わたしたちの住処をつくる記録

いえづくりについて、できごとと考えたことを記録しておきます

家を勉強する④(吉村順三「軽井沢の山荘」)

2015-04-30 20:56:52 | 勉強
 どういう経緯だったか忘れてしまいましたが、私たちは、軽井沢にある住宅建築史上珠玉の名作とよばれる建築のことを知りました。
 吉村順三の「軽井沢の山荘」です。
 それは凛として、「格好いい」建物でした。外壁の板張りが古びて、銀色に光っています。ただの木材が風雨にさらされた経年変化なのに、建築の形を与えられて、堂々と自分の役割を果たしているようでした。一見、普通の住宅にはあり得ないようなアンバランスに思えるプロポーションも、実物はとても合理的で、周囲の木々によりそい、風景に見事に溶け込む美しい佇まいが目に飛び込んできます。RC作りの一階に重苦しさはなく、二階を軽やかに宙に浮かせています。

(個人所有物につき敷地内立ち入り禁止です)

 見る限り、ひとつひとつの素材はごくありふれたもの。普通の木材が普通に古くなっているのに、全体からは品格が失われません。豪華さは無いのに品がある。よくある森の中の別荘建築とまったく異質の空気を作っています。大胆なプロポーションであるにもかかわらずほとんど主張がなく、作家性の薄い普通の家に見えます。それでいて、心に残る建築です。いつか中に入ってみたい。
 軽井沢で仕事をするようになってわかったのですが、1階をRCにして居住空間を持ち上げるのは、地元の湿気対策としては一般的なんですね。夏の一時期だけ住むのではなく、1年間住んでみれば、かなり気候の厳しいところです。内陸なのにとにかく湿気がすごい。冬の冷え込みは激しく、地面深部まで凍てつき、常に耕された状態になります。ですから、私は、基礎のRCの立ち上がりが1m以上あったり、RCの柱で浮いている家々を見ては、地理の資料集に出てくる永久凍土地域の住宅によく似ていると思っていました。
 吉村順三の「軽井沢の山荘」の美しいプロポーションの細部には、開口部の取り方と納め方、素材の見せ方など様々なプロの秘密が凝縮されているのだと思いますが、それらを統合したデザインは、湿気対策など大変合理的なものなのだと感じました。(ただ、吉村著の『小さな森の家』によれば当時あまり普及していなかった断熱材を入れたとはいえ、軽井沢の冬ではさすがに寒いだろうとは思います・・・。)



 変なことをせず、合理的であることは、とても大事な要素だと改めて考えます。普通に手に入るはずの素材を、きちっと合理的に使って、気持ちのよい、あたりまえの家をつくることは、民藝の職人たちが、地元の素材を使って、丈夫で長持ちする当たり前の「用の美」を備えた日用品を作るのに似ていると言えば言い過ぎでしょうか。
 
 松井郁夫先生の『住宅建築』誌上における新連載も「古民家-その用と美に学ぶ」ですね。早速読ませていただきました。次号を楽しみにしています。(市井の者が毎回購入するには高い雑誌ですね。古本を探そうか・・・)


断熱材入る(気密と調湿)

2015-04-19 09:48:32 | ただいま普請中
 壁に断熱材が入りました。初めの写真の光が透けている右側の壁はまだ入っていない部分、光を通していない左側(もっともこの壁は外側にダイライトが張られているのでもともと光は透けませんが)は断熱材が入っています。二階はほぼすべての壁に入ったようです。

施工されたのは、これ。

デコスドライ(セルロースファイバー)です。屋根断熱に使ったウッドファイバーと同じく天然素材系であるということと、調湿性に優れるというのが特徴だとか。無垢の木の家なので、木の呼吸を妨げないことが大切です。普通の家(何が普通かわかりませんが)では壁内の結露を防ぐために、まずは室内の湿気を壁に入れない対策がとられ、「防湿(気密)シート」が施工されるはずです。フラット35(旧住宅金融公庫)の技術基準でもそうなっていると思います(たぶん今は必須事項ではないとは思いますが)。しかし、この家には防湿(気密)シートが施工されません。壁の呼吸を妨げない工夫をしているのです。
 ここで問題になるのは、断熱には気密が必須だということ。気密がとれないと、いくら断熱をしても意味がありません。私はこのあたりのことが、いつも頭の中で混乱していました。気密シートなしで、壁が呼吸するということは、気密と無縁の家、ということになるのではないか。そこで構造見学会のときに松井郁夫先生に聞いてみると、「気密=気密シート」と思い込んでいる人が多く、特に伝統派の人たちは「気密」という言葉にアレルギーがあるようだが、「気密」と「調湿(木が呼吸すること)」は矛盾しないとのことでした。私が聞いたことを覚えて書いていますので、先生の表現と違っているかもしれませんが、「呼吸する家」は、別に隙間風のある家のことではないんですね。木は呼吸しているけれども、それは文字通り空気を吸ったり吐いたりするとか、板の向こうまで空気が抜けてゆくとかいうことではないわけです。木は湿度を吸ったり吐いたりしている。とすると、調湿と気密はまったく矛盾しない。技術的なことを置けば、論理的には調湿をとるか気密をとるか、という話にはならない、と理解しました。漆喰ももともと気密性が高く、施工さえ工夫すれば気密がとれると松井先生は言います。そんな漆喰も調湿性があるといわれるわけですから、気密と調湿は別問題だということですね。
 科学的にデータをとっていくと、漆喰の調湿性能はそんなにないとか、構造用合板を張った面では調湿なんて期待できないとか、生活に影響するほどの調湿が期待できるわけではないとか、いろんなことを言われそうですが、こういう住宅をめぐる巷の言説といのは説が多すぎてわかりません。純粋な学問ではなくて「住宅業界」というのが入ってきてしまうので、何が本当で何が言い過ぎなのかわからない世界だな、とも感じます。(私がよく知っている内装屋さんは「だまし合いの世界」だといっていました。)

 ここのあたり、松井先生は完成後に「C値」を測定するとおっしゃっていますから、どんな結果になるか楽しみです。もともと伝統構法なので、2×4とかのような数値は出ないと思いますが…

 さて、外壁側はしっかり「通気層」がとられ、壁の下部の通気口に防虫網が施工されていました。
 

 二階のサッシの外側には水勾配をとった(?)板。どんなおさまりになるんだろう。ここまで外壁ということかな。水切り?


 前紹介し忘れましたが、破風板には「眉かき」が施されています。


 一階の大開口はどうおさまるか。構造見学会のときに原寸大の図をみせていただきましたが、とても楽しみです。


 そして、妻がいつも楽しみにしている階段。見せ場なのでなかなかつきません。


 外には「カラマツ板」が準備されていました。私はこれが楽しみ。
 

 さて四月も下旬。これ、どうも5月中竣工というペースには見えませんが…。

街の土地へ

2015-04-16 23:24:18 | 土地まで
 建築中ですが土地探しのことも思い出しながら記録します。

 「安くて広い」土地を探してどんどん郊外へ出て行った私たちの土地探しは、2014年が始まったころ、折り返し地点をまわって街へ戻ってきました。狭くてもいいから街の中にいい雰囲気の土地があるのではないか。いままでそもそも無理だろうとおもって見てこなかったところに、見落としがあるのではないか。そんな思いで、市内の土地を見始めたのです。
 狭いが手頃な価格の土地がありました。確か30坪くらいか。細長で、以前に家が建っていたようです。家が建っていたということは、人が暮らせない広さではないはず。と考え、見に行きました。川の近くのその土地を観に行って、愕然としました。本当に狭かったのです。これは住めない。ああ、やっぱり町の中では無理なのか…
 しかし、あきらめず探しました。そもそも町の中には売地が少なく、狭い路地をはいったようなところが多いようで、車社会に対応しないところが残っている感じでした。ここもピンとこないここもピンとこない…とやっているうちに、もしかしたら、という土地を発見。そこは私が高校時代に歩いていた通学路のすぐ近くでもあり、私が大学を卒業してすぐに働いた職場へ通うのに自転車で通っていた道のすぐ近くでした。
 不動産屋の案内の画像では狭くて細長く、本当になんの魅力もなさそうな売れ残りに見えましたが、上のようなこともあり、なんとなく気になったのです。そこでGoogle Mapのストリートビューで近くを見てみました。どこがその土地だかわかりませんでしたが、そのあたりからの眺めがどうもとてもよさそうだったのです。傾斜地のように見え、普通のハウスメーカーだったら、こんなところには家は建てたがらないだろうけれど、建築家さんだったらどうだろう、土地の特性を上手くいかして面白い家はできないだろうか、なんて楽観的に思いました。
 私たちは土地を見に行きました。
 そこはとても使いにくそうな形のちょっとした空き地でした。細長く、庭もあまり取れそうにありませんでした。接道が急坂で、しかも大きくカーブするところ。車の出し入れがとても面倒で、難しそうでした。



 不動産業者と一緒に見たとき、社長の口ぶりはいままでと少し違いました。積極的に売りたくない、という感じでもありませんでしたが、積極的に売り込んでくる、というわけでもありませんでした。いま考えれば、なにかこちらがどんな人間かうかがっているような口ぶりが多かったように思います。ただ、かなりお手頃価格だとは言いました。さらに、売主さんはお金に困っているわけではないので、もう少し勉強することはできると思う。と社長は言いました。ただし、どんな家を建てるつもりなのかプランを出して、このために概算でこのくらいかかるから、このくらい協力してほしいというふうに言ってもらえれば売主さんと交渉でしやすい、と言われました。

 すぐに契約するわけでもないので、松井先生に見てもらって、プランを作ってもらって、それから判断してもいいだろう、と軽く考えました。この狭く細長い土地に、うまく建物を配置することができそうなら、そして、その結果売主さんとの交渉がうまくいくようだったら、その先へ進もうと考えたのです。

 1月25日、松井事務所(「き」組事務局)にメール。3月2日に見に来てくださるとの返答。1か月以上待つことになりました。待っている間に、とんでもない大雪が降ったりしました。そしてもう一つ、気になる物件を見つけました。

 

鋼製建具

2015-04-11 22:21:49 | ただいま普請中
 鋼製建具が入り、部屋の雰囲気がまた一段と引き締まりました。FIX窓も多く、また、中央で分割される引違窓が一つもありません。窓の真ん中に視界を分割してしまう窓枠がないことがどれほどすっきりすることか。
特に吹き抜け部から二階のFIX窓を見上げるととても綺麗に見えました。
  
 
 
  

壁には「不織布」が張られていました。この不織布の向こうにちょっと面白い断熱材が入ります。

これはフローリングかな。

厚いほうは多分ロフト用です。

ここから眺めた松本城はほぼ満開でした。


工事も季節も着実に進み、あと数か月で竣工します。まだまだ実感がなく、不思議な気分です。

構造見学会

2015-04-05 19:08:38 | 勉強
 昨日(4月4日)は設計事務所による「構造見学会」でした。私は3月31日にもちょっと寄りましたので、構造はいつも見ているのですが、改めてきれいな構造に感心しました。壁下地がちょうど格子状に入り、余計に美しく見えます。
 
 
 この日は構造設計をしてくださった悟工房の山中信悟さんも遠路はるばる鎌倉からいらしてくださいました。圏央道がつながりだいぶ早く来ることができたとおっしゃっていましたが、それでも大変遠い道のりを、しかもすぐに仕事があるため日帰りとのこと。家づくりに対する並々ならぬ情熱があり、また建築が大好きな方だと感じました。


 松井先生はいつも「シンプルに見せるのが難しいんですよ」とおっしゃいますが、まさに今回これだけシンプルに整然として美しい架構が実現したのも、山中さんの構造設計サポートによるところも大きいと学びました。
 金物を極力使わないということで、見てみれば土台のホールダウン金物以外は、ほんの小さなものだけしか発見できません。金物がないということがどれだけすっきりすることか。金物がなければ安全ではない、というのは間違いで、場合によっては金物がないと「欠陥住宅」「手抜き工事」だとさえ思ってしまう施主もいるのではないかと想像しますが、本来、民家には金物はなかったわけです。プレカットでつくるようになったから金物で補強しなければならなくなったわけですから、本来のしっかりした構法を採用し、構造計画が間違いのないものなら、もともとは金物がないのが正しい。
 しかし、実際に金物なしの建物を建築基準法に適合するように建てるのは、思ったより簡単ではないようで、きちっとした構造設計が必要なようです。柱を極力少なくし、梁を視覚上も構造上も効果的に配置することを狙うならなおさらで、そうそう真似できるものではないんですね。それで、以前いただいた分厚い「構造計算書」に納得です。さらっと渡されたファイルですが、この厚みは伊達ではなく、じっくり架構が練られた美しく安全な建物であることがこの厚みに現れていると、改めて感じました。

 山中さんは今回は構造設計サポートをしてくださっていますが、普段は住宅を多数設計されている建築家さんです。私たちの家のために、今回建築家が何人関わっているか数えると、実はかなり贅沢です。

 構造見学会では上田市在住の林材ジャーナリストの赤堀楠雄さんにもお会いすることができました。いま林業をめぐって何が起きているのか、私も興味があります。「WOOD JOB」として映画化された三浦しをん『神去なあなあ日常』を読んだとき、なかなか楽しかったのですが、多分実際の林業現場はもっと厳しいものがあるだろう、と思っていました。いまや「森林飽和」(太田猛彦)というくらい森林はあるのに、全体としてはあまり生かされていないわけですから、産業構造的にどんな問題があるのか興味のあるところで、もっと勉強たいと思います。
 赤堀さんは、フリージャーナリストの数がその産業の規模を表しているとおっしゃっていました。たとえば自動車産業、あるいは農業でも、フリージャーナリストの数はかなりになるけれども、林業のフリージャーナリストは2人だか3人だそうです。これだけの森林国で、古来から木をつかって生活してきた日本で、どうしてこうなっているのかは、考えなければならないことがあると感じました。またおあいできたら、もっともっと教えていただきたいと思います。

 夕方は皆さんと夕食会にもご一緒させていただいてしまいました。楽しく、また勉強になるお話の連続でした。皆様ありがとうございました。まだまだお話聞かせてください!

 さてこのようにして、はじめさっぱりわからなかったワークショップ「き」組みの「ワークショップ」の意味がだんだん分かってきました。私は「施主」でお金を払う立場の人間ではありますが、ともに勉強させていただいていることが沢山でてきました。視野の広がる、楽しい経験です。だんだん「施主」であることを忘れてしまいそうです。あぶないあぶない。お金のことをちゃんと考えないと…