トーキング・マイノリティ

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トルコのもう一つの顔 その④

2017-11-14 21:40:14 | 読書/ノンフィクション

その①その②その③の続き
 兵役制のあるトルコだが、軍隊でもアレウィー教徒は虐めを受けているという。小島氏が既に兵役を終えたアレウィー教徒の村の誰彼に訊ねても、軍隊は酷い処だと言う。理由なく上官に殴られ、抵抗は不可能。トゥンジェリ県出身者と判れば、同輩にもいびられる。
 食前のイスラム式のアラブ語の挨拶が淀みなく言えないと、食事もさせてもらえない。もちろんトルコ語が満足に話せなくても殴られる。兵役で理不尽な扱いを受けなかった者は稀だそうだ。
 第4章「デルスィム地方」には現地語の民謡「ドゥイエ・ドゥイエ」(村よ村よの意)が載っており、実は兵役に就かなければならない屈辱が込められた歌であると小島氏は解釈している。

 言語学者の小島氏はデルスィム地方の言葉を習得し、現地のザザ人と会話する。それがトルコ当局の不信を招き、逮捕されたことも書かれている。氏がデルスィム地方を訪ねたのは1985年、当時のトルコは他国者を見ると、挨拶より先に「お前は右翼か左翼か」と訊くのが当たり前の風潮だったそうだ。万事につけ白か黒かの明解な選択を要求、「分らない」「中立」などの「日和見主義」の答えを容赦しなかった。中立や政治に無関心だと言えば、左右双方から痛めつけられる時代だったという。
 そんな社会風潮で少数民族の言語を話す東洋人となれば目立つのは書くまでもなく、分離独立派シンパか共産圏のスパイと見なすのが普通のトルコ警察である。小島氏はある時、夜中にたたき起こされ、職務質問を受ける。そればかりか、警察署に連行され、留置所に入れられる羽目に。

 警察はアンカラの戒厳令施行総本部にまで問い合わせたらしいが、結果はシロ。晴れて自由の身となる小島氏だが、一般にトルコの警察官は外国人には非常に親切だとも言っている。しかし、少数民族に余計な関心を示したりすれば、警官や憲兵隊が別の顔を見せるのがトルコなのだ。
 4章の最後にも興味深い話が見える。小島氏はアレウィー教徒のザザ人の住むY村の行き先を子供に聞いたら、「あんなところになにしに行くの?売女の村だよ」と言われたそうだ。件の子供の性別や年齢は書かれていなかったが、髪を隠さず、往来で男と話す異教徒の女は、厳格な回教徒の目には売女と映るようだ。これへの小島氏の感想も面白い。
 
イスタンブールやアンカラの街並みを欧米人と見紛う服装で闊歩する回教徒のトルコ人の女たちを見たら、この子供は何と言うのだろう。あの女たちは皆アレウィー教徒かキリスト教徒に違いないとでも思うのだろうか。そしてアンカラの「白鳥公園」や「植物園」で男友だちと寄り添って歩く若い娘たちを見たら……

 元から力にものを言わせることを仕事としている警察や憲兵隊が、強権的になるのは無理もない。トルコを含む中東世界や他のアジア諸国も似たような状況のはず。しかし、知識人の姿勢も日本や欧米諸国の常識が通用しない点では変わりない。トルコではいびつな“愛国教育”が行われており、中東版ウリナラファンタジー同然の歴史観が主流らしい。
 トルコの学校ではアルメニアと云う国が歴史上、一度も存在しなかったと教えているという。また「ジンギス汗はトルコ人である」ことになっている。ジンギス汗がモンゴル人であったことをトルコ人学者が否定しているのではない。彼等はこういうのだ。
モンゴル語はトルコ語であり、したがってモンゴル人はトルコ人であるから、ジンギス汗はトルコ人である

 トルコではハンガリー人もフィンランド人もトルコ人である、と教えているそうだ。ハンガリー語やフィンランド語もトルコ語と同起源だから、というのが理由で、その根拠は過去の作業仮説となってしまったウラル・アルタイ語族説なのだ。そのうえ日本語もトルコ語と親戚関係があるとなっている。
 我田引水の極みだが、トルコ人は大真面目に盲信している。フランスにはトルコからもハンガリーからも留学生が来るが、前者は後者に親しみを込めて、「あなた方もトルコ人ですよね」という。ハンガリー人が怒るのは書くまでもなく、ハンガリーにはオスマン帝国に蹂躙された歴史があり、対トルコ感情は決してよくない。

 ハンガリー人にとっては侮辱もいいところで、トルコ人とトルコ共和国は誇大妄想狂だと考える。一方トルコ人は、「ハンガリーはソ連圏の国だから、政治的な理由で事実を認めようとしないのだろう」と考える。どちらも譲らない。そこで小島氏が呼ばれ、意見を聞かれる。
 トルコ人の前でモノを言えば困ることになるが、ハンガリー人の方に軍配をあげる決断をした小島氏。そんな氏をトルコ人は、「ロシアの犬」と呼んだという。
その⑤に続く

◆関連記事:「オルハン・パムクの『雪』

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