トーキング・マイノリティ

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トルコのもう一つの顔 その③

2017-11-13 22:03:24 | 読書/ノンフィクション

その①その②の続き
 イスラムにも様々な教派があり、イスラム研究者の間でもアレウィー教徒はよく知られていないようだ。「アリに従う者」の意から、シーア派の一派なのは明らかだが、イスラムとの共通点は一神教であること、割礼をし、豚肉を食べないことくらいという。回教やキリスト教では死者の魂は「最後の審判」を待つことになっているが、アレウィー教徒の教義では魂は輪廻転生する。
 さらにアレウィー教徒の村にはモスクはなく、これに行くことを教義上の理由で禁じている。1日5回の礼拝で知られるムスリムに対し、アレウィー教徒はそれもしない。断食の月や日数も異なっており、酒に関してはアレウィー教徒は禁忌ではなく、葡萄酒を作っていた村も多いそうだ。

 特に興味深いのが女性信者の社会的地位。アレウィー教では男女平等を原則としているようで、40歳を過ぎると生活のあらゆる面で完全に男女同権になるという。女性信者はベールを被らず、年齢、既婚未婚を問わず男女の隔てなく自由に誰とも話ができるそうだ。あの中東世界で本当のことか、と信じ難いが、小島剛一氏はそう記述している。
 尤もムスリムでありながら、伝統的に男女の分け隔てをしない民族もおり、トルコではチェルケズ人がそれに当たるそうだ。年頃の娘の処に若い男が何人もやってきて、一緒にチャイを飲むのが当たり前になっているが、トルコ人の村で同じことをすれば刃傷沙汰となる。但しチェルケズ人は、あまり差別を受けない数少ない少数民族だそうで、トルコ人との通婚も多いとか。

 アレウィー教には職業的聖職者もおらず、コーランも読まず、メッカ詣でもしない……となれば、どう言い張ろうとムスリムとは見なせない。イスラムとは無縁の異教であり、そのくせムスリムを自称する故に迫害の対象となったようだ。ザザ人にアレウィー教徒が多いそうだが、クルド人やトルコ人にも信者はいるという。トルコで多数のスンナ派ムスリムは、アレウィー教徒についてこう言っているそうだ。
食人の習慣があり、そのため1人旅のムスリムを殺す」「葬儀の際に灯りを消して暗闇の中で乱交する」「貞操観念がなく父無し子が生まれると、アリと名付けて崇拝する」……

イスラームの敵アレウィー教徒を殺せば天国の門が開く」と言う人にも小島氏は会ったという。しかも虫も殺さぬ顔だったため、氏は背筋が冷たくなったそうだ。アレウィー教徒はトルコ東部一帯と西部の大都市に広く分布しているが、県民の大多数がアレウィー教徒なのはトゥンジェリ県のみという。そのためトゥンジェリ県は「アレウィー県」としてトルコ中に知られ、偏見と迫害の対象になっていると書く小島氏。
 ムスリムが経営する会社や商店に、トゥンジェリ県出身者の就職はまず不可能だそうだ。信仰を偽ってもアレウィー教徒は行動様式が違うため、異宗教であることは隠しおおせないとか。

 小島氏は教育現場においても、アレウィー教徒が受ける凄まじい迫害を述べている。トゥンジェリ県の学校には世界地図も、黒板に図形を描くための教師用の定規やコンパスもない所が多い。教員がいないために授業の無い科目も多い。
 こんな状況で勉学を続けても進学の見込みはないと考え他県に越境入学した生徒は、学校でも寄宿舎でも陰惨な虐めに遭うことを氏は聞いたそうだ。棒切れや鎖で毎日のように殴りつけられ、多くの者は早々に自主退学する、と。

 1977年3月、エリャーズフ県立エリャーズフ高校で、トゥンジェリ県出身の生徒全員が一室に集められ、事務員にまる2時間に亘り殴打されたのち、校庭で他の生徒たちにナイフで襲われ、瀕死の重傷を負った者が2名出る事件が起きた。
 事件の直後、トゥンジェリ県出身の生徒たちは教室にも寄宿舎にも帰らず、学用品も身の回りのものも捨てて親元に逃げ帰る。翌年度からはエリャーズフ高校に越境入学をする者はいなくなったそうだ。

 殆どの日本人は先のような陰惨な学校の事件に驚愕するだろう。但し、トルコに限らず中東の学校は荒れているようだ。池内恵氏の処女作『現代アラブの社会思想』(講談社現代新書)には、カイロでの高校の抗争が紹介されている。これは宗教対立や迫害ではなく、向かい合った高校の生徒がナイフやレンガ、石などで抗争、ついに死者が出たそうだ。カイロの学校では傷害事件も珍しくないそうだが、2001年4月のことである。
「日本の学級崩壊など生易しくみえてくる」と書いた池内氏だが、校内のガラスを割るか、盗んだバイクで走り回る程度で不良高校生となるが日本なのだ。 

 小島氏の記述を見れば、トゥンジェリ県はさぞ教育水準が低いと思ってしまうが、wikiにはこんな解説が見える。
98%の人口が初等教育を受けており、トルコの県の中でも識字率が非常に高い。1979年/1980年に、県内の高校が閉鎖されて軍事基地に変わるまでは、トゥンジェリは大学に進学する学生がトルコで最も多かった。2008年にはトゥンジェリ大学が開学している
 これが正しいとすれば、小島氏の記述との違和感が出てくる。「イスラムの敵」の方が教育熱心なのやら。
その④に続く

◆関連記事:「僕の違和感
 「トルコ大使館前乱闘事件に思うこと

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12 コメント

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チェルケス人 (motton)
2017-11-14 11:53:00
チェルケス人ってどこかで見たなと思ったら、コーカサス諸語(北西コーカサス語族)を話す人々ですね。
子音が非常に多く(50~80)、母音が2個しかないという言語です。

Wikipedia の「コーカサス諸語」
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B3%E3%83%BC%E3%82%AB%E3%82%B5%E3%82%B9%E8%AB%B8%E8%AA%9E
のコーカサス地方の言語地図は一見の価値あり。
(隣接するトルコの部分は隠されていますが、きっと同様なんでしょうね。)
Re:チェルケス人 (mugi)
2017-11-14 21:58:48
>motton さん、

 トルコ在住のチェルケス人は19世紀のロシアの侵略で故郷を追われ、トルコに難民としてやってきた民族の子孫です。出身はもちろんコーカサス、トルコではいわば新参者であり、分離独立運動はしないため、トルコ人との関係はよいそうです。

 尤もオスマン帝国の時代からチェルケス人は奴隷として来ていました。チェルケス女性は美貌で名高く、コーカサスに行ったトルコの高官が現地少女を「お土産」として連れ帰った者が多かったとか。
小島剛一氏に手厳しく批判されていますよ。 (アンケート)
2017-11-16 17:14:53
http://fjii.blog.fc2.com/blog-entry-1526.html?sp
Re:小島剛一氏に手厳しく批判されていますよ。 (mugi)
2017-11-16 21:29:27
>アンケート氏、

ご報告を有難うございました。
小島剛一氏に手厳しく批判されていますよ。 (アンケート)
2017-11-17 18:40:47
http://fjii.blog.fc2.com/blog-entry-1526.html?sp

近々続編を書くそうです。
Re:小島剛一氏に手厳しく批判されていますよ。 (mugi)
2017-11-17 21:42:31
>アンケート氏、

 おそらく小島氏の友人でしょうけど、氏が手厳しい批判をするのは一向に差し支えないし、毎度連絡しなくとも結構ですから。
著作では冷静で温かみを示していた小島氏が、別の顔を見せているのは結構です。
冷静な対応を (nama)
2017-11-18 01:08:17
この小島剛一という人のブログはたいへん鬱陶しい。歪曲だとか誹謗中傷だとか上から目線だとか逆恨みだとか、こういう言い方にはうんざりです。たまに読むと、また誰かに悪態をついている。いつまでたってもこの調子なんだろうと思って読めば、人間そのものは意外に微笑ましい。年を取ってからこういうブログを書いていてはいけないという見本ですね。その意味では興味深いブログです。また、この人が誰かに賛同を求めたいとき、決まってもちだすのがアンケート。でもこたえる人と言えば多くが顔見知りのお友達です。だから異論を書く人はあまりいません。いたとしても非表示です。とにかく自分が批評されるのを待っていて、そこにちょっとでも気にいらないところがあれば、非難されているわけでもないのに激しい言葉でいかにも理路整然と反論するのが生きがいになっているようなところがある。著作はそれなりの評価を得ているのでしょうが、ブログの方はどこまで評価されているのか。書評は、著者がなんと言われようが、書けばいいのです。ちょっと引用ミスがあったくらいで、これを歪曲だとは思いません。きっと当分の間、この人はブログのネタとして嬉々として書き続けるでしょう。どうか賢明で冷静な対応を続けてください。承認不承認は慎重に。アンケート氏が本人だったらどうなんでしょう。
Unknown (アンケート)
2017-11-18 21:42:53
http://fjii.blog.fc2.com/blog-entry-1529.html

氏の友人などではありません。お触り禁止案件で炎上する人を面白がっているだけです。
「歪曲」しないでいただけますか?
アンケート氏へ (mugi)
2017-11-19 14:05:26
 一定数のファンがいても、小島氏のブログがさほど人気サイトとは思えない。にも拘らず、早々に連絡してきたのなら、友人ならずともお仲間、心酔者と疑われるのは当然でしょ?「歪曲」ではなく「邪推」が相応しい。尤も単なる煽り屋さんでしたか。

 先に私は「毎度連絡しなくとも結構」と書いたはず。次回からは「お触り禁止」、つまり削除対象にするのでそのつもりで。
Re:冷静な対応を (mugi)
2017-11-19 14:23:42
コメントを有難うございます。

 小島氏がブログをしていたことは今回初めて知りましたが、他の記事でも似たような調子で誰かに悪態をついたり、アンケートを持ち出していたのですか??もちろんはじめに原文と違う表記にした私に非がありますが、これほどまで暴言を吐かれるとは想像していませんでした。これでは原文と一字違わぬ引用をしたところで、「ゴキブリ」呼ばわりされたと思います。
 小島氏の批判を見た時、これがあの『トルコのもう一つの顔』の作者とは信じられなかった。まるで別人格にしか思えなかったし、本に見える冷静さや少数民族への優しいまなざし、豪胆さは欠片も感じられませんでした。これまで学会の主流派に散々叩かれ、性格が歪んだ可能性はありますが、著作の質と人格の乖離が著しいという印象です。語学力や知識、人格は全く別物ということが改めて判りました。

 今回の記事は書評というより、本の内容の紹介に感想を少し交えたものなのは、読んで頂けれは判るでしょう。まして言語学者なら読解力は並みはずれているはず。どうやらこの人物は元から鬱屈を抱えていて、ブログでうっぷん晴らしをするのが習慣になってしまったようですね。本にもありましたが、ハンガリー人に言わせるとトルコ人は誇大妄想狂の傾向があるそうで、トルコ人との交流で感化されたのやら。

 アンケート氏が本人という可能性は殆どないと思いますね。先にもあるように単なる煽り屋でした。小島氏ならば、もっと激しい悪罵を投げつけていたと思います。

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