この「追記」は猫の糖尿病に関する2007年末現在の私の「私見」です。 ある程度の予備知識があると獣医さんのお話が理解しやすいと思いますので参考程度にお読みいただければ幸いです。
糖尿病の種類
猫の糖尿病についてWebを検索すると、「1型糖尿病」、「2型糖尿病」、「インスリン依存型」、「インスリン非依存型」などの言葉が入り乱れており若干混乱します。 これは糖尿病の分類が(人の糖尿病分野で)1999年に改定されたことによります。 また、猫の糖尿病における1型と2型の構成比についての記述もサイトによりまちまちです。
とりあえず、気にするのはやめましょう(笑)
どちらにしても現状では猫の糖尿病については1型か2型かの確定的な診断はおこなわれません。 また、1型でも2型でもインスリンにより血糖値をコントロールすることができますし、有意義な治療法です。
ちなみにある獣医学専門雑誌に掲載されている総説(Vet Clin North Am Small Anim Pract. 2005 Jan;35(1):211-24.)では、
"Although type 2 diabetes is most common in cats, most cats are insulin-dependent at the time of diagnosis."
「猫では2型糖尿病がもっとも一般的だが、ほとんどの猫は診断の時点で治療にインスリンを必要とする」
と述べられています。 獣医さんが「このコはインスリンのいらないタイプかもしれませんね」と仰った場合でもそれを鵜呑みにせず、常にインスリン投与の可能性は考えておいた方が良いのではないかな~、と思います。
食餌療法を始めるにあたって考えるべきポイント
1.全身状態が悪化して食欲が落ちていないか?
まず痩せて全身状態が悪ければ食餌療法などと言っている場合ではありません。 とにかく食べてくれるものを食べさせ、インスリンで全身状態を改善してから食餌療法を考えればOKだと思います。
2.腎臓機能に不安は無いか
腎不全の猫さんは高タンパク低炭水化物食による食餌療法は絶対ダメです。
3.療法食の種類は何を選ぶのか
猫の糖尿病の食餌療法では、
・食物繊維で炭水化物の吸収を遅らせることにより急激な血糖値の上昇を抑えるやり方(高繊維食)
・食餌中の炭水化物の絶対量を減らして血糖値の上昇を抑えるやり方(高タンパク質低炭水化物食)
という2つの考え方があります。どちらも間違いではなさそうですが、最近の報告を見ていると高タンパク質低炭水化物食の方が優れているという結果が出てきているようです(2007.12.16の記事)。
糖尿病用療法食の種類
2004年当時、私の猫の食餌療法では以下の選択肢を考えました。
ユーカヌバGC
繊維含量は低く(3%以下)、推定炭水化物含量はおそらく30~40%。 トウモロコシを主原料にすることで糖の吸収を緩和にしているのか? イマイチ意味不明なので私は却下させてもらいました。
ウォルサム糖コントロール
高タンパク質含量を謳う療法食ですが、炭水化物含量はm/dなどよりも多く、良く言えば中道、悪く言えば中途半端。 他の療法食をどうしても食べなければこれかな~、という位置づけにしていました。
ヒルズw/d (ドライ&缶)
典型的な高繊維食。 私は高タンパク質低炭水化物食を志向したので結局試していません。 ヒルズは糖尿病向けとしてm/dとw/dの両方を推奨しているようですが、(2004年の時点で)ヒルズに電話して両者の使い分けを聞いたところ、「体重の減量が必要な猫さんにはw/dをお勧めしている」 というようなお答えでした。
ヒルズm/d (ドライ&缶)
日本で手に入る高タンパク質低炭水化物食の代表。 私の猫はm/d缶は全く食べず、ドライのm/dを主体に通常の猫缶をまぶして食べさせました。
ピュリナONE 子ねこ用
m/dの発売前には日本の獣医さんで子猫用の食餌を勧める方もおられたようです。 本品も療法食ではありませんが、高タンパク質低炭水化物の療法食に組成が近いようです。 私の猫も当初m/dを食べてくれなかったのでしばらくこれを代用品として与えていました。
ピュリナDM (ドライ&缶)
ピュリナが出している高タンパク質低炭水化物の療法食。 日本での発売はありません。 ネスレピュリナに直接問い合わせてみましたが売ってくれず、米国の通販に頼んでも「OK、送るよ!」と返事をくれたまま音沙汰無く、最終的に元妻に頼んで米国から郵送してもらいました。 こうして手に入れたピュリナDM!、私の猫はひと口も食べてくれませんでした _| ̄|○
「インスリン治療を始めるかどうか」
糖尿病猫の飼い主さんがどこかのタイミングで決断しないといけない問題です。 高価なインスリンを手間暇かけて1日2回も注射する。 「ペットに何もそこまで・・」とか、「毎日注射なんて却って可哀想だ」、という考え方を否定するつもりはありませんが、頭ごなしに決めずメリット・デメリットを考えてから冷静にご判断されるのが良いと思います。
私が感じたメリット・デメリットは以下の通りです。
メリット:
血糖値のコントロールができるようになれば猫さんは病魔の縁から生還します
さらに血糖値が安定すれば普通の猫さん同様の暮らしができます
場合によってはインスリン離脱を果たし、ほぼ発症前の生活に戻れるかもしれません
猫さんとの絆はいっそう深まります
飼い主さんも規則正しい生活になります
デメリット:
低血糖のリスクを抱えます
猫さんにも注射される負担を強います
手間がかかります(毎朝毎夕の投与、週ごとの通院)
泊まりの旅行に行き難くなります、(あまり)夜遊びもできません
お金もかかります(初期は入院費で数万~数十万、その後は月に1~2万)
事情を知らないヒトに使用済み注射器の束を見られると、麻薬と誤解されます(実話)
インスリン治療と糖毒性の考え方
高血糖な状態が続くと、インスリンを分泌する「ランゲルハンス島β細胞」が疲弊・死滅してインスリンの分泌量が減り、また、体のインスリンに対する反応性が低下してインスリンが一層効きにくくなります。 これを糖毒性と呼びます(主に人間の糖尿病の話ですが、同じ哺乳類ですし、猫での研究もありますのでそのまま猫に当てはまると思われます)。
糖毒性の結果として引き起こされるのがさらなる高血糖。 で、高血糖はさらに糖毒性を引き起こし、その糖毒性はさらなる高血糖を引き起こし・・・。 こうして糖尿病の病期は進行していくと考えられます。
インスリンを使ってでも血糖コントロールを行うことにはこの悪い循環を断ち切る意味があります。 特に治療開始時にβ細胞が死滅せずにどの程度残っているのかは先々の治療成績に大きな影響を与えることが予想されます。 β細胞が多く残っているうちに血糖コントロールを行えれば自発的なインスリン分泌が回復し、インスリン離脱を果たしやすいことは想像に難くありません。
また、インスリン投与量は食餌量との兼ね合いで決める必要があるため、猫さんに通常の食欲があればインスリン治療にスムーズに入りやすく、逆に食欲が落ちるくらいに病期が進んだ場合にはインスリン治療の開始が困難なものになります。
何が言いたいかというと、、、
インスリン治療を大げさに感じたり、低血糖のリスクを背負うことや注射すること自体に躊躇を感じるのは自然なことだと思います。 私もそうでした。 しかし、糖毒性の問題を考えるとインスリン治療は早めに始めてあげた方が良い結果(インスリン離脱、病状の寛解)を産むかもしれません。 もしご自身の猫さんがその生涯を閉じるまでずっとインスリン投与する覚悟ができるのであれば、早めにインスリン投与を始めることを獣医さんにご相談されてはいかがでしょうか?
私の猫の辿った経緯やここ数年の糖尿病猫治療の変化、人間の糖尿病に関する知見を併せて考えるに、
高タンパク質低炭水化物による食餌療法+早めのインスリン投与
がインスリン離脱を期待させるスタンダードな治療法として定着していくのではないかと思います(これはあくまで私見であり、糖尿病猫の飼い主様の情報収集のきっかけ、ということでお願いします)。
ちなみにこれはもっとも一般的な、肥満が原因の猫糖尿病について、という制約つきの考えです。 薬物投与による糖尿病や、他の病気の合併症としての糖尿病、他の病気との併発という状況に当てはまるかどうかは私には全くわかりませんです。
私が指導されたインスリン投与手順
①アルコール綿でインスリン瓶を消毒
②注射筒にインスリンを入れる、泡を抜く、投与量を合わせる
③猫を捕獲、撫でる
④首筋付近(背中側)をアルコール綿で消毒
⑤皮を軽く引き上げ、体と平行に針を刺してインスリンを注射
⑥真っ直ぐ針を引き抜き、猫を褒める、撫でる
ちなみに2004年当時処方されたのは「ノボリンU」という持続時間の長いインスリンでした。 再発後はノボリンUの製造中止により「ノボリンN」という持続時間が比較的短いインスリンを投与しました。 作用時間が長く、近年の猫糖尿病の主流となっているランタスの選択肢もありましたが、私の猫はノボリンNで安定が得られたため結局試すことはしませんでした。。
インスリン治療中の自宅でのケア&必要なもの
・猫、飼い主、獣医さん、愛情、人間の健康
・インスリン投与セット(インスリン、注射器、アルコール&脱脂綿)
以上、当たり前の必須項目です(笑)
オプションとして、自宅では以下の項目が考えられます。 全部きっちり!、なんて思いませんがある程度はやった方が猫さんの体調変化を捉えやすく、インスリンの用量決定に役立ちます。
・飲水量のチェック
ざっくりした血糖値の目安になるようですが、かなり不正確。 参考程度、です。 測定は料理用の500ml計量カップで十分。 朝500ml正確に入れて、翌朝残量を計れば飲んだ水の量がわかります。
・尿糖のチェック
そこらで売っている人間用の尿糖スティックでOKです。 トイレに座った猫の下にスティックを直接差し込むか、調理用お玉を差し込んで採取した尿に浸して使います。
尿糖を測定することでざっくりした血糖値の目安が得られますが、あくまでも目安であって、目安以上でもなく以下でもなく(←くどい?)。 私の猫は200~300mg/dlの緩和な血糖コントロールを目指していたので「尿糖が出ていることを確認する」という位置づけでした。 出ていなかった時はインスリン用量が高すぎるか、病状が変化したと捉えてました。
ケトン体を検出できる検査薬も入手できるようですが、私はそこまでしていません。
・体重測定
フツーの体重計で人間単独と人間+猫を測って引き算します。 体脂肪も測ってみようとしましたが、当たり前にムリでした(笑)
・血糖値
人間用の簡易血糖値測定器で自宅での血糖値測定を行う飼い主さんもいらっしゃるようです。
(※追記:2008年に私も導入しました)
・全身状態の観察
食欲、元気さ、毛艶、お通じなど。 高血糖でも低血糖でも変化が現れますので重要な情報です。
・記録
血糖値、インスリン投与量、飲水量、尿糖、体重、全身状態は記録にメモしておかないと忘れます(笑) 個人的には表計算ソフトが使いやすいと思います。 Excel をお持ちでなければフリーのOpenOffice で十分かと(私もOpenOfficeのCalcを使ってます)。
<自宅で取ったデータのまとめ>
注)10歳令去勢雄・ケトン体検出履歴なし、インスリン:ノボリンU(製造中止)、食餌:Hill's m/d
血糖コントロールはGLU200-300mg/dlを目安に緩和なコントロールを行った
上のグラフは私が自宅で取った体重・飲水量・尿糖のデータをまとめたものです。 私はデータヲタなので細かくデータを取ってしまいましたが通常ここまでする必要は無いような気がします。
さておき、これは私の猫のみの一例ではありますが、、、
①インスリン投与を開始してからすぐに体重の減少がマイルドになり、体重の変動を観察すると「ちゃんとインスリンを投与できていること」、「食餌量が適正であること」を確認できると思います。
②飲水量、尿糖の変化はインスリン減量・離脱と並行しており、インスリン離脱のタイミングを教えてくれました。
以上、体重・飲水量・尿糖をある程度でも把握しておいてそれを獣医さんに伝えると、その後の治療方針を決めるのに役立つのではないかなー、というのが私の経験からの意見です。
※治療方針の決定にあたっては獣医さんとご相談の上、ご自身の責任で行ってください。 この記事はあくまでご参考程度に考えていただければ幸いです。
関連記事
猫と私と糖尿病。 (2004年の糖尿病闘病記)
猫と私と糖尿病。 -追記- (2007年に書いた予備知識メモ)
猫と私と糖尿病と腎不全。(1) (2007年以降の糖尿病闘病記)
猫と私と糖尿病と腎不全。(2) (2008年以降の腎不全闘病記)
タマちゃんは病気を乗り越えて今は落ち着かれているようでなによりです!危機を脱して元気に一緒にいてくれると本当にホッとしますよね。
私の猫は糖尿病の方はインスリンでコントロールできていますが、腎不全を併発しており先々を考えるとやや凹みます。治る病気ではない、と判断している時点である意味あきらめているのかもしれませんが、折角生まれてきた猫生をなるべく長く楽しめるようにサポートしようと思ってます。そのためには飼い主も頑張りすぎず笑って生きないと、ですよね(^^)
こんにちは。猫さんの看病お疲れ様です。猫さんの調子はいかがですか?
糖尿病の再発はショックですよね。。離脱の喜びが大きければ大きいかった分だけ再発のショックも大きいのかもしれません。でも治療の仕方を知っている分だけ初発の時よりもかなり落ち着いて対応できるのも本当だと思います。
猫族も歳を取れば体に不具合が出てくるのもある程度仕方がないことだと思えます。確かに飼い主としては手間もお金もかかるし我慢しなければいけないことも多いですが、私たちの猫たちは飼い主が自身の病気で不幸に感じることを望んでいませんよね。実際に私の猫が糖尿病でなくても自分のやりたいことが全部できるわけではないよなぁ、、なんて風にも思ってます。なんだかグダグダとわかりにくい返信で申し訳ありません。要はお互い前向きにやっていきましょう!、ということです(^^;
おぉ、ずいぶんと調子が良いようですね!再発後の再離脱率がどの程度なのかわかりませんが、おっしゃるようにお互い気負わず気長にいくしかないですね(^^)
病歴についてお教え頂きありがとうございます。最初に糖尿病と診断された時って、そう、茫然としますよね。その際には私もネットであれこれ調べて、先輩方にずいぶんと教えられ勇気付けられました。それで自分もちょっとは役に立てないかと体験談を書きました。
でもそろそろこの記事も情報が古くなっており、お役御免の時期かもしれませんね(古い情報で飼い主さんたちを混乱させるのが怖いです)。またこの間にも猫の糖尿病への理解とより新しい治療法は普及し、飼い主が自分で調べなくても大抵の獣医さんならちゃんとした治療をしてくれるような状況になった、、、と信じたいです。
これからさらに治療法が進歩して、糖尿病を患った人たちも猫たちも完治できる時代がくるといいですね。この頃はこれが精一杯だったよな、、、と思いながら自分の書いた記事を読み返せる日が今から楽しみです(^^;
私のネコも一週間前に糖尿病が判明しました。元気がなく多飲多尿の症状・・・
「ちょっと元気無さ過ぎだなぁ」と思い
動物病院へ
糖尿判明、Ⅰ型インシュリン、肝機能低下でキトンが出てました
目の前真っ暗になって帰ってきました。
お陰さまで今は点滴や注射でキトンは出なくなってひと安心です
夜、麦さんの日記にたどり着き「あきらめちゃいけない、希望を持とう!」って思いました。
明日から自宅でインシュリン接種になりますが私もネコと一緒に頑張ろうと思います^^
麦さんの経験談とても参考になりました
ありがとうございました
こんにちは。すごい地震でしたがアッキーさんのお住まいの地域は大丈夫でしたか?
アッキーさん、猫さんがご無事なことをお祈りします。糖尿病は大変な病気なのは確かですが、インスリンで血糖値のバランスが取れるようになれば健康な猫さんと同様に楽しく暮らせるようになりますよ!猫さんごとにインスリンの効き方も異なるのでコツを掴むまでは大変ですが、それまで頑張りすぎずに頑張ってください。応援してます!