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東京五輪:“釈明”にならない便宜的会見

2015-08-05 22:20:52 | 東京五輪2020
東京五輪のエンブレムがベルギーの劇場のロゴと類似していると指摘されている問題で、予定通り、今日の午前10:00から佐野研二郎氏の記者会見が開かれた。

五輪エンブレム問題 制作者の佐野研二郎氏が5日に会見



私は「現・東京五輪エンブレムの継続使用」に否定的立場をとる者なので、その観点での物言いになるのはお許しいただきたいが、一言で言って、記者会見のための記者会見であり、それは単に便宜的に行なわれただけという印象であった。

そもそも、佐野研二郎氏の東京五輪エンブレムのデザインに対して「盗作・盗用疑惑」が持ち上がり、それに対する「釈明会見」であったはずだ。
まずは、こうした騒ぎになっていることへの迷惑を詫びる謙虚さといったものがあってもよかったのではないのか。仮に佐野氏において、オリンピック組織委員会において、何の瑕疵、不手際もなかったとして、だが、発端となっているのはまさに佐野研二郎氏のエンブレムデザインである。疑惑を払拭するにあたり、理解を求めようとする姿勢が何より大事なのではないかと思うがいかがだろう。


さて、佐野氏のロゴタイプ(エンブレム)デザインの制作過程における解説は、単に広告代理店に対してプレゼンテーションするのと何ら変わりがなく、「盗作・盗用・模倣」を否定する決定的根拠となる具体的な説明には及んでいなかった。また、「発想や考え方が違うので似ていない」とするのは客観的合理性には欠けることだ。
もっとも、「盗用・盗作ではない」とする証明は「悪魔の証明」に似て、極めて困難ではある。とは言え、他の作品などに影響されることがあることは佐野氏自身、否定はしなかった。
質疑応答の最中、壇上で耳打ちするシーンもあったが、「似ていることを認めない」という申し合わせの上、それを前提での会見であったことは想像に難くない。


そして些か気になったのは、日本オリンピック組織委員会マーケティング局長の槙英俊氏(画面向かって右)の終始一貫した姿勢である。
通り一遍、説明すれば済むとばかりに、噛み砕いて言えば「ケチをつけられた。心外である。こともあろうに天下のオリンピック委員会に楯突くなどもっての外だ」というような態度で、それが随所に垣間見られたのは、おそらく多くの人が感じ取った点ではないかと思う。

まず、先方(ベルギーのリエージュ劇場のロゴをデザインしたオリビエ・ドビ氏)は商標登録をしていない。東京五輪エンブレムは著作権も押さえている。オリンピック委員会の手続きに何ら瑕疵はなく、手順通りにやっていて、クレームをつけられる筋合いはないとその優位性を誇示した。
また、いずれにせよ先願権があり、つまりは、やったもん勝ちであり、文句をつけられる言われはないというものである。例え係争に発展しても、多勢に無勢、先方に勝ち目は無いと高を括っている様子さえあからさまに感じられた。

しかし、実務的、法理的に問題ないとしても、道義的、倫理的にどうなのか。
その点、問題を認識した上で、それを払拭するに値する安心材料を解り易く一般に提供し、広く理解を得ようとする姿勢はなかった。
大会組織委員会にスポンサーやグッズ製作会社から心配の懸念は寄せられていないとし、権利は押さえているのだから問題ないとする。会見では、一般からのクレームや問い合わせに対する対応には言及すらしなかった。
結局、ここにおいても国民よりスポンサーありきという態度が露骨に現れていると言え、詰まるところ、「国民の祭典」「スポーツの祭典」とは名ばかりで、常に商業ベースで事が進められ、相変わらずここでも国民は居ないということが明らかになる。


改めて、何のための会見だったのだろうかと考える。
本来なら、誠意を持って丁寧に説明をし、ついては納得して支持してもらい、広く一般に賛同を得るのを目的として然るべきではないのか。
会見で述べられた言葉には何ら説得力はなく、たとえ一般から苦情が寄せられ署名が集まったところで、大会組織委員会はこのまま強気で押し通すつもりなのだろう。その横柄ささえ窺わせる姿勢はまた、国会でのどこかの官僚の答弁をも彷彿とするものだ。

会見の後半で、奇しくも日刊ゲンダイの今泉氏が質問していたように、こうして「東京五輪エンブレム」に“ケチ”が付いた限りにおいて、この先も針小棒大の物言いが付き纏うことは必至である。
それに対し、大会組織委員会はどう対応していくつもりなのか、些かも釈然としないものが残る。


一方、佐野氏のTwitter、Facebookの問題について、佐野氏曰く、「(騒動前の)5月で閉じた。仕事でバタバタしていたのと、普段から見てしまうので、一度距離を置いてみようと思った」とのこと。
ちなみに、東京五輪エンブレムデザインの募集が開始されたのは昨年の9月。10月に締め切られ、その後、第1次審査、第2次審査を経て入選者が内定し、入選者には大会組織委員会から12月末頃までに受賞の連絡があると告知されていた。
もちろん、一般公開は7月24日であったが、佐野氏がTwitter、Facebookを閉じる以前に、内部的には結果が判明していたことになる。果たしてそれとは無関係であったのだろうか。




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2 コメント

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ご意見に納得です (asagao)
2015-08-05 23:07:11
Motchさまのご意見に、我が意を得たり。会見を見て非常にがっかりしました。佐野氏の態度、同席の方々の姿勢に、エンブレムを最初に見た時に感じた気持ち悪さの理由がわかりました。「権威」、「上から目線」、「押しつけ」です。「素人にはわからんだろう、プロのデザインとはこういうものだ、どうだ!」的な。国民置いてけぼりです。ロゴマークようなデザインは、理屈で説明して頭で納得しなければならないものなのでしょうか?プロが見ると全く似ていないのに、素人目にはものすごくソックリって!? 盗作・盗用の有無、法的な問題の有無よりも、ここまで悪い意味で注目を集めてしまったエンブレムを強行に使おうとすることの違和感がものスゴイです。佐野さんが、(偶然似たとはいえ)そっくりと言われても仕方ないデザインが世にあったことに気づかずにいたことを清く認めていたら、印象は変わっていたと思います。
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asagaoさん (Motch)
2015-08-05 23:52:05
お読みいただいて、ご同意いただきありがとうございます。m(_ _)m

ですよね~(苦笑)
会見を見て、何だか余計にモヤモヤしちゃった感じです。
おっしゃるように、まさに「押し付け」ですよね。
そもそもデザイン公募時の応募資格が「東京ADC賞やTDC賞、ONE SHOW DESIGNなど組織委員会が指定した国内外の7つのデザインコンペのうち、2つ以上を受賞しているデザイナー」ということで、言わばこの時点でかなりタカビーです。そんなハードル、意味ないんじゃないのって。

もちろん100%はありえませんが、多くの人が喜んで受け入れてこそ良いデザインだと言えますよね。みんなが共有できるシンボルであってこそ祭典を祝えるんだと思います。

何だかお国がやることって、押し並べてみな同じ。利権絡みで勝手にやっている。腹立たしいです。
この問題も、まだまだ尾を引きそうですね。
国立競技場も白紙にしたんだから、これももう1回仕切りなおして、多くの人が納得するカタチにしてほしいです。

コメントありがとうございました。
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