になったのは間違いなのだ。


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