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平和五原則-中国にしてヤラレたインド

2005-05-31 21:39:03 | 歴史諸随想
 1954年6月、周恩来とインド初代首相ネルーとの会談が行われ、平和五原則が締結された。この協定の内容は①領土主権の尊重②相互不侵略③内政不干渉④平等互恵⑤平和共存、 の五つの精神からなっている。まことに御立派な原則だが、その後の中共のチベット侵攻や中印国境紛争の実態を見れば、アジア外交史のブラックジョークとし か思えない。実はインドの将軍に中国軍の脅威を再三に亘り警告する者がいたが、それをネルーは無視し握り潰した。彼最大の政治的失態であり、辞任という形 の失脚に追い込まれる羽目になる。印パ分離独立を強行する程の(ガンディーは猛反対)、決して甘い理想主義者ではなかったネルーが何故中国には判断を誤っ たのか?

  ネルーは中国を愛した人だった。彼の書いた本を読むと中国への親愛振りがうかがわれる。別に中国に住んだ訳ではな く、若い頃からインド独立運動に身を捧げていたから中国をじっくりと研究したのではない。が、ケンブリッジ大卒で、“パンディット・ジー(学者さんの 意)”と謳われる教養人でもあったので、中国の思想や文明には深い敬意を持っていた。共に古い歴史と文明を誇りながらも、近代は欧米帝国主義の餌食になっ たゆえ、共感するところもあったのは間違いない。平たく言えば中国文明愛好家ゆえの落し穴だったが、そんな人物はわが国にも少なからずいるのではないか。

  今年4月に中国主席が突如訪印し、経済協力を強調、長年の懸念だった国境紛争問題を“解決”してインド政府も歓迎した。しかし、中国がずっとパキスタンに 武器や経済援助を行ってきたこと、ネパール共産ゲリラを支援してる点で内心は信用はしていない。中国のラブコールを現地メディア、ヒンドゥスタン・タイム ズ紙は「中国はインドがアメリカと接近したため、バランスを取る狙いがあるのだろう」と至ってクールな分析である。珍獣二頭をもらって、友好とはしゃぐわが国のマスコミのような軽薄さはない。
  インドは事ある毎に「世界最大の民主主義国家」と自称するが、お国自慢ばかりでなくどうも東の隣国への面当てのように聞こえる。


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4 コメント

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日本人の特殊な対中感情 (舎 亜歴)
2005-10-03 19:21:21
>珍獣二頭をもらって、友好とはしゃぐわが国のマスコミのような軽薄さはない。



というよりも日本はとかく中国や韓国には何かと「友好」という語を冠したがります。本来はハンチントンが指摘するように、日本とアジアは異質な世界なのです。にもかかわらず、「近い国、同じ東洋人」というファンタジーを作りたがります。



こんな考え方は「大東亜共栄圏」で破綻しています。アジア人と日本人は全く異質である。これをしっかり銘記しないといけません。インド人は中国に変な幻想も親近感も抱きはしないでしょう。
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コメント、ありがとうございます (mugi)
2005-10-03 21:12:09
>「近い国、同じ東洋人」というファンタジーを作りたがります。

全くその通りですね。儒教的価値観では同じ東洋人、という思考はないのは明らかなのに、その現実を受け入れられない人が多すぎる。

また、隣国とは仲良くしなければならない、との奇妙な義務感に取り付かれた者もいる。隣国が仲が悪いのは、世界中何処も同じです。



日本人の幻想や親近感に付け入って、食い物にされてるのも気付かないお人よしの“有識者”には困ったものです。
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中国の甘言の裏側 (ハハサウルス)
2008-03-24 16:19:35
TB有難うございました。

中共が甘言をささやく時には、「口に蜜あり、腹に剣あり」という中国のことわざを思い出さなければならないでしょう。きちんと黒~い腹積もりが整ったからこそ、にっこり笑うのが彼らなのかもしれません。
本当にブラックジョークとしか思えませんね。
ネルー程の人物でも中共を見誤ったのはインドにとって悲劇ですが、mugiさんの仰る“中国文明愛好家ゆえの落とし穴”という理由には納得です。私も気を付けなくてはと思います。 
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中印国境紛争 (mugi)
2008-03-24 21:48:23
>ハハサウルスさん、コメント有難うございました。

誰かが言ってましたが、露骨に反日をむき出しにするシナ人はむしろ“正直”なので、危険性は少ないそうです。本当に要注意なのは、にこやかな顔で友好を熱心に演出する類だとか。

周恩来は中印国境紛争を、後年アメリカに得意げにこう言っていました。「ネルーは非常に生意気になっていたので、我々が鼻をへし折ってやろうとしたのです」。
スターリンさえ時には困らせた毛沢東と、ネルーでは分が悪すぎますよね。ただ、この件はインド人に中共への拭いきれない不信感を植え付ける事になりました。インド人はイメージと裏腹にむしろシナ人より執念深い面があると、私は見ています。彼らもしたたかですから、同じ過ちは繰り返さないでしょう。それに対し、何処かの初心な国は何度騙されるのやら…
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