ある宇和島市議会議員のトレーニング

阪神大震災支援で動きの悪い体に気づいてトレーニングを始めいつのまにか、トライアスリートになってしまった私。

号外8-5-2014鹿鳴荘便り【カンメラー事件と自殺】難波先生より

2014-08-06 09:47:08 | 難波紘二先生
 8/5(火)10:30頃、家内から仕事場に電話があり、NHKが「笹井氏自殺」という衝撃的なニュースを報じた、と教えてくれた。すぐに「NHKニュース」をパソコンで確認し、Googleニュースでさらに情報を集めた。理研CDBの事務棟と研究棟は離れている。

 諸情報を要約すると、<5日午前9時前、CDBに隣接する先端医療センター病院内で、巡回中の警備員が、階段の4階と5階の踊り場付近で手すりにひも状のものをかけて首をつっている笹井氏を発見した。(笹井氏の研究室は2階にある。秘書の机上にも「遺書らしきもの」があったという。)神戸市立医療センター中央市民病院に搬送されたが、午前11時3分に死亡が確認された。… 近くにはかばんがあり、中から理研関係者らに宛てた遺書が見つかった。

 理研の同僚によると、笹井氏はSTAP細胞の論文問題後から心療内科を受診し、最近は薬の副作用ではっきりと会話することが難しかったという。>

 というような状況らしい。私は「理研緊急記者会見」をPCの「ニコニコ動画」で見たが、視聴者の意見が画面上部に2行で流れるが、同情の意見がほとんどなく、<白いサムラゴーチ>、<小保方も続け>というような激しい書き込みがあり、驚いた。質問している記者を叱咤する意見もある。

 死者に対しての慣例に従い、故人に哀悼の意を表したい。

 家内の電話を聞いた瞬間に、私は「カンメラー事件」の結末を思い浮かべていた。

 獲得形質の遺伝は今日、否定されている。

 http://blog.goo.ne.jp/motosuke_t/e/76729bae3e252ab884ffd9f8e5fc1ab9



 しかし、それを主張した20世紀の生物学事件に、有名な「ルイセンコ事件」とあまり知られていない「カンメラー事件」がある。後者はドイツ(当時は「西ドイツ」)の作家アーサー・ケストラー(「真昼の暗黒」で有名)が、1971年ノンフィクション小説『サンバガエルの謎:獲得形質は遺伝するか』(岩波現代文庫,英訳からの重訳)を書いてから、一躍、知られるようになった。

 1880年ウィーンに生まれたパウル・カンメラーは最初「ウィーン音楽アカデミー」に学び、後にウィーン大学で動物学を学んだ。女性関係も豊かで、音楽家グスタフ・マーラーの未亡人アルマは、彼の研究助手になった。カンメラーは「獲得形質の遺伝」説に惹かれていて、それを証明する一連の実験を行い、第一次世界大戦前のヨーロッパの生物学会に衝撃を与えた。

 中でも「サンバガエル」というカエルの前足の付け根に、飼育条件を変えると「婚姻瘤」(ヒトの親指の母指球筋のようなコブ:但しカエルには母指がなく4本指。婚姻瘤があるとオスがメスを抱えるのに有利)ができることがあり、これができたカエルでは婚姻瘤が継代遺伝する、と学会発表して大論争になった。カエルを他の実験室に分与しない、組織標本を分与しない、などで不審と批判が募り、1926年オーストリアの山中でピストル自殺した。懐中には死後の措置についての遺書があった。



 彼を自殺に追いつめたのは、1926年初夏に米自然史博物館の動物学者K.ノーブルがカンメラーのいた「ウィーン実験生物学研究所」を訪問し、1匹だけ残されていたカエルの婚姻瘤を調査し、8/7付「ネイチャー」に「婚姻瘤は皮下に墨汁を注入して造られたものだ」というレターを発表したことにある。

 カンメラーはモスクワ大学生物学教授に任命されて、ウィーンを発つところで「ネイチャー」を読み、「私の全生涯をかけた研究が疑いの目で見られるのは確実ですが、私は標本の捏造には関係していません」とモスクワ科学アカデミー宛てに、手紙を投函し、その翌日に自殺した1)。今日、墨汁注入はマーラー未亡人で、カンメラー夫人となったアルマが関与していた可能性があげられている。

 カンメラーは社会主義者でロシア革命後はソ連支持であった。ルイセンコはもちろんソ連の科学者だ。社会主義者は一般に「環境により生物の性質が変わり、それが遺伝的に固定される」という「ラマルク学説」を好み、「獲得形質は遺伝しない」という「ダーウィン学説」を否定する傾向がある。社会主義になれば環境が変わるので、人間性も遺伝的に向上するという「理想主義」に都合がよいからだ。

 1)W.ブロード& N.ウェイド:「背信の科学者たち」,講談社, 2014

 (もっとも「捏造に関与していない」という彼の主張はそのまま受け容れられてはいない。)



 歴史的には「カンメラー事件」が先に起こり、その教訓が生かされないまま、「ルイセンコ事件」が起こった。

 「STAP細胞」は真実であれば、分化した体細胞が生殖細胞になりえることを意味しており、<細胞生物学の世界において驚天動地の「大発見」といえる>と3/11メルマガに書いた。

 事実、論文共著者のひとり笹井氏は「コペルニクス革命」に匹敵すると述べている。

 http://www.cdb.riken.jp/en/04_news/articles/pdf/14/140130_stap.pdf

 体細胞が新たに獲得した遺伝的変化が、そのままで簡単な酸処理により生殖幹細胞になるというのは、まさに「ダーウィン学説」の否定であり、「ラマルク学説」への復帰だから「コペルニクス的転回」になるはずだった。




 理研の緊急記者会見は広報担当者ひとりが対応し、遺書の数と宛先、その内容、笹井氏が昨夜帰宅しないで深夜に縊首したのか、今朝、出勤後に自殺したのかについても、「今後の検討により、把握していません」と述べた。

 「毎日」は<笹井氏を指導したことがある京都大名誉教授で大阪バイオサイエンス研究所の中西重忠所長(72)は数日前、笹井氏に電子メールを送り、「がんばりなさい」との言葉も添えたが、返信がなかったという。中西氏は5日午前に記者の取材で笹井氏が自殺を図ったことを知り、「忙しいのかなと思っていたが、まさかこんなことになるとは」とショックを隠し切れない様子で語った。>

 http://mainichi.jp/select/news/20140805k0000e040204000c.html

 と恩師のコメントを伝えている。官僚の汚職事件なんかでは、部下が自殺してくれて救われる上層部がいるが、STAP事件に関わりのない理研など以外の科学研究者には一大ショックだろう。




 まだ「笹井自殺」については情報収集が不十分だ。しかし前から「獲得形質の遺伝」を主張したカンメラー事件と小保方事件は、捏造したのが助手クラスで、利得をえたのが教授クラスという点でも類似性があると思っていた。理研のガバナンスが腐敗しているために、「歴史はくり返す」になってしまった。

 Nスペで、ある学者が「たった一本の論文のために、(笹井氏は)すべての業績を失ってしまった」という発言をしていた。

 「私の全生涯をかけた研究が疑いの目で見られるのは確実ですが、私は標本の捏造には関係していません」というカンメラーの最後の手紙を想起した。私には笹井氏の心境がわかるような気がする。「罪を憎んで人を憎まず」という精神を持ち続けたいものだ。
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14 コメント

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Unknown (からしだね)
2014-08-06 10:26:45
私も先生に倣い、故人に対し哀悼の意を心から表したいと思います。また、「罪を憎んで人を憎まず」という精神を、私も持ちたいと思います。
そしてなお一層、今回の事件の解明を続けていく必要があると感じました。死を美化することで真相を闇に葬るようなことがあってはならないと思います。
関係者の方々、特にご遺族に対する配慮は大切ですが、今後も一市民としてこの問題に関心を持ち続けたいと思います。
往生際 (酒井重治)
2014-08-06 14:27:02
笹井氏の遺書内容が少し公開されているようだ。
小保方氏に対して「あなたの所為ではない、STAP検証を成功させてください」という趣旨のものだったらしいが
往生際の悪い遺書だ。
事件の真実が明らかになって、笹井氏の心境がはっきりと読めた時に、初めて哀悼の意を表すればいい。
批判派として今はそんな気分にはなれないな。
Unknown (Unknown)
2014-08-06 15:00:53

罪を憎む
小保方氏は自ら主体的に理研で研究ワークを志向したのだろうか?それとも誰かと誰かと誰かが敷いたレールに乗っけられていたのだろうか?

http://www.yomuradio.com/archives/849?utm_content=buffer90163
ひょっとすると (酒井重治)
2014-08-06 15:31:35
ひょっとすると笹井氏は利用されただけなのかも知れないね。
だから糞真面目に論文を訂正して完成させて。
ひょっとすると笹井氏はSTAPを疑わないように仕向けられたのかも知れないね。
儲かった人は今頃ビクビクしてるかもね。
ひどいことになった (脳天壊了)
2014-08-06 20:28:12
敢えて間違っていることを書きます。
笹井さんは殺されました。これでCDB解体は遠のき、胡散臭い遺書により再現検証は続行されます。
利益を得るのは、理事長、武市、小保方、そして文部科学省。下村はこの事件に口を出し、安倍の言いなりであることを世間に晒しました。しかも理事長はこれを拒まない。私は理研は根底から腐っていると思います。笹井は悪でしたが、その悪でも耐えがたいのが文科省と理研です。もちろん小保方は以前はともかく今はまっ黒け。
Unknown (Unknown)
2014-08-06 21:56:46
突然の訃報に驚きました。
どうか安らかに。

今後、不正の真相究明はきちんとしてもらいたいです。
それにしても、昨日の午後の段階で小保方氏あての遺書の一部が報道されています。
これは、ご家族に対してあまりにも無神経で酷すぎます。
アルマはカンメラーの妻ではありません (メダカとトクサ)
2014-08-07 01:16:17
笹井氏のご冥福をお祈りします。
研究不正についての究明をきちんとすることが、科学者である笹井氏の供養になると信じます。
ところで、アルマはカンメラーの助手や夫人ではありません。
交際の噂が立ったことはあるようですが。
あれ?と思い、アルマとカンメラー両方の情報を確認してみました。
Unknown (Unknown)
2014-08-07 03:23:13
笹井先生のご冥福をお祈りします。

コメント欄で再三指摘していますが、「獲得形質の遺伝」と見られる現象の一部はエピジェネティクスにより説明可能です。カンメラー博士の実験については、サンバガエルやサラマンダーの飼育が困難なため(特にサンバガエルの水中繁殖はカンメラー以来誰も成功していない)、検証がなされていませんが、エピジェネティックな変化により説明できるかも知れないという指摘が近年なされています。
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/19729631
http://www.captura.uchile.cl/bitstream/handle/2250/13375/VARGAS_ALEXANDER%20O..pdf;jsessionid=84B01799CF154846E9812D39D6D0AF25?sequence=1

メダカとトクサ様
アルマがカンメラーの助手をしていたのは事実のようです。カマキリか何かの世話をしていたみたいです。
正式に結婚していたかどうかは確かめられなかったのですが、一時期愛人であったようです。恋愛に関して最も詳しく記述しているのがフランスのwikipediaであるのはむべなるかな、といったところ。
http://fr.wikipedia.org/wiki/Paul_Kammerer#Sa_liaison_avec_Alma_Mahler
おかしな慣用句 (酒井重治)
2014-08-07 04:30:30

「罪を憎んで人を憎まず」か・・・・
しかしおかしな慣用句だ。
罪と人を分離するなんて。
そもそも罪は人が作るもの。罪を作った人をなぜに憎めないのか、まったくもって理解不能だ。
五輪柔道金メダリストの内柴氏は準強姦罪などで有罪となったが、彼は数々の名誉賞を剥奪されている。
これこそ罪を憎んで人を憎むを地でいっている仕打ちだ。
この世の中、こんなもんだ。
県民栄誉賞とか一度与えたものを奪い取るなんぞ強盗罪で訴えてもいいんじゃないか?

「STAP現象は価値のある研究」とか嘯いて、あげくに良心の呵責に耐えかねての自殺に冥福など祈れるか。
Unknown (Unknown)
2014-08-07 05:09:18
酒井様

どうぞ落ち着いて。
気分の優れないときはネットなぞ見ずに、お好きな映画でも観てリフレッシュしてくださいませ。

議論がどうしてもしたい、と仰るならお相手になりますが、決して
「強盗罪(刑法236条)は財物にのみ適用されるため、名誉賞の剥奪には適用できません」
とかの返答を期待していらっしゃる訳じゃないでしょ?
落ち着いていられるか (酒井重治)
2014-08-07 05:27:58
よくぞ人の心内を見抜かれましたね。
まったく批判派たちの情けないことといったらありゃしない。
いざ主要人物が自殺したら「ご冥福を」だってさ。
ふざけるなと言いたい。
あれだけの騒がせておいて「STAP検証成功祈る」だと?
死んでまで言い張るたぁ悪党の極みだ。
Unknown (メダカとトクサ)
2014-08-07 07:16:04
情報ありがとうございます。
アルマが自伝に書いているようなので、マーラー死の直後の1911から12年頃の短期間、
助手をしてカマキリの面倒をみていたのは事実のようですが、
少なくとも不正を働いた助手ではありません。
恋愛については、短期間付き合っていたかもしれませんが、
アルマがカンメラーを振ったみたいですね。1912中にはアルマはココシュカのもとへ。
アルマもカンメラーもその生涯には恋愛話がたくさんあるのですが、
アルマの項目を設けて長文を書くフランス版(苦笑)。
アルマの有名税でしょうか。
Unknown (Unknown)
2014-08-07 11:52:02
メダカとトクサ様

仰る通り、アルマは1926年頃の実験には関わっていないと思います。2人の恋愛の終わりは、カンメラーが振ったのかと思っておりました。12年頃にDora夫人と離婚してAnna Waltと再婚していますから。その後またDoraの元に戻っていますね。
アルマの自伝は"And the Bridge is Love"でしょうか。私は読んでおりませんが、記述のあるページを見つけました。
http://www.alma-mahler.at/engl/almas_life/kammerer.html
"To this end I was to teach them (praying mantids) a habit a futile endeavor, since you could not teach the little beasts a thing. I was to feed them at the darkened bottom of their cage, but they preferred to eat high in the sunlight and firmly refused to change this sensible attitude for Kammerer's sake. I kept records, very exact records. That, too, annoyed Kammerer. Slightly less exact records with positive results would have pleased him more."
最後の3行が真実であれば、不正をした事実はなさそうです。一応へたくそながら訳出しておきますと、「私は記録を、非常に正確な記録を取っていました。このことも、カンメラーをいらいらさせていました。もしほんのちょっといい結果を含めた不正確な記録を見せていたならば彼をもっと喜ばせてあげられた事でしょう。」
Unknown (気になる)
2014-08-07 19:32:03
気持ち的にはご冥福と言いたいところだが、そういう風に言うことがはばかられるほど、彼の死を擁護に使おうとする変な力関係の揺れ戻しがあっていやな感じ(相撲じゃないんだから)。
笹井さんが死して清廉潔白のように扱われるのは、死者の歴史を利用されているような気がして大層気分が悪い気がします。

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