私はニッポン放送の携帯情報サイトで、毎週その週に起こったことを中心にコラムを書いています。今週から、一週間遅れで、その記事を公開しています。世の中の流れが速いので、だいぶずれてしまうこともありますが、ご容赦ください。なお、最新版は携帯電話からニッポン放送のサイトに行ってください（こちらは有料です）。

郵政民営化はもう始まっている
　10月３日から全国の主要郵便局で、投資信託の販売が始まりました。これは、「日本郵政公社による証券投資信託の受益証券の募集の取扱いのための日本郵政公社の業務の特例等に関する法律」（平成１６年法律第１６５号）が、昨年１２月３日に成立し、郵便局でも投資信託が販売できるようになったためです。
　投資信託とは、顧客から集めた小口資金をまとめて、投資信託会社が株式や債券、外貨などで運用し、その成果を分配する金融商品です。値動きのある資産に投資をするので、そのリスクは高く、値上がりや値下がりのリスクは投資家に帰属します。つまり、運用が成功すればいくらでも高い収益を投資家は獲得できますが、運用に失敗した場合は、その責任を投資家が取ることになっています。つまり、大きな赤字になることもありうるのです。
　実はバブルの絶頂期に私は平均株価に連動する投資信託を買ったことがあります。その投資信託は、10年ほど保有しましたが、最終的には買った値段の４分１近くに暴落しました。もちろん、いまの時点で投資信託を買っても、そんな暴落は起こらないとは思いますが、それだけのリスクのある商品だということは理解しておくべきでしょう。
　それでは、そんなリスクの高い投資信託を国民は郵便局で買うようになるのでしょうか。
　私はなると思っています。それは前例があるからです。
投資信託のなかでも値動きの激しい株式投信は、それまで証券会社だけで売られていました。ところが、いまから７年前の１９９８年末、銀行や信用金庫などの窓口で投資信託を販売することが認められました。そして投資信託協会が今年９月１３日に発表した８月の投信概況によりますと、株式を中心に運用する株式投資信託（公募型）の販売シェアで、銀行や信用金庫などが５０・１％を占めて、初めて証券会社の４９・０％を抜いたのです。
　なぜそんなことが起こったのでしょうか。証券会社の人には申し訳ないのですが、一般国民はいまだに証券会社よりも銀行の方が安全という漠然としたイメージを持っています。それは、証券会社がリスクのある商品を提供してきたのに、銀行は元本保証を続けてきたからです。投資信託の場合は、銀行で買おうと証券会社で買おうと、リスクは変わらないのですが、一般国民は何となく銀行に勧められると、安心できるようなイメージを持って買ってしまったのでしょう。
　それでは、郵便局と銀行のどちらを国民は信用しているでしょうか。私は郵便局だと思います。銀行は何回も経営破綻を演じて国民にリスクの高さを露呈していますが、郵便局は一度も経営破綻をしたことはないですし、貯金の払い戻しを滞らせることさえなかったからです。
　私は、あまり金融に詳しくない庶民や高齢者が「郵便局なら安心」と、投資信託に資金をシフトさせるのではないかと心配しています。投信が値下がりするだろうというわけではありません。ただ、利用者が意識しないうちに、リスクにさらされてしまう危険性を指摘しているのです。
　しかも投資信託の利用者は、株価変動のリスクにさらされるだけではありません。半端ではない手数料を取られるのです。
　郵政公社の資料では、郵便局で販売される投資信託は、野村證券、大和証券、ゴールドマンサックス証券という３社が運用を行います。そのうち、ゴールドマンサックス証券が発売する「ＧＳ日本株式インデックス・プラス」という投資信託は販売手数料が2.625％、信託報酬が年1.05％となっています。合計で3.675％です。もし運用会社が１年間信託財産を増やせなかったとすると、この投資信託を買った人は、3.675％財産を減らすことになるのです。
　私は投資信託を買うのなら、直接株式を買った方がよいと思います。その方が、手数料が安いからです。ただ、それでも投資信託が売れるのは、株式投資をする専門知識がないとあきらめている人が多いのでしょう。弱肉強食社会では仕方がないと言えば、そうなのかもしれませんが、私は少なくとも投資信託を販売する郵便局は、リスクの大きさと手数料の大きさをきちんと国民に周知させるべきだと思います。
　本当は、郵便局はリスクのある商品を取り扱わない方がよいと思うのですが、貯金残高が緩やかに減って行くなかで郵便局が生き残りを図るためには、利用者にリスクがあっても、確実に手数料の稼げる投資信託に手を出さざるを得ないのかもしれません。そういう意味では、資本の論理を前面に出す「郵政民営化」はもう始まっているのかもしれません。(10月３日記）