そよ風に髭をなびかせて・Moookな毎日

The breeze gently waves Moook's beard.

婦人警官の笛は鳴った(父ちゃんの失敗談)

2010-04-20 | Moook の 父ちゃん
あれは、○十年前。
Moook's papaは現場から、当時勤めていた事務所に歩いて戻ってきた。
街中の横断歩道を渡ろうとすると、そこには婦人警官が立っていて交通指導をしている。
私が、渡ろうとすると「ピー」と鋭く笛を吹いた。
走っている車に注意を促す為だ。
私が渡り終えると「ピ!」と短く笛を吹いて車を通過させる。
実にきびきびして気持が良い。

私は、心から感動した。「偉いなあ、あんなにキビキビしてる。仕事熱心だな」
と、また後ろで「ピー」と笛が鳴った。次の歩行者が来たのだ。
「すばやい反応だ!」また一段と感動した私は、暫く、その場で眺めていた。
ここは、一番の繁華街だ。通行人も車の往来も激しい。
こっちから向うに行く人、向うからこっちへ渡る人、その度に笛は鋭く鳴る。

私は心が豊かになった気がして、意気揚々と事務所に戻った。
そして、所員のみんなにその光景を説明した。
「そんなに笛を吹いてたのかい?」と一番の先輩が聞いた。
「うん、10分間に100回は吹いていました」と私は答えた。

それを聞いた先輩の目がキラリと光った。
「嘘言え、そんなに吹く筈が無い」と彼は言う。
「いや、確かにそれくらいは吹いてました」と意地になって答えた。

「じゃあ、見に行って確認しようじゃないか!」
私と先輩は連れ立って、その横断歩道まで行った。

婦人警官は、さっきと同じように、熱心に交通整理をしている。
その反対側の歩道に陣取った二人は、腕時計を見つめて秒針がOを指したと同時に笛の数を数え始めた。

「ぴー」 ほら、一つ
「ぴ、ぴー」 ほら、二つ。
婦人警官が、時々、こちらを怪訝そうな顔で見るけど、こちらも必死だ。

記録される数はどんどん増えていく、50、60、70....
80を越え90に近づいた。
腕時計は残り1分を切っている。

突然、先輩が言った。
「負けたほうが鰻丼を奢ることにしよう、いいな!」
畜生、勝ちそうなので賭けに出たな。
「いいです、受けましょう」こっちも意地だ。
真剣な眼差しで婦人警官を見つめる二人だ。

と、突然婦人警官は「ぴ~~~」と笛を吹いて、横断歩道を渡ってきた。
「や、やばい、賭けをしてるのがばれたのか!」
たじろぐ二人に、婦人警官はニッコリ微笑んで言った。

「早く、渡りなさい。ほら、右を見て左を見て確認してからですよ」
僕等は素直にその通りにした。
「はい、右手を大きく上げて渡るのよ」
婦人警官に僕等は答えた。
「はい!」
僕等は、児童のように右手を高く挙げて横断歩道を渡った。
そして振り返って見ると婦人警官はスタスタと歩道を歩き去って行く。
もう、12時になる時間。午前中の勤務時間が終わる時刻だったのでしょう。

事務所に戻った二人を出迎えた所員たちは口々に尋ねた。
「どっちが勝ったんですか?」

先輩は不機嫌に答えた。
「うるさい。 さあ、いつもの定食屋へ昼飯を食べに行こうぜ」

後日談)その日以降、二人は何回かその横断歩道に行ってみたが、婦人警官はいつも居なかった。勝負はまだ未決着なのだ。

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