ヴォイニッチの科学書・ブログ版

ポッドキャスト科学情報番組「ヴォイニッチの科学書」ブログ

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Chapter-115 サイエンスニュースフラッシュ

2006年06月24日 | 番組要旨
 コーヒーが健康に良いか悪いかは、各人の遺伝子を診断してからでなければ何とも言えないようです。

 カナダトロント大学の研究チームの研究成果によると、カフェイン分解速度の違いによってコーヒーが体に与える影響は様々であるようです。コーヒーに含まれているカフェインはCYP1A2と呼ばれる酵素で分解されその効果を失いますが、CYP1A2の遺伝子のわずかな違いによって、カフェインが分解される速度が人によって異なっています。カフェインを分解するのが遅い人は1日に2杯(500cc)以上のコーヒーを飲むと心筋梗塞の危険が高まる恐れがあり、4杯以上飲むと心筋梗塞の危険度が64パーセントも上昇しました。

 一方で、カフェインの分解が速い遺伝子を持つ人はタイプの人は1日に1~3杯のコーヒーを飲むことで心筋梗塞のリスクが低下することがわかりました。同様のことはカフェインだけでなくあらゆる食品の成分についても当てはまる可能性があり、このことは、食品の栄養やデメリットを評価する場合にも、一般に行われている食事指導においても、各個人の遺伝子のタイプを考慮することが必要であることを示しています。

 コーヒーは元々疲労回復に効果のある薬草として利用されてきましたが、カフェインには目覚めを良くする、血流促進や利尿、血流促進による脂肪燃焼ダイエット、低血圧改善、肝臓や腎臓の機能を活性化してアセトアルデヒドの分解を促すことで二日酔いを防止するなどの効果があると言われています。一方で、精神依存症や骨格筋運動亢進作用による指先などの震えなどの副作用の他、利用作用、胃液分泌促進などのように人によって良い場合もあり、悪い場合もある作用など多くの作用があることが知られていますので、慎重に飲用しなければならないかもしれません。

 再生医療とは、種々の細胞を用いた骨、軟骨、血管、角膜、心筋などの再生により失われた機能を補おうとする医療技術ですが、独立行政法人 産業技術総合研究所と大阪大学薬学研究科の共同研究によると、抜歯した親知らずの根っこの一部(歯胚)を増殖せることによって動物実験において骨組織と肝臓の再生に成功したそうです。歯胚から得られた細胞は骨髄から得られた間葉系幹細胞よりもさらに未分化な細胞で、増殖能・分化能が高く再生医療に好都合であることもわかっています。

 北海道大学の研究チームの発表によると、北海道に住むエゾアカガエルのオタマジャクシは頭を膨らませることによって、捕食から逃れていることがわかりました。このオタマジャクシは、頭の部分を約2倍の体積に膨らませ、捕食者のエゾサンショウウオに丸のみされないよう防御しているようです。エゾアカガエルとエゾサンショウウオは産卵の時期が一致しているため、オタマジャクシは捕食者であるサンショウウオの幼生と一緒に暮らすことになります。オタマジャクシとサンショウウオを実験室内で一緒に飼育したところ、オタマジャクシは表面の皮膚を膨らませて頭胴部の体積を約2倍にすることが確認されました。また、サンショウウオを取り除くと、頭胴部の大きさは元に戻り、孵化(ふか)の時期をずらして、オタマジャクシがサンショウウオに比べ十分に大きい環境を作った際にも頭胴部はあまり大きくならなかったそうです。

 欧州宇宙機関の金星探査機「ビーナス・エクスプレス」が金星の周回軌道に到着しています。2005年11月に打ち上げられたこの探査機は約5か月かけて金星に接近しました。金星探査機が軌道に達したのは、1990年の米航空宇宙局の「マゼラン」以来16年ぶり。今後1年半をかけて金星大気の構造や動き、化学組成、金星の表面の状態を精密に調べることになっています。

 米シカゴ大などの研究チームがカナダ北極圏での発掘調査の結果、手首のような構造をした胸びれを持つ新種の魚類化石を約3億8000万年前の地層で発見しました。この時代は地質年代としては古生代デボン紀後期に相当します。この動物は頭や胴体が平たく、目が中央に寄っていて上を向いているなど両生類の特徴を示していますが、ウロコや頭骨の特徴からシーラカンスや肺魚の仲間の魚類に分類されました。けれど、魚類と4本足両生類の境目に位置する魚類であると考えられます。

 一方、中国ではナジャシュ・リオネグリナと名付けられた足を持つ原始的な蛇の化石が発見されました。この化石が発見された地域は当時陸地だったと考えられることからヘビはトカゲ類が穴の中をはい回るうちに不要な足を失った、という陸上起源説を有力に支持する化石だということです。

 米カーネギーメロン大で5~10年後の実用化を目指して、ヘビ型人命救助ロボットの開発が行われています。このロボットははがれきの間を縫うように動き回り、下敷きとなった生存者らを捜索する人間の腕ほどの大きさのロボットで、カメラとセンサーを搭載し、小型モーターを遠隔操作して動きます。


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Chapter-114 ヒトES細胞からドーパミン神経を

2006年06月17日 | 番組要旨
 パーキンソン病は、19世紀前半のイギリスの医師でパーキンソン病を「振戦麻痺」として紹介したジェームス・パーキンソンにちなんでつけられた病名で、多くは40歳を過ぎてから発症し、初期の症状として安静にしている時の手足の震えが発現し、やがて、筋肉の動きがなめらかでなくなり、動作がぎこちなくなったり、動作が遅くなる、字が小さくなる、声が小さく早口になって他の人が聞き取れなくなる、上手に歩行ができなくなるなどの症状が順次現れます。また、自律神経の障害もよく見られる症状で、具体的には便秘、あぶら顔、多汗、ヨダレなどがあります。現在国内に患者は約10万人いるとされ、比較的発症頻度の高い神経変性疾患です。けれど、アルツハイマーなどと異なり、CTスキャンやMRIで異常が見られないことも特徴です。パーキンソン病は伝染も遺伝もしませんが、若年性のパーキンソン病の原因の一部には遺伝性の原因があることも知られています。

 パーキンソン病の生化学的な原因は脳の線条体と呼ばれる箇所におけるドーパミンと呼ばれる神経伝達物質の欠乏です。この欠乏はドーパミンの供給に関わっているドーパミン神経の減少によって生じます。ヒトを含む哺乳類動物の中枢神経系のニューロンは非常に再生能力が低く、一旦損傷すると自然には回復しにくいことが知られています。したがって、今のところ、パーキンソン病は発症すると完治させることはできませんが、薬物療法や外科的治療によって症状を改善させることは可能です。薬物療法、外科的治療に続く第三の治療方法として移植・再生医療が期待されており、1980年頃から様々な検討が行われていますが、皮膚などと異なり、失われたドーパミン神経は他から持ってきて移植するということができないため、ドーパミン神経として機能する、あるいはドーパミン神経に変化する何かを移植しなければならないのですが、その「何か」の決定打が無く、一部交感神経の自家移植などが行われている以外はいまで実用化されていませんでした。

 今回の研究は、ヒトES細胞からドーパミン神経細胞を効率よく得ることを可能にした研究です。

 羊膜は哺乳類や鳥類において胎児と羊水を包み込む袋のような役目をする薄膜ですが、独立行政法人理化学研究所と京都府立医科大学は、ヒト羊膜の成分の上でES細胞を培養することによってヒトES細胞から神経細胞を育てる方法を世界に先駆けて開発しました。同様の方法ではPA6細胞と名付けられたマウス由来の細胞の上でES細胞を培養することで、動物のES細胞からドーパミン神経などの中枢神経系細胞を試験管内で作り出すSDIA法と呼ばれる方法をすでに開発していました。

 2005年にSDIA法によってサルES細胞から作られたドーパミン神経細胞をパーキンソン病を発症させたサルの大脳(基底核)に移植し、治療効果があることを実証しました。このようにSDIA法はES細胞によってパーキンソン病などの中枢神経性疾患を治療する再生医療実現に役立つ優れた方法です。しかし、この方法の問題点として、マウス由来のPA6細胞がなければ効率よくドーパミン神経細胞などを作ることができないため、マウス由来の病原体の感染などのリスクがあります。したがって、この方法によってヒトES細胞からの神経細胞を作り出してヒトの脳に移植することは事実上で機内状態でした。

 この問題を解決するために研究者らは帝王切開手術で得られるヒト羊膜に含まれている(細胞外基質)成分に注目し、これがPA6細胞の代わりにES細胞に対して作用させることが可能であることを発見しました。ヒト羊膜はすでに角膜幹細胞の培養や外科的処置などの際にも用いられている、安全性が実証されている組織です。また、これまでの試験管内の実験でこのヒト羊膜成分の上でES細胞を培養することによって、ヒトES細胞からドーパミン神経細胞、運動神経細胞、網膜色素上皮細胞、水晶体細胞などを作ることができることが確認されていました。この方法を用いることで、感染症のリスクのあるマウス由来の成分を使うことなく、ヒトES細胞から効率よく必要な神経細胞を得ることが可能となり、中枢神経性疾患の移植治療が大きく前進することが期待されます。

 今回発明された羊膜成分を使う新しい方法は「AMED法(Amniotic membrane Matrix-based ES cell Differentiation;羊膜マトリックス成分に基づくES細胞分化法)」と名付けられました。この方法はドーパミン神経細胞だけでなく、ヒトES細胞から運動神経、網膜組織などの中枢神経系由来の神経・感覚系細胞を作り出すことも可能にしました。 ヒト羊膜成分が、ES細胞に対してこのような機能を持つことが知られたのは、今回が世界で初めての報告です。

 また、効率が非常によいことも今回の方法の特徴で、AMED法によりヒトES細胞を神経細胞の前段階の細胞に変化させた後、さらに約4週間培養すると約4割の細胞が神経細胞になったそうです。そのうち約3割の細胞はドーパミン神経細胞であることが確認され、ヒトES細胞からこのように高い効率でドーパミン神経を直接作り出す(分化誘導)ことに成功したのも世界で初めてです。

 さらに、ドーパミン神経細胞を作り出す(分化培養)過程で、Shh(ソニック・ヘッジホグ:筋肉の収縮を制御する運動神経細胞の分化を促進する可溶性タンパク質)を添加することで、約2割の神経細胞を運動神経細胞に分化させることが可能となりました。また、ヒトES細胞をドーパミン神経細胞に変化させるのと同じ条件で、培養期間を長期に延長すると眼の組織である網膜色素上皮および水晶体組織の大きな細胞塊が出現することも確認されました。何故、羊膜の成分にこのような作用があるのか、具体的にどのような物質がその作用を担っているのかはわかっていません。
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書籍が紹介されています

2006年06月16日 | 科学雑談
 「ヴォイニッチの科学書」の制作と送り出しを行っているインターネット放送局「くりらじ」の本拠地(その他、九州支局と関西支局があります)山口県の地元紙「宇部日報」2006年6月8日号です。

 2面に本を持った私のカラー写真入りで出版の経緯や読者に伝えたいことが記事になっています。記事は本の序文に書いたこととほぼ同じ内容です。写真は記者さんに取材後10枚くらい撮影していただいた中の1枚なのですが・・・写るときにできるだけにこやかな顔をして写ったつもりなのですが、採用されたのは一番普通の顔をした写真でした。研究者はあまりニコニコしては「らしくない」んでしょうか。それとも、単に私は笑うと顔がヘンになるだけ???

 先週も紹介しましたけど、書籍「おはようからおやすみまでの科学」佐倉統さん、古田ゆかりさん共著(ちくまプリマー文庫)の初版52ページに「科学は遠くにあるものか?」というのがあって、その中に科学者に対する一般市民の(著者の?)ティピカルなイメージが書かれています。その記述を抽出すると「白衣を着て、ひげを生やし、はげ頭か白髪頭のおじいさん。胸のポケットにペンをさしていて手にはフラスコか試験管を持っている。『ハカセ』と呼ばれて『オッホン!』と言ってから話し始める、やさしそうではあるが偉そうな態度。偏屈で社会性が無く、浮世離れしていて自分の研究に没頭しその価値に社会的善悪という基準はない」のだそうです。

 私が科学者なのかどうかは自分ではよくわからないんですけど、広辞苑第五版によると科学者とは「科学(特に自然科学)を研究する人」とごく簡単に書かれています。その基準では私も科学者なんですねぇ・・・。それをふまえると、あまりニコニコして写真に写るのはフレンドリーなイメージを醸し出してしまってイメージが崩れるわけだ・・・?

 それで、上の科学者イメージと比べると合致するのは「胸のポケットにペンをさしている」くらい? でも、これって珍しいんですか? 科学者の特徴?? 私の職場の人はおそらく一人の例外なく胸のポケットにペンを指してますけど。普通の勤め人ってポケットにペンさしてない? 内ポケットにペン入れてる? これが「特徴」といわれるほどのこととは思ったこと無かったです。新鮮な驚き。

 フラスコはどうなんでしょうね。有機合成とかしている人はフラスコとか使ってると思いますけど、全体からすれば少数派かもしれません。フラスコでモノを混ぜたりしないですよね。工学系の人はほとんどそういう実験はないでしょうし、私のように生命科学系の人間でも何かを混ぜる時にはそういう装置があって自動的にやってくれるか、そうでなければ3リッターくらいのビンを両手で抱えて豪快に振り回して混ぜるか・・・。

 あと、本に書かれていない科学者の特徴として「首からストップウォッチをぶら下げている」とか「首から黄色いタオルを掛けている」とか無いですか?(笑)今は地方の公立大学でも実験室に冷房があるのは当然ですけど、私の在学中はまだまだ地方では珍しくて学会などで都会の大学に行って全館冷房だったりすると「すげぇな」と思ったものです。

 そういう暑い大学の研究室では夏場の「首タオル」は必需品だったりしました。「暑~っ」とか言いながらコワーカーと一緒に木陰でさぼってアイス食べてたのは今となってはよい時代に学生をしていたのかもしれないですね。研究環境が改善されるとなかなかサボれないでしょ? 真夏に木陰でアイスなんてしないですよね、今時の研究者。

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Chapter-113 私たちはどこから来たのか

2006年06月10日 | 番組要旨
 19世紀中頃、細菌学者パスツールによって生物は自然発生しないことが示されました。それ以来、生命誕生のしくみは大きな謎となっています。

 地球上に生命が誕生した始まりに関する最も有力な説は化学進化説と呼ばれるもので、海中で非常に単純な構造の無機物から炭素原子同士が複雑に結合した有機物が生まれ、この有機物どうしがさらに結合してより大きくて複雑な有機物が形成されたという説です。

 1953年、当時シカゴ大学の大学院生だったS.L.ミラーによって、後に「ユーリー・ミラーの実験」と呼ばれるようになる画期的な実験が行われました。この実験は原始地球の大気を模したメタン、水素、アンモニアの混合気体に原始地球で活発だったと思われる雷に相当する放電を行ったところ一週間でグリシン、アラニン、アスパラギン酸、バリンの四種のアミノ酸が生成していることが確認されたというものです。当時、生物の体を構成しているアミノ酸がいとも簡単に作り出されたことは非常に驚くべき結果でした。

 この実験結果から、私たち地球上の生命は地球誕生から間もない頃の大気にメタンやアンモニアが含まれていれば雷や太陽からの紫外線でアミノ酸が生まれ、アミノ酸の濃度が上昇することによってアミノ酸同士が結合してやがてタンパク質になったという古典的なメカニズムが提唱されました。

水・メタン・アンモニア

ホルムアルデヒド・シアン化水素

アミノ酸

ペプチド(アミノ酸が数個つながったもの)

タンパク質
       (参考:「現代科学」2006年6月号 24ページ)

 しかし、その後の研究で原始地球の大気はこの実験で想定した大気とは全く異なり、二酸化炭素、一酸化炭素、窒素を主体とする火山ガスに近い成分だったことが最近になってわかり、古典的な生命誕生のメカニズムには疑問も呈されています。

 1969年、隕石の中にアミノ酸が含まれていることが発見されました。誕生直後の地球には多数の隕石の落下があったと考えられますので、この発見は隕石によって地球にアミノ酸がもたらされた可能性を示唆しています。

 地球の生命は宇宙からやってきたという説をパンスペルミア説と呼びます。

 パンスペルミアとは2500年前のギリシアの哲学者アナクサゴラスによって作られた言葉で、アナクサゴラスは地球上のあらゆる生物は宇宙を漂う命の種の組み合わせからできているとしました。現在のパンスペルミア説で命の種に相当するものはアミノ酸重合体のようなタンパク質やそれに近い生体関連物質、あるいは細胞そのものであると考えます。

 かつては生命に関連する物質が過酷な宇宙空間を地球まで移動できるはずがないと考えられていました。しかし、日経サイエンス2006年2月号の記事によると最近の研究では火星程度からなら地球へは一年以内で岩石は到達する可能性があること、NASAの人工衛星である長期間暴露装置LDEFを使った実験で、たとえ細胞であっても、わずかに岩石の中にめり込んでいれば、確率は低いながらも生きたまま1年間宇宙空間を旅することができることが確認されたそうです。しかし、実際に微生物が宇宙空間から地球にやってきて、それが進化して人間を含む現在の生物となった、という完全なパンスペルミア説は否定的な意見が多いのも事実です。

 現在考えられているパンスペルミア説の発展形として、アミノ酸やRNAの元になった物質は宇宙から供給されたかもしれないが、それが生命として成立したのは地球環境においてだったという、地球オリジン説との中間的な立場に立つ説もあります。

 さて、生命誕生のシナリオとして現在有力視されているシナリオは海底熱水噴出孔周辺で最初の生命が発生したというものです。海底熱水噴出孔は現在の地球にも存在し、海水は200気圧、水温は最高で400度にも達する特殊な環境です。ここでは、熱水鉱床と呼ばれる金、銀、銅、亜鉛などの金属鉱床が発達することがわかっていますが、その中に黄鉄鋼と呼ばれる硫黄と鉄からできた鉱物があります。1988年に発表された「表面代謝説」によると、黄鉄鋼の表面ではさまざまな化学反応がおきることがわかりました。たとえば、無機物リン酸の重合によるDNAやRNAの原料であるアミノ酸の生成が確認できています。このメカニズムでタンパク質または核酸が合成され、生命が発生したと考えるのがこの説です。

 アメリカの微生物学者C.R.ウーズが、現存する地球上のすべての生物や核酸の配列をもとに、祖先-子孫の関係を調べた結果、すべての生物が一本の系統樹にのることを示しました。現存するすべての生物の共通の祖先をコモノートと呼ぶことを日本人研究者山岸明彦が提唱しました。コモノートは輪ゴムのように両端がつながった環状DNAに遺伝情報を持つ高熱性細菌であると考えられました。つまり、現在のすべての生物の共通の祖先は熱い海の中で誕生した可能性があると言うことです。

 地球に近い軌道を持ち、地球に近い大きさで大気もある火星はかつては生命が存在する可能性がある天体の最右翼でしたが、NASAによる調査の結果火星の大地は非常に酸化的であらゆる有機物は分解されてしまうような環境でした。火星に水の海が存在し、地球のように温暖な時期があったという説も唱えられていますが、少なくとも現在の火星においては生命は存在していそうにありません。ただし、私たちが探査することが困難な地底や火山の中などにはまだ可能性は残されています。

 しかし、現在では火星よりも生命が存在している可能性が高そうな天体がすでに見つかっています。一つは木星の衛星エウロパです。エウロパは水の氷で表面を覆われた極寒の衛星ですがこの氷の下には液体の水の海があることがボイジャーやガリレオによってすでに確認されています。この液体の海は水深が50キロメートルもあると思われます。また、エウロパは地球の月とほぼ同じ大きさの天体ですが、月とは全く異なり表面にクレーターはほとんどありません。このことはエウロパが非常に活動的であることを示しており、木星の潮汐力によって衛星が加熱されている可能性もあり、エウロパの現在の状態は地球の全球凍結時代と同様に表面は氷で覆われていますが、内部には熱源が存在するかもしれません。もしそうならば、海底には微生物が生息している可能性があります。

 二つめは土星の衛星エンケラダスでこちらは探査機カッシーニによって表面の氷の下に液体の水があることが確認されました。エンケラダスは土星の潮汐力を大きく受けており、氷の火山や氷の平原などがあり、これらはいずれも新しく、活発な地質活動があることが確認されています。

 かつては、火星の次に可能性が高いと思われていた土星の衛星タイタンですが、タイタンには地球に似た窒素を主成分とする大気はあるものの、液体の水は存在しないため、生物の存在の可能性は低いものと考えられます。しかし、液体のメタンは存在してるのでひょっとする土地旧型とは全く異なる生命が誕生している可能性もありますが、詳細は全くわかっていません。

 以上のようにこの宇宙空間における生命の起源について、私たちが知っていることはほとんど無く、35億年前、説によっては27億年前に地球上に微生物が存在した、ということしか確かにわかっていることはありません。



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「最新科学おもしろ雑学帖」の関連ページ
  38番 火星大気のメタンは生物存在の証か?
  39番 マーズ・エクスプレスが流氷原発見
  40番 火星にはどんな生き物がいそうなのか
  42番 土星の衛星タイタンに生物はいるか
  89番 生命の起源はどのようなものか
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Chapter-112(後半) アスペルガー症候群

2006年06月03日 | 番組要旨
 アスペルガー症候群はオーストリアの小児科医ハンス・アスペルガーの名前にちなんでつけられた診断名です。今年2006年はハンス・アスペルガーの生誕100年となります。アスペルガーは1944年に「小児期の自閉的精神病質」というタイトルで4人の子どもたちの不可解な言動に関する論文を発表しました。

 アスペルガー症候群は

  ○認知・言語発達の遅れがないこと
  ○コミュニケーションの障害がないこと
  ○社会性の障害とこだわりがあること

 で定義されますが、コミュニケーションの障害があるものをアスペルガー症候群と呼ぶか、無いものをアスペルガー症候群と呼ぶかの違いで2種類の定義があります。一般にはコミュニケーションの障害も併せ持つ症例をアスペルガー症候群と定義しています。

 脳障害が原因でやや不自然な言動を伴う自閉症と診断される子どもは1000人に1、2人いますが、その中で知的障害のないタイプが、高機能自閉症やアスペルガー症候群です。研究者によってはアスペルガー症候群は多くの場合「ちょっと変わった付き合いにくい人」ですまされてしまうため、医師の診断を受けることが無く、実際には約200人に1人はいるとした資料もあります。

 アスペルガー症候群に見られる症状として次のような特徴的なものがあります。

 同年齢の子どもと対等の相互的な遊びをすることが難しく、クラスの中で浮いてしまいます。幼児期には一人遊びが中心ですが、年下の子供に指図して一緒に遊ぶこともあります。ただし、他の子が自分の思い通りに行動しないと突然起こり始めたり、一人遊びに戻ったりすることもあります。

 悪気はないのに、友人の弱点や傷つくことを平気で言ってしまうことがあります。他人の立場に立てないので、それを言われた友人がどのように感じるかという事を想像することができないためです。発言には悪意がないため、「正直すぎる子供たち」と称されることもあります。正直すぎるが故に、友人同士との秘密を守れないため、「すぐに先生に告げ口する奴だ」「秘密を守れないおしゃべりだ」と周りに思われることになったりします。

 正直であり、他人の気持ちを理解することができないため、初対面の人に対してプライベートなことをずけずけと質問したり、自分の関心のある話題を一方的に話しかけたりすることもあります。

 良い見方をすれば、陰日なたのない性格で、はきはき発言して元気も良く、自分の興味の対象に関しては大人も驚くような知識を持つという見方もできますが、実際には周りから嫌がらせやいじめを受けやすく、相手の言葉の裏にある真意や要求、友人同士の暗黙の了解を察することができず、冗談や励ましも字面通りに理解してしまうので友達とのコミュニケーションに支障を来します。これが繰り返されるうちに不登校になったり、情緒不安定な様子も見せるようになったりします。

 アスペルガー症候群の原因については科学的に解明されていません。アスペルガー症候群の子どもは幼いころから漢字の読み書きや計算が得意だったりするために、勉強のさせすぎで子供をヘンにしてしまったと親が悩むこともありますが、親の育て方や愛情不足などが原因ではありません。残念ながらアスペルガー症候群そのものを治す薬はなく、いらいらや多動、不眠など症状に合わせた対症療法がとられます。

 アスペルガー症候群は見た目にはわかりにくいため、本人のワガママであると誤解されたり、親が自分の子育てが悪かったからだと悩んだりします。けれどアスペルガー症候群の患者は教育現場や社会の受け入れ方次第で、有益な才能となりますので、そうした児童や生徒の良い面を伸ばす方策を探ることが必要です。


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 脳科学に関しては第4章脳の解明・進化論と題して一つの章を割り当てて多数の最新情報を掲載しています。
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Chapter-112(前半) 成層圏化学気候モデルを用いたオゾンホールの回復予測

2006年06月03日 | 番組要旨
 独立行政法人国立環境研究所大気圏環境研究領域大気物理研究室のプレスリリースによると、2020年頃にはオゾンホールが回復し始め、21世紀半ば頃にはオゾンホールは解消されるとのことです。

 オゾン層は地表から20~30キロメートル上空の成層圏にあって、太陽からの紫外線を吸収し地球上の生態系を保護する役目を担っています。しかし、オゾン層はフロンの他、臭化メチルなど塩素原子や臭素原子を放出する有機化合物、窒素酸化物などによって破壊されることがわかっています。オゾン層が破壊されると、地上に到達する紫外線の量が増加し、皮膚がんや白内障の増加、農作物への悪影響が生じる恐れがありあます。

 国立環境研究所が採用したのは東京大学気候システム研究センターと共同で開発した成層圏化学気候モデルと呼ばれる数値モデルです。このモデルにフロンやハロンなどオゾン層破壊関連物質の将来の放出予測や二酸化炭素などの温室効果ガスの今後予想される濃度変動を考慮に入れて、将来のオゾン層の変化についてのシミュレーションを行い、今後オゾンホールは更に拡大するのか、オゾンホールはいつ頃回復すると期待されるかを予測しました。

 化学気候モデルとは大気の循環や太陽光の吸収による地球環境の変動、海水が大気の循環に与える影響など、複雑に絡み合う環境要因も含めてモデル化したものです。これまでのモデルには充分に考慮されていなかったハロンなどを起源とする臭素によるオゾン分解も考慮していることが特徴の一つです。

 成層圏のオゾン量の観測結果によると、オゾン層を破壊するフロンなどの濃度はすでに1990年代後半から減少し始めています。しかし、オゾンホールの観測結果は現時点では縮小してるというデータは得られておらず、横ばい状態にあります。

 今回の予測結果によると、オゾンホールは現在、最も大きくなっていると思われます。引き続き、2010年頃までは大規模なオゾンホールの生成が続くものと予想されますが、2020 年ごろにはオゾンホールの縮小傾向が出始め、21世紀半ばには南極のオゾン層は1980 年レベルに回復するとの結果が得られました。

 オゾンホールの拡大による被害についてはWHOの資料によるとオゾン全量の減少にちょうど対応するように紫外線量は増加しており、それに伴って皮膚ガン患者数も増えています。ここで注意しなければならないのは紫外線照射量と皮膚ガン患者数の変化は相関しないということです。紫外線の影響で生じる皮膚ガンは紫外線照射から何年後かに発症しますので、今ここで紫外線量が踏みとどまったとしても今後しばらく、皮膚ガン患者は増加を続けてしまうことになります。


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「最新科学おもしろ雑学帖」の関連ページ
  163番 地球温暖化のシナリオ
  164番 温暖化によって真夏日が年間140日に達する
  165番 オゾン層破壊の仕組みとオゾン層の現状
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科学ジャーナリスト賞落ちましたのお知らせ

2006年05月28日 | お知らせ
 「ヴォイニッチの科学書」の生放送をお聴きの方はご存じだったと思いますが、日本科学技術ジャーナリスト会議が募集していた「科学ジャーナリスト賞」ってのにエントリしていました。26日に結果発表が行われ、落ちました。しょんぼり。

 めでたく受賞されたのは・・・。

 科学技術に関する報道や出版、映像などで最も優れた成果をあげた人に与えられる「科学ジャーナリスト大賞」は毎日新聞記者の元村有希子さんで、授賞対象は「ブログを含む「理系白書」の報道に対して」とのことです。

 次点に相当する、「科学ジャーナリスト賞」としてベトナム戦争の枯れ葉剤被害に対して30年以上も報道を続けたフリーカメラマンの中村梧郎さん。

 分子生物学者として斬新な視点からBSEを分析し、一般向け科学書として「プリオン病はほんとうか?」にまとめたことに対して青山学院大学教授で福岡伸一さん。

 アスベスト問題に粘り強く取り組み、住民被害の実態と救済を社会に訴えた報道をした朝日放送アスベスト取材班を代表して石高健次さんと毎日新聞編集委員の大島秀利さんでした。

 みなさま、おめでとうございました。

 この賞は今年創設された賞で、いったい誰がエントリしてどのような活動に対して授賞されるのかよくわからない状態でエントリしていたのですが、結果を見ると、今年のキーワードみたいなのが読み取れますね。「ブログ」「枯れ葉剤」「BSE」「アスベスト」って感じでしょうか。「枯れ葉剤」は不意打ちでしたけど、それ以外の受賞は、なるほどトレンドとなるキーワードが必要なのか、と言うことが理解できる内容でした。

 ちなみに、私は「ヴォイニッチの科学書・世界初の日本語によるポッドキャスト科学情報番組の創設と月間平均6万配信の実績、そしてWebと書籍への展開」でエントリしていました。「ヴォイニッチの科学書」にしても、「最新科学おもしろ雑学帖にしてもこれっていうキーワードがないですもんね。こういうのはインパクトが弱いのかも。

 あと、受賞者5名のうち、学者さんが1名であとはプロの報道関係者。科学のプロが市民レベルで啓蒙活動をすることの重要性が訴えられているこの頃で、こういったジャーナリストを表彰する賞に学者さんが1名入賞されたと言うことは、良くやったと言うべきか、たった1名では努力が足りませんね、と言うべきか・・・どっちなのかはよくわからないですけど、学者さんがこういった賞を受賞されたという事実は、その他の「科学技術コミュニケーションをやってみようかなぁ~、とか、教科書ばかりではなくて一般向けの新書も書いてみようかなぁ~」とか思っておられる先生方の刺激になれば良いな、とは思います。

 ・・・・。実は、心の奥底では「いや、世界初の日本語科学ポッドキャストでアクセス数は、1位ネイチャーポッドキャスト、2位はサイエンストークポッドキャスト、3位がヴォイニッチだぞ、世界を代表する2大学術雑誌の次だぞ、ひょっとするとイケるかも・・・」とか思ってたんですけど、世の中そんなに甘くなかったです。

#受賞してたら、くりらじビジネスの方向を模索している局長BJもウリになるって喜んだろうにねぇ・・・。

 来年もがんばります。応援メールを下さったリスナーの皆様、ありがとうございました。

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Chapter-111 プリオンタンパク質に関する研究の最前線

2006年05月27日 | 番組要旨
 プリオンとはタンパク質を意味するproteinと感染性を意味するinfectionを合わせた造語で発見者でノーベル賞受賞学者のプルシナーにって提唱されました。プリオンタンパク質は様々な動物の体内に存在していますが、もともとの形である正常型と、タンパク質を構成するアミノ酸でできた鎖の折りたたまれ方が変化した異常型があります。異常型プリオンタンパク質は様々な病気の原因であると考えられています。それらは人ではヤコブ病、プリオン病、クールーなど、牛ではBSEと略される牛海綿状脳症、羊ではスクレイピー、その他、シカやサル、猫などでも異常型プリオンタンパクが関係していると思われる病気が見つかっていて、発症する動物種ごとに異なる名前が付いていますが、これらすべてがプリオン病で総称して伝達性スポンジ状脳症といいます。

 正常型プリオンタンパク質についてはあらゆる動物のあらゆる臓器に含まれているにもかかわらず、その役目は明らかになっていません。異常型プリオンタンパク質が原因であろうと思われる病気についてもまだまだ謎の部分が多く、正常型プリオンタンパク質の機能を知ることによってこれが異常型となった病気のメカニズムも解明できるかもしれません。

 タンパク質はアミノ酸が一列につながったものですが、ある決まった形に折れ曲がってコンパクトにまとまっています。これを立体構造と言いますが、この立体構造はタンパク質の機能を決定する役目を担っていて、アミノ酸の並び方と立体構造の特徴の両方によって、アルコールを分解したり、脳からの情報を伝達したりすることができます。何らかの理由でこの立体構造が異常になると、それは本来の機能を失うだけでなく、場合によっては予期せぬ働きをすることがあります。このことはプリオンタンパク質にも当てはまります。

 90年前に発見されたヤコブ病は何の症状も出さずに脳を破壊しいったん発症すると100パーセント死に至る病気ですが、これは正常プリオンの立体構造が異常になっていることが疾患と深く関わっていることがわかっています。また、クールーと呼ばれる疾患も同様に脳や神経が破壊され100パーセント死に至る病気ですが、ニューギニアで1950年代まで行われていた死んだ人を弔うために死者を食べる食人習慣によって広まることが特徴的な病気です。

 これらの病気を引き起こす異常型プリオンタンパク質と正常型プリオンタンパク質の違いは立体構造だけです。正常型プリオンタンパク質はαへリックスと呼ばれる螺旋階段のような構造を多く含み、この螺旋階段がスプリングのような効果を生んでぐにゃぐにゃと構造が柔軟で水に溶けやすいことが特徴です。異常型プリオンタンパク質の立体構造はまだ正確にはわかっていませんが、βシートと呼ばれる板のような平らな構造を多く含んでいるのではないかと予想されています。

 正常型プリオンタンパク質の機能について、多くの研究がなされており、正常型プリオンタンパク質と関係があると報告されている物質には銅、脳細胞の繊維、アポトーシスに関連する物質、脳内で情報伝達に関わる物質など、多くのものがあります。ただし、これらは試験管内で混ぜ合わせればくっつくという程度の結果で、体の中でどのような物質が正常型プリオンタンパク質と関わっているかはわかっていません。

 体の中で正常型プリオンタンパク質がどこにたくさんあるかと言えば、タンパク質を作るときの鋳型であるmRNAの量で見ると脳が最も多く、次いで、精巣、胎盤、心臓、肺などに多く存在していることがわかっていますが、実際には体内のほとんどの臓器で正常型プリオンのmRNAは存在しているようです。

 では、そこでどのような機能を担っているのかと言えば、様々な説があって、未だよくわかっていません。ある報告では細胞内のラジカルを補足する Super Oxide Dismutase (SOD)の活性をコントロールしており、なおかつ、プリオンタンパク質自身も抗酸化活性を持っていて神経の保護に関わっているとされました。その理由はSODが機能を発現するためには銅イオンをタンパク質の中に取り込むことが必須だからです。しかし、一方ではプリオンタンパク質を欠損させたマウスにおいてもSODの活性は通常のマウスと変化がないことも報告されていますし、カエルの正常プリオンタンパク質には銅イオンを結合する部分が無いため、正常プリオンタンパク質が銅と結合することはさほど重要なことではないようにも思われます。

 さらにマウスを使った実験でプリオンタンパク質の遺伝子を破壊してもマウスの誕生や成長には何ら影響を及ぼさないこともわかっています。ただ、このことは、だから正常プリオンタンパク質は何の役目も持っていないというのではなく、正常プリオンタンパク質の持つ機能が重要であるが故に、バックアップ機能が充実していて何らかの補償機能が働いて異常がないように見えるのであろうと思われています。なお、当然のことながら、プリオンタンパク質遺伝子を破壊したマウスは異常型プリオンタンパク質の元になる正常プリオンタンパク質が無くなるのでプリオン病にかからなくなります。

 また、アポトーシスとの関連についても、正常型プリオンタンパク質がアポトーシスを阻害して神経細胞を守っているという報告が出る一方で、試験管内では正常プリオンタンパク質が過剰になるとアポトーシスが進行するという報告もあります。また、メカニズムは報告されていないもののリンパ球の機能を制御しているという説もあります。

 また、正常プリオンタンパク質の構造からは別の説が出ています。正常プリオンタンパク質は片方の端からGPIアンカーと呼ばれる碇のような構造が伸びています。GPIアンカーの先端は細胞膜の脂分でもあるリン脂質になっていて、正常プリオンタンパク質はこのGPIアンカーのリン脂質部分を細胞膜の中に突っ込んで本体は細胞の外側にぶら下がっているようです。この構造を持つことによって正常プリオンタンパク質は細胞膜表面を滑るようになめらかに移動することができるはずで、この構造はホルモンや神経などの情報伝達に大きく役立つと考えられており、実際、すでに機能のわかっているGPIアンカーを持つ普通のタンパク質は情報伝達や細胞膜の構造の制御を行っています。ただし、正常プリオンタンパク質がその他大勢のGPIアンカー型タンパク質のように情報伝達を行っているという証拠は得られていません。

 このように正常プリオンに関する研究はどのような方向からどのような手法で検討を加えるかによって様々な現象を観察することができ、いったいどれが本来の細胞中での機能なのか全くわからない状況にあるのが現状です。

 さらに、現在主流であるプリオン説への異論も唱えられ続けています。プリオン説に反対する研究者らは遺伝子を持たないタンパク質が伝染・増殖することをチプリオン説の最大の問題点として指摘していましたが、現象的には異常型プリオンタンパク質の増殖は確かに起きています。現在指摘されている問題点は、純粋で活性のある異常型プリオンタンパク質を健康な実験動物に導入しても病気が発症しない点と、正常型プリオンタンパク質が異常型プリオンタンパク質に変化するという最も重要なプロセスのメカニズムが解明されていない点などです。その問題点をうまく回避できる説としてウイルス説があります。プリオンタンパク質についての理解が深まるにつれてやはりウイルスが原因ではないだろうかという意見も強くなっているようです。ウイルス説については今回は紹介しませんが、興味のある方は講談社ブルーバックスで福岡伸一さん著の「プリオン説はほんとうか?」を読んでみてください。

 潜伏期間が10年以上と長く、発症すれば助かる方法はなく、予防する方法さえないプリオン病ですが、現象としては異常型プリオンタンパク質が大きく関わっているのは間違いないものの、メカニズムの解明には至っておらず、それゆえ予防薬や治療薬の開発も難しい状況にあります。また、食肉に含まれるプリオンを食べることによって伝染することがわかっているにもかかわらず、感染動物や処理された肉の管理が十分でないため、ヨーロッパで誕生し、アジアを経由してアメリカまで世界中に広がってしまっていること、また科学的な根拠に従わず政治的に問題が解決されようとしている点など、解決すべき問題は山積みとなっています。

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胆汁の主成分は酎ハイ!?

2006年05月23日 | 科学雑談
 生き物の体はさまざまな種類の液体が循環し、あるものは分泌されて、生命の機能や恒常性を維持しています。体内の液体といって真っ先に思い浮かぶのは栄養や酸素などを体の隅々まで送り届ける血液や食物が腸で吸収されやすいように前処理をする胃液などでしょうか。血液はケガをすれば出てきますし、お酒を飲み過ぎて胃液が口から出てくる経験をされた方も決して少なくないと思いますので、これらは私たちが目にすることのできる液体です。その他に生き物の体の中には直接目に触れることはないけれど重要な役目を担っている液体も多くの種類があります。  

 「熊の胆(くまのい)」と聞いて、「あぁ、昔、ばぁさんが胃が悪いと言いながら飲んでたよ。懐かしいなぁ」と思われる方、いらっしゃいますでしょうか。「熊の胆」を手元の電子辞書に収録されているマイペディア百科事典で調べますと「熊胆(ゆうたん)の俗称。ツキノワグマ、ヒグマ、ヒマラヤグマの胆汁の入った胆嚢を乾燥したもの。暗黒褐色の卵円板状で健胃薬、強壮薬として古くから用いられた。有効成分はタウロデオキシウルソコール酸。奇応丸などに配合される。」とあります。最後の「奇応丸」でピンッと来られた方もいらっしゃるでしょうね。腹痛や食あたりの薬ですね。

 ここに出てくる「胆汁(たんじゅう)」というのは肝臓で作られて十二指腸に出てくる消化液です。それ自身で脂肪などの脂っこいものの吸収を助ける他、消化酵素の働きを促進する作用もあります。見た目的には茶色というか深緑色というか、あまりきれいな色ではなくて手に付着するとズルズルします。

 胆汁の中には脂肪を溶かすのに役立つ成分の他、体の中でいらなくなったものもたくさん含まれていて、体内の不要なものをウンコといっしょに体外に排出する働きもあります。体内の老廃物の排出方法は主に尿と糞ですが、糞の中には全く吸収されずに体を素通りした食べ物のカスの他に、いったん吸収された後に不要物となった物が胆汁に溶け込んで排泄されています。胆汁の中にそういった老廃物が含まれて出てくることを「胆汁中排泄」などと表現したりもします。

 ここからが今日の本論・・・。会議の資料を作成している最中にこの「胆汁中排泄」という言葉を使わなければならなくなったのですが、ATOK16で「たんじゅうちゅうはいせつ」と入力して変換して出てきた漢字は

胆汁酎ハイ説!!!

 私たちが飲むお酒にはアルコールとしてエタノールが含まれる以外に発酵の過程で生成したり混入したりしたさまざまな物質が混じっています。サントリーのWebサイトには飲んだアルコールが体の中でどのような運命をたどるのかがわかりやすく書かれています。これによると飲んだアルコールはほとんど体の中に吸収されて肝臓でまずアセトアルデヒドに分解され、つぎに酸化されて酢酸(お酢ですね)になって、最後は水と二酸化炭素に分解されるそうです。つまり、これまでの科学の常識では飲んだアルコールはほとんど体内で分解されて無くなるということです。

 ところが、ATOK16が今回発表したのは、お酒をたくさん飲むと胆汁が酎ハイになってしまうという画期的な新説です。サントリーもびっくりです。アルコールも脂肪分を溶かす作用はありますので、大酒飲みの人の胆汁が酎ハイになっていてもこれまでは気づかれなかっただけなのかもしれませんね。

・・・・最後の段落はウソです。

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2006年05月22日 | お知らせ
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