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『ローマ人の物語』読者が見たグラディエーター そのⅠ

2011-01-19 21:44:06 | 映画
 昨年12月、ラッセル・クロウ主演、リドリー・スコット監督の映画『ロビン・フッド』を見たので、このコンビによる2000年制作の作品『グラディエーター』を、再びDVDで見た。折しも『ローマ人の物語』シリーズを読んでいたこともあり、『グラディエーター』を私は映画館で 3回も見ている。自宅のТVでの再生は迫力がでない上、史実は滅茶苦茶でも、やはり古代ローマ活劇としては傑作だと改めて感じた。

 映画の冒頭はゲルマニアでの戦闘。主人公の将軍マキシマスが指揮を取っているシーンを見て、実に格好いいと感じた観客も多かっただろう。いかにも古代ローマの勇将が再現したようであり、あのような人物の下なら命がけで戦いたいと思った男もいるはず。将軍と兵士たちが挨拶代わりのように「力と名誉を」と、声を掛け合っていたのは史実どおりだろうか?また、戦闘前、必ずマキシマスが足元の土を手にすり込む仕草があり、ローマ人の習慣によるものなのか、又は創作か?

 対するゲルマン人は毛皮をまとった野蛮人そのものであり、彼らこそラッセル・クロウやリドリー・スコットの祖先である。林の中に陣取り、雄叫びをあげているが、「それも今のうちだけだ」とマキシマスは言い放つ。ローマ軍はカタパルトや火矢でゲルマン人の陣地を攻撃、林を焼き払うが、カタパルトから投石された「砲弾」は、木に当たると燃え上がるので内部に油が仕込まれてあったはずだ。古代の爆撃攻撃さながらで、ローマの大型カタパルトは古代のハイテク兵器だったのだろう。
 敵の陣地を叩いた後、ローマ伝統の重装歩兵部隊が一糸乱れず敵陣に行進していく様は、まるで殺人マシーンを思わせる。ゲルマン人は勇猛だったが、彼らも生身の人間である。殺人マシーンに攻められ、彼らも内心は畏怖していたかもしれない。

 マキシマスの見事な指揮を見守っているのが皇帝マルクス・アウレリウス。さすがに最前線ではなく後方にいるにせよ、戦場では後方も決して安全地帯とはならない。名高い最後の五賢帝で、皇帝は皇子コンモドゥスではなく、マキシマスを自分の後継者に決める。皇帝はローマの将来を危惧、その対策として帝政を廃止し、政治体制を元の共和制に戻す他にないと考えていたのだった。だが、当のマキシマスは皇帝の要請を辞退、故郷で待つ妻子の元に帰ることを願い出る…

 もちろんこれは映画のフィクション。『ローマ人の物語XI 終わりの始まり』で、マキシマスのモデルになった人物がいたとあって驚いたが、皇帝が愚息ではなく他人を後継者に決めたのは完全なフィクションである。それどころか、アウレリウスははじめから息子を次期皇帝にすることに決めていたそうだ。コンモドゥスが暗君だったのは映画と同じだが、即位から12年後に暗殺されており、もちろんコロッセオではなく宮殿内だった。
 さらに映画のパンフレットにはコンモドゥスは武勇に長けており、闘技場で数多くのグラディエーターや獣を倒したことが記されていて、これも驚いた。史実ではこの皇帝、左利きだったそうな。現代、殊に民主制絶対主義の英米では、帝政イコール絶対悪という価値観ゆえ、哲人皇帝の誉れ高いアウレリウスが、共和制への“大政奉還”を考えていたという設定にしたと思う。

 この映画で最も改変された登場人物は、ヒロインのルッシラだろう。アウレリウスの皇女にしてコンモドゥスの姉という実在の人物で、主人公の昔の恋人という設定にされている。美しく聡明な皇女で、父が「お前が男だったら…」と嘆く。マキシマスを何とか救おうとするものの、息子を弟に人質同然にされていれば、母たるもの服従する他ない。

 しかし、ローマ人の物語読了後、映画のイメージが完全に覆されてしまった。ルッシラは美女だったが異様に気位が高く、権力欲のため実の弟への暗殺を企てていたそうだ。計画はズサンだったため、陰謀は未然に発覚するも、実の姉が弟を亡き者としようとしたのか、その動機の詳細は『ローマ人の物語XI』では記されていない。いかに古代ローマ皇帝一族と現代庶民では事情が違いすぎるにせよ、理解不可能だ。コンモドゥスもはじめから暗君だったのではなく、姉の暗殺未遂事件が起きてから極度の人間不信に陥り、精神のバランスが崩れていったとか。
そのⅡに続く

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2 コメント

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ローマ軍の戦い方 (ハミルカル)
2011-01-20 22:27:21
「グラディエイター」は私も見ました。やんちゃなリドリー=スコットの迫真の演技でしたね。
 ローマ軍の戦い方ですが、確かに、“黙って整然と行進して”攻められれば、怖いです。ただこの戦い方は、元首政に入ってからで、共和制までは、楯をガンガン叩いて、ワーワーわめきながら敵陣に突っ込んでいったらしいのです。
 多分、帝政期には、軍団兵の質も上がったのでしょう。

 もし、よろしければ、相互リンクをお願いしたいのですが・・・。
RE:ローマ軍の戦い方 (mugi)
2011-01-21 21:26:57
>ハミルカルさん、

 ローマ軍の戦い方が、共和政時代と帝政期では異なっていたとは知りませんでした。この映画のゲルマニアでの戦いでも、ローマ兵が剣で楯を叩いて気勢をあげるシーンがありましたが、敵陣に進軍する際は無言でしたね。それでも軍団兵の質が劣っていた共和制の頃、既に地中海で覇権を確立しています。

 実は私はローマ史や西欧史に関しては浅学ですが、それでも構わなければ、私の方こそ相互リンクをよろしくお願いします。

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