MT MANIAX

苦難の時にこそ、われわれは隣人に対して寛大であらねばならない。そうしていれば世界はわれわれにとって寛大なものになるはず。

姑獲鳥の夏

2005年07月16日 | 
京極夏彦、講談社(講談社ノベルス)、東京、1994

 「姑獲鳥」と書いて「うぶめ」と呼びます。古本屋であり、神主であり、陰陽師でもある「京極堂」が活躍するシリーズの記念すべき第1弾です。京極夏彦さんのデビュー作でもあります。
 時代は、終戦からまだ間もない昭和27年。舞台は東京。名家である産婦人科医院・久遠寺家に「20箇月も身籠った娘がいる」「その夫は密室から失踪」という奇妙な噂が流れるところから、物語は始まります。身ごもった娘の姉の涼子からの依頼で、三流文士の関口、探偵の榎木田、京極堂たちが噂の真相を探ることとなります。
 初めて“京極小説”に触れたのですが、期待していた以上に面白かったです。序盤、哲学や心理学など、どこかで読んだことのある断片的な情報が京極堂の口から、くどくどを話されます。しかし、物語が徐々に進むにつれて、これらの情報が物語に必要不可欠であったことが分かってきます。次のセリフに深みを与え、主人公・関口に降りかかる奇怪な現象を支えるのであります。

 この世には不思議なことなど何もないのだよ、関口君

 独特の雰囲気が漂っていました。「サムプル」「イメエジ」などのような言葉遣いをはじめ、登場人物たちの言動、服装などによる生活感からは、昭和の時代を感じさせられました。この辺りのディテールの作り方が非常にうまいと思いました。
 登場人物たちは、非常に生き生きしているように感じられました。ただし、京極堂たちの言動に対して主人公の関口が怒り出す場面が多々あるのですが、少し強引に感じられ、感情の起伏に違和感を覚えました。
 一番好きなシーンは、第三幕の終わりのシーンです。関口が、産婦人科医である久遠寺家の呪いに、絡みとられてしまうシーンです。

 私は彼女の顔を間近で見ることができなかった。顔を逸らすと、白い、大きなダチュラが目の前にあった。

 心臓の鼓動が聞こえる。

 目の前が真っ白になる。

 頭の芯が熱くなる。

 涼子の吐息が耳元にかかる。
 涼子は消え入りそうな声でいった。

「私を・・・・・・たすけてください・・・・・・」

 私は返事ができなかった。
 そして私は、強い眩暈を感じた。

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