トーキング・マイノリティ

読書、歴史、映画の話を主に書き綴る電子随想

トルコのもう一つの顔 その②

2017-11-10 21:40:04 | 読書/ノンフィクション

その①の続き
トルコ国民は全てトルコ人であり、トルコの言語はトルコ語以外にはない。トルコ語以外の言葉はトルコ国内に存在しない」、というのがトルコ共和国建国以来の歴代トルコ政府の公式見解である。よく欧米諸国では、トルコの人権抑圧例としてクルド語の使用禁止が挙げられるが、現代(執筆時の1990(平成2)年)に至るまで、クルド語に限らず、大多数の少数民族言語はトルコ国内で読み書き話すことを禁じられている。尤も、そういう法律はないそうだ。
 但し例外は3つある。イスタンブール在住のギリシア人やアルメニア人だけは、ローザンヌ条約(1923年)以来公認の少数民族ゆえギリシア語とアルメニア語はイスタンブールに限り認められている。3つ目はアラブ語。コーランの言語なので、いかに政教分離といえ、ムスリムが圧倒的多数の国では禁止出来ない。

 東西文明の十字路、と言われるトルコなので、先のトルコ政府の公式見解はトルコ贔屓の私でも受け入れられないが、小島氏の次の話には仰天させられた。トルコ中の村々を歩き回って調べたところ、トルコにはトルコ語を母国語とするトルコ民族の他、少なくとも70以上の少数民族がいて、それぞれの言語を話していることが分ったそうだ。
 古い歴史を有し、民族構成が複雑なアナトリアなので、ひょっとして20以上の少数民族がいる?と想像していたが、70以上もいたのか?また、母国語はトルコ語になってしまったが、「自分たちはあくまでトルコ人ではなく○○人である」という意識だけは強固に保っている人々もあり、言語同化が民族同化につながらなかったことも際立っているという(31頁)。氏の話は一般日本人の想像を絶する。

 最近はクルド人の存在は日本でも知られるようになってきたが、大半の日本人は関心がない。外国人ということもあり、トルコのクルド人は小島氏に政府の抑圧を語っている。私服刑事に「お前はトルコ人か、クルド人か?」と訊かれ、「トルコ人ではない、クルド人だ」と答えたばかりに独立運動家と見なされ逮捕された若者もいたという。肉親が服役中、拘留の人は数知れず、自分自身の入獄体験を話してくれた人も多かったそうだ。
 かつてトルコでは逮捕投獄は日常茶飯事だったので、「前科」持ちでも結婚や民間企業への就職に差し支えることはなく、隠し立てする人もいないということを聞き、愕然とする小島氏。さらに氏は、トルコ国民の実に三分の一がクルド人なのである(35頁)とまで断言している。その根拠は不明だが。

 東部でクルド人と接し現地調査を行った末、クルド語は独自の言語であり、クルド人は独自の民族を構成するという結論に達したトルコ人社会学者がいた。その結果は、「国を売る」言動をしたと見なされ、今に至るまで獄中生活を送っているという。スウェーデン公演中、クルド難民にせがまれクルド語で歌ったクルド人歌手は、帰国を待たずに「国家反逆」に問われた。
 休暇を利用し、トルコ東部で医療活動を行っていたフランス人のある医師は、出国時にクルド音楽を録音したカセットを持っていたのが見つかり、「分離独立主義者のシンパ」と見なされ逮捕、今も獄につながれたままとか。

 出自を隠さない少数民族がいる一方、それを隠す集団もいるそうだ。小島氏はかつての隠れキリシタンのように自分たちの真の姿をひた隠しにして生きている民族を「隠れ民族」と呼んでいるが、さらに進んで「忘れ民族」となった集団もあるようだ。ひた隠しにするあまり、自分たちが本当は何であるのか判らなくなってしまったという。
 表向きは「正真正銘の」トルコ人。だが、母国語はトルコ語ではない。また「正統派回教徒」だと言いつつも、イスラムとは無関係のことを信仰している。注意深く観察すると異民族、或いは異宗教集団であることが判るという小島氏。

 トルコには「隠れアルメニア人」がいて、彼らの悲惨さを小島氏は見て来たという。その悲惨な実態は記されていなかったが、大虐殺を生き延びた人々が生存の術として、自ら「忘れアルメニア人」となったと思われる人達を見かけたそうだ。彼らの話し言葉がアルメニア語だったとか。
「隠れ民族」「忘れ民族」でなくとも、迫害を受けている少数民族がいる。ザザ人に信仰者が多いアレウィー教徒がそうで、第4章「デルスィム地方」には、トルコの怖い顔が描かれている。ザザ人の名はこの本で初めて知った方も多いだろうし、アレウィー教徒への激しい差別と偏見は20世紀後半のことなのだ。
その③に続く

◆関連記事:「トルコの言語革命
 「アルメニア人虐殺事件
 「トルコに反日感情高まる?

よろしかったら、クリックお願いします
人気ブログランキングへ   にほんブログ村 歴史ブログへ

『中東』 ジャンルのランキング
コメント (2)   この記事についてブログを書く
この記事をはてなブックマークに追加
« トルコのもう一つの顔 その① | トップ | トルコのもう一つの顔 その③ »
最近の画像もっと見る

2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
アイヌ (motton)
2017-11-13 11:58:41
>氏の話は一般日本人の想像を絶する。

アイヌと似た境遇ですけれどね。
日米豪あたりは、先住の少数民族を同化してほぼ消滅させた"成功例"なんですよね。
近代化においてアイヌだけではなく、各地方の方言や文化をかなり犠牲にしてもいます。ただ比較的"上手く"いった方です。

近代国民国家は、民族単位ではなく自立した個人の国家への帰属で成立します。日本や欧米は個人の自立が"既に”あったので国家統合が比較的スムーズでした。
でも、そうではない地域では国家統合に"民族"を持ち出す必要があり、少数民族が"民族"を意識することになりました。この場合、お互いに不幸です。

EU 各国に移民によりイスラム教徒が増えアラビア語を公用語にせよと言われるようになったら見ものかもしれません。
Re:アイヌ (mugi)
2017-11-13 22:17:21
>motton さん、

 書き方が悪かったようですが、一般日本人の想像を絶すると言ったのは、トルコには少なくとも70以上の少数民族がいるとあったためです。仮にその半分にしても、マイノリティの数が多すぎる。

 確かに明治政府はアイヌ同化政策を強行しました。しかし、米豪と違い虐殺はしていないため、比較的緩いと思うのは日本人の欲目でしょうか?尤もアイヌも徹底抗戦はしませんでした。そして東北も各地方の方言や文化は犠牲になりましたが。

 国家統合が比較的スムーズにいったのは、日本や欧米くらいかもしれませんね。EU各国のムスリム移民は、今のところアラビア語の公用語の要求はしていませんが、国連の6つの公用語のひとつになっています。移民ムスリム全てがアラビア語が母国語ではないし、アラビア語だけに公用語を認めたら、収拾がつかなくなるかも。

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

読書/ノンフィクション」カテゴリの最新記事

トラックバック

この記事のトラックバック  Ping-URL
ブログ作成者から承認されるまでトラックバックは反映されません。
  • 送信元の記事内容が半角英数のみのトラックバックは受け取らないよう設定されております。
  • このブログへのリンクがない記事からのトラックバックは受け取らないよう設定されております。
  • ※ブログ管理者のみ、編集画面で設定の変更が可能です。