トーキング・マイノリティ

読書、歴史、映画の話を主に書き綴る電子随想

映画に見るイラン

2007-02-15 21:12:38 | 映画
 地方に住む映画好きにとっての悩みは外国映画、殊にアジア映画の上映機会が少ないことである。長くて2週間程度で打ち切られるため、見逃せばビデオにな るのを待つ他ないが、ハリウッド映画と異なり、大手ビデオレンタル店にさえ並ばないこともしばしば。あとはTV放送に期待するしかない。

 私がこれまで見たイラン映画のほとんどはNHKの放送による作品ばかりだった。数こそ少ないが、どれも秀作ぞろい。有名なアッバス・キアロスタミ監督作品「友だちのうちはどこ?」「桜桃の味」を見たのも、NHKの映画番組によって。キアロスタミ作品ではないが、十数年前に見た映画でも、今でも憶えている作品もある。『レイハネ』はイラン社会も映し出していて、面白かった。

 『レイハネ』とは女主人公の名。古代イランの女性にマンダネ(キュロス大王の母)、ロクサネ、バルシネ(アレキサンダー大王の妻妾)と、語尾に(…ネ)とつく名があったが、現代でも使われていたとは興味深い。この映画のストーリーはイラン版「女3界に家なし」という内容で、不幸な女主人公が出てくる。彼女の夫は何と酒乱で、 酒によって帰宅しては妻に直ぐ手を上げる男。厳格なイスラム国家のイメージのあるイランにもこの種の男がいたのだ。そして、具体的な背景は明かされてない が、一方的に妻を離婚する。子供が3人いても妻に親権はないので、子供は夫の元に残したままレイハネは実家の兄を頼る他ない。

 なおイラ ンに限らないが、イスラム圏では別れた妻に親権が認められないのが大半である。それゆえ、ムスリムと結婚した先進国の女性は離婚時にかなり子供をめぐって トラブルが発生する。別れた夫が子供を連れ去り、祖国に戻るというケースもしばしばあり、この問題は日本人妻も無縁ではない。にも係らず日本のマスコミ は、日本人と結婚した外国人配偶者の問題ばかりを取り上げる不可解さだ。

 中東では婚約時に離婚における慰謝料の取り決めをしてから正式 に結婚するしきたりがあるが、レイハネの夫は慰謝料を払うどころか、妻の兄に顔を潰されたと逆に賠償金を要求する始末。初めは妹を庇っていた兄も生活が苦 しいこともあり、「お前の辛抱が足りなかったから」とレイハネを責める。優しかった兄妹の母は既に他界していた。
 実は結婚前にレイハネと相思相愛だった従兄弟がいた。彼は結婚を申し込む予定だったが、イラン・イラク戦争が起きて出征することになり、結婚はお流れとなってしまう。中東では従兄妹婚が珍しくないのは古代からだ。映画を見ると、さりげなく異国の習慣が分かって面白い。

  題は忘れたが、これもNHK放送で見た日本が関係してくるイラン映画もあった。日本が舞台になるのではなく、日本行きを考えている夫とその妻の物語。この 夫婦は仲もうまくいっておらず、夫はとにかく日本に行って働きたいと思うのは、特に日本好きだからではなく、閉塞した自分の環境から逃れたいためだ。妻と 離婚するつもりだったが、これまで子供が生まれなかった妻が妊娠したので、別れることも出来ない。現代も同じかもしれないが、十数年前には妊娠している妻 を離婚できなかったのだ。

 それでも夫の日本渡航の希望は募るばかり。彼は家の内装業をしているが、近所に住む不器用な同業者の男が日本から帰って家を新築したのを知れば、心穏やかではない。彼は妻に妊娠中絶を持ちかけるが、妻は夫に黙って従う。やはりイランにも闇中絶が あったのだ。宗教警察がいかに目を光らせていても、この種の職業があるのを知って、やはり人間社会はどこも同じだと思った。熱した針を胎児の頭に刺せば簡 単に堕ろせる、と中絶の仕方の説明があったが、母体の方もこれでは安全ととても言えない。実際中絶医の元に堕胎を受けた女房の血が止まらない、と訴えに来 た男もいた。

 主人公の夫が日本でどのような職に付くか、妻に考えを話すシーンがあった。彼は高給が取れそうな職業として火葬を手伝う仕 事を挙げていたのは驚いた。現代の日本の火葬には外国人の手も加わっているのか!映画を見なけけば知らなかっただろう。火葬作業にはこれまで黙って夫に 従っていた妻が反対する。家族の遺体を焼くのは罪深いことだと。私には中絶の方が罪深いと思うが、そこは価値観の違いか。
 この映画の結末は夫婦がよりを戻し、当然中絶は行わず、夫は日本行きを断念して、イランで妻子と仲良く暮らすというものだった。

 どこの国の映画も多少誇張はあるが、映画を通してみたイラン社会は日本の外電よりも分かりやすく現実を伝えているかもしれない。

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