国際医療について考える

国際協力という分野に興味を持つ人たちとの情報共有、かつ国際協力に関する自分としてのより良いありかたについて考える場所。

ワクチンの抗体価検査

2013-04-14 | Vaccine 概要

【麻疹の抗体検査法】
- 通常、HI法、NT法、ELISA/IgG法、PA法が用いられる。

・ NT法(中和反応)
被検血清を段階希釈して一定量のウイルスを加える。
ウイルス・被検血清混液を培養細胞に接種し、細胞変性効果(CPE)を観察。
ういるすの活性を阻止する血清希釈倍数。
長所:感染防御抗体を検出できる、安価で信頼性が高い
短所:培養細胞、チャレンジウイルスが必要、施設環境(麻疹であればBSL2)が必要、判定までに時間(1週間程度)がかかる

・ HI法(赤血球凝集抑制反応)
一定の麻疹ウイルス赤血球凝集素(HA)を抗体中のHI抗体と反応させた後、赤血球を加えてHA反応を行わせ、凝集を阻止する最大血清希釈倍を観察。
長所:感染防御抗体を検出手技が比較的簡単(3日程度)、特殊な施設・設備を必要としない
短所:アフリカミドリザルの赤血球が必要、感度は中和法より劣る

・ PA(ゼラチン粒子凝集反応)
ウイルス抗原を吸着させたゼラチン粒子を使用し、凝集が認められる最終希釈倍数を観察、麻疹の測定用キット(セロテイアー 麻疹:富士レビオ)
長所:感度が高い、簡便、多数検体の処理が可能、陽性基準も定まってきている
短所:感染防御抗体以外の抗体も検出(特異度が低い)

・ IgG-EIA(酵素抗体法)
固相化抗原と検体中の抗体を反応させた後、二次抗体として酵素標識抗ヒトグロブリンを結合させ、酵素発色量により測定する
(麻疹測定用キット:麻疹IgG (II) -EIA 「生研」)
長所:感度・特異度が高い、多数検体の処理が可能、操作が比較的簡便(3日程度)
短所:高価、イムノリーダーが必要、予防効果を確認できる陽性基準が定まっていないため定量性にかける(定性判定のみ)

・ CF法(補体結合反応)
一定量の補体を使用し、抗原酵素複合体に反応しなかった残存補体により間接的に抗体(主にIgM)を測定する
長所:抗原を変えることにより同一手技で各種病原体に対する抗体の測定が可能
短所:感度が低い、比較的早期(麻疹の場合3カ月頃)に抗体は陰性化(免疫の有無には使用できない)

- NT法、HI法は保険点数80点、ELISA/IgG法は230点、PA法は1000円程度(実際のかかる検査費用は手技料や判読料を含めて3000円~4500円程度)
- 罹患調査には基本のNT法、感度の良いPA法、ELISA/IgG法で検査すべき
- 免疫の有無を確認するために用いられる基準はELISA/IgG法, HI法で8.0(統計処理での基準値)、PA法で128-256倍以上、NT法

- LTI法(ラテックス免疫比濁法)
液相中において抗原物質に特異的な抗体をコーティングしたラテックス粒子を用い、抗原物質を検出する測定系。免疫複合体の形成によりラテックス粒子が凝集する性質を応用し、目視、濁度の増加、粒子量の確認により測定を行う検出方法。


reference: 
2008.10 名鉄病院予防接種センター 宮津光伸
齋藤義弘:麻疹の実験室診断の実際. 臨と微生物2008;35:23-9 

検査別抗体価の推移(ポリオ)は下記のURLを参照
http://www.lilac.cc/~infinity/pictures/immunitypolio.jpg 

【ワクチン再接種基準】
ワクチンの種類/抗体測定法/再接種基準
麻疹/NT/
麻疹/EIA-IgG/
麻疹/PA/
麻疹/HI/<1:8
発症を阻止できる麻疹抗体価は500mIU/ml,感染を防御できる抗体価を1000mIU/m1とされる[Lee MS, 2000 PMID 11074481]
国内で使用されるEIA法検査薬を国際単位で評価するには換算係数が必要となり、試薬・カットオフ値・換算係数は下記のようになる[加藤, 日胸 2009;68:27]
IgG(II) EIA生研(デンカ生研)・4・46→184mIU/ml
エンザイグノスト/IgG(デイドベーリング社)・2・150→300mIU/ml
逆に麻疹の発症を阻止できるとされる抗体価500mIU/mlを日本の検査試薬を当てはめると、理論上のそれぞれのカットオフ値は下記のようになる。
IgG(II) EIA生研(デンカ生研):10.9
エンザイグノスト/IgG(デイドベーリング社):3.3

風疹/HI/16倍以下
風疹/EIA-IgG/<10IU/mL (NCCLS), 医療者を対象とした日本環境感染学会ガイドラインでは<8
HI価16倍以下→EIA IgG価 8.0未満(デンカ生研キット) 
            EIA 30IU/ml未満(シーメンスヘルスケア・ダイアグノスティクス社製キット)
            LTI法 30IU/ml未満(極東製薬工業社製キット)
HI価256倍以上→EIA IgG価 45.0以上(デンカ生研キット)
HI価4倍以上の上昇→EIA IgG価 2倍以上の上昇

風疹抗体価読み替えに関する検討 (IASR, 2013)
風しん抗体価の読み替えに関する検討 - HI価と国際単位 (IASR vol.34 p107-108, Apr 2013)


ムンプス/EIA-IgG/
水痘/EIA-IgG/
水痘/IAHA/
HBV/HBs抗体/<10mIU/ml

麻疹IgG EIA6で麻疹を発症した症例あり 2)
麻疹NT抗体価4-16倍では不顕性感染の報告あり 3)
風疹HI抗体16倍で感染を予防すると考えられていたが、16倍でも母親の再感染によるCRSの出生報告あり(発症を抑えるが感染は予防できない) 2)
国際防御レベル設定は麻疹・風疹についてはあり
麻疹IgG: 10-11IU/mL, 風疹IgG: 4-5IU/mL (デンカ生研)

ポリオは2019年度末でウイルス所持ができなくなることから中和抗体法は中止された
CF法での実施は可能


EIA: Enzyme-linked Immunosorbent assay 酵素免疫法
HI: Hemagglutination Inhibition赤血球凝集抑制法
IAHA: Immune Adherence Hemagglutination 免疫付着赤血球凝集法
NT: Neutralization Test 中和法
PA: Passive Agglutination 受身凝集法
LTI: latex turbidimetric immunoassay ラテックス免疫比濁法 
CF: complement fixation test 補体結合反応法


Reference:
1) 楠原浩一. 予防接種後の抗体価
2) 中山哲夫. 麻疹及び風疹ワクチン:日本醫亊新報No.4368;69-75
3) 小児患診療のための病態生理:小児内科2008 vol.40増刊号
4) 寺田喜, 風疹HI法の抗体価はEIA法でどのくらいか. 感染症学雑誌 2008. http://journal.kansensho.or.jp/Disp?pdf=0830010026.pdf


コメント    この記事についてブログを書く
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« the estimated herd-immunity... | トップ | 米国において経口感染する腸... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

Vaccine 概要」カテゴリの最新記事