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サティー/焼殺される妻たち その①

2008-10-28 21:23:30 | 読書/インド史
 インドに関心がない方でも、この国にサティーと呼ばれる未亡人殉死の恐るべき因習があったことを耳にされたかもしれない。独立後、サティーは消滅したと思いきや、今から20年程前に「サティー復活」として衝撃を与えた事件が起きている。私も以前この出来事を新聞のベタ記事で見たが、最近その詳細を知り、改めて慄然とさせられた。

 1987年9月4日、18歳のループ・カンワルは病死した夫の遺体と共に生きながら焼かれる。8ヵ月にも満たない結婚生活だった。この事件が起きたデオララ村は、俗にピンク・シティーと呼ばれる有名な観光地ジャイプル(ラージャスターン州州都)から車で90分の所にある。カンワルは死後女神として讃えられ、村は巡礼地となり、25~30万人もの人々が詰め掛けたと言われる。この村は寒村どころか、識字率も低くなく、カンワルは高卒の女性、夫は理工系大学を卒業、医師を志望していた。夫の父は修士課程を修了した公立高校教師だった。

 カンワルは4千人もの群衆が見守る中、夫の頭を膝に乗せ焼かれていったと言われたが、その後の捜査より異なる事実が浮かび上がった。彼女は火葬用の薪に上がる前、麻薬を大量に飲まされていたこと、火の中から叫び声をあげ3度逃げ出そうとするも、火の周りで彼女の心変わりを見張り、警護していたラージプート族が竹ざおで逃げ出すのを防止したこと、また叫び声もドラムの音にかき消されたこと、等によりサティーは強制されたものだったと報告された。カンワルの実家に事の次第が知らされたのも、後になってからだった。要するに19世紀に広く行われたサティーと全く変わりなかったのだ。

 カンワルの死後、9月19日付けのインドの新聞に載った女性のコメントには、こうあった。
生きていてもラージプート族の未亡人としての生活は地獄で、再婚も出来ず、宝石も良い服も身に付けることが出来ない。食事も粗末なものしかとれず、水を汲みに井戸にも行けず、残りの生涯を家の中だけで過ごし、不吉な存在だと一生軽蔑され、家族の祝事にも儀式にも参加できない。だから死んだほうがよかったのだ…

 サティーが何時頃から始まったのか、正確な年代は未だに不明である。古代インドには見られず、サティーは訪印した外国人の記録に載っており、紀元5百年頃からこの記載が増えてきたそうだ。ただ、殉死する未亡人は高カーストであり、低カーストの女たちは行わなかったらしい。ヒンドゥーの高カースト女性は、特にパティヴラター(一人の夫に献身的に仕えること)の理想に従うことが求められた。夫に尽くすことが妻の唯一の義務であり、人生での目標とされたからだ。妻は夫の生前のみならず、死後も夫に貞節でなければならず、再婚など貞女に反する行為だった。サティーとは元々貞女を意味する言葉である。「貞女二夫にまみえず」は儒教圏にもある習慣だが、殉死までは求められず、中国の庶民の女たちは結構再婚もしていたようだ。

 14世紀に訪印したアラブ人はこう記録している。
サティーがヒンドゥー教徒の賞賛に値する行為として考えられたが、強制ではなかった。しかし未亡人がサティーをした時、彼女の家族はそれにより威信と貞節の名誉を与えられた。サティーをしない未亡人は粗末な服を着て、惨めな生活をし、貞節でないのを軽蔑された。

 17世紀、インドを旅行したフランス人も記している。
-ヒンドゥー教徒は死んだ体を焼くだけでなく、生きている妻の体も焼く。彼らが蛇や昆虫さえ殺すのを躊躇うのに、死んだ夫の遺体と共に妻が焼かれるのを賞賛に値すると考えられている。夫が死ぬと未亡人は夫を偲んでなくために家の中に引っ込む。そして数日後、彼女の髪は剃られ、装身具も全部取り去られる。彼女は残りの障害を以前は女主人であった家で奴隷以上に悪い状態に置かれる。この惨めな状態は彼女に生きることを諦めさせる。残りの生涯を不名誉と考えられて生きるより、夫の体と一緒に生きながら焼かれるため、葬式の積み薪に上ることを選ぶ。

 さらにこのフランス人旅行者は、バラモン僧が未亡人たちに夫と死ぬことで夫と共にあの世で、それまで彼女たちが得たことのない栄誉と安らぎに満ちた暮しが出来る、と説くのを目撃している。
その②に続く

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