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もうひとりの海賊女王 その②

2008-10-02 21:28:44 | 読書/欧米史
その①の続き
 結婚の1年後、グラニュエールは夫を城から追い出し、離婚を宣言した。女海賊らしく城を乗っ取るものの、この夫婦はまた結ばれ、1583年にリチャードが死ぬまで共に暮らしたという。愛が芽生えたのか、子供を身ごもったためか、理由は不明。彼女が3番目の息子を産んだのは船上であり、ティボット・ネ・ロング(船団のトビー)と名付けられる。臨月になっても海賊業を行っていた訳だ。出産の翌日、船はアルジェの海賊に襲われ、彼女は部下たちを叱咤激励し敵を追い払う。この頃、イスラム海賊は地中海を越え、大西洋にまで進出するようになっていた。

 1576年、エリザベス1世の代理人がゴールウェイを訪れ、「最も有名な女船長」グラニュエールと会見した。その後、夫リチャードは騎士に叙せられ、彼女はレディ・バークとなる。英国女王の騎士叙任政策を受け入れたことになるが、グラニュエールは代理人に約束した忠誠との言葉を拡大解釈し、前と同じく自分の勢力範囲に入ってくる船から通行税を取り立て、時には海賊行為を働く。
 翌年春、マンスター(アイルランド南西地方)へ海賊に行く途中、グラニュエールは囚われ、牢に18ヵ月幽閉された。やがて釈放されたが、その条件はマンスターでの反乱に関っている夫を説得する、というものだった。しかし、この約束は結局守られなかった。

 夫が死ぬと、グラニュエールは部下全員を集め、千頭の牛と雌馬引き連れ、ロックフリート城に入る。その時彼女は53歳。折りしも英国とスペインの対立は激化し、1585年には戦争状態となった。アイルランドとスペインの結びつきを怖れるエリザベスは、アイルランドに廷臣を派遣、それまでと異なり容赦なく族長たちを屈服させようとした。コナハト総督はグラニュエールがこの地の反乱に関与、スコットランドの傭兵を輸送した、との理由で逮捕するが、危機一髪のところで人質と引き換えに釈放された。莫大な数の家畜を没収されたので、彼女の生きる場所は再び海だけとなった。

 1592年、クルー湾にコナハト総督の軍勢が侵入、グラニュエールの船隊の一部を没収する。さらにアルスターの反乱に加わった容疑で、彼女の末の息子が逮捕された。翌年、彼女は英国女王に嘆願書を書いた。そして自分がやってきた海賊行為は、一族を守るための「陸と海での保全行為」だと釈明した。グラニュエールは末息子の釈放を求め、2人の息子が父親の土地を相続できるよう嘆願する。その代わり生涯を通じ、いかなる場所でも陛下の敵と戦う、と誓った。その年の内にグラニュエールはクルー湾から船でロンドンに向かい、エリザベスとの会見が実現した。アイルランド北西部の一城主でありながら、彼女は英国女王と対等に渡り合ったと言われる。

 アイルランド情勢は混沌としており、アルスターの族長は反英勢力を結集、スペインからの援軍に期待する。グラニュエールと船隊は反乱軍から熱心に参戦を求められた。当初彼女は三男ティボットと共に英国に対抗するアルスター軍の側に立つも、族長がグラニュエールの領地に入り、ティボットに代わり自分の寵臣を族長に立てるに及び、英国側につく。アイルランドと英国の最後の決戦となった1601年のキンセイル(コーク州)の戦いで、彼女は完全に英国側に立っている。この2年後、ティボットは騎士に叙せられ、メイヨー子爵家を創設した。

 グラニュエールはエリザベスとの会見後も船上で海賊を指揮し続けたそうだが、英国女王が死亡したのと同じく1603年、ロックフリート城で没したと言われる。埋葬されたのは彼女の海賊業の本拠地としていたクルー湾入り口のクレア島修道院だった。
 17世紀に入るとアイルランドは英国の植民地化が進行し、内戦、クロムウェルの遠征などにより、人口が激減、アイルランドの人口の3分の1が死亡するか亡命したと見られる。特にクロムウェルは殺し尽くし、焼き尽くし、奪い尽くすという“三光作戦”を行い、今でもアイルランド人の憎悪の的となっているそうだ。

 女海賊では18世紀初め、カリブ海で活躍したアン・ボニーメアリ・リードが有名だが、勇敢であっても彼女たちは男の海賊の手下に過ぎず、自ら海賊を率いて戦ったのではない。グラニュエールは父が族長で海賊ということもあり、元から支配階層だった点は異なる。自分と一族が生き残るため戦ったにせよ、何と逞しい海賊女王ではないか。その姿勢は偉大な女家長そのものであり、被害者でなければ全く胸がすく。ただ、彼女が晩年まで海賊業を行っていたのは、案外息子たちが凡庸だったのかもしれない。強すぎる母を持つと、何故か息子は似ないことが多い。
■参考:「図説・海賊」(増田義郎著、ふくろうの本、河出書房新社)

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