ぼくは行かない どこへも
ボヘミアンのようには…
気仙沼在住の千田基嗣の詩とエッセイ、読書の記録を随時掲載します。

やがて夜の霧が

2009-04-21 23:03:15 | 寓話集まで
あたかも
どこからともなく
のように
ほーと啼く鳥の声が
呼ぶ

旧国道の向こうの
丘の斜面の寺のうえの
稜線を超えて広がる墓地の杉木立ちの
一本の杉の枝に止まっている
にちがいない名もない鳥
種名がないのではなく
固有名を欠く鳥

おまえを呼ぶ啼き声
寂しい
と言ってはいけない
恐ろしげな
と言ってもいけない

あたかも
おまえを欺く
トリッキーなマジシャンのように
あるいは
あざ笑う
白塗りの道化師のように
虚仮おどしに過ぎない

ほーと啼く鳥の声に
誘なわれ
曲がった鉄砲玉のように旧国道を横切るとき
曲がった坂道を下るメルセデスCクラス
に弾き飛ばされ
一命を取りこぼすことの無いように

やがて
夜の霧が
旧国道に沿って坂を昇り
丘の斜面をあちらがわもこちらがわも等
しく白く覆う

霧が晴れると
冬の深い空が
星の光を透き通るように地上に落とす

その夜は
太郎が眠る
次郎が眠る
三郎が深夜のラジオを布団を被って隠れ
て聴く
四郎が眠る
五郎が眠る
花子が深夜のコンビニの駐車場で花を売

春は未だ売れない

春は未だ売り物にならない

花が売れない間は
携帯のメールでちゃかちゃかと
情報をやり取りする
中身が問題でなく
やり取りの行為を継続することが必要で

ときおり花に興味をいだく客が現れても
返信に忙しく
着信を読み取るのにかまけ
売り逃す

ああ今晩も一本も売れない
帰って親方からぶたれる
一発二発

ああ痛い
痛い痛い

星は
あの空の星は
痛みも何も知らず
美しくあの高みで光っている
決して泣くことはない
涙を知ることはない

固有名を欠く鳥のように
哀れを誘う啼き声はたてないに違いない



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1 コメント

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夜の闇と家族 (私)
2010-02-27 14:43:31
 三好達治のように、幸福な家族の、雪が降りつむ深夜の光景か、一人はぐれたマッチ売りの少女か、霧に包まれた夜の闇は不気味で深い。

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