ぼくは行かない どこへも
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気仙沼在住の千田基嗣の詩とエッセイ、読書の記録を随時掲載します。

猪谷千香 町の未来をこの手でつくる 紫波町オガールプロジェクト 幻冬舎

2016-12-05 20:07:43 | エッセイ

 「つながる図書館」(ちくま新書)の猪谷千香さんの新著。岩手県紫波町の図書館を中心とした町づくりのリポートである。

 紫波町の町役場職員の高橋堅さんは、自治体学会の仲間であるが、この本にも登場する。また、図書館づくりの先進事例として視察した紫波町図書館の工藤館長さんや主任司書の手塚美希さんも登場する。

 実は、東北ローカルジャーナリスト養成講座というものに、アカデミック・リソース・ガイド(ARG)の岡本真さんがお出でになるということで、紫波町に駆けつけた際に、図書館入口前の総合受付で買い求めたものだ。

(養成講座の様子は、http://jcej.hatenablog.com/entry/2016/11/18/102412 )

 

 「岩手県紫波町。…(中略)…東京からわざわざこの町へ足を運ぼうと思い立ったきっかけは、紫波町の図書館だった。」(7ページ プロローグ)

 

 「オガールプロジェクトとは、いったいどういうものなのか。/2014年夏、初めて紫波町を訪れた私には、まだ理解できていなかった。よくある駅前の開発事業なのだろうといった程度で、興味はあくまで図書館にあった。」(11ページ)

 

 と、私も、紫波町と言えば、図書館というふうであったが、あらためてこの本で、全体像を教えられたといっていい。(役場の企画課長、その前は公民連携室長であった高橋堅さんから、以前に機会があって、現地を案内していただきながら、お話しは伺っていたのだが。)

 

 「地方自治体が苦境にある中、オガールプロジェクトの奇跡を見ようと今、全国から政治家や自治体関係者、まちづくりに携わる人々が紫波町を訪れ、模倣しようとしている。」(16ページ)

 

 こういう紫波町の現在を造ったキーパーソンとして挙げられるのが、岡崎正信氏。地元紫波町の建設会社の専務取締役、というだけでなくて、「紫波町の公民連携事業を民間側から推進してきた」人物だという。「東京の大学を卒業した後…『地域振興整備公団』(現・都市再生機構)に就職。…各地の都市再生事業の現場を歩いた。…建設省に出向」も経験した後、紫波町に戻った経歴を持つ。(岡崎氏のお名前も、高橋氏から聞いてはいたはずだ。)

 

 この岡崎氏の、役場側のパートナーとして紹介されているのが、鎌田仙一氏で、岡崎氏と同時期に東洋大学の大学院で「公民連携」を学ばれたという。2013年に川崎市の中原図書館を会場に開催された日本図書館協会の建築研修会で、このプロジェクトの紹介をされたのが、恐らく鎌田氏ではなかったかと思うが、ちょっと資料を探し出せないので、定かではない。(ネットの検索にもうまく引っかかってこない。)この研修会は、気仙沼の新しい図書館づくりを進めるうえで、私として、大変に勉強になった機会で、のちに、紫波町の図書館を視察先に選んだのは、このときの報告がきっかけであったのは言うまでもない。

 この紫波町の図書館は、役場内の担当が、町長部局の企画課である。教育委員会事務部局ではない。

 

 「紫波町でも、図書館建設の準備を円滑に進めるため、公民連携基本計画が策定された2009年、図書館整備業務は教育委員会から町長部局へ移管された。」(184ページ)

 

 高橋堅さんによれば、形式的には、教育委員会から町長部局に事務委任しているとのことであった。なるほど、そういう手はあり得るなと思わされたところだった。全国的には、公民館も含めた社会教育分野、生涯学習という言い方を使っているケースが多いと思うが、首長部局に移しているケースは散見される。

 紫波町図書館の特色として挙げられるのは、農業支援コーナーの充実であるが、その立役者として、秋田県立図書館の山崎博樹氏が登場する。図書館のビジネス支援のエキスパートである。

 

 「図書館整備検討委員会…の委員長に招かれたのが、当時、秋田県立図書館企画協力班班長の山崎博樹だ。」(186ページ)

 

 その山崎氏が、白羽の矢を立てたのが、主任司書の手塚美希さんである。

 

 「誰か自分の代わりに、紫波町の顔となる新しい図書館を現場でつくって行ける司書はいないか。山崎は、ある女性のことを頭に思い浮かべた。すっきりとしたショートカットで、いつもきびきびと秋田県立図書館で立ち働いていた手塚美希だ。」(188ページ)

 

 手塚さんは、秋田県出身の方で、紫波町とは縁もゆかりもなかったようである。しかし、紫波町の図書館を訪れると、彼女こそ、まさしくきびきびと、図書館の顔として立ち働いていらっしゃる。

 なにか、こういう存在というのは、こちらもうれしくなってしまう、うれしくさせてもらえるような存在である。そして、やることをやっていれば、おのずと場所は与えられるということの証しでもあるだろう。

 はっきりとは分からないのだが、彼女の場合、その責任と活躍に対して、制度的に待遇面では未だ必ずしも、というところもあるようでもあるが、日本の中で、あるいは、秋田県に戻ってということかもしれないが、必ずやあるべき展開はあるものと思う。

 図書館の世界では、何人も、ポジティブな力を体現しているような人材と会える、というふうに思っているが、彼女は、まさしくそういう人材のひとりである。

 

 「オガール広場の芝生の上で楽しそうに過ごす紫波町の人たちを見て、心が動かされた。うらやましいとさえ思った。なぜ、彼らはあんなに幸せそうなのか。今度は、その理由を知りたくなり、取材を重ねた。」(219ページ あとがき)

 

 高橋堅さんも、手塚美希さんも、そういえば、確かに幸せそうな顔をしている。手塚さんのみでなく、図書館のカウンターにいる職員の皆さんも、明るく幸せそうな笑顔を見せてくれている。そんな幸せそうな笑顔の理由が、この本に書いてある、ということだと思う。


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