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コピーライターが、現代思想とフェミニズムの視点で分析する、ひと味違う映画評。ネタバレ注意!

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父をめぐる旅 異才の日本画家・中村正義の生涯/昭和の写楽?

2013-02-02 | 映画分析
  建築家の安藤忠雄を思わせる知的で力強い風貌。とりわけ眼力の鋭さは並々ならぬものを感じさせる。
 中村正義(1924~77)という郷土の画家がいたことは、かなり以前から知っていたが、正式に作品を観たことがなかった。本作中でその絵を観て驚いた。これはまるでウオーホール?ピカソ?ゴーギャン?彼らが描いた日本画か と紛うほど、その強烈な線描と色遣いに圧倒された。
 日本が世界に誇る名画家を広く知らしめる、という意味でも、本作の公開の意義は大きい。
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 異端の画家と言われている。絵も生き方も実にユニークだ。病弱のため中卒の資格しかなく、美術学校に行けなかったことが、反権力の萌芽となったのだろう。

 本作は、彼の作品を愛してやまない長女・中村倫子(川崎市「中村正義の美術館」館長)が、父の描いた絵の原風景を辿り、彼が希求したものは何か?を探る、未知の父との邂逅の旅の記録である。
それは、観客にも、命がけで病魔・権威と闘いながら描き続けた天才画家の深淵を覗く、という心揺さぶられる体験をもたらしてくれる。

 彼は若くして画壇への登竜門である日展に入選し、特選を重ね1960年、最年少の36歳で審査員になった。
 しかし、日展の中に入って初めて、「古い体質の壁」に突き当たる。改革を試みようとするが、日展の重鎮である師匠と意見が分かれ、輝ける将来を約束されていたのに61年、袂を分かつ。
 日展を脱退し、在野で同志とともに画壇を刷新していくことにする。

 しかし、師の死までの8年間、画塾の脱退者に対する妨害が続く。
 以降、孤高の道を歩む彼は作風を一変させる。「枠に収まらないのが創造だ」と、絵の具に蛍光塗料を混ぜたポップアートのような大胆な技法で原色を駆使、自由で革新的な作品を展開する。

 その一方で、身障者の若い画家の才能を伸ばしたり、映画や舞台の美術にも進出。小林正樹監督の『怪談 耳なし芳一』、武智歌舞伎『一ノ谷物語』、小川益生監督の文化映画、『浮世絵肉筆 日本の華』などで、高い評価を得ている。
 トップクラスの美術評論家でもある武智鉄二に、「中村正義は世界一の画家」と言わしめている。
 
 また、謎の浮世絵師・写楽の研究者としても知られており、著書を出版。狩野派から追い出された江戸時代の浮世絵界の反逆児と、自分とを重ね合わせていたのだろう。そういえば、彼はどこか写楽の浮世絵に似た容貌をしている。

 親友の不遇の画家・三上誠の絵をその死後に買い取り、福井県美術館に寄贈。 鑑識眼の高さを生かして傑作の流出を防いだ功績は大きい。友情に篤い彼の一面が伺える。

 日展との確執では75年、東京都美術館で反権力17団体合同の「東京展」を、「日展」と同時開催。当時、 彼はがんを患っていたにも関わらず、事務局長を買って出た。その執念は留まるところを知らず、医師に限界を宣告されても全力投球。急激に病状を悪化させた。

 その2年後、彼は52歳で逝去する。
 刻々変化する自らの顔を、死の直前まで描き続けた。極限の状況で、苦しみを形に残した神々しいまでの作品群・・・。赤・青・黄などの原色を多用、ピエロもある。ディフォルメしたその絵は、デスマスクを想起させて悲しい。
 ついには舞妓が白塗りの老女となり、その背後に幽霊のような彼の目玉が光っている・・・。

 暴力的なまでに自己否定し、既存の美術に風穴を開けようとした壮絶な画家人生!「勲章は国家権力。それによって価値が左右される国は、先進国にはない」と言い切る。
 こんなに生き急いだ画家は少ないだろう。「彼の意志を引き継ぐ画家はいない」と岡本太郎は嘆いた。

 倫子の飾り気のない語り口と穏やかな表情に共感し、特異な画家の生涯にグイグイ引き込まれる。
 当時の彼を知る人物たちの確かな証言と温かいまなざし、彼の描いた絵と原風景(現在)との対比、心の軌跡を映し出す豊富な作品群・・・。挿入されるチェロの音楽が心に響く。

 決して多くは語らないが、中村正義の絵画への情熱、卓越した創造力、権威への反抗、人情の厚さなどの原点はどこにあるのかを、観客ひとり一人が感じ取ることができる。
 芸術作品の素晴らしさと芸術家の生き様をじっくりと味わうことができる秀作である。
★★★★★(★5つで満点)
 

 
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