裏日記「B面」

工房しはんが日々、ふと感じたり、しみじみとふけったり、ぴんとひらめいたり、つくづくと考えたりしてること。

世界のつくり/意識編・14

2024年04月19日 21時56分56秒 | 世界のつくり

14・量子場の彼、って

せっかく途中までわかりやすくて面白かったのに、また難しいこと言い出してよーう・・・と読者は感じてることだろう。
だけど、ここはとてもとても重要な部分だから、ちゃんとしておきたいんだ。
だって、「彼」はここに至るまで、本当に量子場の世界に住んでたんだから。
彼の周囲には波動しかなく、彼もまた波動で構成され、波動の力で駆動してたんだから。
彼は、ぼくらのような世界を持ってなかった。
ぼくらとはまったく違う次元を生きてた。
想像してみてほしいんだ。
目もなく、耳も鼻もなく、手も足もなく、感覚も意思も記憶もなく、要するに意識がなく、ただ与えられた手順に従って機械的に歯車を動かし、「生きる」という最低限の営みをこなしつつ、満期になると分裂することのみを繰り返す・・・その内にある、心象風景を。
彼の日常は、自分を構成する量子が相互作用でくっついたり、離れたり、影響を及ぼし合ったりするだけの日々なんであって、それは無味無臭で、手応えもなければ、気持ちの抑揚もない。
それどころか、意識を持たない彼の周囲に、世界は存在しない。
目がないから真っ暗なのはもちろんだけど、それとは別の意味で、周囲に時空感がないことに依拠する、真の暗闇が彼の居場所だ。
いや、闇もまた感じることによって生み出されるんだから、闇さえないと言っていい。
彼は外膜・・・と解釈しうる他者との結界を持ってるものの、感じることのできない身には、その中身もなければ、外もない。
そんな観念自体がないんだから。
彼は食べ、活動し、増える・・・という見方は、次元の外から俯瞰してる観測者(つまりぼくら)による説明だ。
彼は、ぼくらの(あるいは、彼がいずれ築き上げることになる)世界にいない。
0次元という量子場で、素粒子の相互作用だけを自律的に起こし、反応の結果に生かされてるに過ぎない。
それを彼の外にいるぼくらは、彼の中の分子が結合し、分解し、電離し、pHに偏りができて、酸化した、還元した、化学反応と通電が彼を動かした・・・そんなふうに解釈する。
より具象でもってデッサンすると、食べた、戦った、増えて勝ち残った、なんてことだ。
だけど彼自身は違うんだ。
世界を持たない彼は本当に、自分は量子場の波動にすぎない、と感覚器を持ってさえいれば自覚してるはずだ。
ところがまったく逆説的だけど、彼の感覚器が目を覚まそうとしてる今このタイミングで、はじめて彼は自分を取り巻く世界の存在に気づくことになるんだ。
量子場の裏側に存在する、この幻影みたいなつくりものの世界に。

つづく

東京都練馬区・陶芸教室/森魚工房 in 大泉学園

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世界のつくり/意識編・13

2024年04月18日 12時14分54秒 | 世界のつくり

13・すべては幻想、ってまた

精神的な働きもまた物質の作用に根ざした実在である、ってのが唯物論だ。
意識も記憶もタマシイと呼ばれる霊的操縦者も、すべては物理現象の拡張に過ぎませんよ、って説ね。
これに異を唱えるのが、主体性を持った生命(基本的には人間を指す)は不活性で機械的な自然物から切り離された特別な存在である、とするプラトンからデカルトに至る二元論。
また、唯心論ってのもあって、この世のすべては意識が決定づけるもので心の働きこそがあらゆる存在の要因だ、と説く。
これらは、現代の最先端科学(哲学と言い換えてもよさそうだ)である量子力学をベースにすると、同じことを言ってる印象になる。
人類が「つぶ」「もの」と考えてるものは実は波動に過ぎず、その波の相互作用が、質量や力などの物理現象として現れる。
波があるばかりの外界を、われわれは感覚器によって理解しやすく記号化し、世界を組み立ててるわけだ。
波がわれわれを構成する一方で、われわれは波を解釈して物質的実在世界とし、その実在世界における理論上の存在として波の世界を説明してるわけで、このいったりきたりのふたつは裏表一体の、いわば二元論の構造になってるわけだ。
その元をたどれば、唯物論に収斂できる。
「波の解釈」の部分はわかりにくいが、聴力で例えてみる。
街には音というものが実在するわけじゃなく、空気の震え、すなわち波があるばかりなんだ。
その空気の波を、人類は耳で拾い、鼓膜を揺さぶらせて増幅し、さらに管の中のリンパ液を波打たせて聴覚神経に伝え、電気信号化されたその情報は脳内の聴覚野で「周波数」「メロディ」「発語」として解釈され(つまり「実在」につくり上げられる)、ああこれはスーパーフライさんのなんとかという曲だ、と認識される。
が、実際の外界にはスーパーなんとかの歌声なるものが実在してるわけじゃなく、込み入った空気の波の重なり合いがあるだけなんだ。
すべては、こちらサイドの機能が勝手に解釈した結果に現れ出た幻想に過ぎないんだった。※1
量子力学は、この世のすべては数学的存在だ、と暴く。
くわしくは以前に書ききった章に説明をゆずるけど、とにかく唯物論に言わせれば、意識なるものは気体と水と鉱物から発生した!となる。
そもそも、われわれの時空間とは別の次元に意識が存在してるのだとすれば、それはビッグバン以前からあったものだろうが、宇宙開闢の瞬間に物理定数とベクトルの初期値が与えられて以来、わが惑星の地上に生命体が発生するまで、それらの計算値とエントロピーに操作の意図が働いた形跡は見られない。
意識は、この地上において、ある瞬間に生じたものなんだ。
彼にそれが今、萌芽したんだった。

つづく

※1 スーパーフライさんの歌声が実在か幻想か、あるいは空気の震え自体が歌声の裏に隠された幻想か実在なのかは永遠に判別できないし、これらは両立してる。よって、量子場もあなたの主観的世界も実在であり、双方が幻想であり、つまり一体なんである。

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世界のつくり/意識編・12

2024年04月16日 16時30分06秒 | 世界のつくり

12・直感の獲得、って

DNAのランダムな変異を形質に反映させ、着々とダーウィン進化を遂げていく彼は、求める物質を感知すると体内に取り込むためにチャネルを開く、という従来の単純な活動の他に、触れるものを破壊し、必要なものを分離した上で獲得したり、好ましくない相手と接すると自分を封鎖して警戒する、というところまで成長した。
こんな新機能が将来、軍備や装甲という着想につながるわけだ。
外膜にトゲを持った彼は、別の個体に触れると相手が傷つき、死に、求める物質レベルに分解され、取り込みやすくなると知った・・・いや、知ることは彼にはできないけど、そんなアルゴリズムがゲノムに組み込まれた。
さらに途中のプロセスを省いて、相手を丸ごと取り込む方法まで体得した。
そうして有用な物質を消化吸収すると、体内で反応が起きて「いい」感じになることも、直観的に知った(ある意味、ここにおいては本当に知ったのかもしれない)。
感じる・・・知る・・・覚える・・・これまでには持ち得なかった新次元の機能が、彼の中で萌芽しようとしてる。
ゲノムの命ずるところのアルゴリズムに支配されるだけの彼だったのに、ここにきて、劇的な創発が起きてるようだ。
彼が機能上に胚胎させたものは、主観の形成へと連なる感覚器の最初期原理で、要するに痛みや嫌悪や官能といった生理現象に発展していくやつなのだ。
五感の兆しと言いたいところなんだけど、神経系の構築にはまだ時間がかかりそうなんで、ここではあやふやに「直観」としておきたい。
ここに至るまで、彼は機械だ、と念を押してきた。
ゲノムという指示書の命令にただ従うように設定された、ある種のロボットだったんだ。
が、いよいよそこに主体的な行動が混じり込んでいくことになりそうだ。
数億年もの歳月をかけて生存という価値を煮詰め、積み上げた経験値は、ついに本能の域にまで進展を図ろうとしてる。
さて、世界でたったひとりきりだった彼は、おびただくし増殖してこの惑星の海底全域にはびこり、そこから旅立った(飛躍した)ものは海中を漂うようになり、海面に浮上し、海岸線に流れ着き、あらゆる環境下でそれぞれにダーウィン進化を遂げ、多種多様な系に枝分かれして、めくるめく生態系を展開しはじめた。
世界はせまくなってしまったようだ。
ここまで外に向けて開く一方だった彼らの進出だが、ドン突きまでくれば、折り返して内向きに他所を侵食するしかない。
お互いの生活圏を奪い合おうという段階にきて、彼らの進化もまた新たなフェーズに入る。

つづく

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世界のつくり/意識編・11

2024年04月15日 07時59分23秒 | 世界のつくり

11・人類に至る系、って

進化による変異によって「なに」を実装するのか?よりも重要なのが、「なぜ」「どう」使うのか?の部分だ。
それが、彼の意識獲得への第一歩となる。
「なに」はたまたま発現するものだけど、「なぜ」「どう」は主体性の問題だからだ。
彼がそこに至るまでには、はるか遠い道のりが待ち受ける。
形質(肉体や性質や機能全般)に直接的な影響を与える塩基の置き換えは完全にランダムで、その変異にはなんの意図も介在し得ない。
彼に意識はないんだ。
彼はなにも欲しがらないし、なにを必要とも考えないが、ただなにかがたまたま与えられる。
彼は、そんな与えられた装備の意味を考えることもなく、ただ自律式の駆動力で活用しつづける。
矛や盾をたまたま手にしても、どう使おうなどとは考えない。
ゲノムが命じるのは「死なないようにしろ」というものなので、得たものを使ってなるべく死なないようにはしたい。
そうしてなにが有用かわからないで無意思に立居振る舞ううちに、形質はいよいよ枝分かれして分散し、生態系は混乱を極めるが、おかげで進化は多面的に展開する。
そんな日常で、最先端をいく彼は、ついに意識の取っ掛かりのような機能を・・・かそけき直観のようなものを、不意に得ることになった。
それは、ゲノムの最当初の命令である「死ぬな」の部分を拡張させたものだった。
彼はふと、「傷つくとなんだかいやだ」という感じを覚えたんだ。
それはある種、決定的に大切なやつだ。
この感じは、「死ぬな」という内なる声に完全に整合的だからだ。
これまでは、傷つけば終わりだった。
彼のご先祖さまたちは、傷ついた結果、命を手放すしかなかった。
なんとなく、わけもわからず、終わりだったんだ。
だけど、傷つくといやな感じになるのなら、傷つくことを恐れるようになり、なるべく傷つかないようにしようという注意が働く。
彼にはまだ感覚器がないので、それは「痛み」じゃなく、ただのダウン系の化学物質の放出だ。
さらに彼は、「自分を増やすとなんだかいい」という感じも覚えた。
分裂して子孫を増やすたびに、彼の中に報酬系の化学物質が放出され、「やったぜ!」的なやつが自分の中に満ちる。
こうして彼は、死なないように気をつけるようになり、子孫を残す行為に意味を見出すようになり、それが駆動力となって、種の存続に精を出すようになった。
この系は、意識獲得の取っ掛かりという点で、人類につながる直系になりそうだ。

つづく

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世界のつくり/意識編・10

2024年04月12日 16時14分41秒 | 世界のつくり

10・大気の循環、って

さて、二酸化炭素を取り込んで酸素を吐き出す光合成系が、すでにこの世界に出現してたんだった。
さらに、そこから特筆すべき進化が起きた。
この単細胞生物である系を別の系が・・・つまり光合成を覚えた個体を別の個体が、丸ごと飲み込んだんだ。
通常なら、飲み込まれた個体は消化され、アミノ酸にまで解体され、飲み込んだ系のエネルギーになるなり、また別のタンパク質に編み込まれるなりするはずだった。
ところが、この飲み込まれた光合成系は、飲み込んだ個体(これもまた「彼」だ)の中で生きつづけることができたんだ。
彼の系にそっくりそのままの姿で「組み込まれた」光合成系は、彼のためにせっせとエネルギーをつくる。
彼は、内部の光合成系のために日光と水と二酸化炭素を取り込んでやり、それを供給された光合成系は炭水化物をつくって彼に還元し(言葉通りだ)、余剰分の酸素を放出する。
こうして、植物の系が誕生した。
また、これらの系内系の働き・・・つまり呼吸によって酸素が大気に満ちると、今度はその新素材を利用しようという系が出現する。
酸素は爆発的な燃焼エネルギーをポテンシャルとして内蔵してるので、これを使わない手はない。
こうして、酸素を取り込んで二酸化炭素を吐き出す「ミトコンドリア系」が出現した。
しかも、またこの系を取り込む系が現れたんだ。
ミトコンドリア系をそっくり飲み込んで体内で飼い慣らし、酸素を与えて前述のATPエネルギーをつくらせては、それを頂戴して活力とするわけだ。
この酸化作用のおつりとして排出するのは、二酸化炭素だ。
二酸化炭素を吸って酸素を吐く系へのカウンターバランスを担うかのように、酸素を吸って二酸化炭素を吐く系が生じた。
後に動物に至るこの系の出現により、地球上の大気の組成は世にも美しい形で循環することになった。

つづく

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世界のつくり/意識編・9

2024年04月09日 12時51分48秒 | 世界のつくり

9・食物連鎖って

彼が最当初にゲノムから命じられたのは、ほんのわずかなことだった。
「死なないこと」と「増えること」、あとは「自分のことは自分でやること」・・・くらいのものか。
そこからはじまって、彼が無意識※1に数億年を過ごすうちに、内蔵するゲノムは大きく変容していった。
ちょっとずつ、ちょっとずつ、コピーエラーによる塩基の置き換えが生じ、余分がつながって伸長し、次第に絡まり合い・・・いつからか単らせんは二重らせん構造になり、要するに例のアレになった。
気づけば※2、ゲノム本体であったはずのRNAは、次世代ゲノムとして勃興したDNAの使いっ走りとなってた。
長大なDNAの塩基配列の中には、膨大な無駄な情報が混じるようになったものの、中には有効な情報の置き換えがあり、環境変化と生存競争の中で実用性のある形質変異を遂げることになった個体は、淘汰の中で生き延びる確率を高めた。
こうした成果から、選り抜かれたゲノムは更新をつづけ、種全体の進化を高等化させつづける一方で、意味のない形質変異を強いられた個体は駆逐されていった。
新たに出現する実用性は多方面にわたり、各個体は独自に能力を多様、多角にアップデイトさせていく。
あちらが長くなれば、こちらは太くなり、そちらは硬くなって、どちらがより強い?という具合いだ。
種の進化は戦略的な多彩さを帯びて、生態系は複雑さを極めていく。
こんな軍備拡張比べの結果、必然的にゲノムは次のような命令を発することになる。
「あいつを体内に取り込んでしまえ」と。
それを受け、別の個体のゲノムは命ずる。
「飲み込まれないように防御しろ」と。
あるものは矛を実装し、対してあるものは盾を身につけた。
食うか、食われるか。
弱肉強食の食物連鎖がはじまった。
そんな淘汰圧のストレスは、さらに種に進化を促す。
リアルな実戦において、変異を有効に活用できたものだけが生き残れる、シリアスな世が到来した。

つづく

※1 彼は自律式で動くものの、意識はない。彼はまだ、機械なのだ。
※2 彼は気づけないので、気づいたのは後の世の学会だ。

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世界のつくり/意識編・8

2024年03月29日 10時46分19秒 | 世界のつくり

8・光合成、って

遺伝子の変異・・・すなわち進化は、必要いかんに関係なく、また計画も方針もなく、タイミングもお構いなく、空気を読むこともなければ、なにより突拍子もない。
あらゆる状況下で、あらゆる変異が起き得る。
その中で、当たりくじを引いたようにたまたま時代と環境にフィットした機能を獲得するものが現れる。
彼はそのアドバンテージを利用して生き抜くことができ、さらには出現した形質を後の代に継承することで、ある意味、ひとり勝ちをおさめていく。
有効な進化をしたもののみが、自分の遺伝子を後世にまで残し得、種を繁栄させることができるんだ。
個体同士での生存競争が、すでにはじまってる。
チムニーのひもじい環境で過ごした彼は、試行錯誤の末に(つまり塩基配列がいろんな並び替えをするうちに)、得体の知れない金属を取り込み、電子を取り出して心細いエネルギーに変換した上で、廃棄物をメタンの形にまとめて排出するという進化をした。※1
その金属は、地球上のあらゆる場所にあるわけじゃないので、彼はもっと別のエネルギー生成メカニズムを探る必要がある。
硫化物による化学反応を使い、鉄による酸化還元反応を使い、あれを使い、これを使い・・・彼の遺伝子はあらゆる実験を重ねていく。
そうするうちに、生態系全体の海洋への浸透は、ついに海岸線の浅瀬にまでたどり着いた。
ここには、今まで見たこともなかった陽光が降りそそぐため、熱エネルギーに光エネルギー、なんてものまで豊富にある。
そこでふと(不図)彼は、光子を取り込むことで分子を励起させ、エネルギーの高い状態をつくり出す、という発明をした・・・いやいや、たまたまそんな変異を起こした。
海中に豊富に存在する二酸化炭素を用いて体内で活発化させ、エネルギー化しては酸素を生成し排出するという「光合成システム」を可能にした彼は、ついに地球の大気の組成を変えはじめた。
これまで地上に単体で存在しなかった酸素は、実はとてつもない燃焼作用というポテンシャルを秘めた爆発物なんだ。
そこから取り出せるエネルギーは、これまでとはケタ違いだ。
なんだか生命たちの営みに、劇的な飛躍が予感されるではないか。

つづく

※1 前駆体からの進化・・・というよりは深化によって、彼は生命体となった。なので正確には、「彼はダーウィン進化を開始する生命のスタートモデルにたどり着いた」と表現すべきかもしれない。

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世界のつくり/意識編・7

2024年03月28日 09時13分41秒 | 世界のつくり

7・自然淘汰、って

外洋に出ていく際に、彼は温度変化に適応できるタイプのものをごく少数だけ生み出した。
その変異は、いろんなコピーミスを犯すうちにたまたま起きたもののひとつだ。
だけど、他のほとんどのものは温度変化には適応できないままだった(というか、関係のない別の変異をした)。
そこに、これまたたまたま冷水の環境が目の前に迫った。
冷水適応タイプと不適応タイプのどちらもそこに飛び込んだけど、おびただしい数がいたはずの後者は子孫を残せず、前者は着々と増殖することができた。
こうしてハイブリッド種※1だけが生き残って繁栄し、他者は絶滅する。
これが、適者生存による自然淘汰のメカニズムだ。
塩基配列のバグによるダーウィン進化は無作為で全方向、と書いた。
彼は、分裂して世代を下っていくごとに、あらゆる変異を自分の肉体に試す。※2
無作為全方向にわたるいわゆる「進化」をあらかじめしておいた上で、たまたま新たな環境にアジャストできたものだけが、あるいはたまたま生存に有利な機能を獲得してたものだけが、生き残っていく。
つまり、環境にアジャストしようとして、あるいは生存に有利な機能なので、という理由で進化は起きるわけじゃない。
すべての進化は、まったく意図せず発生した偶然なんであり、そこには計算も予測もデザインも介在しない。
高い木の葉っぱに届くようにキリンは首を長くしたわけじゃなく、たまたま首が長くなってしまったキリンがたまたま高い木の葉っぱを食べることができ、首の短いタイプよりもたまたま生存に有利となった、の順序だ。
生存に有利な首の長いタイプは、旧態依然のタイプよりもモテるため(異性も自分の子孫の生存を求めるのだ)、世代を経るごとにキリンの種全体の首が伸びていき、首の短いものはすたれて、長いものが後世を席巻することになる。
ダーウィン進化は、こんな残酷な淘汰をともなう。
が、結果得られた機能性のアップデイトは、種全体の生存確率を劇的に上げていく。

つづく

※1 交配がないのでこの表現は厳密ではないが、古い機能と新しい機能の交雑種、と解釈しよう。
※2 何度も書くように、変異は偶然の産物だが、ここでも進化の作用を彼の主体性と能動性に還元できるものとして表現させてもらう。なにしろ、物語なもので。

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世界のつくり/意識編・6

2024年03月26日 14時42分09秒 | 世界のつくり

6・適者生存の法則、って

さて、深海底の風景に戻る。
増殖をつづける彼の分身たちは、圧倒的な速度と量とで、ぬくぬくと熱水を噴出させる孔を覆い尽くした。
さらに、その外洋・・・と言えるかどうかはわからないけど、生まれ故郷であるチムニーの外へ外へと、生態系の前線を押しひろげていく。
まるで、生まれたての生命による、活力みなぎるエデンの園だ。
一方で、生命の浸透が及ばない遠隔地には、純粋無垢なまでの荒涼とした景色がひろがる。
この時代には酸素すらないために、鉱物はさびることを知らない。
そんなフレッシュな正真正銘のフロンティアに、彼らは勇敢にも飛び込んでいく。
ところがそこには、寒さという環境変化のワナが待ち構えてる。
かつてあっちっちのマグマ塊だった地球はすでに冷え、水面からはるか隔絶された深海底には太陽熱も届かず、地中からの放射性崩壊熱があるのみの冷たい冷たい水の底・・・
熱水に育まれた彼の身には、極めてシビアな条件だ。
こうして、ついに生命の世界進出は止まる。
・・・いや、完全に止まったわけじゃない。
なんと、そんな冷たい環境にも平気で飛び込んでいくやつらがいるではないか。
思い出してほしいんだけど、遺伝子の変異は意図的じゃなく、無作為かつ全方向なんだった。
なぜなら、ゲノムの書き換えは不意なコピーミスに過ぎないんだから。
彼は、ぬくぬくの温度帯に適応できるように塩基配列を書き換えてきた・・・かと思いきや、「ぬくぬくの温度帯に適応する塩基配列の書き換えがたまたま生じた」ために、彼は熱水噴出孔で生きる可能性を獲得したんだ。※1
彼が熱水の環境でも平気でいられたのは、ゲノムがコピーされる際のエラーによる偶然の産物でしかない。
それと同様に、一部の彼らのゲノムは、冷水に適応できるような塩基配列のコピーミスを起こした。
こうしてたまたまその一団だけが、冷水の中でも生き延びられるようになった。
これが、適者生存の法則だ。

つづく

※1 この書き換えが起きなかった個体は、全滅した。

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世界のつくり/意識編・5

2024年03月25日 09時52分57秒 | 世界のつくり

5・コピペミス、って

生きる機械である彼の駆動手順をアルゴリズム化したものが、ゲノムだ。
要は、生きていく上においてするべき作業の指示書と言える。
彼のゲノムは、彼の生命機械(肉体)に指図する。
それに従い、彼は活動する。
意識をまだ持たない彼は、ソフトに動かされるハードウェア・・・つまりロボットのようなものなんだ。
ゲノムの命令は、次のようなものだ。
「外界から物質を探し出し、獲得せよ」
すると、彼が体表面にめぐらせたイオンチャネルとエンドサイトーシスの機構が反応し、触れるものの中から求める素材を選別して体内に取り込む。
「肉体の部品を構成せよ」
すると、RNAの塩基配列の特定箇所が起動し、リボソームなどの内器官を総動員してアミノ酸からタンパク質を編み上げる。
「故障箇所を修繕せよ」
すると、新しいパーツが古いものに取って替わり、いわゆる新陳代謝が行われる。
「自分をコピーせよ」
すると、RNAの全らせんがそっくりコピペされ(核はまだないのだ)、ゲノムの原文から分身したプリントがもう一体のボディを構築した上で、別の系として独立する。
単細胞分裂、だ。
そして、ここがとてつもなく重要な点なのだが、本体のゲノムの情報は別系統へと、そのまま完璧にコピーされるわけじゃない。
ところどころにエラーが・・・つまり、原文とは別の指示書きが紛れ込む。
塩基配列・・・すなわち、彼の機能は、コピーがくり返されるごとに、ほんの少しずつ上書きされていく。
こうして、図らずもダーウィン進化が発生する。

つづく

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