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昭和一桁の自己表現:いろいろと、あれこれ書きます

病院は老人のカフェやサロンになっている 広島市の「いきいきポイント事業」の試み

2017-10-09 16:18:26 | 老人問題・高齢化社会

 これは知り合いのヘルパーさんに聞いた話である。
 深く切った指先治療のために、朝9時に開く整形病院に8時に行った。それでも4.5人ほどの患者がすでに待っていた。これだと勤務時間に間に合わないかもと心配しながら、病院の玄関先で待っていた。
 8時45分に病院は玄関を開けるのだが、あいにくの雨の日だったにもかかわらず、みるみる間に患者の列ができた。その多くは高齢者であった。

 老人たちの会話が耳に入ってきた。。
「元気そうでいいですね」
「お陰様で」
「ところでAさんはこのごろ顔見んけど、なんで来んのかね。」
「どうしなさったんかの」
「知らんのだけど、私も来週からこれんのよ」
「そりゃまたどうして」
「嫁がデイサービスに行け、行けいうて、そりゃうるさいんよ」

 雨の中での立ち話は、45分に開いた待合室まで持ち越されて元気に交わされた。
 9時が来て治療が始まった。ところが老人たちは、医師が居る診察室ではなく、別の部屋にゾロゾロと移動した。首や腰を牽引したり電気治療のできる理学療法室である。診察を受ける患者は、5人だけだった。時間を心配していた彼女は、結局、一番に治療してもらうことができた。

 そういえば思い出したことがある。
 郷里の島原には、ときどき電話で近況を確かめ合う友人がいる。高校時代の同級生である。
「こんごろは、どうしとっとですか。元気かと?」
「それがあんまり元気じゃなかとよ。毎日病院通いですたい」
「そりゃ、きつかですね」
「そいがね。楽しかとですよ」
「病院通いが、なんで楽しかとですか」
「同級生に会えるとですよ。B君もC君もD君も来よっとですよ。病院でワイワイしゃべったり、笑ろうたりするもんじゃけん、看護婦に言わるっとですよ」
「怒られるっとでしょう?」
「そいがですね、じいちゃんたちは、毎日同窓会ができてよかとですね、って言わるっとですよ」

 こうしたエピソードは、人とのつながりの薄い都会ではどうかしらないが、超高齢化社会になった現在、全国どこでも見られる風景であろう。
 孤独な、淋しい老人たちが、お互いに交流することはいいことだ。だが問題は、その場所である。交流の場が病院だということは、いま社会問題になっている高齢化に伴う医療費の増大という問題がある。老人は小金を持っている世代だから、たいていが1割負担の医療費は、たいした負担ではない。病因のハシゴをして、たくさんの薬をもらう。それを真面目に飲んで薬害で病気になる人もいる。薬害の恐ろしさを知っている人は、薬を捨てる。
 ちなみに、3年前、鎮痛剤の副作用で死に目にあった私は、新しく出会った医師の指導によって、現在は薬も栄養補助剤も何も飲んでいない。ただ3ヶ月か半年に1回は血液検査だけはしている。検査の結果では、治療する病気は今のところない。何十年か飲まされていた降圧剤も、医師の指導で止めている。血圧の平均は160-90である。そこらの医者だと当然、降圧剤を飲ませる数値である。
 医療費を増大させている責任は、患者側より病院や医師や製薬会社、すなわち現在の医療保険制度にある。もちろん、上に紹介した老人たちの病院通いも、国家的な規模で見ると、国の財政を大きく圧迫しているのは事実である。
 その解決策はあるのか。

 FBで前々回に紹介した広島の「認知カフェ」は、その一つであろう。医療費に比べれば何十万分の一の財政負担で、高齢者たちの交流の場が提供できる。さらに広島市は、この9月から社会保障費を軽減する方策を実施した。「高齢者いきいきポイント事業」というのがそれである。
 70歳以上を対象に、高齢者の社会参加を促すのがねらいである。健康づくりの活動やボランティア活動にポイントを与えて、その合計数に応じて1ポイント100円の奨励金を出しますという事業である。
 活動の種類によって、1.2.4点のポイントが1日1回付与される。たとえば毎週月、水、金曜日に、私が参加しているグラウンドゴルフだと、1回1ポイントがもらえる。1年間に100ポイントを限度にしているので、10ヶ月ほど出席すれば100ポイントになり、来年9月には1万円もらえることになる。 
 健康づくりや介護予防の活動は1点だが、癌や結核などの健康診査を受けると倍の2点になる。さらに地域のボランティア活動に参加すると4点もらえる。

 こうした事業によって、地域の高齢者が心身ともに健康になり、医療費や介護費などの社会保障費の削減に、どれくらいの効果を上げることがでできるかは、1年後のアセスメントの結果を待たねば分からない。しかし事業の方向は、まちがっていない。社会保障を受け身の形で受ける老人を増やすのでは、100歳時代と言われる現在、財政が破綻するのは明らかである。天寿を全うするまで、一人一人が意欲的に積極的に健康長寿ライフを楽しむ「アクチブシニア」をどう増やすかが、課題になる。その意味では、「高齢者いきいきポイント事業」は、高齢化社会の問題解決の一つの方策としては、高く評価してよいであろう。