うなぎなう

あなたが笑ってくれると、オレはとても嬉しいです。
じっくり読んで、笑いましょう。

ランドセル・テロリズム ②。

2014年09月26日 | 作品
虹村にお尻を蹴られて、厳太と後藤は、集団登校の列に加わった。
小学校六年の厳太と後藤は、身長に関係なく、列の最後尾だった。
虹村は、……(何で虹村のことを、言わなくちゃいけない? )
一応、この地区の引率リーダーとして、先頭を歩いている。

いい気なもんだ。

虹村に聞こえないように厳太は、声を潜めて、後藤に話かけた。
「虹村ってょぉ、最近、ちち(=乳)でっかくなってねぇか? 」
「あれだろ、北海道の大自然の恵みってやつだろ」
後藤は、真顔で答える。
「あいつん家の冷蔵庫の中、牛乳だらけだって噂だからな」
そんな噂、聞いたことない。
あったとしても、大抵この後藤が流した噂に決まっている。
厳太は、話題を替えることにした。
「今朝の天気予報でさぁ……」




「おい、ウスノロ。危ねぇじゃねぇか。気を付けろ!」
その少年が立ち止ったことに、後ろから歩いてきた子が、気が付かなかったようだった。
その少年は、慌てて頭を下げる。

「――ごっ、ごめんなさい」

ただでさえ、蚊のなくような小さな声で、申し訳なさそうに少年は謝る。
交差する前方の道路を、車が通ったところだった。
土曜日だから、教科書の数は少ないはずなのに、思いのほか、少年のランドセルは重かった。
家からここまで、少年は、ほとんどまったくと言っていいほど、顔を伏せて歩いてきた。
小学6年生、最年長なのに少年は、責任も存在もほとんどない学校生活を送っていて、日蔭の人生に甘んじている。
(僕たちは、ランドセルを担いで、学校に行っている……)
顔を上げた少年の目には、少年と同じように、黄色の帽子をかぶり、そのサイズの違いはあれど、同じランドセルを背にしょう、同級生たちの長い集団登校の列が見えた。

(……僕たちは、決められたルートに従って、決められた制服を身にまとい、決められたランドセルを従えて、毎朝、黙々と学校に通う)
(……そうして僕たちは、ランドセルを担いでいる)

少年は、昨日の4時限目の授業で、学校の先生が話していたことを、思い出していた。
「我々には、3つの義務があります。納税の義務、勤労の義務、そして、教育を受けさせる義務です」
教育は、義務……。
さっき、少年を罵倒した後ろの子が急かす。
無意識に、少年は歩を早めた。
だったら、僕たちが、ランドセルを背中に背負うのも、義務なんだ。

……強制的に定められた義務。

大人になると、さらに、納税と勤労の義務まで付いてくるのか。
見えない鎖で封じられた僕たちは、まるで、誰かに支配されている、奴隷みたいじゃないか。

昨日あれだけ泣いたのに、少年は、また泣きたくなるのを必死でこらえた。

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