ある宇和島市議会議員のトレーニング

阪神大震災支援で動きの悪い体に気づいてトレーニングを始めいつのまにか、トライアスリートになってしまった私。

【読書日記5】難波先生より

2014-12-04 19:50:40 | 難波紘二先生
【読書日記5】
 11/27(金)「買いたい新書」のGoogleヒット数が188万件を突破した。1位がエフロブ「買いたい新書」の書評、2位が「武田元介ブログ」の「鹿鳴荘便り」、3位がアマゾンの本だ。これは永井隆『ロザリオの鎖』という希有な随筆集を取りあげたことによる、一時的な現象だろう。
 日曜日の新聞書評で、2紙が独立して書評している本は、まず買うことにしている。
 海原亮『江戸時代の医師修業』,吉川広文館を毎日と日経が取りあげていた。日経は文化部が、毎日は『武士の家計簿:「加賀藩御算用者」の幕末維新』(新潮新書,2003)を書いた磯田道史が担当している。
 これは神坂次郎『元禄御畳奉行の日記:尾張藩士の見た浮世』(中公新書, 1984)と同系列の江戸庶民史で、どちらもよく売れたのを記憶している。
 磯田は江戸期の医療史が「医師目線に偏っている」と批判しているが、フランスの「アナール派」のように、空想で歴史を書くのならともかく、日記なり修業記や紀行文を残しているのは医師や武士に圧倒的に多いから、百姓町民の一次資料が出てこないと、ちと無理ではないか。
まあ、この本を取りよせて読んだらまた取りあげよう。

 考古学・古代史ファン向けの雑誌『季刊邪馬台国』(責任編集=安本美典)から連絡があり、上原善広『石の虚塔』(新潮社)と竹岡俊樹『考古学崩壊』(勉誠出版)の書評を依頼された。
 後者は故角張淳一さんとともに2000年春に、藤村新一発見による「旧石器遺跡」が捏造であると最初に指摘した研究者だ。
 なぜそれが半年以上も遅れて、2000/11「毎日」の、しかも北海道支社による「世紀のスクープ」となったのか。答えは毎日新聞旧石器遺跡取材班『旧石器発掘捏造のすべて』(毎日新聞社, 2002)を読めばわかるが、「STAP事件」と同じ構造で、東京本社科学部は批判に耳をかそうとせず、ひたすら学会の権威の言うことだけを信じ続けたのである。
 学会の中でも責任が重いのは、藤村新一の発見に依拠して多数の報告書や論文を書き、文化庁の「主任文化財調査官」となり、座散乱木(ざざらぎ)遺跡等の捏造遺跡を国指定重要文化財にするのに影響力を行使した岡村道雄だろう。
 この時、講談社は民間歴史学者の網野善彦が中心となり、「日本の歴史全26巻」の刊行が始まり、No.00網野善彦『<日本>とは何か』(2000/10)と①No.01岡村道雄『縄文の生活誌』(2000/10)が同時発売されたばかりだった。岡村は1948年生まれで、「団塊の世代」に属している。生協で売られていたこの新刊本を私は2冊とも買って、岡村の著述にあきれた。手法がアナール派とそっくりなのだ。歴史ではなく「物語」を書いている。
 事件発覚後に「毎日」夕刊で丸谷才一が「小説的な語り口は、著者の知力や認識力を疑う…、回収・絶版もしくは欠巻を勧告すると共に、この歴史シリーズに推薦文を寄せた不明を詫びる」とまで書いたそうだ。(下記③、p.129)
 この本は捏造確定後に講談社が自主回収した。旧本の読者には2002/11になって返品と引き替えに②岡村道雄『縄文の生活誌・改訂版』が配布された。私は両方とも持っている。あきれたことに、この人物は③『旧石器遺跡「捏造事件」』(山川出版社, 2010)で開き直り、④『縄文人からの伝言』(集英社新書, 2014)では「終わりに」の末尾に「旅する杉並の縄文人おかむらみちお」と書いている。つまり「縄文人」というのは今から5000年前に住んでいた人たちではなく、岡村個人のことで、伝言というのは自分の説を聞けということなのである。

 網野が監修した『縄文の生活誌』と『縄文の生活誌・改訂版』には索引と引用文献リストがあるが、③も④もそれらが一切ないクソ本だ。いや「一切ない」というと語弊がある。④には「第6章:縄文的生活文化の終わり」で、章末に6点の文献が掲げられているが、主要な参考書が、中村隆英『昭和史(上・下)』(東洋経済新報、文庫本)だけなのには驚いた。
 要するに、日本人は1960年代に高度成長経済が始まるまで、「縄文人的生活」をしていた。それが1960年代を境として根本的に変わって、日本社会がおかしくなった。環境破壊が起こった。だから、もう一度縄文人の生活に戻ろう、というのが「岡村縄文人の伝言」。

 同じ団塊の世代の小阪修平が書いた『思想としての全共闘世代』(ちくま新書, 2006)でも、全共闘世代を客体としてとらえきれず、団塊の世代と全共闘運動の関係もまったく説明されていない。私がこの小阪の本から学んだことは、「勝ち組・負け組」という言葉が、全共闘世代の間で、「体制順応派」と「こだわり組」を意味する言葉として用いられ始めた、ということだけだ。
 岡村も小阪も大学で基礎的な勉強をしていないから、書くものが「言葉のサラダ」になっているが、論理的な思考がまったく見られない。たとえば「ポストモダニズム」という言葉が何度も出てくるが、さっぱり定義説明がない。
 ピーター・ワトソンの「The Modern Mind」を読めば、第二次世界大戦に参加した国々ではどこでも戦後に「団塊の世代」が誕生しており、彼らに受け入れられたのが「マルクスとフロイドを結婚させる」ことを試みたパリの哲学者、J=F リオタールの『ポストモダンの状況(The Postmodern Condition)』(1984)である。(リオタールについてはWIKI「リオタール」を参照されたい。)この本は1988年に邦訳が出ている。
 彼も広義の「フランクフルト学派」に属する。
 ずいぶんよそ道にそれたが、1950年生まれの竹岡俊樹『考古学崩壊』の書評をするための視座が確保できたように思う。後は書くだけだ。

 11/20:アマゾンがキンドル版電子ブックだけで出している、時事問題研究会・編「あなたのせいではない:笹井氏の自殺、小保方氏を巡るSTAP細胞の今」という本を見つけた。値段が¥108とメチャ安いのでキンドルにダウンロードしてみた。8月の中旬に出ているから、笹井の自殺直後だ。理研記者会見の全文、4/16小保方論文の疑惑が高まった後での、笹井記者会見の全文が資料として載っているので、便利だ。
 笹井記者会見資料によると、<記者から寄せられた「STAP細胞を信じるのか?」との質問については、「科学は宗教ではない。信じる信じない、ということではない」としながらも、STAP現象については「検証を行うと決めた以上、あくまでも“検証すべき『仮説』”とする必要がある」「『ES細胞の混入の可能性』といった仮説では説明できない部分があり、観察データに基づく限り“検証する価値のある合理性の高い仮説”であると考えている」と説明しました。>とある。(同書No.661)
 これでわかった。笹井はバカな記者どもを煙にまくために、「仮説(Hypothesis)」と「作業仮説(Working hypothesis)」を混同させたレトリックを用いたのだ。
 笹井が言わんとしていることは、「検証実験を行うことが理研として決定された以上、実験をやらなければならない。実験には「ある」と仮定する作業仮説が必要だ。(私の下に提出された)観察データに基づく限り“検証する価値のある合理性の高い仮説”だと考えている、と述べたのであり、どこかの新聞が書いた「STAP現象は合理性の高い仮説」というロジックなど使っていない。

 これを読むと笹井は1962年生まれで、京大医学部を卒業後、神戸中央市民病院で臨床研修。その後、京大大学院に進学し、神経発生の生化学を研究し93年に学位を取得。その後UCLA医学部に留学、帰国後の98年に、36歳で京大再生医学研の教授に。だが、わずか3年後の2000年に理研CDCのグループディレクターとして転出。
 自殺する前にはCDCの若い研究員に対して、「研究室がなくなるかも知れないから、新しい就職先を探した方がいい」と話していた、とある。
 これを読む限り、笹井は正常な判断力を保持している。

 昔、役所で汚職があると、中間管理職が追い詰められて、屋上から飛び降り自殺なんかして、結局事件がうやむやに幕引きされるというケースが多かった(政治の世界や会社でもあった)が、あれと同じケースだな。
 8月の時点でこのキンドル版の存在を知っていれば、わざわざ週刊誌や月刊誌をいろいろ買い集める必要はなかった…。「ポスト・グーテンベルグ」の世界とは、こういうことかな。「ごまブックス」頑張れ!

 立花隆『読書脳:ぼくの深読み300冊の記録』(文藝春秋、2013/12)は、今年「毎日出版文化賞」を受賞した本で、「買わなければ」と思っていたが、書庫を検索したらあった。昨年出てすぐ買い、パソコンの「蔵書目録」に入力しないまま一時的に「立花本」の棚に置いて、買ったことを忘れていた。あやうく二度買いするところだった。
 「週刊文春」に月1回、2006/12〜2013/3月まで連載した書評57本が収録されている。全体で292冊の本が批評されていて、1回平均5冊強ということになり、大変な数だ。使う文字数は43字X85行=3,655字。一冊平均、400字詰め原稿用紙2枚に満たない。圧縮された書評の芸術に感心する。
 巻頭に約30頁にわたり、東大図書館副館長石田英敬との対談記録「読書の未来」があり、これが抜群に面白い。石田が紹介した「ディープ・リーディング(Deep Reading=DP:深い読み)」という言葉が、本の副題に用いられている。
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