日本列島旅鴉

風が吹くまま西東、しがない旅鴉の日常を綴ります。

薫風の伊勢を行く - みをつくし

2017-06-18 18:04:01 | 居酒屋
昨年甲子園の巡礼にかこつけて近畿を旅したとき、坂本で呑むという瓢箪から駒の出来事がありました。一期一会に思われた偶然の出会いでしたが、幸いにも今回再訪の機会を得ることができました。六時を回ったところで「みをつくし」の暖簾をくぐります。
比叡山から下山して駅へ向かっていたとき、行灯の明かりがつくところにたまたま出くわし、閃くものを感じたのがそもそもの始まりです。木造総二階の堂々たる構えをした蕎麦屋の脇から、人一人通れる幅の小道に分け入っていくという佇まいが情緒に満ち、中庭に面した離れは紛うことなき割烹そのもの。とはいえカウンターの背面には流れるような文字で綴った短冊が並び、その中から好みに応じて選べるという、居酒屋使いのできる割烹でした。調理も器も盛り付けも、あらゆる仕事が本物で、店主と女将の客あしらいも心地よく、これは掘り出し物だと独り悦に入っていたことが思い出されます。とはいえ、それから一年と間を空けずに再訪の機会が巡ってくるとは思いませんでした。

前回は突き出しの蓴菜にいきなり刮目させられましたが、今回は根曲がり竹と鳥貝、わかめを酢味噌で和えたものが出てきました。鯛は軽く昆布〆にしたものを生醤油とポン酢でいただくという一ひねり加えたもので、新玉葱と茗荷のツマにさりげない季節感が込められています。賀茂茄子田楽は雲丹を乗せた豪華版で、鱧の天ぷらも一人客には十分すぎるほどの分量で供され、一時は出費が気になりかけたものの、結果としては想定よりもかなり安く、居酒屋よりも少し高い程度で済みました。この設えと仕事ぶりを考えれば、むしろ安いといってもよいでしょう。
難点を強いて挙げるとすれば酒でしょうか。冷酒は店主の郷里越後の地酒が数種、燗酒は菊正宗一本と潔く、もちろん悪くはないものの、滋賀と京都の地酒があればと考えてしまうのは人情です。しかし、再訪してみてこれも仕方のないことのような気がしてきました。この店ではあくまで料理が主役であり、それには端麗辛口こそ最もふさわしいからです。金沢の「浜長」と同様、ここでは酒より料理を味わうことに注力した方がよいのかもしれません。

前回は五時の開店と同時に入り、玄関の外から聞こえていた蝉時雨が、店を出る頃には秋の虫の声に変わっていたという印象的な場面を経験しました。しかし、今回は蝉にも秋の虫にも早い、少々半端な季節です。あれほどの名場面はさすがになかろうと思っていました。しかしそれは早計でした。店を出て少し歩き、最初の交差点を駅へ向かって曲がろうとしたそのとき、比叡山の彼方の空がえもいわれぬ紫色に染まっていたのです。思わず立ち止まった後、駅へと下る坂の方へ目を向けると、同じく紫色に染まった琵琶湖が彼方に見えました。松江の聖地「やまいち」を出た後に眺めた、宍道湖の夕景に勝るとも劣らない印象的な光景でした。季節を変えればさらなる名場面に出会えるのでしょうか。次の機会も楽しみにしておきましょう。

みをつくし
大津市坂本4-11-39
077-579-2199
1700PM-2200PM
水曜定休

〆張鶴・菊正宗
突き出し
真鯛昆布〆
京かもなす田楽
はもの天ぷら梅肉入り
新玉ねぎの自家製さつま揚げ
ライチ
ジャンル:
お酒・お茶
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