うなぎなう

あなたが笑ってくれると、オレはとても嬉しいです。
じっくり読んで、笑いましょう。

ランドセル・テロリズム ⑤。

2014年09月29日 | 作品
近条は、隣組のその活発な女子――女子の学年長でもある虹村とは、廊下でふたことみこと、話したことがあるくらいだった。
「なに? って言われても、遠くで近条君が自転車に乗って、私と同じ方向に行くのが見えたから、あっそうだ、声かけよう、と思って」
きっと、本当にそうなのだろう。
近条は、自販機の方にふりかえると、スポーツドリンクのボタンを押した。
ガッタン。
出てきた缶ジュースを取り出すために、少しかがむ。
耳まで真っ赤になっているのが、自分でも分かった。
「あっ、これゲームでしょ? なんて名前? 」
いつものように、近条は辟易(へきえき)してしまうのだけど、男子女子問わず、元気なのはみんな、ずうずうしい一面を、もっていると思った。
虹村は、勝手に近条の自転車かごに入っている、先ほど買った新しいゲームソフトを凝視していた。
「巨人兵が村を作るゲーム」
しかたがないので、ひとこと添えてやった。
「知ってるそれっ!村の人のお願いごとを、つぶさに叶えてくれるのでしょ。もう村人は、毎日が給料日だとか誕生日みたいなんでしょ? 」
「ちょっと違うような気もするけど、まぁ、モノの解釈は、人それぞれだから……」
「おもしろそー。私もそれやりたい」
ドキドキした。
「いいよ。厳太君の家で、今度ゲームすることになってるし」
「厳太たちとかと、仲いいわけぇー」
リアクションが早い。
厳太の名前を出して、なんだか自分は全然、男らしくないと思った。
「厳太ってのが曲者だけど、もうすぐ春休みだし、楽しみにしてるわ。他の子も呼ぼうかしら? 」

えらいことになったと、近条は思った。
とりあえず、黙ってうなずいた。
厳太になんて言おうか、悩み事がひとつ、増えたと思った。
「じゃ、来週。また、学校でね」
虹村は、勢いをつけて、自転車をこいで行った。
車や電信柱にぶつからないように、近条は、自分の家がもっと近くにあれば良かったのに……。
そう思って、家に帰った。

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ランドセル・テロリズム ④。

2014年09月28日 | 作品
素直に聞いてみた。
「巨人兵が、全部で4つの集落を作り上げるゲームなんだ」    
近条は、感情の起伏の少ないしゃべり方をすると、厳太は思った。 
「ある集落では、田畑でたくさん作物がとれると、巨人兵と一緒に村人は踊るんだ。最初は巨人兵も踊り方を知らないから、プレイヤーが(踊り方を)教えてやるんだけど、足がもつれて、焚火の中へ尻もちついちゃったりするんだ」
近条は、まるで知っていることをすべて吐き出すかのように、ショーケースの中のゲームの説明をした。
「ダンスダンスレボリューションで鍛えてやれよ」
「ウン、そういうモードもあるんだよ。現実的に考えてみても、ホントに大変なんだけど」
近条は、少し笑った。
「おもしろそうだな」
そう言いながら、厳太は、初めて近条が自分の顔を見たと思った。
「最近の格闘ゲームてっさ、操作難しいじゃん。ちょっと、オレにはどうかなって、オレは思ってたんだ」
「僕は、ゲーセンで、全面クリアしちゃってるから」
「スゲェな。今度、技、教えてくれよ。茶菓子でもてなすから」
近条はうなずいた。
後藤と間田は、さっさとゲームを手に入れて、他のゲームを物色し始めていた。
厳太は格闘の、近条はその巨人兵のゲームを持って、レジの後ろに並んだ。




近条少年は、興奮していた。
久しぶりに、よく話をしたと思った。
横柄な後藤も頭の悪い間田も、話をしてみれば意外と真剣に、自分の話を聞いてくれると思った。
何より、厳太と、ゲームを教える約束ができたことが、嬉しかった。
喉がかわいたので、近条は、自販機の前に自転車を停めた。
厳太たちとは、10分ほど前から別れている。
お茶にしようか、スポーツドリンクにしようか迷っていると、遠くの方から大声で、自分の名前を呼ばれた気がした。
もしかしたら、自分と同じ名前の付く人が、近くにいるのかなとも思ったのだが、その声の主は、しつこく近条の名を、呼んだ。

「キンジョークーン」
声のした方向を見ると、自分の体より大きな自転車を、必死こいて操る、隣組の女子がいた。
近条の名を呼ぶ女子なんて、ほんのわずかであった。
だいたい近条は、学校ではほとんど、女子とは口をきかなかった。
「……やっぱりキンジョークンだ。キンジョークンみたいな、背が低くておとなしい男子でも、自転車こぐスピードって、速いんだね」
かなり遠くから、近条を見つけて、ここまで追っかけてきたらしい。
「なに? 」
我ながら無愛想だと、こんなところでも近条は、自分のことが嫌になった。

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ランドセル・テロリズム ③。

2014年09月27日 | 作品
「おいっ。おいって厳太。起きろって。授業終わったぞ」
授業中の居眠りのモーニング・コールは、後藤の声だった。
「今朝言ってたゲーム屋、行くんだろ?間田とかも、呼んどいたから」
間田は、脳味噌まで筋肉で出来ている、極上の筋肉少年だった。
「とかってなによ」
「あと、あいつ、何ってたっけ。隣りの組の奴」
後藤は、横に来ていた、間田に尋ねる。
「あー、下の名前は知らねぇけどよぉ、近条って奴さ。オレ、あいつ嫌いなんだけど、ゲームオタクっての? むちゃくちゃ詳しいんだって」
「キンジョウ、キンジョウ……知らねぇや、まっいいけど。面と向かって”嫌い”だとか”オタク”だなんて言うなよ。くさるゼ、絶対」
間田は、後先考えず、思ったことを口にするから、友達も、反友達も多かった。
「分かってるって」と間田。
本当だろうか?
少々不安は残るが、厳太は、後藤に聞いた。
「集合、どこで何時? 今日、オレ、後藤と一緒に自転車屋、寄ってかないといけないから」
厳太たちは、お互い手を振って、それぞれ自分たちの家に帰った。




「オジさーん、今日発売の、格闘ゲームあるぅ? 」
間田が、臆することなく大声で言う。
店内が、一瞬、静かになった気がしたのは、厳太以下3名全員が感じたはずだった。
けっこう混んでいる。
「バーカ、おめぇほんとにバカだな。あのオジさんは、玩具担当。少なくとも、間田、おめぇオレたちといるときぐらいは、”3歳児向け”なんていう、バカな玩具には、目を向けないでくれよな」
後藤が、先に答える。
ゲーム屋のオジさんは、目を細めて笑った。
「新作ゲームのことかな? それぐらいなら、オジさんにも、分かるよ」
後藤と間田は、オジさんの、どこが詳しく知ってるのか、的を得ない説明を、授業よりも聞き入っている。
厳太は、口数が少ない近条に、話しかけるなら、今がチャンスだと思った。

「近条……クン? 」

あまり、慣れなれしく呼び捨てにするのもどうかと思われた。
近条という名のその少年は、ガラス張りのショーケースに、両手をついて、その中に並べられた店の商品を、もの珍しげに覗いている。
「格闘ゲームは、あっちの後藤と間田がいるところに、あるみたいだよ」
「僕は、格闘ゲームを買いに来たんじゃないんだ」
厳太は、近条の隣りに行って、同じものを覗きこむ。
「天丼堂」の、新作ゲームが、ズラリとそこには並んでいた。
”癒し系”というのだろうか。
「ほんわかふんわり湯上り気分にしてくれるぞっっ」と、これは覗いている近条の正面に置いてある、ゲームソフトのパッケージに、書かれてあった。
「おもしろいの? それ? 」

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ランドセル・テロリズム ②。

2014年09月26日 | 作品
虹村にお尻を蹴られて、厳太と後藤は、集団登校の列に加わった。
小学校六年の厳太と後藤は、身長に関係なく、列の最後尾だった。
虹村は、……(何で虹村のことを、言わなくちゃいけない? )
一応、この地区の引率リーダーとして、先頭を歩いている。

いい気なもんだ。

虹村に聞こえないように厳太は、声を潜めて、後藤に話かけた。
「虹村ってょぉ、最近、ちち(=乳)でっかくなってねぇか? 」
「あれだろ、北海道の大自然の恵みってやつだろ」
後藤は、真顔で答える。
「あいつん家の冷蔵庫の中、牛乳だらけだって噂だからな」
そんな噂、聞いたことない。
あったとしても、大抵この後藤が流した噂に決まっている。
厳太は、話題を替えることにした。
「今朝の天気予報でさぁ……」




「おい、ウスノロ。危ねぇじゃねぇか。気を付けろ!」
その少年が立ち止ったことに、後ろから歩いてきた子が、気が付かなかったようだった。
その少年は、慌てて頭を下げる。

「――ごっ、ごめんなさい」

ただでさえ、蚊のなくような小さな声で、申し訳なさそうに少年は謝る。
交差する前方の道路を、車が通ったところだった。
土曜日だから、教科書の数は少ないはずなのに、思いのほか、少年のランドセルは重かった。
家からここまで、少年は、ほとんどまったくと言っていいほど、顔を伏せて歩いてきた。
小学6年生、最年長なのに少年は、責任も存在もほとんどない学校生活を送っていて、日蔭の人生に甘んじている。
(僕たちは、ランドセルを担いで、学校に行っている……)
顔を上げた少年の目には、少年と同じように、黄色の帽子をかぶり、そのサイズの違いはあれど、同じランドセルを背にしょう、同級生たちの長い集団登校の列が見えた。

(……僕たちは、決められたルートに従って、決められた制服を身にまとい、決められたランドセルを従えて、毎朝、黙々と学校に通う)
(……そうして僕たちは、ランドセルを担いでいる)

少年は、昨日の4時限目の授業で、学校の先生が話していたことを、思い出していた。
「我々には、3つの義務があります。納税の義務、勤労の義務、そして、教育を受けさせる義務です」
教育は、義務……。
さっき、少年を罵倒した後ろの子が急かす。
無意識に、少年は歩を早めた。
だったら、僕たちが、ランドセルを背中に背負うのも、義務なんだ。

……強制的に定められた義務。

大人になると、さらに、納税と勤労の義務まで付いてくるのか。
見えない鎖で封じられた僕たちは、まるで、誰かに支配されている、奴隷みたいじゃないか。

昨日あれだけ泣いたのに、少年は、また泣きたくなるのを必死でこらえた。

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ランドセル・テロリズム ①。

2014年09月25日 | 作品


――真夜中。
みなが寝静まった頃。
少年は、いつものように部屋の片隅で、ゴソゴソと、何やら物色し始める。
片膝立てて座る、少年の前には黒いランドセル。
少年は、いつも、誰にも見られないように、学校への用意を、ランドセルの中に、ほどこすのだった。


よし、今日もちゃんと、準備ができた。
昨日の僕も、
今日の僕もいけてなかったけど
明日の僕は、きっと輝いている。
少年は、心の中に、屈折した思いを抱えている。


「厳太ぁー。早くしなさい。もう学校へ行く時間よぉ」
母さんがわめいている。
いつものことだ。
「分かってるって。今すぐ行くからぁ」
厳太は、ランドセルを締めた。

今日は土曜日。
半日で、ガッコが終わる。
厳太は、階段を駆け下りて、玄関まで突っ走る。

「行ってきまーす」

あたふたと家事をこなす母さんをよそに、返事なんて待ってられなかった。
玄関のドアを開けると、すぐに集合場所が目に入る。
もうみんな来ていた。

「オッス」
仲のいい後藤と挨拶する。
「相変わらず時間ぎりぎりだな」
後藤は、ポケットに、両手を突っ込んだ、いつものスタイルで言う。
「お前だって、息が荒いぞ。ゼーゼー言っているじゃないか」
後藤は、厳太より、ずっと集合場所から、家が離れていた。
「それより、今日、一緒に、ゲーム屋行かないか? 今日、発売日だろ」
「あぁ。行ってもいいけど、自転車ないんだ。パンクしちまって。途中で自転車屋に行くまで、乗っけてってくれるか? 」
「オレの自転車の後ろには、女しか乗せねぇんだ」
「乗ってくれる女なんか、いねぇくせに」
「朝っぱらからオレに、喧嘩売ってるのか。オレはだなー」

「ちょっと、あんた達、おしゃべりするのは、私たち女の特権よ」

会話に割り込んできたのは、虹村だ。
女のくせに、いや、女だからか、出しゃばりで、厳太には、苦手なタイプだった。
「厳太、こいつ本性オトコのくせに、自分のこと女だと思ってるらしいぜ。下半身に、大事なものは付いてないみたいだけど」
後藤は虹村と、何だかんだ言いながら、仲がいい。
厳太たちがよく通う、ゲームセンターでプレイするゲームと、女の趣味には、どうやら共通点はないらしい。

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