むじな@台湾よろず批評ブログ

台湾政治、台湾語、国際政治情勢、アラブポップスなどについて批評

台湾がチャドと断交

2006-08-09 02:16:39 | 台湾政治
レバノンのヒズボッラーとは一定のパイプができたという収穫があったものの、アフリカで台湾と国交を維持していた国の中では面積最大だったチャドが6日、台湾との断交、中国との国交を台湾側に通告した。昨年10月のセネガルとの断交に続くもの。
これで台湾との国交国は24カ国で、アフリカでは5カ国、そのうちチャドと同じフランス語公用語国はブルキナファソだけとなった。

ただ、私自身は今回の断交は、昨年のセネガルのときほどは気にしていないし、セネガルと比べてたいした損害ではないと思う。

確かにチャドにはチャドのメリットはあった。台湾はチャドにおいて「中国石油」公司がチャドの原油採掘権を取得、油田を開発していたところだった。チャドは原油以外に地下埋蔵資源が豊富、そして台湾は昔から十八番の熱帯農業・医療技術支援を提供でき、いわばギブアンドテイクの関係にあった。この点では台湾にはプラスはあったが、しかしチャドの場合は東の隣国がダルフール問題で悪名高く中国の同盟国スーダンで、しかもスーダンが中国と結託してチャドの反政府ゲリラを支援し、政情がきわめて不安定。地理的にも内陸国で発展が限られている。おまけに、大統領についていっても独裁的という評判で、まあ単に独裁的だというだけなら第三世界によくあるタイプだから別にいいのだが、経済運営がめちゃくちゃで世界銀行などからもつまはじきにされていた。

この点では、同じブラックアフリカであっても、セネガルとは大違いであった。セネガルの場合、フランス植民地時代からフランスが西アフリカの中心地とみなし、また海に面していたこともあってダカール港という良港を中心として産業が発展してきた(レバノン人も多い)。初代サンゴール大統領は独裁的ではあったが、穏健な社会主義路線を志向して社会基盤の充実に力を尽くしてきたこともあって、市民社会が形成され、それが80年代以降の順調な自由化・民主化につながり、現在アフリカの中では最も安定した民主国家のひとつとなっている。一部で内戦はあるが、全般的に国内に政情不安要因はない。西アフリカの優等生といわれている。そこには日本が多大な援助を提供してきたことも寄与している。
さらに、言語オタクの趣味の観点からもいわせてもらうなら、サハラ以南では珍しく、土着言語であるウォロフ語が国内で広く超民族語として通用し、そうした言語的共通基盤もあって、民主主義や市民社会が発展したという経緯もある。他のアフリカでは土着言語が部族ごとに大きく違い、言語的に分断状態にあった。そこで公用語・共通語としては旧宗主国の言語である英語やフランス語などと採用してきたが、それらはエリート層しか通じず一般民衆は疎外されていた。まさに言語的に断裂分断社会になっている。セネガルはその点で恵まれていた。
そうしてセネガルはまさに西アフリカの優等生であり、西アフリカで最も影響力が強い国だった。

(私自身も実は昨年の段階で、今年春にでも旅行してみたい場所でもあった。台湾にも大使館があるから情報収集にも便利だ。と思った矢先、断交になってしまった。日本人はノービザでいけるのだが、台湾と断交になってしまい、中国がさっそく大きなプレゼンスを示しているようだから、行く気はなくなった。わざわざセネガルまでいって中国人なんか見たくないから)

だからこそ昨年のセネガルとの断交は台湾としても(前述の理由から個人的にも)衝撃が大きかった。それに比べたら、今回の断交は、チャドの大統領の三期目の就任式に蘇貞昌行政院長が出席するべく台北を出発する直前になってわかったという、ひどい「面当て」があったものの、台湾の外交としては単に数が一つ減ったというだけであって、大した損失はないといえる。

ただ、台湾の国交国の数も前途多難ではある。
中国が経済的にも台頭してきたために、これまで経済的な優位性から何とかアフリカ・中南米・太平洋で維持してきた国交国が、次々に切り崩されそうである。
8日付けの自由時報が2面で伝えたところでは、国交のある24か国のうち、危険な状態にあるのは、中南米12カ国のうちハイチ(中国も含めたPKOが駐留、蘇行政院長が訪問できなくなった)、ドミニカ共和国(ハイチの隣、ハイチが転ぶとドミノ式で転びそう)、ニカラグア(左翼サンディニスタがまもなくある大統領選挙で勝利しそうで、台湾と断交を宣言している)、パナマ(中国がパナマ運河に大規模投資し、転びかけている)、パラグアイ(周辺がすべて中国との友好国に囲まれて、ブラジルなどからの対中国交への圧力が強い)、欧州ただ一つのバチカン(中国と国交回復に合意しているが、信教自由問題でなお対立)、太平洋6カ国のうちソロモン諸島(暴動が起こり政情不安に中国が付け込んでいる)、アフリカ5カ国のうちガンビア(セネガルに囲まれた小さな国で、中国が猛攻勢をかけている)、ブルキナファソ(フランス語国で唯一)。比較的安定しているとみられるのは、一貫して国交があるアフリカのマラウィとスワジランドしかない模様。長年の関係がある中米のベリーズ、グアテマラ、ホンジュラス、エルサルバドル、コスタリカ、セントクリストファー、セントビンセントなども中国の経済攻勢があって、油断できない。太平洋のキリバス、マーシャル諸島、ナウル、ツバル、パラオも安定していると見られるが、親日でもあるパラオがなぜか台湾には代理大使しか送っていないし、その他の駐台湾大使館もあまり活動に熱心ではない。アフリカのサントメプリンシペは安定しているほうのようだが私自身はよくわからない。
ただし、これは7日付けのリンゴ日報で民進党に近い江春男がコラムで指摘していたが、中国が台湾から国交を奪うことで、中華民国が無用になり、台湾独立と台湾国への改名の必然性が生まれて、いいことかも知れないといっていた。
セネガルとの断交の際にも台湾日報には同様の趣旨の投書が見られた。
ただ、それは理屈としてはその通りであっても、現実の外交事務としては理屈だけで成り立たない。やはり「中華民国としての国交」であったとしても、あるに越したことはない。

台湾のメディアではよく「あまり影響力がない小国に金をつかって国交を維持するよりも、欧米日など主要国との実質関係強化に振り向けたほうがいい」という議論があるが、国によって国情はさまざまで、言語も違うわけだから、たとえブルキナファソに振り向ける人的物的資源をたとえばフランスに振り向けたとして効果が上がるとは限らない。
しかも相手が大国であるほど、台湾のような小国が発揮できる力は限られているし、中国が台湾封鎖にかけるエネルギーと阻力はもっと大きくなるだろう。
「アフリカを切り捨てて、欧米を」というのは、現実の外交実務を知らない素人の暴論というべきだろう。

しかも台湾は熱帯農業や医療の技術は、日本統治の遺産もあって、世界有数の水準にある。だからこそこれまでアフリカや太平洋や中米といった熱帯地域と国交が維持できたのであって、必ずしも「金銭外交」によるものではない。
問題は中国意識のある国民党の政治家やメディアが台湾のアドバンテージを知らないのは仕方がないが、台湾独立派ともあろう人たちが、台湾のアドバンテージを知らず、さらに台湾自身が小国であることも棚にあげて(「アフリカなどの小国は意味がない」という暴論)、しかもアフリカなどを野蛮国だと蔑視する差別意識丸出しで、「外交」を議論する傾向があるのは、何をかいわんやというべきだろう。

前述のナスラッラー師と外交部長が会ったことに民進党の議員や学者までが「テロリストと会うのは良くない」などといっているのも、そうした差別意識に原因がある。
でもちょっと待ってほしい。台湾が他国を差別する資格や余裕などあるのか?台湾に必要なのは小国として持つべき人道精神と謙虚さだろう。
ジャンル:
海外
キーワード
西アフリカ ブルキナファソ バンテージ クリストファー セントビンセント サルバドル 中国の経済 コスタリカ プリンシペ 台湾独立派 台湾のメディア リンゴ日報 ホンジュラス マーシャル諸島 スワジランド ウォロフ語 チャドの大統領 サンゴール ブラックアフリカ
コメント (5) |  トラックバック (0) |  この記事についてブログを書く
Messenger この記事をはてなブックマークに追加 mixiチェック シェア
« 台湾外相4月に密... | トップ | 台湾語ができる日... »

5 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
ありがとうございました (通りすがりのサッカーファン)
2006-08-09 12:22:54
お応えいただき、ありがとうございます。
ところでこの断交は、チャドが中国と国交を樹立したことで、台湾側が断交したんですよね?
ここで私が解らないのは、台湾独立を目指す陳水扁総統が何故断交したのか?ということです。
独立して中国とは別の国になるのなら、どの国が中国と国交持っていても関係ないわけですよね?
昔の国民党政権では「ひとつの中国」を堅持していたので、中国と国交を樹立した国とは断交していました。
しかし独立を目指す民進党政権が同じことをするのは何故でしょうか?
資産保護のために必要な措置なのです (むじな(本人))
2006-08-10 03:18:50
>しかし独立を目指す民進党政権が同じことをするのは何故でしょうか?

これは以前は私も不思議に思っていたんですが、実際の業務を考えれば、当然のことなのです。

そもそも外交は相手国との関係があってはじめて成り立つわけです。
ところが、中国と国交を結ぶことは、大なり小なり中国の正当性だけを認めて、台湾を国家として認めないことになる(実は例外はいくつかありますが)。
特に、中国と最近になって国交を樹立した相手はいずれも小国なので、国交樹立のコミュニケで力関係上「一つの中国、台湾は中国領」を「承認」させられているケースが多い。
そうなるとどうなるかというと、台湾が断交もせずに、大使館その他の資産や援助プログラムを残していると、外交的に優勢に立つ中国にすべてを取られてしまう。そうとわかっている以上は、早急に断交して資産の処分、文書の焼却、援助の引き上げを行わないといけない。
台湾側が二重承認に持ち込みたくても、現地政府が中国の圧力に屈すればそうならない。それなら台湾は資産や資源や機密を保護するため断交せざるを得ないのです。

中国と国交樹立のときに、「一つの中国、台湾は中国領」という原則を書き込んでもいなかったり、承認していない場合には、何が何でも残る大使館機能を持つかなり強い代表部を設置して、事実上の二重承認状態に持ち込むことはできる(南ア、フィジー、ボリビア、サウジなど)けども、最近になって断交するところはそうはならない。

セネガルくらいはそれができるかと思ったが(実際かつて台湾が断交していたときでも代表部は残して資産を保護できたし、農業援助も多かった)、どうも無理だったようだ。アフリカの中ではかなりまともなセネガルにしてもそうだったのだから、ましてチャド相手に資産保護ができるわけがない。
蒋介石時代との違い (むじな(本人))
2006-08-10 13:06:29
あ、この説明だけだと、「蒋介石時代とどこが違うのか」という説明が足りなかったと思うけど、蒋介石の場合は「資産保護」の観点はなくて、単なるハルシュタイン政策で「相手が中共偽政権を認めるなら、漢賊不両立だから、断交してやる」といってメンツから断交しただけ。
しかも当時はまだ「中華民国」も国連の常任理事国でそれなりに立場が強かったからね。
李登輝の務実外交以降民進党までの「断交」はもはや台湾の国際「政治」上の立場が弱くなってからの産物。台湾は二重承認に持ち込みたいが、相手がそうしない。しなければ、旧来の台湾大使館など資産は全部中国に取られちゃう(承継される)、したがって断交せざるを得ない、ということです。

だから相手が二重承認に近い状態であれば、たとえばナイジェリア、ボリビア、ヨルダンなどのように「中華民国」名で代表部を置くこともできるし、サウジや南アとは「外交関係休止」であって「断交」ではないうえに、外交特権を持った代表部を置いている。

ちなみに台湾にきわめて好意的なチェコの場合、90年代後半から「台湾という名前を宣言するなら、国交を持ってもいい」と伝えてきていたし、スロバキアとも国交樹立寸前まで行ったこともある。

ただ問題は台湾の外交官の意識。まだまだ国民党時代を引きずっているのが多くて、二重承認ができそうなのにできなかったりする場合も多い。

ニカラグアのサンディニスタが政権をとったら台湾と断交するといっているが、それも現地台湾大使館の職員が相変わらず国民党の反共主義から、サンディニスタを「アカ」だとみなして接触していないから。
でもサンディニスタは民進党を訪問して親近感を示したこともあるんだし、大使館の努力次第ではサンディニスタも取り込めるはず。それができないのが国民党外交官僚の無能なところ。
原油はどうでしょう? (通りすがりのサッカーファン)
2006-08-11 16:27:58
またお答えいただいて、有難う御座います。
で、またまた質問で恐縮ですが、中国はチャドとの国交樹立で、チャドの原油を確保できるようです。
台湾はどうなるでしょうか?
資産保護のために台湾側から断交したということですが、台湾の企業は既にチャドから原油を輸入しているでしょうか?
そして今後も中国に邪魔されることなく、輸入し続けられるでしょうか?
国交の有無と石油の売買は別問題だろうが (むじな(本人))
2006-08-13 19:01:05
チャドの油田はまだ実用段階じゃなかったはず。
それに、断交したからといって、原油を買ってくれる相手とは経済利益も無視して付き合わないという国なんてないはずだが?

イランは台湾の原油輸入先の第4位だし、台湾の石油会社はベネズエラにも進出しているくらいだからね。チャドだって台湾の掘削技術があって、さらに買ってくれるほうがありがたいだろうから、採掘契約はそのままだろうよ。

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。
 ※ 
コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。
※文字化け等の原因になりますので、顔文字の利用はお控えください。
下記数字4桁を入力し、投稿ボタンを押してください。この数字を読み取っていただくことで自動化されたプログラムによる投稿でないことを確認させていただいております。
数字4桁

トラックバック

この記事のトラックバック  Ping-URL
ブログ作成者から承認されるまでトラックバックは反映されません。
  • 送信元の記事内容が半角英数のみのトラックバックは受け取らないよう設定されております。
  • ※ブログ管理者のみ、編集画面で設定の変更が可能です。

あわせて読む