日本列島旅鴉

風が吹くまま西東、しがない旅鴉の日常を綴ります。

薫風の伊勢を行く - 一月家

2017-06-17 17:17:38 | 居酒屋
悠然と昼酒をあおるつもりが、気付けば五時を回ってしまいました。こうなると俄然気になり出すのが呑み屋の状況です。横須賀の「中央酒場」も、五時を過ぎると目に見えて混み出します。その経験則からすると、目指す「一月家」もかくやと懸念されました。その一方で、大店の大衆酒場なら、常に一つや二つの空席はあり、何だかんだで入れてしまうという経験則もあります。何とかなるだろうと高をくくりながら、振られても次があると割り切って暖簾をくぐると、果たせるかな先客で鈴なりになったカウンターが視界に飛び込んできました。しまった、やられたかと覚悟しつつ玄関で固まっていると、幸いカウンターの中程と奥の方にそれぞれ一つの空席があり、そのうち奥の方に案内されるという結果です。

教祖の著作には、駅から離れた呑み屋街の一角と紹介されていたように記憶しています。しかし、実際には呑み屋街でも何でもなく、うらぶれた商店街のアーケードが尽きるまでひたすら歩き、何の変哲もない市街に入ったところに、扁額と白い暖簾を掲げた総二階の木造家屋が鎮座していました。何故ここにという唐突さに関していえば、清水の「かね田食堂」に似ているといえなくもありません。しかし、遠目に見てもただならぬ店構えと、何の変哲もない市街の対比という点では、唯一無二の佇まいといった方がよさそうです。
建物は一見すると古そうではありますが、昔と同じ様式で新築されたものなのかもしれません。そう思うのは、瓦も羽目板も真新しいのに加えて、店内にも古びた様子がほとんど感じられないからです。しかし、現代の建築物特有の安っぽさは一切ありません。暖簾をくぐると右手にコの字、というより台形に近い白木のカウンターが一本延び、角椅子が整然と並んでいて、左の手前側には相席の大きなテーブルが、その奥には小上がりが、突き当たったところには座敷が配置されます。立派な梁が縦横にまっすぐ走る天井、小窓の向こうにある広々した厨房、眺めているだけでも楽しい短冊の品書きなどは、自身なじみの深いところでいうなら「虎ノ門升本」を彷彿させ、質実剛健たる大衆酒場の趣です。
酒は松をあしらった屋号入りの大徳利で供され、燗具合はもちろん絶妙。変わった品こそないものの、肴はどれも安くておいしく良心価格で、当たり前のことを当たり前にできるのが職人芸だと教えられます。カウンターを仕切るのは大旦那と大女将、それに女将と思しきおばちゃんと、跡取りらしき青年で、厨房から時折顔を出すのが店主でしょう。親子三代で立つカウンターはありそうでなかなかなく、大旦那が自ら徳利と皿を数えて計算する「大甚方式」にも、古きよき酒場の伝統が感じられました。

思いつくまま総花的に綴ってきましたが、それらはおおむね想定の範囲内でした。なまじ経験が蓄積されたばかりに、事前情報だけである程度の予測ができてしまい、結果としてそれをも超える感銘を受けにくくなったという副作用については、繰り返し語ってきたところです。余計な先入観をなくすため、最近では屋号と営業時間を控える程度にとどめ、それ以上の情報をあえて持たずに訪ねるようにしています。それでもなお予想通りの結果になったということは、無駄に目が肥えてしまったということかもしれません。
しかし、何度か通うことで本当のよさが分かってくるのもこの店の特徴です。たとえば高山の「樽平」も、三回通ってようやくよさが分かりかけてきました。この店の真価を知るのも、あと何度か足を運んでからになるでしょう。

おおむね想定通りの結果が得られた中、意表を突かれた数少ない点の一つは上述した店構えでしたが、もう一つ気付いた点として、一人客の姿がほとんどなかったという点が挙げられます。この日の先客のほぼ全てが二人組かそれ以上でした。皆地元客であり、必ずしも客層が俗化しているわけではありません。活気に満ちた雰囲気もそれはそれでよいものです。しかし、教祖が推奨する古い大衆酒場というと、勤め帰りの一人客、あるいは地元のご隠居らが静かに酒を酌む情景を想像しがちなところであって、これがこの店本来の姿なのかという点については疑問が残りました。開店から間もない時間に訪ねれば、客層は変わってくるかもしれません。次は早めに訪ねてみるつもりです。

一月家
伊勢市曽祢2-4-4
0596-24-3446
1400PM-2200PM
水曜定休

大徳利二本
かつお
湯どうふ
いいだこ
穴子フライ
ジャンル:
お酒・お茶
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