トーキング・マイノリティ

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アラブ人操縦方

2006-03-10 21:23:47 | 読書/中東史
 アラビアのロレンスは第一次大戦中の中東で、アラブの反乱指導はじめ新米のイギリス軍人の参考用に、27ヵ条のアラ ブ人操縦の心得を書いている。この文章を見れば如何にアングロサクソンは謀略に長けているか如実に示しているので、一部紹介したい。まず、ロレンスは「ヘ ジャズ(メッカ、メディナを含む地域)・アラブ人の操縦は科学ではない、一つの芸術である。例外ばかり多くて自明の公式というものはない」と前置きして本文に入る。

「貴 方の指導者の信頼を勝ち取り、それを保持せよ…彼の提案した計画を拒否したり、無効にしないように。しかし、提案がまず第一に必ず貴方に個人的に示される ようにせよ。常にその提案を承認し、賞賛した後で、彼に気付かれないように彼がある示唆をしたようにさせておいて、その提案を修正し、結局それが貴方自身 の意見と一致するようにせよ…」(第4条)
「統率者と接触すること。しかも出来るだけ常に、そしてなるべく差し出がましくならないように。食事の 時、引見の時など、ごく自然に彼のテントで一緒になるように、彼と生活を共にすること。改まった訪問をして助言など与えるなどはうまくない。何気無い話の 中でそれとなく意見を出すのがよい」(第5条)
「アラブ服を着けるなら最上のものを着ること。彼らの間にあっては服装は重大な意味を持つ。適当なものを着、彼らの間にあって、くつろいだ風に見せなければならない」(第19条)
「アラブ人たちはよくやるが、あまり女のことをしゃべってはならない。宗教と同様極めて難しい問題で、いわば基準が我々のそれとはまるで別だから」(第25条)


 最後の第27ヵ条で、ロレンスはこう締めくくっている。
「アラブ人操縦の秘訣は一にも二にも絶えず彼らを研究することにある。常に監視せよ。常に用心して余計なことはしゃべらぬこと…彼らの性格を読み取り、その嗜好、弱点を見抜き、しかもそれら一切の発見を黙って心にたたみ込んでおくこと…諸君の成功は如何にこうした研究に努力を尽くすか、それにかかっている」

 ロレンスはまだカイロの情報部付きの少尉であった1916年1月、『メッカの攻略』と題した文書を執筆していた。彼はアラブの反乱についての見解を説明している。
「…フセイン(反乱の精神的指導者)の活動は我々にとり有益である。何故ならそれは回教徒の“ブロック”を破砕し、オスマン帝国を挫き崩壊させるという我々の目的と歩調を合わせて進軍するからであり、また彼がトルコ人に続いて建設しようとしている国家は、ドイツ人の手中の道具にならぬうちは、トルコ人がかつてそうであった如く、我々自身には無害であるからである。アラブ人はトルコよりも安定していない。もし適当に操るならば、アラブ人は政治的モザイクの状態、凝縮の出来ぬ猜疑に充ちた小さな諸原理の織物のままでいながら、それでいて外部の力に対しては、いつでもすぐに結束するだろう。これと反対の道は我々の国以外の欧州の大国によって統治され、植民地化されることであろうが、それは我々が近東で既に所有している権益と、必然的に衝突することになろう」

 この文書で私の映画『アラビアのロレンス』の感動は見事に破砕崩壊させられた。今日もイラクでロレンスの後輩たちがさぞ暗躍していることだろう。
  ただ、実に見事な指南方でもある。資金をばら撒くことが外交と思い込んでいる日本の外務省も、大いに参考にしてもらいたい。さらに仕事で中東に行かれる人 にも役立つ心得でもある。27ヵ条の「絶えず彼らを研究すること」は商社マンにも不可欠だ。アラブ人は日本人を同じ東洋人と思ってなどおらず、ちやほやす るのは懐目当てなのだから。

 ■参考『アラビアのロレンス』岩波新書、中野 好夫著、『アラビアのロレンスの秘密』ハヤカワNF文庫、F.ナイトリイ&C.シンプソン著

◆関連記事:「アラブが見たアラビアのロレンス

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2 コメント

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イギリスらしい (セリ摘み王キモト)
2006-03-11 09:05:07
確かに当時の英はトルコ擁護の『フセイン・マクマホン協定』を結びその一方でトルコ分割の『サイクス・ピコ条約』を連合国の間で結びかつ現在のイスラエルの元になる『バルフォア宣言』と呆れるばかりですね。



しかも大佐が帰国後、英の不当性を訴えてアラブが暴\動を起こすとあのチャーチルがヨルダン、サウジ、イラクが英の都合のイイ様に独立を容認するんでしたっけ。



それと大佐は若くしてオートバイ事故で死亡してますが暗殺の可能\性が高いですね。



あと日本の外務省も機密費の余剰分を返還した明石大佐にも見習って欲しいものです。
真相は? (mugi)
2006-03-11 21:05:03
>キモトさん

イギリスは戦争中に空手形を乱発、「勝って約束を破る」したたかさですが、現代に至る中東紛争の種を撒いたのです。手に負えなくなり国連に下駄を預けて、涼しい顔してるトンでも紳士です。



チャーチルのもとでロレンスも仕事をしましたが、自国の国益が第一だったのは言うまでもありません。



直前に見かけぬ黒い車が通ったなど、ロレンスの死は暗殺説が絶えません。「アラビアのロレンスの秘密」の2人の著者は事故死説を取ってました。「アラビアのロレンス」という途方もない人生を送った男が、事故という平凡な死を受け入れられなかった人々の想像だと。

晩年のロレンスはオートバイに凝っていて、かなりスピード狂でしたから、その可能性もありますが、暗殺もやりかねないのがイギリス。



明石大佐みたいな人物は、もう現れないような気がします。

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