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サウジアラビアのニート

2007-01-10 21:16:15 | 世相(外国)
 昨日、NHKの『クローズアップ現代』で珍しいサウジアラビアの特集を放送していた。空前の原油高で、傍目からすれば羨ましいほどの莫大な富を得ているサウジ社会も、様々な問題を抱えているようだ。

  特にサウジ政府が頭を抱えているのは、豊か過ぎて働く意欲を失った若者の増加だ。この国は医療、教育、福祉も国家負担であり、国民は納税の義務もないとい うほど。住宅も政府が建ててくれるという恩恵まで受ければ、勤労意欲など失せてしまうのは当然の帰結だろう。厳格なイスラム国家ゆえ産児制限などもっての 外、急激な人口増加で20歳以下の若者の人口に占める割合も半数以上というから、少子化に悩む何処かの国の政府からはため息が出そうだ。いかにサウジが豊 かでも、多くの若者たちに職を提供するのは困難な面がある。

 若者たちに人気のある職業が公務員。だが、公務員試験は落ちる者が大半なのは、何処の国も同じ。公務員試験を落ちた20代前半の若者のインタビューへの回答がこうである。「仕事時間も短く、楽な職業である公務員以外なら、働くつもりはない。他にも忙しいし」。この若者は親から日本円で月30万円ほどの小遣いをもらって、仲間たちと共に砂漠で自動車レースに興じていた。他の若者たちも口々に働く必要はないと話していた。
 若者の親も'70年代の石油危機の時代の生まれで、オイルマネーの恩恵を受けた世代であり、子供たちが低賃金で働くのは可哀想、と脛をかじる子供たちを特に咎めもしないらしい。

  サウジの首都リヤドには超近代ビルが立ち並び、巨大ショッピングセンターには欧米のブランド品が並ぶ。ショッピングセンターは買い物客で混雑し、アバヤと いう全身をすっぽり覆うサウジの黒いベール姿の女たちもここでは多く見かける。彼女たちも所持品は全てブランド品である。日本の女子高生風情の小娘がブラ ンド品を身に付けているのも滑稽だが、カラス天狗まがいのアバヤをまとった女たちがブランドを所持しているのも全く不似合いというもの。

  石油大国サウジには当然石油プラントが数多くあるが、建設現場で働くのは周辺の外国人労働者。サウジ政府は企業に自国民を採用するよう迫るものの、賃金が 5倍も高いサウジ人を雇いたくないのが企業の本音である。サウジにも労働省があり、この役所は職業訓練校を立ち上げ、自国の若者に技術を身に付ける訓練の 場も設けるが、卒業生の半分は職に就かないなどあまり効果は上がっていないようだ。

 「小人、閑居して不正をなす」は中国の優れた諺だ が、働かず豊かな生活をしていても満足出来ないのが人間の性だ。退屈に倦んだ若者がイスラム過激思想に染まり、過激派に豹変する者もいる。親友が過激派に なった青年へのインタビューによると、友人は大人しい性格の持ち主だったという。ただ、イスラム過激派のウェブサイトをよく見ていたらしい。しばらくする と宗教の話ばかりするようになったが、まさか親友が実際にイラクに行き活動するとは想像しなかったようだ。インタビューに答えてくれた青年も、まだ25歳 の若さにも係らずでっぷり太り、見るからに大人しそうな(日本ならオタク風)雰囲気だった。

 サウジの若者の現状は日本のニートと重なる。豊か過ぎると勤労意欲をなくすのはどの民族も同じのようだ。イスラム勃興後のアラブは「貧困と宗教的情熱だけを持って」世界を制圧したが、征服した後は富貴に染まり堕落していく。J.ネルーの『父が子に語る世界歴史』の一節にはこうある。
沙漠の民はいまや天幕の代わりに石造りの館に住み、ナツメヤシの代わりにご馳走を食べていた。これでどうして社会改革が出来ようか
 「子孫のために美田を残さず」とは昔の人は良い事をいった。衣食余りて、礼節を失う者もいるのだから。

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9 コメント

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旗本退屈男 (madi)
2007-01-11 02:05:03
江戸の8万旗といわれた旗本もこんな生活具合だったんでしょうかねえ。おかげで世界一の釣り大国になったらしいです。(週刊現代の夢枕貘先生の連載参照)。
池波正太郎 (mugi)
2007-01-11 21:26:23
>madiさん
時代劇の「旗本退屈男」のお陰で、旗本といえば暖衣飽食、大勢の側室を抱えた生活をしていたというイメージが定着しました。
しかし、故・池波正太郎さんはそれは間違いだと言っており、(一部にはいたでしょうが)、足袋などもつぎをあてたものを履いたと書いてました。むしろ、贅沢暮らしをするのは豪商の方だったとか。

江戸時代に釣りを楽しむ者が多かったとは、いかに鎖国が空前の平和と繁栄をもたらしたか、分かりますね。
元禄御畳奉行の日記 (スポンジ頭)
2007-01-11 22:41:31
こんばんは。

もうお読みになっているかもしれませんが、元禄時代を舞台にした鸚鵡籠中記と言う日記があり、日記の一部が「元禄御畳奉行の日記」と言うタイトルで出版されています。
http://www.amazon.co.jp/%E5%85%83%E7%A6%84%E5%BE%A1%E7%95%B3%E5%A5%89%E8%A1%8C%E3%81%AE%E6%97%A5%E8%A8%98%E2%80%95%E5%B0%BE%E5%BC%B5%E8%97%A9%E5%A3%AB%E3%81%AE%E8%A6%8B%E3%81%9F%E6%B5%AE%E4%B8%96-%E7%A5%9E%E5%9D%82-%E6%AC%A1%E9%83%8E/dp/4121007409/

著者の尾張藩士、朝日重章は暇があったら魚釣りに出かけた記録があり、結構余暇があったようです。うらやましいと言えばうらやましい(笑)。豪商からの接待も受けています。他、当時の芝居の見物記録や今で言うところの三面記事の記録など、教科書に載らない話が満載で江戸時代の生活の一端が伺えます。
もちろん身につまされる話もあり、生活苦で一家心中など、現代にもあるので他人事とも思えません。社会制度は大きく変わりましたが、案外身近に思える面もあります。
すいません (スポンジ頭)
2007-01-11 22:56:34
すいません。直リンしました。申し訳ありませんが、修正お願いします。
栄枯盛衰@世間知らずのボンボン (Mars)
2007-01-12 00:06:10
こんばんは、mugiさん。

盛者必衰の理をあらわす、とは、仏教的教えかもしれませんが、その思い一番感じるのは、日本人なのかもしれません。
時に、インドを支配し、世界を支配しようとした大英帝国とて、時の流れ、人の流れ、時代の流れには抗し難いものだったのでしょう。

私も未だに親のすねかじりの、甘ちゃんので強く批判することはできません。しかし、人として働き、その稼ぎで生活することこそ、肝要かと思います。
それも、親元で生活するものと、一度、自宅を出、一人住まいをしたものでは、生活臭も、パターンも違うものでしょう。

バブルは多く膨れ、いずれは弾けるもの。アリとキリギリスではないですけど、その時を楽しみたいのは、だれでも同じでしょう(かくいう私も、キリたいぷです)。
ただ、未来永劫、その繁栄が続くと信じることはできないでしょうけど、当の本人が理解できないのは、古今東西、同じなのでしょう。

そして、古今東西同じなのは、他人からは馬鹿親と呼ばれても、息子や孫達に、自分たちが感じた苦労を経験させず、自らが楽しめなかった事を経験させたいと思うのが、人の人情というものかもしれません。
但し、一般庶民でも、それなりの正義や、社会常識、他者との関りを教えるのは、日本人の特徴なのかもしれません。

甘やかせれば、苦労も何倍に感じるのも、古今東西、共通でしょう。
大なり、小なり、親の庇護を受けるのも、古今東西、共通なのでしょうね。
(そして、逆に、親が子にせびったり、頼ったりする場合あるのも、古今東西、共通なのかもしれませんね。)
今も昔も (mugi)
2007-01-12 21:35:00
こんばんは、スポンジ頭さん。

紹介されました本は未読ですが、とても面白そうですね。
amazonのレビューを見ても、同僚が仕事上の不始末で自殺したり、妻の浮気に悩む夫、乱れた男女関係…現代と変わらないようで。
暇があれば魚釣りに出かけられたとは、現代のサラリーマンの方が反って余暇がない有様です。

ご存知かもしれませんが、山形県酒田の豪農・本間家は「本間様には及びはせぬが、せめてなりたや殿様に」と謳われるほどでした。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%9C%AC%E9%96%93%E6%B0%8F#.E9.85.92.E7.94.B0.E6.9C.AC.E9.96.93.E6.B0.8F

江戸時代の庶民や女性は虐げられ、個人の創造性は押し潰されていった、と私が習った歴史教科書に書かれていましたが、鎖国していた封建時代の方が繁栄と平和が保たれていたのです。
満ちれば欠ける (mugi)
2007-01-12 21:36:40
こんばんは、Marsさん。

一度空前の繁栄を味わうと、その栄光の過去が忘れられないのかもしれませんね。時代が変わっているのも見えず、かつて成功したやり方を繰り返し、反って没落に拍車がかかることもしばしばです。
「永遠の勝利」を合唱している某宗教団体は、「満ちれば欠ける」という人類史の法則を見たくもないのでしょう。

>私も未だに親のすねかじりの、甘ちゃんので強く批判することはできません。
ちゃんと親元を離れ、一人住まいで働いてらっしゃるのだから、「親のすねかじりの、甘ちゃん」には当たらないですよ。
巨大某掲示板には親元から離れられず、ネットに明け暮れている自称研究者(実はニート)がいましたが、彼らのような類こそ、「親のすねかじりの、甘ちゃん」の典型です。これも日本だからこそやれるのであり、共産圏なら労働矯正対象です。その方が当人や社会のためによいのかも。

「親が子を甘やかすのと同様、国が国民を甘やかすのは問題だ」とネルーは書いてますが、彼自身一人娘に甘かったのは否めません。言うは安し、行うは…の類ですね。
他人の事は見えますが、サウジの現状は日本の若者と似ています。
本間様 (スポンジ頭)
2007-01-12 23:43:34
>>本間様には及びはせぬが、せめてなりたや殿様に
どこでだか忘れましたが、この言葉を聞いたことがあります。リンク先およびグーグルで検索して見ましたが、大した家ですね。ちょっとした藩などその財力には太刀打ちできないでしょう。

>>江戸時代の庶民や女性は虐げられ
御畳奉行の日記を読むと女性側の方が浮気でも堂々としていて、却って男性側が萎縮しています。著者も同様で色々女がらみでひどい目に会っています。
大体庶民が虐げられているとしたら、識字率が庶民レベルで世界最高、とか絵馬に高等数学の問題と回答を書いて庶民が奉納していたとか、ありえないんですよ。読んだ本のタイトルは忘れましたが、賭博をしても武士の方が町民より罰が厳しかったそうです。支配層に厳しい態度を江戸幕府は取っていました。
幕府を悪く言わなければならない明治政府、およびマル経歴史観がおかしな江戸時代観を生んだのだと思います。
斬り捨て御免 (mugi)
2007-01-13 23:43:52
>スポンジ頭さん
本間一族は今でも山形の資産家で、宮城県にも参加企業が進出してます。伊達家の子孫も仙台にいますが、資産ではハナから敵わない。

教科書には斬り捨て御免が載っており、教師もこの説明をするから、江戸時代の武士は簡単に庶民を斬っていたのか、と思いますよね。
実際は“伝家の宝刀”で、下手するとお家断絶ともなるから、斬り捨て御免などトンでもない事だったとは、教師は教えてくれませんでした。

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