日本列島旅鴉

風が吹くまま西東、しがない旅鴉の日常を綴ります。

早春の会津を行く 2017 - 鳥玄

2017-03-11 17:56:48 | 居酒屋
漆器店から宿に戻った時点で五時が迫っていました。そのまま出れば呑み屋が開くと同時に入れるところです。しかし今日の風はあまりに冷たく、呑むより熱い風呂に浸かりたい気分でした。こうして長めの風呂から上がり、宿を出たのが六時前です。この油断が結果的には命取りとなりました。
早い話、「鳥玄」に乗り込んだところ、炭火の前の特等席に三人組の先客が入っていたのです。その結果、今回通されたのはカウンターの一番奥でした。先客もお通しが出てきたばかりということは、おそらく数分程度の違いだったのでしょう。しかしその数分差により、特等席と末席で明暗がはっきり分かれました。先客の注文を追いかける形となったため、提供も必然的に遅れてきます。
追い討ちをかけたのは、五人にも上る大人数の集団が後から飛び込んできたことです。カウンターの他には囲炉裏が一つあるだけの小さな店に、そのような大人数で押し掛ける時点で、場の雰囲気をわきまえていないのは明らかでしょう。実際彼等の話しぶりからしても、既に何軒かの店に断られ、たまたまここにたどり着いたようでした。末席に甘んじる結果となった上に、突如として大人数の集団が押し掛け、形の上では目も当てられない有様です。

それにもかかわらず、意外なほどに敗北感はありませんでした。これは、前回訪ねてから三ヶ月経っていないこともあり、些細なことは寛容に受け止められるという事情によるところが一つ。大人数の集団が、覚悟していたよりもはるかに静かだったことが一つ。もう一つ大きかったのは、今まで特等席から眺めていたカウンターを異なる角度から眺めることで、新たな発見があったからです。
玄関の側から見ると、Uの字というよりJの字に近い形でカウンターがあり、玄関側の短い辺に炭火と蒸し器があって、そこが店主の定位置です。つまり、玄関側に着席できれば店主の仕事ぶりを目の前で眺められる一方、奥に通されると斜め後ろから眺める形になります。特に今回は一番奥だったため、背後から眺める形に近く、目の前は助手の持ち場という位置関係でした。しかし角度を変えて眺めると、店主と助手の仕事ぶりがよく分かってきます。
焼き物についていえば、注文が入ると助手がネタを切って串を打ち、それを店主に渡します。串は膝元にある大皿に一旦並べられてから炭火にかけられ、焼き上がり次第出せるものについてはそのまま、仕上げが要るものについては一旦助手のところに戻ってから提供されます。とり蒸しについていうと、まず鶏肉と昆布だけを蒸し、その後刻み生姜と葱を入れてもう一度蒸し、最後にポン酢をかけて仕上げるという三段階に分かれ、葱については太く切られたものと細く切られたものを使うことにより、食感に変化を持たせる工夫が凝らされていました。
細部まで徹底的に作り込まれた美しい店内については、これまでにも繰り返し絶賛してきたところではありますが、視点を変えると改めて感服させられます。たとえば長い辺の足下には食器と串が収められ、その棚にはカウンターと同様の細い桟を渡した扉が設えられています。囲炉裏の奥の小部屋は個室ではなく物置ですが、ただ物置にするのではなく、木戸の脇に小さな襖を造り、仄かな灯りが囲炉裏の方へ漏れてくるという演出が秀逸です。玄関の外にある大木が行灯で浮かび上がっており、雪が積もればその向こうの鐘撞堂も浮かび上がってくるのだろうと想像させられます。外の見え方までも計算し尽くした周到さには感嘆するしかありません。
このように、奥の席だからこそ見えるものが少なからずありました。仲間の一人がこの店のカウンターを「舞台」と評しましたが、どの席から眺めても楽しめるように設計されたという点では、たしかに舞台、あるいは劇場のようでもあります。今回着席したのは舞台裏も垣間見える袖の方といったところでしょうか。もちろん舞台である以上真正面から眺めるに越したことはなく、袖から眺めるのは一度でいいというのが本音ではありますが、違う視点で眺めるとすれば、短い間隔で再訪した今回でよかったのだろうと納得しています。

ちなみに今回は結局単品注文にしました。昼をラーメンだけで切り上げたことにより、前回よりも腹具合に余裕はあったものの、「籠太」に「麦とろ」とさらに二軒をはしごするのであれば、コースの分量は依然として多すぎるように思われたからです。この判断は結果として的中しました。
結論からいうと、最初に出る蒸し鶏の辛子和え、茄子の辛子漬け、酒粕の三点、最後に出る抹茶アイスはコースと全く同様でした。自ら注文したのは焼き物五点ととり蒸しで、コースに比べると串の本数が少なく、蒸し物が二点から一点になり、焼野菜も省いた形になります。しかしこれでも腹八分目、というより九分目までは満ちており、十分以上の量があったわけです。出費はコースと大差なく、やはり値打ちとしてはコースが断然上回るというのが実情ではありますが、食べきれないほどの品々が次から次に繰り出されるコースに対し、お通しをつつきながら出来上がりを悠然と待つ単品注文が、居心地の点ではむしろ上回っていることについても気付いてきました。次の機会が巡ってきたとすれば、そのひとときを是非とも特等席で味わってみたいものだと思います。

鳥玄
会津若松市栄町4-46
0242-24-9663
1700PM-2200PM(売切御免)
日祝日定休

栄川三合
蒸し鶏辛子和え
茄子辛子漬け
酒粕
鳥もも二本
カシラ二本
つくね
とり蒸し
抹茶アイス
ジャンル:
お酒・お茶
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