塚本晋也の監督作品。初めて見た彼の作品は「鉄男 TETSUO(1989)」だった。凄まじい迫力と悪夢のような画面に圧倒された。一種の変身譚なのだが、人間の肉体が金属化していくという、異様な素材感覚が、五感の中でも、特に触覚に働きかけてくる。肌を突き破ったり、柔らかな肉に硬い金属が貫入して来る「痛さ」を想像してしまうのだ。
金属化した肉体が世界の憎悪と壮大なバトルを繰りひろげるようなイメージとでも呼べばよいのだろうか?良くは分からないが何かすごい事が起こっているのだけは確かだ。
で、この作品は第9回「ローマ国際ファンタスティック映画祭」でグランプリを受賞する。四畳半のアパートで製作された予算規模1000万円の作品である。
その世界観がさらにスケールアップした続編「鉄男 II BODY HAMMER(1992)」の公開はその3年後のことである。両方とも監督自身が俳優としても出演している。もともと脚本も撮影も美術も、何でもやってしまう才人なのだ。
この作品の後はむしろ俳優としての出演作が多く、名前は知らなくても多くの観客が顔は見ているはずだ。
世紀が明けての、初の塚本信也監督作品が「六月の蛇」である。ホラー色、SF色の無いエロチックなラブ・ストーリーだ。セックスレスの夫婦にストーカーが絡み、倒錯的な性愛を通して妻の精神的、肉体的変化が綴られていく。
作品は2002年のヴェネツィア国際映画祭のコントロ・コレンテ部門で審査員特別大賞を受賞している。この部門はこの第59回から新設された部門で、コンペ部門とは審査員の顔ぶれも違うらしい。コントロ・コレンテは「流れに逆らう」という意味で、「普通の映画」ではない先鋭的な作品が対象となっている。
この作品にしろ「鉄男」にしろ、確かに普通のオジサン、オバサンが足を運んでヒットする映画ではない。そういう意味では作品の方が観客を選ぶ種類の映画だ。
2006年、2008年と登場する監督作品「悪夢探偵」「悪夢探偵2」もその路線は大きく変わらないかもしれないが、これは面白い。是非普通のオジサンにも見てもらいたい作品だ。松田龍平主演というだけでも多少「一般化」の傾向を見ることが出来るというものだ。彼が探偵役、といっても普通の探偵ではない。悪夢探偵なのだ。人の夢の中に入っていくことが出来るという特殊能力を持っている。
普段はまったく冴えないネクラな雰囲気を漂わせた、見るからにダサい青年なのだ。それがいつも「ああ、いやだ、いやだ。ああああ・・・・・」とぶつぶつつぶやいている。まったく特異なキャラクターだ。世界の苦しみをこの細身の体一つがすべて引き受けているような嘆きっぷりなのだ。
シリーズ第2作まで出たが、両作はまったくトーンの違う作品になっている。この先どう展開していくのか楽しみなシリーズだ。
俳優・塚本晋也はNHKのテレビドラマで普通に悩みを抱えた中学教師役を演じたりもしている。この人のどこにあんな作品を撮るエネルギーがあるのだろうと思ってしまう。悪夢探偵と同様、人は見かけによらないものだ。
さらに2010年5月、全編英語のアメリカ版「鉄男 THE BULLET MAN」が登場、公開された。主役には日本在住の写真家でモデルのエリック・ボシックが抜擢されている。
今夜はここまで。明日の夜をお楽しみに。
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