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自ら緩やかな死を望む 「中高年引きこもり当事者」の絶望

2016年12月01日 | 社会・経済

ダイヤモンド・オンライン 池上正樹 [ジャーナリスト]  2016.12.1

 

家族の遺体が発見されるケースも「緩慢な自殺」を選ぶ人々の心境

 誰ともつながりを持たない人たちが地域の中に埋もれたまま、人知れず孤独死していくケースが後を絶たない。

 11月17日には、岐阜市で70歳代の両親と40歳代の長男の家族3人が、自宅で遺体となって見つかった。3人とも痩せ細った状態で目立った外傷はなく、死後しばらく経過していたとして、警察では餓死か病死の可能性があると見て捜査しているという。

 身近なところでも、つい最近、ある老家族の40歳代後半の長男が一切の診察や治療を拒み、水だけで痩せ細って喘ぎ苦しみながら病死していくという、衝撃的な出来事があった。

「緩慢な自殺」

 家族会唯一の全国組織である「KHJ全国ひきこもり家族会連合会」のスタッフは、こうして死に向かっていく人たちについて、そう感じているという。

「ゆるやかに死に向かっていくことを、自分自身が望んでいる。餓死する人と同じような感じ。そうとしか思えない」

 これまで、絶望の中で死んでいく人を見てきた。そんな人たちの感覚は、今は生きていても誰にも助けを求めようとしない、というものに見える。

 筆者が地方に講演やイベントなどで出かければ、仕事を引退した70~80歳を超える親たちが、「仕事をしないで家にこもっている」という40~50歳代の子どもを抱え、これから先、どう生きていけばいいのかと途方に暮れ、泣きついてくる。そのまま親子が高齢化して、「40ー70問題」や「50ー80問題」と呼ばれるのも珍しいことではない。

 実際、各地の自治体からは、「ひきこもり」層に占める40代以上の割合は、すでに半数を超えるという実態調査のデータが、相次いで公表されている。

 これまで社会が目の前の課題を先送りにしてきたツケが、噴き出し始めたのではないか。様々な要因によって社会から撤退を余儀なくされ、関係性を遮断されてきた人たちの嘆きや叫び、存在そのものさえ、地域の中では潜在化していて、表に出てこない。

引きこもり対象年齢の上限は39歳実態とかけ離れた国の実態調査

 それにもかかわらず、内閣府が9月に公表した「ひきこもり実態調査」では、引きこもりの対象年齢の上限を39歳に区切って、約54万人という数値を推計している。これがどれだけ現実とズレているかは、連載第267回で紹介した通りだ。

 この「机上の統計」を基に、いったい何の対策をするのか。そもそも人の人生を年齢で区切ることに、どんな意味があるのか。

「引きこもる」という行為は、今がどんなに絶望しかなくても、いつか何かが変わるかもしれない、誰かが待っているかもしれないと、どこかでまだ希望を見出しているから、生き続ける道を選択した人たちがすることだと思う。しかし、40歳を超えたとたん、実態調査や「ひきこもり」支援の対象から外される。そのことが、頑張って生き続ける道を選択してきた40代以上の人たちに与える影響は計り知れないものがあることを、どこまで認識できているのか。

 そこで、こうした「人としての人生」を考えてケアしていくプランを立てていこうと、長期化、高年齢化が進む引きこもる人たちの事例について、KHJ家族会は厚労省からの委託を受け、初めての本格的な実態調査に乗り出した。

 調査の対象者は、本人が40代以上で、かつ10年以上の引きこもり状態の経験がある人。KHJ家族会が、全国を6ブロックに分け、それぞれのブロックから10~15事例、計60~90事例を抽出し、長期化・高齢化する背景や効果的な社会参加支援策をヒアリングする。

 また、全国の自治体の生活困窮者自立支援相談窓口の中から6ヵ所を選んで、スタッフが訪問し、長期高齢化する本人への支援の実情を聞きとると共に、200ヵ所の自治体窓口に対して質問紙による調査を実施。背景分析を行うと共に、複合的な困難への効果的支援策や地域ネットワークのあり方を導き出す。

 KHJ家族会では、この調査研究の結果を報告書にまとめると共に、来年1月22日、名古屋市のオフィスパーク名駅プレミアムホールで、「長期高年齢化したひきこもり支援の現状と課題」と題したシンポジウムを開催。全国調査の実行委員長である川北稔准教授と、境泉洋・徳島大学大学院総合科学研究部准教授が事業報告を行う。

地域に埋もれた弱者の悲鳴を見過ごさないための努力を

 これとは別に、KHJ家族会では今後、企画している「新しい交流のかたち」の全国展開に向け、「ファシリテーター」(人が集まる場で目的に合わせてコミュニケーションを支える人たち)の養成講座(研修費無料、交通費補助)を12月23日、東京都北区の「北とぴあ」で開催する。対象者は、来年、山梨(1月15日)、神奈川(2月12日)、茨城(2月18日)、東京(3月11日)で予定している「対話交流会」の運営に参加可能な、引きもこり当事者、家族、支援者、関心のある人で、いずれも関東在住者となっている。

 こうして生まれたファシリテーターらには、地域で「引きこもり」について考えている人同士がつながる場として、1月15日に山梨県福祉プラザで開かれる「ひきこもり つながる・考える対話交流会in山梨」を皮切りに、今後全国で活躍の場が用意されているという。

 なぜ“緩慢な死”に向かわざるを得ないのか。それは、今の社会で引きこもる人たちが置かれた現状でもある。そんな“緩慢な死”に向かう人たちの課題をずっと解決できずにきた行政が、結局、全国組織の当事者家族会に頼らざるを得なかったということだろう。

 これまで地域に埋もれて可視化されて来なかった「長期・高年齢化」の事例から、周囲が学ぶ意義は大きい。

 子の将来を心配した親がどんなに財産を残そうとも、生きようとする力のない子どもが、生きられなかった事例をいくつも見てきた。逆に、どんなにお金がなくても、自らが生きようとする力さえあれば、生きていくとはできる。

 従来の「引きこもり支援」が批判されてきたような「上から目線」で自分の意思とは違う人生を押し付けられる関係ではなく、地域での「対話」というフラットな関係性の中から、当事者たちが自らの意思で生きようとする力をどのように身につけていけるのか、今後の関係者の取り組みに注目していきたい。

 



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