北陸のゴールデン街こと新天地を通り抜けて片町にやってきました。時間的にも腹具合としても、三軒目が今夜の真打ちとなります。満を持して乗り込んだのはもちろん「浜長」です。
実は、口コミサイトで不動の人気を誇る「いたる」の本店が、宿からわずか四、五十歩という至近距離にあったため、今回に限りここを表敬訪問するという選択も一瞬考えはしたのです。しかし、「京都へ行くことは赤垣屋へ行くことである」いう教祖の名言を借りれば、自分にとって金沢へ行くことは「浜長」へ行くことといっても過言ではありません。古都金沢で呑むという華やぎを彩ってくれるのは、一も二もなくこの店です。やはりここを素通りしてよそへ行くという選択は考えられませんでした。
10時も近いというのに、長いカウンターはざっと七割から八割の入りです。先客の後片付けをしているところを見ると、小一時間前までは満席だったのでしょうか。客層が総じて若かった「高砂」に対し、こちらはさすがに敷居が高く、先客は年齢も身なりもそれなりの面々です。しかし、ある程度予想できた通り、先客は皆〆の一品まで箸を進めており、程なくすれば大分落ち着いてきそうに見えます。やはり、この店で気兼ねなく呑むなら、遅い時間を見計らうのが吉でしょう。それが金沢の真打ちと評する理由でもあります。
今回は着席して間もなく、小豆色の皿に乗った五点の突き出しが供されました。中央にある握り寿司、ワカサギの南蛮漬け、一口大のお椀に入ったもずく酢はともかくとして、残りの二品は直截に表現できません。要はそれだけ手が込んでいるということで、見れば一目で分かる家庭料理とは全くの別次元です。一言で形容した握り寿司も、実は山椒風味の漬けを握ったもので、箸をつけた瞬間思わず刮目させられました。この突き出しをいただきつつ、正面にある黒板を何度も眺め、組み立てを考える時間が最高なのです。
長考の末、まずは昆布〆、次いで千枚漬、真打ちにはちり蒸しを選ぶということで腹は決まりました。ちり蒸しは八目と鯛かぶとの中から迷わず前者を選択。一人客には小さめの魚を用意してくれるという気遣いがありがたく感じられます。
繰り出される品々は、相変わらず皆しみじみ鑑賞したくなるほど美しく、味についても当然期待を裏切らない、いやそれ以上です。今回特に感銘を受けたのは、板前の勧めに従い注文したおからです。文字にすれば何の変哲もない家庭料理が、この店の仕事によってどう昇華されるかと期待していたところ、果たせるかな供されたのは全くの別物でした。三角形に盛られたおからは見るからにきめ細かく、箸では容易に掴めません。普通のおからを、外に積もっている湿った雪とするならば、こちらは酷寒地に降る粉雪でしょう。このおからで三本目の徳利を空けたところで席を立ちます。
★浜長
金沢市片町2-27-24
076-233-3390
1700PM-2330PM
日祝日定休
福正宗・朱鷺の里・天狗舞
突き出し五品
平目昆布〆
千枚漬
八目チリむし
おから
実は、口コミサイトで不動の人気を誇る「いたる」の本店が、宿からわずか四、五十歩という至近距離にあったため、今回に限りここを表敬訪問するという選択も一瞬考えはしたのです。しかし、「京都へ行くことは赤垣屋へ行くことである」いう教祖の名言を借りれば、自分にとって金沢へ行くことは「浜長」へ行くことといっても過言ではありません。古都金沢で呑むという華やぎを彩ってくれるのは、一も二もなくこの店です。やはりここを素通りしてよそへ行くという選択は考えられませんでした。
10時も近いというのに、長いカウンターはざっと七割から八割の入りです。先客の後片付けをしているところを見ると、小一時間前までは満席だったのでしょうか。客層が総じて若かった「高砂」に対し、こちらはさすがに敷居が高く、先客は年齢も身なりもそれなりの面々です。しかし、ある程度予想できた通り、先客は皆〆の一品まで箸を進めており、程なくすれば大分落ち着いてきそうに見えます。やはり、この店で気兼ねなく呑むなら、遅い時間を見計らうのが吉でしょう。それが金沢の真打ちと評する理由でもあります。
今回は着席して間もなく、小豆色の皿に乗った五点の突き出しが供されました。中央にある握り寿司、ワカサギの南蛮漬け、一口大のお椀に入ったもずく酢はともかくとして、残りの二品は直截に表現できません。要はそれだけ手が込んでいるということで、見れば一目で分かる家庭料理とは全くの別次元です。一言で形容した握り寿司も、実は山椒風味の漬けを握ったもので、箸をつけた瞬間思わず刮目させられました。この突き出しをいただきつつ、正面にある黒板を何度も眺め、組み立てを考える時間が最高なのです。
長考の末、まずは昆布〆、次いで千枚漬、真打ちにはちり蒸しを選ぶということで腹は決まりました。ちり蒸しは八目と鯛かぶとの中から迷わず前者を選択。一人客には小さめの魚を用意してくれるという気遣いがありがたく感じられます。
繰り出される品々は、相変わらず皆しみじみ鑑賞したくなるほど美しく、味についても当然期待を裏切らない、いやそれ以上です。今回特に感銘を受けたのは、板前の勧めに従い注文したおからです。文字にすれば何の変哲もない家庭料理が、この店の仕事によってどう昇華されるかと期待していたところ、果たせるかな供されたのは全くの別物でした。三角形に盛られたおからは見るからにきめ細かく、箸では容易に掴めません。普通のおからを、外に積もっている湿った雪とするならば、こちらは酷寒地に降る粉雪でしょう。このおからで三本目の徳利を空けたところで席を立ちます。
★浜長
金沢市片町2-27-24
076-233-3390
1700PM-2330PM
日祝日定休
福正宗・朱鷺の里・天狗舞
突き出し五品
平目昆布〆
千枚漬
八目チリむし
おから