トーキング・マイノリティ

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奇蹟がくれた数式 15/英/マシュー・ブラウン監督

2017-04-19 21:10:14 | 映画

 原題:The Man Who Knew Infinity、インドの天才数学者ラマヌジャンの伝記映画である。この作品の仙台公開は昨年末だったが、上映した映画館のHPではこう紹介していた。

第一次大戦直前の英国。数学者ハーディ教授のもとに1通の手紙が届く。その中に驚くべき“ 数学的発見” を見つけた教授は、手紙の送り主であるインドの青年を呼び寄せることにするのだが…。天才数学者ラマヌジャンと、彼を見出したハーディ教授による、歴史を揺るがす奇跡の実話

 私が初めてラマヌジャンの名を知ったのは、2008-10-13付のmottonさんのコメントによって。数学が苦手な私は、インドからラマヌジャンのような天才が出ていたことを、恥ずかしながら知らなかった。だから、この作品は是非見たかったが、公開時が年末ということもあって映画館に行けず、やっとDVDで先日観られた。
 映画の出だしはスローテンポでやや退屈を感じたし、天才数学者の伝記映画ゆえ飛び出す専門用語に戸惑った方も少なくなかったのではないか?例えば「分割数」という用語だけで、何それ?状態だったほど。wikiの解説にも当然幾つか数式が出ており、これだけでめまいがする。

 やはり私的には数式よりも、ラマヌジャンの人生に関心があった。彼の出自はマドラス(現チュンナイ)のバラモンだが、インドにいた時に額に付けていた白いU字型の印(ティラカ)が気になった。この印で己の属する宗派を表すが、ヴィシュヌ派のものとは違っているように見えた。ブラフマー信仰の印に似ているが、ヒンドゥー教も宗派は様々あり、異教徒にはティラカによる宗派の違いは解りづらい。
 ラマヌジャンの渡英に家族は反対、妻はデリーボンベイ(現ムンバイ)と違い、ここでは村八分にされる…と危惧する。マドラスに限らず20世紀初めのインドのヒンドゥー教徒にとって、海を渡ることは大変なことだったのだ。
 信者からすればインダス川以西の国は、全て“不浄の地”であり、まして牛喰いの汚れた国に行くのだ。あのガンディーさえ英国渡航時には親戚から猛反対を受けており、帰国後は“お清め”の儀式を受けている。もちろん現代のヒンドゥー教徒にはかつての悲壮感はなく、海外に進んで勇躍しているが。

 バラモンの出自もあるのか、ラマヌジャンは敬虔な信者で厳格な菜食主義者だった。渡英したのが1914年でまもなく第一次世界大戦が勃発、戦時下での食材の確保は難しく、環境の違いと孤独から彼は病となる。映画では病は結核という設定になっていたが、重度のビタミン欠乏症や近年ではアメーバ性肝炎という見方もあるそうだ。
 どうやって数式の発想を得るのか、とハーディに問われたラマヌジャンは、ナーマギリ女神が教えてくれたと話している。そして無神論者を公言しているハーディに、「貴方は神に嫌われていると思っているだけ」と云う。神が存在しないならば、数式など何の意味もないとまで言うラマヌジャン。

 この辺りは大半の現代日本人にも理解できないだろうが、『だれも知らなかったインド人の秘密』(パヴァン.K.ヴァルマ著、東洋経済新聞社)には、インド人と西欧人の思考の違いが記されていた。
 インド人は西欧人のように一歩一歩演繹的に諸前提から論理の規則に従い、必然的に結論を導き出すことはせず、帰納的に個々の特殊な事実や命題の集まりからそこに共通する性質や関係を取り出し、一般的な命題や法則を導き、妙案を得るという。
 インド人は物事を巨視的に見ることにより、相互の関連を見つけ、解決策にたどりつくそうだ。著者がラマヌジャンを意識して述べたのかは不明だが、この説明は興味深い。

 映画ではラマヌジャンと会った時まで、ハーディは結婚歴のない独り者とされている。ジェレミー・アイアンズが扮しているため、ハーディは老学者と思いきや、実際のハーディは1877年生まれ、ラマヌジャンと出会った年に37歳を迎えている。ラマヌジャンより10歳年長だっただけだ。
 また映画にはバートランド・ラッセルが、ハーディの友人、ラマヌジャンの理解者として登場している。ハーディとは対照的にラッセルは生涯に4度結婚、最後の結婚は80歳のときだったことがwikiに載っている。ノーベル文学賞を受賞したため、日本では哲学者のイメージのあるラッセルだが、数学者でもあった。

 夭折したラマヌジャンだが、ラストクレジットに享年が32歳とあったのは痛ましい。ラマヌジャンの聖紐(ヒンドゥーの男性信者が常に身に付けている紐)がハーディの元に送られたのは、果たして史実だったのか?ラマヌジャンの妻ジャナキは、習慣に従い再婚しなかったそうだが、まさかサティー(寡婦焚死)は行なわなかったと思いたい。



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