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サウジアラビアの宗教教育

2007-01-11 21:13:48 | 世相(外国)
 一昨日の1月9日放送のNHK『クローズアップ現代』はサウジアラビア特集だったが、特に私の関心を惹いたのはあの国の宗教教育だ。厳格な戒律で知られるワッハーブ派が国教のお国柄なので、子供たちの教育の三分の一はイスラムの学習に当てられている。

 日本の小学生くらいの子供たちが学ぶ教科書の冒頭には、「イスラム以外の宗教は全て誤り」 と記されている。この一文だけで、他宗教を全く認めない中世的非寛容精神の公言である。他のイスラム諸国の教科書はどう記されているのか不明だが、大同小 異だと思われる。他宗教を認める一神教などありえないから。選民思想で悪名高いユダヤ教徒の国イスラエルの教科書にも、まさか「ユダヤ以外の宗教は全て誤 り」などとは書かれてないだろう。ムスリムが異教徒圏至るところで、トラブルメーカーとなっている背景が、これだけでも分かる。

 サウジ で2番目に強調されているのがジハード。異教徒、異端者への敵意と戦闘精神を幼少から植え付けるのが国是のようだ。9.11で全世界に知られるようになっ たが、イスラム過激派の輩出国であるのも頷ける。『クローズアップ』に出演していた関西大学教授はサウジ自体がジハードによって建国された国だから、と解 説していたが、戦った相手はメッカの太守であるハーシム家、ムハンマド直系の子孫という名家であり、サウド家など比較にならぬほど格が高い。建前は「神の前の平等」でも、実際にはムハンマドの血を引く者はイスラム世界でかなり敬意を受ける存在である。悪く取れば簒奪者と言えなくもないが、初代国王イブン・サウードは“沙漠の豹”と呼ばれるほどの英雄でもあった。

  一番好きな授業は何、と問われた子供の一人はコーランの学習と答えていたが、これまた当然だろう。何しろイスラムだけが真の宗教で、イスラムの偉大さを讃 える教育のみを施されようものなら、ムスリムというだけでどんな味噌っかすも異教徒に優越と蔑視を持つようになる。これがサウジ版「愛国教育」だ。自虐史 観や多文化共生精神など訴える日本の教育も異常だが、サウジの学校は狂信的イスラム・ナショナリストの養成機関の場ともなっているらしい。

 サウジはイスラム過激派輩出国、との欧米からの非難を受け、サウジ政府は教育改革に重い腰を上げた。特にジハードの解釈をめぐり、国内の有識者から幅広 く意見を募ったが、やはり神学者の横槍で改革は腰砕けとなった。教科書からジハードを削るのは、コーランに手を加えることと同じと反対する神学者がいた が、コーランと学校教科書は別物である。政教一体体制では、宗教抜きの教育など困難なのだ。国民もまた教育改革に及び腰だ。これまでの30年間問題なかっ たのだから、特に改革する必要もないと、現状維持を望む者が多いという。

 来日したこともある第3代ファイサル国王は1973 年甥によって暗殺されたが、「イスラムからの発想」(講談社新書、大島直政著)によると、その真の理由はTV導入を強引に決めたことのようだ。偶像崇拝を 厳禁しながら映画やTVはお構いなしというのは、異教徒から見ても矛盾している。たかがTV如きで暗殺とは何事か、と日本人なら思うが、甥の行為はイスラ ムの教義を厳格に解釈すれば正しい。国王を殺害した甥もファイサルという名だが、「さっと振り下ろされる剣」という意味がある。

 在日ドイツ人ハウプト・ホルガーさんのHPで、「ムハンマド風刺漫画掲載問題」という興味深い記事がある。サウジアラビアに関しての言及があるので、一部抜粋したい。
サウジアラビアはオイルマネーを使い、欧米諸国のあちこちにモスク(イスラム寺院)を建設しているにもかかわらず、自分の国にはキリスト教の教会を建設することを全く許可しない。 それだけではない。サウジアラビア国内に居住している人々の4.5%がキリスト教徒(主に欧米諸国やフィリピンから来た移民労働者)であるにもかかわら ず、彼らは礼拝をすることができない。また十字架(首飾りの十字架含む)や聖書をはじめキリスト教に関する印刷物を所持するとも禁じられている。そうした ものが発見されると、運が良い場合は国からの追放で済むが、運が悪ければ、鞭打ちの刑刑務所送り(あるいはその両方)となる

 私には教科書の冒頭の文句「イスラム以外の宗教は全て誤り」がそのままなのか気になったが、番組で何も言わないところを見れば、改正されず引き続き記されているのだろう。これが聖都メッカの守護者を自称する国の教育方針の基本である。

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4 コメント

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TV (motton)
2007-01-12 10:38:17
オスマン帝国のアブデュルハミト2世が電信を導入する時に、
コーランを電信で送らせて神学者を黙らせたとされますが、
ファイサル国王も TV導入で同じ手を使ったようですね。
サウジは 1世紀ほどトルコから遅れているのでしょうか。
写真 (mugi)
2007-01-12 21:37:57
>mottonさん
初代国王イブン・サウードもアブデュルハミト2世に習って、写真を合法化させてます。
写真は光と影で作られており、光も影も偶像ではないから、写真は偶像ではない、と。この理屈で神学者は引き下がりました。

もともとサウード家はアラビア半島内陸ナジュドの豪族なので、西欧はもちろんトルコの影響もあまり受けなかったはずです。
イスラエルすらマシ・・・中東の教科書 (クルト)
2014-06-08 04:48:08
調べましたが、未だにあのイスラムマンセー教育継続中だそうです。
http://d.hatena.ne.jp/itunalily/20080517
このサイトに転載されている調査によると比較的マシな教科書は、あの全方位が敵のイスラエル、アメリカが目の敵にしていたイラン等だそうです。

他の国はなかなかに酷く特にサウジは・・・お察しです。
個人的に一番噴飯ものだったのは、渦中のシリアのエルサレムを建設したのは4500年前のアラブ人というものでしたね。
某国のウリナラ起源とタメをはれるかもw
教科書とは関係ありませんが、エジプトでは、いまやヨーロッパの反ユダヤ主義者ですら偽書と認めつつあるというシオン議定書の歴史ドラマが放映されたとか・・・
後このサイトは、イスラム側のキリスト教の偏見や棄教者の話もかなり書かれているので興味深いです。
RE:イスラエルすらマシ・・・中東の教科書 (mugi)
2014-06-08 21:51:36
>クルトさん、

 興味深いブログ記事の紹介を有難うございました!ここで取り上げられた中東の教科書はイラン、エジプト、サウジ、シリア、パレスチナの5か国でしたね。サウジは予想通りですが、一応社会主義体制のはずのシリアも相当でした。サウジやシリアに比べれは、某国のウリナラ起源など他愛ないですよ。イスラムを生んだのがアラブなのは否定できない事実だし、信念は揺るぎないはず。

 イランは案外マトモでしたね。「さすがはペルシャ語圏だけあってか、格段に非イスラーム諸宗教に対する記述や法的‘寛容’が見られた」のは結構です。

 予想外だったのがマレーシア。マレーシアでの宗教間対話で、マレー人代表者が「どうして地獄へ落ちるとわかっている人々と対話なんかしなければいけないんだ」と公言していたとは。端正な身なりの礼儀正しいマレーシア人留学生が、「日本留学の目的は、イスラームを広めることだ」とわざわざ言いに来たそうですね。
 また、来日講演するムスリム関係者の中で、比較的キリスト教に好意的な発言をする人の実態も驚きました。これに騙される日本人クリスチャンも多いでしょう。宗教間の対話とやらで有頂天になり、一般日本人に訓辞する耶蘇の得意顔が想像できますね。

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