里の家ファーム

無農薬・無化学肥料・不耕起の甘いミニトマトがメインです。
園地を開放しております。
自然の中に身を置いてみませんか?

「子どもの貧困」の暗闇に地方議員は・・・

2017年09月05日 | 社会・経済

  DIAMOND online  2017.9.4

「子どもの貧困」の暗闇に地方議員は灯りをともすことができるか?

みわよしこ [フリーランス・ライター]

   1963年、福岡市長浜生まれ。1990年、東京理科大学大学院修士課程(物理学専攻)修了後、電機メーカで半導体デバイスの研究・開発に10年間従事。在職中より執筆活動を開始、2000年より著述業に専念。主な守備範囲はコンピュータ全般。2004年、運動障害が発生(2007年に障害認定)したことから、社会保障・社会福祉に問題意識を向けはじめた。現在は電動車椅子を使用。東京23区西端近く、農園や竹やぶに囲まれた地域で、1匹の高齢猫と暮らす。日常雑記ブログはこちら

   生活保護当事者の増加、不正受給の社会問題化などをきっかけに生活保護制度自体の見直しが本格化している。本連載では、生活保護という制度・その周辺の人々の素顔を紹介しながら、制度そのものの解説。生活保護と貧困と常に隣り合わせにある人々の「ありのまま」の姿を紹介してゆく。

 8月下旬、長野市で開催された「生活保護問題議員研修会」約300人の地方議員が集まりました。彼らは、貧困と生活保護の現状について、どんな気づきを得たのか。

貧困問題に高い関心を持つ
  地方議員が集まった生活保護研修会

 2017年8月25日~26日、長野市に全国から約240名の地方議員たちが集まった。生活保護問題対策会議が開催した「生活保護問題議員研修会」(以下、生活保護議員研修会)に参加するためだ。

 日本の自治体の数は、大小合わせて約2000(都道府県・特別区・市・政令指定都市の「区」・町・村の合計)。おおむね8~9自治体のうち1自治体から1人の議員が、生活保護議員研修会に参加するため長野市を訪れたことになる。

 しかも、議員たちの所属政党は、自民党・公明党・民進党・社民党・共産党・無所属など様々だった(日本維新の会・都民ファーストの会からは参加なし)。議員たちに共通していたのは、貧困と格差を「わが地域の解決すべき問題」と考え、解決手段の1つとしての生活保護の重要性を軽視していないことだけだ。
 しかし、「8~9自治体のうち1自治体」では、まだまだ心もとない。この心もとなさを実感していただくために、都市部と地方について例を挙げよう。

 私が在住している東京都杉並区から区議が1人参加したとする。近隣の新宿区、中野区、世田谷区、練馬区、武蔵野市、三鷹市、さらに東京都から、区議、市議、都議が1人も参加しなかったとすると「8自治体から1人」となる。都市部の交通利便性を考えても、「杉並区から1人参加しているから充分」とは言えないだろう。

 地方では、たとえば本年7月の九州北部豪雨で大きな被害を受けた福岡県東峰村および朝倉市、大分県日田市を例にとれば、この2市1村に福岡県側で隣接する8市町村、大分県側で隣接する中津市、玖珠町、さらに熊本県側で隣接する2市3町を合計すると、大きな影響を受けた可能性が高いのは18市町村となる。福岡県、大分県、熊本県を加えれば21自治体だ。この21自治体から2~3人の議員が参加したとして、広大な面積にわたる18市町村の貧困と生活保護をカバーできるだろうか。

 ちなみに、全国の都道府県・市町村議員の総数は約3万3000人だ。「240人」は、地方議員の約140人に1人にあたる。多忙な公務の合間を縫って長野県に集まった約240人の地方議員は、全国的にはまだまだ貧困と生活保護に関する理解と関心が不十分な中で、暗闇に灯りをともすような存在ではないかと感じられる。

 あなたの地域の議員、あなたが前回の選挙で投票して当選させた都道府県議員・市区町村議員は、今回で9回目となった生活保護議員研修会に参加したことがあるだろうか。ぜひ次回の選挙の前に質問し、投票の参考にしていただきたい。

制度と公的資金が動かないと
  進まない「子どもの貧困」解決

 本記事では、2日目の8月26日午前中に開催された分科会の1つ「子どもの貧困と自治体のとりくみ」について、議員たちの反応を含めて紹介する。

 分科会「子どもの貧困と自治体のとりくみ」では、社会福祉士で元生活保護ケースワーカーの田川英信さんが制度面を、さらにNPO法人・CPAO代表の徳丸ゆき子さんが子どもたちと支援の実情を解説した。

 現在の生活保護制度では高校までの進学は認められているが、一般世帯の高校進学率が98.5%であるのに対し、生活保護世帯の高校進学率は90.8%。まだまだ大きな差がある。しかも生活保護での高校教育は、教育を受ける権利として認められているわけではなく、「収入を増加させ、又はその自立を助長することのできる」技能が習得できるから認められている。

 端的に言えば、「高校に行けば生活保護から脱却できる可能性が高まるだろう」ということである。生活保護制度の中で、義務教育の教育費は「教育扶助」として給付されるのだが、高校の教育費(高等学校等就学費)は「生業扶助」、作業服や安全靴と同じカテゴリーなのだ。

 高校以後の教育については、そもそも生活保護のもとで進学することが認められていない。大学進学は、家族と同じ世帯に住んでいるけれども別世帯として扱う「世帯分離」や、昼間の就労を条件に大学夜間部などへの進学を認めるといった「お目こぼし」的な取り扱いにより、辛うじて「アルバイトに明け暮れる学生生活を送り、奨学金という名の多額の借金を背負えば、まったく不可能というわけではない」という状態になっているのが現状だ。給付型奨学金を「当たり前」にする制度改革が待たれる。

 このような制度の詳細や現状を知るには、研修などの機会を確保し、まとまった時間を割いて学ぶ必要がある。しかも制度の運用の実際は、通知・通達によって、しばしば変更される。しかし少なくとも、会場にいた約70人の議員たちは、最新の情報にキャッチアップすることができたはずだ。

 徳丸さんは最初に、CPAO始動のきっかけとなった2つの事件を紹介した。2010年に大阪市西区で起こった2児置き去り死事件と、2013 2010年の2児置き去り死事件では、ネグレクトの末に子どもたちを死なせたシングルマザーの母親に非難が集中したが、母親自身もまたネグレクトの中で育っていた。2013年の母子変死事件の母親は、生活保護の相談のため役所を訪れていたのだが、救われることなく、我が子とともに遺体で発見された。いずれの事例にも、孤立した母親による「孤育て」という問題があった。

 また、「子どもの貧困」という用語が一般的になっているけれども、子どもだけが貧困状態にあるわけではない。親が貧しく孤立しているから、子どもが貧困になるのである。親の貧困と孤立の背景には、雇用や制度の問題がある。その国の「あたりまえの生活」=「権利」(rights)がままならない親と子に対して、「見守る」「地域で支える」といった支援は抽象的すぎることを、徳丸さんは指摘した。

明かされる貧困の実態に
  会場から溜息が漏れる

   徳丸ゆき子さん(NPO法人 CPAO)の講演は、数表やグラフも多用され、知・情・意のすべてに訴えかける内容だった

 CPAOは、欠食状態の子どもに食事を提供するという、極めて具体的な活動を行っている。そのためには、施設、設備、食材に加え、スタッフが責任を持った活動を継続させるための人件費がどうしても必要だ。しかし、公的助成金の用途は、ほぼ「ハコ」「モノ」に限られており、人件費に使えるものは少ない。徳丸さんが、貧困状況にある子どもたちや親たちの深刻な状況、多くの場合に貧困が暴力を伴っている実情、支援者たちにも余裕があるわけではない現状を紹介するたびに、会場から声にならない溜息が漏れた。

 もちろん徳丸さんは、「残酷物語」を列挙しただけではない。「何が必要なのか、どういう支援があったら元気になれるのか、当事者が知っている」というCPAOの活動の基本を述べ、どのように当事者に教えてもらい、何をどう実行し、結果がどうなるのかも具体的に述べた。しかし、会場からはまた、声にならない溜息が漏れた。簡単にできそうなことが、何一つ見当たらなかったからであろう。

 徳丸さんは、「なぜ、日本は子育ての責任を、親だけに負わせるんでしょうか? 昔の日本には、地域での『子育ち』がありました。でも(現在の)国が望むように、『地域の絆で、民間だけで、家族だけでやれ』というのは無理です」と悲鳴のように語り、公的資金投入という必要条件の上に「人が人を支える」という十分条件が満たされる必要性を述べて、話を結んだ。

貧困を見つける方法は?

  議員たちの切実な関心

 質疑タイムに入ると、会場のあちこちから、議員たちが待ちかねていたかのように挙手した。主な質問と田川さん、徳丸さんの回答を紹介する。

「地元では『子ども食堂』活動が盛んになっていますが、ボランティアの確保が課題になっています。CPAOさんではどうしているのでしょうか?」(群馬県・市議)

「前職がNGOだったので、最初はそちらに声をかけました。仕事のかたわら、来てボランティアとして活動してくれました」(徳丸さん)

「自治体によっては、食材の提供・ボランティア希望者などのリソース情報の提供を行っています」(田川さん)

「アウトリーチで、どのように困っている親子を見つけているのか教えてください」(東京都・区議)

「最初の1年間は、週2回、カード1000枚を商店街で配るというアウトリーチを行っていました。1000枚配ると、2~3人のお母さんが『しんどい』『助けて』と声をあげてくれました。どういう言葉が響いたか、どこで知ったかなどを、お母さんにも子どもたちにも聞き、伝え方を変えていきました。また、カードを配っていると、メディアの方にも関心を持たれました。ふだんの活動を、自分たちがネットで発信することも続けています。すると、助けを求めているお母さんたちの目に止まりやすくなり、SOSが届きやすくなりました」(徳丸さん)

「子どもの教育支援・家庭教育支援に関する条例をつくったのですが、家庭の中に踏み込んでいいのかどうか、悩んでいます」(長野県・市議)

「権力が子育てに介入するのは、反対です。『親はこうあるべき』と誰かが決めてよいのでしょうか。家庭教育支援法にも親子断絶防止法にも、私は反対です。DVから逃げているお母さんたちの安全を守り、情報を漏らさないために、いつも必死で注意を払っています。皆さん、議会の中で、お力を貸してください」(徳丸さん)

「子ども食堂がない地域もあります。支援が必要な子どもを適切な支援につなげるために、どうすればよいのでしょうか」(福岡県・市議)

「福岡県は、子ども食堂を含めて、子どもの貧困に対して取り組みが熱心な地域だと思います。貧困率が高いから、頑張らざるを得ないのかもしれませんが。滋賀県は30万円程度のスタートアップ資金とともに、すべての地域で『子どもが歩いていけるところに、子ども食堂を』という状態を目指しています」

「子どもへの『適切な支援』ということで最も厳しいのは、学校の連携です。スクールソーシャルワーカーはいるけれど常勤ではなく、非常勤で仕事を掛け持ちしながらといった方々が多いです。教員は学力をつけることの専門家で、ソーシャルワーカーではありません。しかも忙しすぎます」(徳丸さん)

「学校で困難を把握されているけれども踏み込めない事例に対して、プレイパーク活動が有効なのではないでしょうか」(所属不明)

「たくさんの子どもを対象にすると、厳しい状況にある親子ほど『まぶしくて行けない』ということになります。誰でも来ていいことにすると、最も来てほしい人が来れなくなります。CPAOでも、『誰でも来ていい』ということにしていた時期、学校のイジメが『お前、なんでおるん? 来るな』と持ち込まれました。ですので、基本はメンバー制にしておき、月に1回程度、誰でも来ていい日を設けています」(徳丸さん)

 地域の中を歩き回り、具体的で泥臭いニーズを丁寧に拾い上げる仕事をしている地方議員だからこその問題意識の数々に、私自身が圧倒された。

生活保護ケースワーカーに

  公務としての研修の機会を

 皆さんの地域の議会・議員に、今すぐお願いしていただきたいことが1つある。それは、御地の生活保護ケースワーカーを、本年11月に開催される研修会に職場から派遣することだ。9月に入ったばかりの今なら、働きかければ間に合うかもしれない。

 その研修会とは、本年11月10~12日に岩手県で開催される、全国公的扶助研究会の全国セミナーだ。全国公的扶助研究会は、日本全国の福祉事務所、福祉関連の行政機関、医療機関、支援団体などで、交流と向上に取り組む福祉関係者たちの団体である。年に1回、秋季に各地で開催される「公的扶助研究全国セミナー」には、熱意ある生活保護ケースワーカーや研究者などが全国から多数集まり、交流と学びの3日間を送る。

 参加者たちは、職場から公務(行政派遣)として、あるいは労組から労組活動の一環として派遣される場合もある。しかし、職場や労組のバックアップがなく、自費で有給休暇を取得して参加する場合も多い。この場合、自費の持ち出しだけではなく、多忙なケースワーカー業務の現場を留守にすること、さらに週末の休息を取れない状態で参加することが負担となる。

  田川さんは議員たちに対し、多くの自治体で、生活保護ケースワーカーが福祉専門職として定着できる体制となっていないことを指摘した。福祉専門職としての訓練を受けていない職員を、福祉事務所に配属して生活保護ケースワーカー業務に就かせ、おおむね3年程度で他の職場に異動させることを繰り返している自治体は少なくない。このような職場では、正確な知識に基づく経験が職場に蓄積されにくい。誤解したままの先輩が指導し、おかしなローカルルールがはびこる場合もある。

「でも、公的扶助研究会の全国セミナーのような機会に『まともな生活保護』を勉強すると、『うちは間違っていた』と気づくことができるんです。皆さんの自治体で、ぜひ『行政派遣』をすすめてください」(田川さん)

見えない貧困に目を凝らし

  小さな努力を続ける地方議員を

 愛着を持っている「わが地域」が誇れる地域であってほしいという思いは、誰もが持っているだろう。今、「わが地域」に深刻な貧困があってイメージが良好でないとしたら、近い将来にどうなってほしいだろうか。強引な政治的手法によって貧困層が存在できない地域にすることは、「わが地域」のイメージを刷新するための数多くの選択肢の1つにすぎない。

  見れども見えない貧困に目を凝らし、最も発言力のない幼い子どもたちを最優先に、倦まず弛まず小さな努力を続ける前向きな地域もまた、胸を張って誇れる地域ではないだろうか。

 御地の地方議会を、そういう地域づくりのために力を注ぐ議会にするための第一歩は、あなたが日常的に議会や議員に向ける関心と、あなたの投票から始められる。今日これから、関心を向け始めよう。きっと、遅すぎることはない。


最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。