トーキング・マイノリティ

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パレスチナ

2005-10-24 20:23:52 | 読書/中東史
 ユダヤのホロコーストは20世紀の悲劇の1つだが、彼らに国を追われたパレスチナ難民もまた悲劇だ。パレスチナ人に世界中から同情が集まったのは当然だが、ユダヤ人同様その後の活動で評判を落としている。何も異民族だけでなく、同じアラブからも評判は芳しくないのを、日本では意外に知られていない。

 イスラエル建国当時、周辺のアラブ諸国は熱狂的な義憤から同じ同胞としてパレスチナ人を救うため戦いに身を投じ、大量の難民も受け入れたが、時が経つにつれその同情心は薄れ、受け入れ先からは「厄介な余所者」と軽視されるようになっていく。
「パレスチナ解放」という大義を掲げるアラブ諸国は'60年代後半、各国情報機関がこぞってパレスチナ勢力を支援する組織を立ち上げ、アラブ人ゲリラの兵力規模は一挙に拡大した。しかし、これらのゲリラ組織は拠点を置くアラブ諸国の領土を活動拠点として「間借り」するだけに留まらなかった。彼らはパレスチナ人の民衆的な共感を背景に、資金集めのために勝手に通行税を徴収するなど、我が物顔で当該国の主権を脅かすような行動を取り始めたのだ。これらパレスチナ・アラブ人の振舞いに、かつては賞賛の言葉を送ったヨルダン国王フセインは、次第に彼らを危険な存在と見なすようになり、パレスチナ・ゲリラをヨルダンから追い出す計画を立てる。

 特にフセイン国王の逆鱗に触れたのは、PFLP(パレスチナ解放人民戦線)議長ジョージ・ババッシュの公言「テルアビブ(イスラエルの首都)への道はアンマン(ヨルダンの首都)を経由する」だった。そして1970年9月、アラブとイスラエルの和平交渉を妨害するため、PFLPが欧米系航空の旅客機3機をハイジャック、ヨルダンの空港で炎上させるに至り、フセイン国王は国内のパレスチナゲリラに対する一斉攻撃を命じた。
 後に「黒い9月」と呼ばれることになるこの大弾圧は、ヨルダン政府軍とパレスチナ人ゲリラ組織(ならびシリアに拠点を置くパレスチナ解放軍)による全面的な内戦へと発展し、パレスチナ・アラブ人の傍若無人な行動を苦々しい思いで眺めていたヨルダンの「アラブ軍団」所属のベドウィンたちは、日頃の鬱憤を晴らすかのようにパレスチナ人への猛攻を各地で繰り広げた。
 一方、パレスチナ・アラブ人を支援するため隣国シリアも国境を越え侵攻し、ヨルダン軍との間で激しい戦車線が行われた。結局この内戦で、パレスチナ人ゲリラは2万人もの兵員を失い、生残りの兵士はレバノンへ逃れる。が、これでヨルダンとパレスチナ・ゲリラとの戦いが終わったのではなく、後者はさらにテロ組織を凶暴化させた。「黒い9月」は1972年のミュンヘン・オリンピックで選手村に侵入、イスラエル選手団を人質にとり、銃撃戦の果て人質全員を死亡させたという惨事を引き起こした組織でもある。<参考:中東戦争全史、山崎 雅弘 著>

 西欧列強が定めたといえ、アラブ諸国で隣国との国境問題を抱えぬ国は皆無だという。各国政府はスローガンとしては「パレスチナ解放」を掲げるが、一致団結など夢物語なのが実情だ。アラブの政治家は民衆の不満をそらすため反イスラエルを煽り、パレスチナ人を駒にしているに過ぎない。イラク戦争時、首都を制圧された後、サダム・フセインに優遇されていたパレスチナ人が住む住宅区域をシーア派住民が襲撃したのは記憶に新しい。アラブの内情を知り尽くしているイスラエル元首相ネタニヤフは、「アラブの大儀などちっぽけなものだ」と嘲ったほどだ。

 かつて、アラビアのロレンスは「アラブはトルコより安定していない」と分析していたが、現代もそれは変わりない。一方、日本のマスコミのパレスチナ報道姿勢もディズニー路線、つまり子供を前面に押し出して同情を掻き立てる手法なのも変わらない。
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