イスラミック・ブルー

スペイン、エジプト、イラン、トルコ、チュニジアへ、イスラミックな旅へ。
スペイン/地中海レストランガイド

歴史的瞬間に私は…

2011-05-25 23:31:04 | エジプト編

 毎日、毎日、私はのどかな牧草地帯を散歩していた。
 運河にかかる、ナツメヤシの木を、ポンと渡しただけの橋を渡ってみたり、
 ロバに話しかけたり、
 お家を勝手に拝見したり、
 牛の模様を観察したり、
 畑仕事のおじさんに「お茶あがっていきなされ」と声をかけられたり…
 「たり・たり」な毎日を送っていた。
 

 カイロでは、デモ隊と軍が衝突し、流血さわぎ。
 外出禁止令が引かれ、食べ物は配給だけと言うところもあった。
 そんなことはテレビの中のこと…
 革命以来、新聞もカイロから来なくなった。
 アルジャジーラの放送も「ブツッ」と切られた。

 農村では、いつもと変わらない生活だった。
 スズメの鳴き声がうるさくて起きた。
 ロバの悲鳴のようないななきも、いつもどおり。
 食べるものはたくさんあった。
 携帯電話は壊れていた。
 公衆電話はないところにいた。
 日本語はまったく通じなかった。
 緊張感ある空気は、微塵もなかった。
 

 歴史的瞬間にエジプトにいたというのに、
 その実感はまったく得られなかった。

 ルクソールに到着した夜の話はこちら

 


魅惑のマダム

2011-05-15 23:41:56 | ないしょ ないしょ

ふと迷いこんだ紙面の写真に、
何度も指を這わせる

名前、名前、名前…
名前の向こうに見えるドラマ
貴婦人の名前をなぞる指先が冷たい

いつの日か、六条御息所みたいな深い、深い深紅の血の色をした恋がしたい
強い匂いを放つ、一途な想いを、
刃物からこぼれるようなしずくの涙を瞳の奥に

ラクロの「危険な関係」にでてくる魅惑のマダムが、薔薇の名前になった

貴婦人の薔薇の写真に吸い込まれ、
物陰から、そっと覗こうと行ってみた。
残念ながら、社交界の花は、開店20分でさらわれ、その残り香さえもなかった。
その姿を、瞳の向こうに焼き付けられて…

私が幼いのか、
マダムが目の端に私を認める日が来るのか、
見つめられたいような、怖いような、
どこかで出会える日がきますようにと、
冷たい指先で写真をなぞりながら、その日が来て欲しいような、
来て欲しくないような…

魅惑のマダムは、殿方だけでなく、小娘の心も惹きつける