トーキング・マイノリティ

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実録・連合赤軍 あさま山荘への道程(みち)その①

2008-06-10 21:28:22 | 映画
 題名どおり36年前、日本中を震撼させた連合赤軍山岳ベース事件及びあさま山荘事件を役者を使い再現、ドキュメンタリー形式をとった作品である。この事件が起きた頃は「山岳ベース事件」と言わず、「赤軍派によるリンチ大量殺人事件」とニュースで報じていた。wikiで若松孝二監督は宮城県出身であるのを知ったが、どうも赤軍シンパ文化人らしい。そのためか、仲間へのリンチの描き方は私にはぬるいと感じられた。

 はじめに他の映画と同じく、若松プロダクションのロゴマークが映るが、銃を握った赤い星という絵柄が興味深い。まさに銃による暴力革命を目指した惨殺集団を撮った映画会社に相応しいデザインだ。この映画で最も多く使われた言葉こそ「総括」であり、一体何度この言葉が発せられたのやら。同士のリンチにより死亡した若者たちが、生前このようなことを言っている。
総括って一体何?…総括が分らない…どうしたら、総括できるの?」。

 60年代は全世界的規模で、学生運動が盛んな時代だった。ベトナム戦争反戦運動など典型だが、欧米のブームに便乗しやすい日本人の性質として、ファッションの一種で行っていた節もあるのではないか。「欧米がやっているから…」が案外動機の本質かも。だが欧米も同様だが、猫も杓子も大学入学する今と異なり、当時日本で大学に進学できる者はごく恵まれた階層の出だった。貧しい労働者どころか、生活に困らぬ暮らしを送る、むしろブルジョワに近い人種である。マルクス自体、インテリで労働者などでは決してなかった。
 ただ、学生運動で関西派と関東派に別れ、セクト争いをしていたとは初めて知った。赤軍派や左派の出身大学名が紹介されていたが、関西と関東の大学が殆どだった。東北では例外的に弘前大と福島大のメンバーも登場するも、他の東北の各大学の名はなかった。

 左翼の恒例と化した特徴は内ゲバ。「山岳ベース事件」以前から、セクト同士がゲバ棒で対立する派を襲撃、重傷若しくは死に至らしめる暴力が頻発していた。いかにも暴力革命を目指す極左集団らしきやり方であり、これぞ共産主義運動の本質なのだろう。『マオ』上巻にも、ソ連人顧問は多数中国にいて暴動を支持、モスクワの方針は「階級の敵を一人残らず殺し、彼らの家を焼き払い破壊せよ」だったことが記されている。夥しい人間が死亡したソ連式を疑問視する中国人もいたが、結局は力が国を制する。映画に登場する左翼学生や赤軍派も、「銃による殲滅戦」を何度もがなりたてており、必ずしも格好付けの強がりだけでなかったはずだ。

 この作品で圧巻なのは、「山岳ベース事件」こと仲間へのリンチ大量惨殺場面。活動家の多くが逮捕され、先鋭化した学生たちは赤軍派を結成。来るべき革命に備え、山岳アジトにて「共産化」するための、訓練キャンプを行う。参加した赤軍派の女に遠山美枝子がいた。彼女はあの重信房子と親友であり、重信と同じく際立った美貌だった。映画では遠山についての描写場面に長い時間が当てられている。左翼活動家の女は恋人もまた活動家であり、彼氏に影響されて参加したケースが大半だが、遠山もそうだった。犯罪の影に異性あり。

 山岳キャンプに参加する前、遠山は友人に何度も「革命戦士になって生まれ変わる」と宣言している。このキャンプに参加した男も同じようなことを言っており、何やら講演に出たら、新しく生まれ変わることをウリにしている自己啓発セミナーを思わせる。同じ志の仲間と行動を共にすることで、密かに新生の奇跡を期待したのかも知れぬが、啓発セミナーと違い待っていたのは惨死だった。
 美しい遠山に、早々女親分的存在だった永田洋子が目を付ける。映画では並木愛枝という普通の顔立ちの女優が演じていたが、実際の永田は実に醜女だった。指名手配の写真を見た時、私はまだ小学生だったが、一緒にいた友人は「わー、鬼ババ」と言った程である。事件当時まもなく27歳の誕生日を迎える年齢だったが、“鬼ババ”そのものの容貌だった。

 永田は遠山にキャンプに来た動機や革命の意義を詰問、答えがなっていないと責める。後にやれ髪を伸ばしている、化粧している、鏡を覗いている…など難癖をつける様は、職場の嫌われ者お局様さながらだ。男にモテず、寄り付かぬのでオールドミスとなった女の嫉妬丸出し。お局様ならイジメにより美人の新人が辞めても引き止めもしないが、永田は遠山に革命戦士に相応しくないと糾弾しつつ、山を降りることは絶対認めないのだから、もはや看守と囚人の関係だ。映画にはなかったが、永田は遠山に過去の男関係も問いただしたという。

 遠山は先にリンチで死亡した小嶋和子(享年22歳)の死体を埋めることを、「総括」の一環として命じられる。この時遠山が、「私は総括しきって革命戦士になる」と命惜しさに小嶋の死体を殴りつけたことが、『世界リンチ残酷史』(柳内伸作著、河出文庫)に載っていた。遠山の他に数名が代わる代わる小嶋の顔を殴ったが、映画では全く死体への暴力が描かれていない。
その②に続く

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