トーキング・マイノリティ

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四海は兄弟なり

2005-09-21 20:46:39 | 読書/中東史
 中東史に関心がない限り、アラービー・パシャことアフマド・アラービー(1840~1911)というエジプト人将校を知っている方は少ないだろう。イギリスに反乱を起した人物として今でも現地で尊敬されているが、明治時代の日本人で彼に会った者もいる。アラービーが自分に会いに来た日本人にした警告は、現代でも通じる内容で興味深い。

  アフマド・アラービーは下エジプト地方シャルキーヤ県にある豪農の息子として生まれた。1854年エジプト軍に入隊して頭角をあらわし、25年後には大佐 に昇格する。ヨーロッパ列強への従属を深める祖国を憂いたアラービーは、エジプト人将校による秘密軍人グループを組織し、立憲制の確立と外国支配の排除を 目指した。その潮流は『アラービー運動』と呼ばれる民族運動にまで展開してゆく。
 1881年、アラービーは ついに武力蜂起を決行。陸軍大臣に就任するが、翌年にはエジプト支配を目論むイギリスを相手にタッル・アルカビールの戦に挑んだ。戈折れ矢尽き英軍の捕虜 となった彼は、いったん死刑判決を受けたのち減刑され、一族もろとも英領セイロン(現スリランカ)に幽閉の憂き目に遭う。

 明治日本の人士には彼の悲劇とエジプトの悲運に同情する者が多かった。彼らは欧州留学や出張途中に流刑先のアラービーを訪ねている。その一人農商務大臣秘書官・東海散士も欧州視察の途次、明治19(1886)年に彼と会う。アラービーは欧州人の東洋に対する政略の手順を説明した。

 最初は、「四海は兄弟なり」「キリスト教の本領は強を抑え弱を助くるに在り」と述べ、「平和親睦を締結」など並べる。もし不法な国があれば万国公法により「天下共に之を伐(う)たんのみ」と美辞麗句で飾る。
  特に注意するのは「貨幣運用の邪説」と説く。欧州は産業振興のための融資を甘言を持って勧めるが、弱国で外債のため亡国にならなかったのはごく少数で、も し一度でも債務を償還する期日を守れないなら、キリスト教国の面目はたちどころに消え宗教や民族の違いを強調し始める。しかも、白人だけが神の祝福を受け るのであり、非キリスト教徒は前世の悪業のために現世の禍を受けてしまうと言い出す始末。

 アラービーは続けて、欧米諸国は利に敏く信義を重んじない、強者にへつらい、弱者に横柄、彼らの話を聞いても信用すべきでない、交際しても深入りするな、と警告する。忠告したいのは、「外国人を国家の顧問にして高位にあげてはならない」。

 東海散士訪問の翌明治20年、横浜税関の野村才二もアラービーに会う。彼は目を涙を浮かべ悲憤慷慨しながら昨年同様野村にも警告を繰り返すのだ。「彼ら西洋人は古くから人間は平等だという説を唱えて、言葉巧みに言い繕います。しかし、人種によって人間を区別しており、平等というのは西洋人の仲間内で使う必要から作られた言葉にすぎません。東洋人に至ってはまず人類とは見ていないようです」。

 欧米帝国主義全盛の時代でもあったが、イスラムもかつてはこのような覇権主義をむき出しにしていたし、中華帝国も全く同じことをしていた。何も帝国主義は白人の専売特許でなく、条件が整えばどの民族も行うのだ。日本人もこの世界史の原理を忘れるべきではない。

参考:『世界の歴史第20巻 近代イスラームの挑戦』中央公論社
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2 コメント

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Unknown (Mars)
2005-09-22 15:23:14
こんにちは、mugiさん。



先日、NHK クローズアップ現代/「歴史教科書はこう採択された」を見まして、グラスを片手に、液晶(ディスプレイ)につっこんでいました。もし、拝見されていないのでしたら、こちらから、動画をダウンロードできます(期限付きですが)。

ttp://kamomiya.ddo.jp/Library.html

先週のTVタックル(自民党安倍氏が登場した時のものもありますので、もし、拝見されていないのでしたら、こちらもお勧めします)



>外国人を国家の顧問にして、高位にあげてはならない。

外国人参政権や公務員の就職・管理職への昇進について、改正(改悪?)しようとしている方々が見ればなんと思うのでしょうね(笑)。



>東洋人に至ってはまず人類とは見ていないようです。

現在も、少なからず残っていますね。合衆国国民に対する質問で、合衆国の友好国と思われるベスト3は、英、カナダ、濠の、いわゆるアングロサクソン系の国家でしたし。英、濠はイラクから撤兵しようとしていますが、それでも、合衆国国民にとって友好国なのでしょうかね?

(ちなみに、先の質問の4位がイスラエル、5位が日本で、韓国が8位、中国が最下位でしたね)

mugiさんの他のエントリーでもありましたが、他の欧州国家も同じようなものでしょうね。日本人のことを島国根性と批判しますが、欧州人も欧州根性(?)で有色人種とは、完全に平等とは思っていませんね。スポーツの世界でも、日本人にとって有利な種目を、実力でなく、ルールで不利にしようとしますもんね。



>中華帝国も全く同じことをしていた

これって、現在進行形ではないでしょうか?他国を解放といって侵略するし、他国との摩擦があるガス油田もさっさと掘り起こす、ましてや、ガス油田がある海域に軍艦を出動させるなんて、現在も砲艦外交をしていますよね。

(先日はロと組んで大規模な軍事演習もしましたよね。)



>日本人もこの世界史の原理を忘れるべきではない

まったく、その通りだと思います。しかし、日本人はお人好しだし、平和ボケだし、他国に内通する者も依然と多いし、内憂外患ですね。

( 坂眞さんのブログ「依存症の独り言」で、ある方のコメントがありましたが、実に痛い言葉でありますが、悲しいですけど、現実そうなんでしょうね。

「自衛できない国は、国を切り売りして平和を保つしかない。」

「現代日本の平和と安定は、それら犠牲の対価にすぎない」)
国家主権 (mugi)
2005-09-22 21:16:38
こんばんは、Marsさん。



 歴史教科書採択で凄まじい妨害工作を繰り広げた“市民団体”は心底敵意を覚えます。反日、敵性分子以外の何者でもない。このような連中がのさばる位なら、民主主義体制などいらないくらいです。



 外国人参政権に熱心な連中は、これこそが新しい時代なのだ、と吹聴するのでしょう。アラービーは一度間違って外国人を重職にすると、国家主権が次第に衰えて取り戻すすべがなくなる、何とか主権を取り戻そうとすれば騒乱発生からまず免れない、と言ってました。エジプトがまさにそうだったのです。



 誤魔化し方が上手くなっただけで、基本的に白人は19世紀と変わりないと思います。ベトナム戦争時にアメリカ人はベトナム人をグック(東洋土人)と罵ってました。有色人種はいくら尽くしても信用されない。

 島国根性ならイギリス、アイルランド、インドネシアやフィリピンもそうですが。日本人を島国根性と批判するのは、むしろ欧米人より西洋崇拝か左巻きの日本人のように感じます。



>現在も砲艦外交をしていますよね。

そうですね。近代の一時期を除いてずっと中国は覇権国家です。この先もずっとそうでしょう。



>自衛できない国は、国を切り売りして平和を保つしかない

>現代日本の平和と安定は、それら犠牲の対価にすぎない

まさにその通りです。自衛できる国になるのが理想ですが、今の日本は「去勢された牛のよう」と表現したのは塩野七生氏です。

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