地理講義   

容量限界のため別ブログ「地理総合」に続く。https://blog.goo.ne.jp/morinoizumi777

87.原発直下の活断層

2013年05月29日 | 地理講義

地震と活断層:日本には確認されただけでも2,000の活断層がある。日本列島は、太平洋にある火山島が石灰岩とともに日本列島に付加したものや、浅海の海山が付加したものなど、モザイクの寄せ集めである。日本列島の骨格は、無数の小島・火山などの寄せ集めである。2000万年~1500万年前にはモザイクの裂け目だらけの骨格ができたが、現在に至るまで、太平洋プレート・フィリピン海プレート・北米プレート・ユーラシアプレートの押し合いの力を受けて、モザイクの境界が断層となり、地震が起こった。これまでに地震を起こしたのが活断層だが、目で見える活断層は例外的であり、大半は新しい地層におおわれて見えない。未知の断層、未確認の断層を含めると、10,000程度の活断層がある
見えない活断層の方が多いとなると、原子力発電所の立地地域で
活断層を調査しても、発見はたやすいことではない。たとえ活断層が路頭やトレンチ調査で発見されたとしても、それがいつ、どれだ動くのかは分からない。見えない活断層が4~5倍もあるのなら、原発直下の活断層はいくつあっても不思議ではない。すべての原発が活断層上に立地していると考えるべきだろう。

福井県美浜原発

憎悪感があるのか:2012年にスタートした原子力規制委員会の、原発活断層調査の専門調査団は、断層の専門家であろう。地震学には二つの学問系統がある。一つは地球物理学出身者中心の精密測定による異変で地震予知を可能とする集団である。過去の活動歴のある断層も、地層のずれをトレンチ調査で測定すれば分かるはずである。活断層の動いた距離と時間は測定可能であり、その精密さと正確さを求める集団である。地球物理学は実社会においては無駄な学問とされ、就職には不向きの学問であった。学問好きの秀才集団でもある。もう一つは徹底した野外調査から地層のずれを発見して、地震の起こった時間と大きさを推定しようとする地質学者の集団である。理学部内では、地球物理学よりは数学・物理のできない連中で、地球物理の地震専門家からは一段低く見られがちである。地球物理学も就職がないが、地質学は温泉掘削会社以外の就職はない。さらに、地質学には、かつて地学団体研究会と名乗る共産党系派閥があった。原発の活断層調査で、電力会社が原子力委員会の調査に不満であるのは、昔、原発建設の頃に、地団研から活断層の危険性を指摘されて、あえてそれを無視することで、共産党の勢力拡大を防いだという、反共の砦としての自負が残っているからである。電力会社の幹部が学生時代には、地団研(民青)と全共闘(反民青)の対立の渦中にいた。電力幹部には、地質学をすべて地団研と結びつけて考える癖が抜けないのである。深層心理は、活断層上の原発の危険性を避けるよりも、今は無力となった地団研に屈するくやしさを避けたいのであろう。

もんじゅ

構造地形学の出番:今は潰れた自然地理学という学科か専攻が主要大学にあり、地質図・地形図・航空写真・現地調査を組み合わせて、地形の成因をさぐる学問である。断層特有の地形を経験的につかむ訓練を積み、地形から断層の存在を直感的に分かるようになると、一人前である。かつては氷河性海面変動と海岸段丘の研究とか、断層と河岸段丘の研究が多かった。原発の多くは海岸段丘の下末吉面にあり、断層で段丘面が動いたかどうかは、まさに構造地形学の中心的研究である。原発立地調査の専門家集団に構造地形学者が多数動員されたのも当然であろう。しかし、地震がいつ、どれだけ動いたのかは分かるが、考えるタイムスケールが万年単位、メートル単位である。どれだけの大きさの地震がいつ、どこで起こるか、は研究の対象外であった。すでに地球物理学グループが地震予知の研究費を独占的に得て、何もできないことに、安堵しているのが、構地形学者集団であろう。構造地形学者は地球物理学よりは大学入試の偏差値では天地の差がある。地質学と同程度であろう。その偏差値の差のゆえに、地球物理学者と対等になることができず、また地球物理学ほどの学問的土台がないにもかかわらず、断層と地形の関連については名人芸を見せる職人的集団である。なお、最近は構造地形学とは言わず、変動地形学と言うようである。

東北電力女川原発

どうすればいいのか:私は大学・大学院で構造地形学を多少学び、今の専門家集団が尊敬に値するほど、政治的につつしみ深く、学問的真理の探究には極めて謙虚であった。他方、電力会社幹部はもう少し年上で、冷戦時代の申しであり、1960~1970年の大学紛争を経験している。現在の研究者は大学紛争を経験していないし、学問を政治的に利用とする策略とも無関係である。だからこそ、活断層を40万年前なでにするとか、次の地震の規模も時期も不明であると、学問に忠実なのである。それでいいと思う。

気仙沼(2013年つまり津波から2年後の繁華街)

常識的結論:原発を破壊する活断層なのか、と電力幹部が息巻いているが、そんなことは神様にも分かるはずがない。原発規制委員会は、万一の大地震で東京電力福島原発のような事態にならないように、万全の対策を急いで講じることを求めているのである。地震の専門家が調査発表する以前に、世間ではごく当たり前のこととして語られていたのである。地震・津波・テロ・故障に耐える原発にするとともに、廃炉の研究を急ぐことは、世間の常識である。専門家集団は熱心に学問的調査をして、最終的に常識的結論に達したのである。

 


最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。