ある宇和島市議会議員のトレーニング

阪神大震災支援で動きの悪い体に気づいてトレーニングを始め、いつのまにかトライアスリートになってしまった私。

【書き込みを読んで3】難波先生より

2014-06-30 13:11:59 | 難波紘二先生
【書き込みを読んで3】
 Unknown (Unknown) 2014-06-27 10:38~Unknown (Unknown) 2014-06-28 05:26の連続した5つの書き込みを興味深く読みました。湯川秀樹の「知魚楽」の出典は、
「湯川秀樹 著作集」(6)《読書と思索》 小川環樹編 岩波書店,1989
http://www.kinokuniya.co.jp/f/dsg-01-9784000914260
中の1.「東洋の思想」にある「知魚楽」という随筆だと考えてよいのですね。ありがとうございました。湯川秀樹は『世界の名著4:老子・荘子』(中央公論社, 1968)の月報で実弟の小川環樹、森三樹三郎と鼎談を行っており、読んでみると二人の専門家に負けない議論をしています。

 「知魚楽」における湯川の解釈と『荘子』原文を以下に対比します。
<荘子が言った。「魚が水面にでて、ゆうゆうとおよいでいる。あれが魚の楽しみというものだ。」(荘子曰、儵魚出游従容、是魚楽也。)
 すると恵子は、たちまち反論した。「君は魚じゃない。魚の楽しみがわかるはずがないじゃないか。」(恵子曰、子非魚、安知魚之楽。)
 荘子が言うには、「君は僕じゃない。僕に魚の楽しみがわからないということが、どうしてわかるのか。」(荘子曰、子非我、安知我不知魚之楽。)
 恵子はここぞと言った。「僕は君でない。だから、もちろん君のことはわからない。君は魚でない。だから君には魚の楽しみがわからない。どうだ。僕の論法は完全無欠だろう。」
(恵子曰、我非子、固不知子矣、子固非魚也、子之不知魚之楽、全矣。)
そこで荘子は答えた。
「ひとつ、議論の根本にたちもどって見ようじゃないか。君が僕に《君にどうして魚の楽しみがわかるか》ときいた時には、すでに君はぼくに魚の楽しみがわかるかどうかを知っていた。僕は橋の上で魚の楽しみがわかったのだ。」(荘子曰、請循其本、子曰汝安知魚楽云者、既已知吾知之而問我、我知之濠上也。)>

 恵子の「全矣」を「どうだ。僕の論法は完全無欠だろう。」と解釈したところが、湯川のオリジナルです。岩波文庫『荘子2』の金谷治訳では、ここは「確実だよ」と、『世界の思想4』の森三樹三郎訳でも「確実だよ」となっています。
 湯川はこれに続く彼の科学方法論、
 <おおざっぱにいって、科学者のものの考え方は、次の両極端の間のどこかにある。一方の極端は「実証されていない物事は一切、信じない。」という考え方であり、他の極端は「存在しないことが実証されていないもの、起こり得ないことが証明されていないことは、どれも排除しない。」という考え方である。>
につなげるために「全矣」を「どうだ。僕の論法は完全無欠だろう。」と誇張して解釈しています。
 「秋水篇」の恵子と荘子と問答は「(魚を含め)他者の心がわかるか」という問題をめぐってのものであり、恵子は形式論理でこれを否定する。荘子の答えは一見あいまいだが、現代の医学・心理学は心の理論とミラー・ニューロンの実証により、荘子の答えが可能であることを示しているというのが私の解釈です。

 湯川秀樹(1907~1981)は森三樹三郎訳『荘子』(1968)をゲラの段階で読んでいますし、金谷治訳『荘子・外篇』(1975)も読んでいたと思われます。
<荘子が魚の楽しみを知ったようには簡単にいかないが、いつかは素粒子の心を知ったといえる日がくるだろうと思っている。しかし、そのためには、今までの常識の枠を破った奇妙な考え方をしなければならないかも知れない。そういう可能性を、あらかじめ排除するわけには、いかないのである。>
と文を締めくくっていますが、「素粒子の心」というような突飛な語彙が飛び出してくるのは「心」という語を補って訳した森三樹三郎訳の影響だと思います。
 <今までの常識の枠を破った奇妙な考え方をしなければならないかも知れない。そういう可能性を、あらかじめ排除するわけには、いかないのである。>というのは、これまでの法則や科学的常識に矛盾する事実が確認されたら、事実を否定するのではなく、常識や既存の法則を見直すことが必要になる、と述べたもので、これはK.ポパーが『科学的発見の論理』(恒星社厚生閣, 1972)で述べていることと同じことです。

 さてSTAP細胞に立ち戻ると、「分化したT細胞がリセットされて胚細胞になる」という事実(証拠)は提出されていません。またもしそれが可能であれば、TCRβ鎖遺伝子に起こった遺伝子再構成(V-J-D結合)が、元の胚細胞型遺伝子に戻ることを意味しています。ランダムに起こったDNA断片の組み替え変化が簡単に元に戻るのであれば、進化という現象の根本が崩れてしまいます。従って私は「獲得形質の遺伝」につながる仮説を支持しないのです。
 小保方が「TCR遺伝子を再構成したリンパ球をリセットできる」と考えたのは、免疫遺伝学をまったく知らなかったからで、西川伸一氏はSTAP細胞の存在を疑っていたから、「分化したT細胞を用いる」というアイデアを出したのだろう、というのが私の解釈です。
 長くなりましてあいすみません。

 <ウィキペディアの削除について (ik) 2014-06-27 21:51>
 ご指摘ありがとうございました。削除がないと知り安心しました。「青空文庫」のようにボランティアで運営されているのですね。時折メールで「寄付依頼」が届きますが、次回から私も寄付することにいたします。WIKI関係者の方だと思いますが、今後ともご活躍を祈念します。
 <退院報告 (酒井重治)2014-06-27 15:40>
 <左冠動脈の根元がほぼ完全に詰まった状態で心筋梗塞寸前>だったのですか、「ステント留置術」が上手く行ってよかったですね。お慶び申し上げます。お大事に。

 <Unknown (ワーキングプア(花職人)) 2014-06-28 01:08>
 月給50万円とかの話は、手取りか額面かもわからないし、誰のケースかも定かでないし、お金の話になるとつい感情的になりがちなので、できれば避けるようにしましょう。
 「新潮45」7月号の「小畑峰太郎と取材班」が追求している「STAP事件の背後にある金脈と人脈」を仮定しないと、理研の対応が後手後手にまわり、今もって「来年4月まで再現実験を続ける」という態度をとっていることが、説明できないように思えます。これが追求すべきポイントだと思います。

 「ワーキングプア」という言葉は米国生まれで、働いているのに収入が生活保護を受けている人よりも少ない人と「現代用語の基礎知識2014」にあります。日本では、
 門倉貴史『ワーキングプア:いくら働いても報われない時代が来る』(宝島新書,2006)が、東京都での「夫婦に子ども1人」のモデル家庭を想定し、都の生活保護基準を元に「年収200万円以下」と定義している。これは月収に直すと15万円強になるだろうか。日産のゴーン社長の年収が約10億円だと新聞で報道されたが、6/28「毎日」によると、1億円以上の役員報酬を受け取った会社役員は全国で181人いるそうだ。 このクラスからみると、他の日本人は全員広義のワーキングプアになる。
 「プータロー」→「独身貴族」→「パラサイトシングル」→「負け犬」→「フリーター」→「ニート」→「ワーキングプア」と時代により呼び名が変わる。

 このブログでの発言はお互いに知的に誠実であることと建設的な意見を述べるようにしたいものです。まず私から他者のコメントを引用する場合には、必ず出典を明記するように心がけます。

<ふと… (アノニマス) 2014-06-29 13:33: 昨日の新聞では、出生前検査で陽性と判断された妊婦113人のうち110人が中絶し、2人が流産、1人が産む決意で妊娠継続中と報道されました。
 このことも踏まえ、果たして生命の源である細胞や遺伝子にどこまで人の手を加えてよいものか?と考え込んでしまいました。もちろん、万能細胞による再生医療や難病治療の発展へ大きな期待を持っているのは確かですが。
 この問題は、私などが答えられる問題では全くないのですが、科学者であるなしにかかわらず、ひとりひとりが、命とは何か?命とどう向き合うのか?という根源の問題を突き付けられているような気がします。>
<ふと… (アノニマス)2014-06-29 13:16 1月末にSTAP細胞が大々的に発表されたとき、体細胞を初期化するので、ES細胞のように受精卵を使ったり、iPS細胞のように遺伝子を操作しないので癌化の危険性が少なく生命倫理上の問題をクリアする画期的な成果と説明されました。まず現時点では、STAP細胞の存在は否定されたと考えますが、もし、何らかのSTAP細胞のような細胞が発見されたとしても、本当に生命倫理上の問題はクリアされたと言えるのでしょうか?>

 難しい問題ですが、まずローマ法皇やキリスト教原理主義者の立場を確認しましょう。ローマ法皇は受精卵を生命の始まりとする立場で、ブッシュ(子)大統領も同じ立場なので発育途上の授精卵を壊して作るヒトES細胞への政府科研費の支出を禁止しました。このため、ヒト体細胞から作る山中さんのiPS細胞がノーベル賞をもらえたわけです。

 人工中絶はカトリックではレイプによる望まない妊娠以外は認めていませんし、米国でも保守的な州は禁止しています。しかし日本では「母体保護法」第14条により「経済的理由」による中絶が合法とされています。
 人工中絶は多胎妊娠の場合には通常の措置として行われています。不妊治療のため排卵ホルモンを注射すると三つ子とか五つ子ができることがあるので、「間引き」を行うわけです。「減胎手術」と呼ばれています。
 またダウン症の場合には、羊水中の胎児細胞を採取して染色体を調べることで、出生前診断が可能なので、古くから行われてきました。ただこの方法では妊婦のお腹に針を刺して羊水を採取するため100%安全とはいえません。

 母体と胎児の血液は胎盤で少し混じるので、胎児の血球が母体血中にも少数出現します。これを利用して母体から採血し、胎児DNAを増幅して、21番染色体が3本ある(トリソミー)かどうか、つまりダウン症かどうかを出生前診断することができます。
 6/12の各紙報道にも問題があり、「確定診断(羊水検査)」を受けないで、他院で中絶したケースが問題とされていますが、「確定診断でダウン症とされた場合には中絶してよいのか?」という問題は報じられていません。

 他方、死刑については、EU加盟国は死刑制度を廃止しており、トルコは加盟を申請するために死刑全廃をやりました。カナダ、オーストラリア、ニュージーランドも同様です。先進国で死刑制度を維持しているのは日本とアメリカの一部の州だけです。
 これらは難しい問題で、拙著「覚悟としての死生学」(文春新書)で詳しく論じてありますので、ご覧下さればと思います。
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42 コメント

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難波先生 (アノニマス)
2014-07-01 09:47:28
ありがとうございます。まさか、先生から直々にコメントを頂けるとは、感激です。ご教示頂いたことで、混乱した頭が少し整理できました。
死刑制度もまた生命倫理の問題だし、終末期医療のあり方や、代理母出産や第三者の精子提供により出生した子供に起きている問題など、この視点で考えなければいけない問題がたくさんあります。ニュースの皮相を追うだけでなく、生命倫理の視点から、これからも考え続けたいと思います。
先生のご著書、ぜひ拝読したいと思います。

それにしても、STAP細胞の実験では、動物愛護団体のPEACEの公開質問状で明らかにされたように、実験用マウスの命がきわめてズサンに扱われていますし、また無意味な検証実験でたくさんのマウスの命が犠牲になります。生命倫理上重大な問題があると言わざるを得ません。小保方氏のような生命倫理を欠き、生命への謙虚さを持たない研究者がいるというのは、とても恐ろしいことです。
Unknown (Unknown)
2014-07-01 15:50:48
今日はいよいよ最終公判です。患者さん、万波先生の誠意が裁判官に伝わるといいですね。
「アノニマス」さんも難波先生のこと尊敬してらっしゃるようですから、万波先生の応援団ですね。みんなで、万波先生を支えて行きましょう。それにしても「NATROM」応援団の「片瀬久美子」という人も怪しいですね。名乗らないのでおかしいという批判に、『NATROMさんはずっと同じハンドルネームでやってきた』とかいう反論です。この人大丈夫ですかね?
Unknown (Unknown)
2014-07-01 19:14:08
そうですね。難波先生も書かれていました。STAPの事で「修復腎移植」への理解が広まってくれれば有難いと。私などは医学も科学も全くの素人で、何の力にもなれませんが、「アノニマス」さんは聡明な方だと思いますので、是非「NATROM」という人が嫌がらせをしてきたら、対応をお願いします。
Unknown (ワーキングプア(花職人))
2014-07-02 01:08:46
こんばんは。
連日暑くなりましたね。
公判に朝早くに出て帰宅は遅くなり、裁判というのはエネルギーの要る作業ですね。難波先生、万波先生、皆様、どうか御身ご自愛ください。

多謝
恥ずかしい (アノニマス)
2014-07-02 09:27:14
お褒め頂いたのはうれしいけど、私が聡明だなんて恥ずかしい限りです。
学力も知識も皆さんよりはるかに持ち合わせていませんし、頭もよくありません。3歳児の『なぜ、なぜ?』と同じレベルの動機で、乏しい脳みそをフル回転させてやっと少し理解できたかな?程度ですから。
修復腎移植の理解が進むといいですね。万波先生、難波先生を応援します。私に何ができるかわかりませんが。

STAP論文事件を通してみて、私には大きな不満があります。
若山先生は、科学者として事実を解明する行動され、それを社会に発信してきました。丹羽先生は、検証実験に自ら手をあげ、STAP細胞の存否を明らかにしようとしています。
これに対して、笹井先生は、あのSTAP細胞発表時の過剰な演出やiPS細胞に関する間違った認識を広めました。、4月16日の会見では、『STAP現象は有力な仮説。』『STAP現象がないと説明できないことが多すぎる』などと発言し、いわゆる小保方擁護派の期待を後押しして社会の混乱を助長しました。また『若山先生が』『世界の若山が。』と責任転嫁の発言に終始しました。

つづく
つづき (アノニマス)
2014-07-02 09:44:42
お陰で、今や小保方擁護ができなくなった擁護派の感情が、小保方氏を窮地に追い込んだ若山憎しとなり、若山バッシングに向かっている書き込みがネット上に散見されます。
これらのことに対して、笹井先生は、混乱を鎮静化させるため、社会に向かって前言を取り消すなり、現時点どう考えいるかなり、説明する必要と責任があると思います。それなのに、あの日以来、コメントの一言も発せず雲隠れです。無責任過ぎるのではないですか?
Unknown (Unknown)
2014-07-02 14:47:05
三人揃って会見しないから駄目なんです。若山さんも被害者ぶってるからいけません。当事者ですよ。三人共罪は重いです。
退院後の生活 (酒井重治)
2014-07-02 16:05:55
難波先生や多くのサイト来訪者の方々に労っていただき感謝いたしております。
現在は体力回復のために自宅療養しております。
しかし、血圧降下剤などの副作用が激しく、退院三日後に服用を中止しました。よって食事制限と肥満解消に全力を注いでいる状態です。
STAP問題は小保方氏の実験参加で落ち着いたようですね。
STAPの有無など、今後の情勢が色々と楽しみです。
あればあったで賞賛しますよ私は。
あ、ふと。あ、でも、 (Unknown)
2014-07-02 16:19:27
アノニマスさんは本当に若山さんがお好きなんですね。ひょっとして、奥さんですかね。「バッシング」というのは違いますね。週刊誌などで小保方さん、笹井さん、若山さんらの関係を面白おかしく書き立てるのはおかしいと思います。このブログにも小保方さんが甘えた声で何とかとか、下品な書き込みがありました。アノニマスさんは小保方さん、笹井さんの事はとても批判しておられます。一方若山さんのことは怪しいほど擁護されています。自分の事は分からないんですね。小保方さん、笹井さんは批判してよくて、若山さんはいけないという理屈は有りません。若山さんは過去の研究でも動物実験に関する手続きが怪しいと、動物保護団体に指摘されています。おかしいと思うことを書き込む。アノニマスさんは違うんですかね。
酒井様 (Unknown)
2014-07-02 16:48:34
難波先生も薦めておられましたが、糖質制限食を推奨します

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