星月夜に逢えたら

[hoshizukiyo ni aetara] 古都散策や仏像、文楽、DEAN FUJIOKAさんのことなどを・・・。 

コンフィダント・絆  観劇メモ

2007-05-15 | 観劇メモ(演劇・ダンス系)


公演名  コンフィダント・絆
脚本・演出  三谷幸喜
劇場      シアターBRAVA !
観劇日  2007年5月13日(日) 14:00開演
座席      N列

ああ、この感じだよね~。生演奏があって、歌があって、語りが入って・・・。
冒頭から何の違和感もなく、19世紀のその世界に誘われてゆく心地よさ。
いい映画は5分でわかると昔思ったことがあるけれど、この作品も始まりからすぐに
わかる。そういう空気が舞台に満ちている。
大阪公演4日目。
以下、全面的にネタバレです。

そうそう。二幕が始まってすぐ、バンドネオンを演奏するあのお方(笑)。
大阪ではテーマ曲の前に「六甲おろし」をちょっとだけ弾いてくださいますよ~。

<舞台装置など>
4人が共同で借りたアトリエ。各自のキャンバス、イーゼル、パレット、画材が無造
作に置かれている。絵を描く時は4人の定位置。向かって右からゴーギャン、シュフ
ネッケル、スーラ、ゴッホの順。モデルのルイーズがポーズをとるのはシュフネッケ
ルの正面辺り。
舞台奥には窓があり、朝、昼、夕方、夜と時間設定に合わせて光の色が変わる。
上手には全員が出入りするドア。上手奥(見えない部分)にキッチンがあるという設
定でワインや食べ物がたびたび出てくる。
下手側、アトリエの階段を上がると手すり付きベランダがあり、その向こう、小さな
煙突から煙が立ち上っていて、パリらしい生活感のある風景を想起させる。

<全体を通しての感想>
無名時代のスーラ、ゴッホ、ゴーギャン、シュフネッケルと、一人の女性ルイーズの
若き日の物語。架空の設定とはいえ、この4人の画家+1の取り合わせが絶妙。登場
人物とそれを演じる役者さんとのイメージギャップもほとんどなく、すんなり話に入
り込めた。すべての出来事がまるでいま起こっているかのように体験できる舞台で、
それを観ているうちに私自身の良・悪・醜・さまざまの感情が涙とともに突き上げて
きて、あふれた。

誇張せず、歪めることなく、人間の内面を深く真摯に見つめている三谷さんの視点が
気持ちよく感じられ、評判通りの作品だなあと実感。
笑いの種類もそれぞれの画家のキャラに沿ったものなので、自然なのに面白かった。
特に私が好きなのは、画家どうしの友情なんて成立しない、という最悪の結論が出た
後のエンディングの後味のよさ。4人が部屋を借りた時の希望に満ちた会話を、忘れ
ていた最後のピースをそっとはめるようにラストに持ってきた場面で、涙がぶわ~。
そこへ生演奏&歌声がかぶると、それまでの胸の痛みがすっと消えてゆく気がした。

カーテンコールは3度目の登場でスタオベ。
三谷作品ではもうおなじみ? 男性の「ブラボー」のかけ声と指笛が今回もあったよ♪

<キャストがらみの感想>
どのキャストに一番感情移入できるかは観る人によって違うかもしれない。
特に、出品の絵を決める場面と、あの別れの場面の会話。
そのキャストが自分に近いからといって泣けてしまうわけではなく、かえって近親憎
悪にも似た感情がわいたりするしね(笑)。
というワケで、私が一番感情移入しちゃったのは・・・。

相島一之さん(シュフネッケル)
劇中、何度も繰り返される歌「スーラ、ゴッホ、ゴーギャン par シュフネッケル」。
ずっと思ってた。なぜ「et シュフネッケル」じゃないんだろう?
その疑問が解けるのはラストに近づいてから。なんという残酷な歌だったのか。
このお話、一人だけ画家になれなかったシュフネッケルが主人公だったんだ~(涙)。
上にいる人からは下が見えるけれど、下の人間からは上が見えない。それって辛いね。
全員横並びだと信じて対等につき合ってきた相手が3人とも、自分の絵を評価しては
いなかったなんて。自分の存在を否定されて、怒るわけではなく、拗ねるわけでもな
く、「今まで黙っててくれてありがとう」と言ってしまうシュフネッケル相島さんの
苦痛にゆがんだ笑顔がひたすら痛い。切ない。苦しい。
他の3人のことが心から好きだったんだろうな、シュフネッケル。

寺脇康文さん(ゴーギャン)
ゴーギャンについてはタヒチ島のイメージが強く、気ままな旅人ぐらいにしか思って
いなかったけれど、絵を描く時には自分の想像力をプラスするというゴーギャンの精
神的自由人ぶりが、寺脇さんによって実にカッコよく演じられていた。
女性へのアプローチがうまく、料理好きというキャラにも惹かれる ♪
一方、自分のことを頼っているゴッホのことを気にかけている「イイやつ」であるこ
とも判明(笑)。
一歩下がったところで他の3人のことを一番よく見ている人物だったのでは?とも
思えた。スーラがゴッホの絵じゃなく、自分の絵を推薦すると言った時に怒り、悲し
む様子が印象的だった。
また、ロートレックのアトリエから傷心で戻ってきたルイーズを男たちで励ます時、
4人の中で最後にハイタッチをするのがゴーギャン。手を合わせた後、さっとルイー
ズの目のそばに指を持っていき、涙をぬぐってあげる仕草にポッ♪♪♪

生瀬勝久さん(ゴッホ)
耳を切ったゴッホの自画像を見た時ゴリラに似てると思ってたけれど、ゴッホ生瀬さ
んの動きを見ていると、全然じっとしていなくてサルみたいだった(笑)。それを見
ていると、ゴッホ本人も感情の動きがそのままストレートに表に出るような人だった
んじゃないかと思えてきて、私の中ではもう完璧にゴッホ=生瀬さん。
天才で自信もあるくせに、まだ社会的に認められていないことがゴッホの弱み。つね
に他人の注意を引き、他人にほめてもらいたがっている。甘えた生き方だなあと思う。
それが端的に出てしまうのが、スーラに自分の絵について言われた時。
「君の昔の絵はよかった」。「じゃあ今はどうなんだ? よくないって事か?」嫉妬心
から出たスーラの意地の悪い言葉にムキになって反応してしまう哀れなゴッホ。まだ
若く、危うい感受性に、私の口の中で酸っぱいものが広がった。
泣いてしまったのは、面倒見のいいシュフネッケルに、君は画家じゃない(正確な台
詞失念)発言で口火を切った時。真実が言えなかった俺たちのほうが本当は辛かった
んだ、の言葉に涙が吹き出てしまった。

中井貴一さん(スーラ)
自分が提唱した点描画が世に認められ、4人の中では一番の出世頭。
そんな彼が無名のゴッホの絵に嫉妬するシーンが秀逸。ゴッホの創作過程に興味を持
ち、彼の才能にただならぬものを嗅ぎ取っているのは明白なのに、みんなの前で逆の
態度をとってしまうところがスゴイ。
ゴッホのプライドと自信をズタズタに傷つけてしまうシーン。それも目の前の絵をけ
なすのではなく、あえて昔の絵を誉めるという、知能犯的な方法で。
すでに名のある人間が、出る杭を打つという陰湿な役どころを、スーラ中井さんは憎
たらしいほどの気高さを持って演じていた。そうするしか自分を護り、体面を保つ方
法はないというように。その冷酷で醜い心にむしろ人間的な弱さを見たようで、激し
く共感できてしまった自分が怖い(笑)。スーラの嫉妬心にひたすら泣けた。
その反動のスーラのあの号泣。
ゴッホが自ら切り裂いたキャンバスを抱えて大声で泣くスーラ。鳥肌モノでした。
お茶目な面白さと、気品ある冷たさを演じ分けた中井さんに私の一票を ♪

堀内敬子さん(ルイーズ)
ハイ!「12人の優しい日本人」のオバサンキャラはきれいに払拭できましたよ(笑)。
歌が素晴しく、あったか~い。
でもね、ぽわ~んとしたキャラはやはり、天然? 4人の画家が安心して、本音で甘え
られる存在として、このルイーズのキャラは堀内さんでよかったと思う。
特に「裸になってあげないのは、あなたが裸にならないからよ」とルイーズに言われ
たスーラが「このアトリエに来るのは、優越感に浸りたいから」と打ち明けてしまう
場面で、彼を非難することもなく、受け止めてあげるところが好き。
怖い姉御肌のオネエさんだったら、こんなこと言えないもんね。
少なくともこの作品の中の4人にとってはミューズだったルイーズ。みんながルイー
ズを好きだっただけじゃなく、ルイーズにとっても4人が必要だったという青春ストー
リーがたまらなく素敵で、切なくもある。

<おまけ>
コンフィダントの意味について。
パンフレットに掲載されていたのより「シアターガイド」で三谷さんが語っているほ
うがいいと思うので、ちょっと引用しておきます。
「コンフィダント」とは、芸術家にとって一緒にいるとアイデアがまとまったり、やり
たいことがおのずと見えてきたりするという不思議な力を持つ人のこと。この作品の
カギになる存在で、僕にもそういう人は何人かいますが、プロデューサーや身近な人
などで同業者ではありません。


後に芸術家たちのコンフィダントになったと言われるシュフネッケルに、早く気づい
てよかったね、って言葉を贈ってあげたい(笑)。

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10 コメント

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思い出してジ~~ン… (midori)
2007-05-17 13:49:38
ムンパリさん、どうもです♪

ムンパリさんの感想を拝見してたら、自分が観た時に感じた
あれこれが又、蘇ってきてグゥ~~ッと物語に引き込まれて
しまうようです。
(*><*)

>観ているうちに私自身の良・悪・醜・さまざまの感情が涙とともに突き上げてきて、あふれた。

>4人が部屋を借りた時の希望に満ちた会話を、忘れ
ていた最後のピースをそっとはめるようにラストに持ってきた場面で、涙がぶわ~。
そこへ生演奏&歌声がかぶると、それまでの胸の痛みがすっと消えてゆく気がした。

つい長文で引用させていただいちゃいましたが、これ!
これですよね!!
すごくナマな感情で、キレイごとじゃない現実も突き突けて
いるけれど、何とも云えない暖かい気持ちにもさせてくれる。
三谷さんのシニカルな笑い顔が、そんな時は照れてるような
笑顔にも、きっと見えるのかなぁとも妄想しちゃいました。
(^m^)

トラバが上手くいかなかったので、該当記事アドレスをURL
に入れさせていただきました。
(*^^*)
すごいっ! (みんみん)
2007-05-17 22:01:55
ムンパリさん
このレポすごいです。感動しちゃった・・。
そして、観た公演を思い出し、次の公演が楽しみに!

>4人が部屋を借りた時の希望に満ちた会話を、
>忘れていた最後のピースをそっとはめるように
midoriさんに便乗なんですけど(笑)、私もこの表現
「そう!そう!」と激しくうなづいてしまいました。

本当に、画家4人+ルイーズ=5人じゃなくて、
7人分にも8人分にも相当するような濃いお芝居でした。
私が観た時は三谷さんはお出ましではなかったので
次は見れるかな、さすがに最後だし♪
放送が楽しみです! (しろう)
2007-05-17 23:41:12
やっぱりな~~すごい評判ですね!
さすが三谷さん、さすがいずれ劣らぬ名優さんたち!
観に行けなくてとっても残念。
この際ネタバレだろうがなんだろうが、
ムンパリさんのレポも読んじゃいました。
そしてレポに感激しました。
WOWOWでの放送が待ち遠しいです!
ああ、もうWOWOWとCSなしでは、
生きていけないわたし・・(笑)

>そのキャストが自分に近いからといって泣けてしま>うわけではなく、かえって近親憎
>悪にも似た感情がわいたりするしね(笑)。
お芝居観てていちばんしんどいのが、
まさに、この感覚に触れてしまったときです。
でもこういうのは、わたしの場合、
間違いなく深く心に刻まれる作品になり得ます。
ちょっと怖くもあり、楽しみでもあります。
今回の笑い ♪ (ムンパリ)
2007-05-18 07:57:16
midoriさん、ども♪
今回の舞台は笑いの質が少し違うっていうか、それほどシニカルには感じられなかったような気がします。
たとえば、midoriさんが書かれてたあの歌の件もそうです。「par シュフネッケル」はシニカルな意味ではなく、やっぱりシュフネッケルへのオマージュですね! 気づかせて頂き、ありがとうございます ♪

それと、最近ヘンなTBが多いので、いったん自動保留にさせて頂いてます。通常のTBは気づいたらすぐに公開されるようにしてますので、よろしければ、またTBしてくださいね!
あの方の登場に注意♪ (ムンパリ)
2007-05-18 07:58:11
みんみんさん、たしかに。
あれで5人分(プラス、ピアニストの方)のギャラでは安い! ってすぐにお金に換算してはいけませんね(笑)。
あの脚本で、あのキャストで、ほんとに濃いお芝居です。
ラストの持っていき方、ほんとにきれいでしたね。余韻が残りましたね~。

三谷さん、今度こそきっと大丈夫!! 二幕が始まったらなにげにそこに登場してますから、すぐに気づいてあげましょう!(笑) 今度は2階席から思う存分味わってきてくださ~い。
あらま! (ムンパリ)
2007-05-18 07:59:34
しろうさん、あら。
ネタバレ読んじゃいました?(笑)ちょっと細かいことまで書いてしまってます。
このお芝居は有名画家たちの話という設定ではありますけど、それほど特別なことを取り上げているわけではないので、自分に置き換えることはすぐにできると思います。
いろんな感情を役者さんにさらけだしてもらえることで、スッキリする効果もあるかも(笑)。

これもWOWOWですか? 放送をいっしょに待ちましょうね。
毎度の事ながら、、、 ()
2007-05-20 01:11:24
ムンパリさんの細かいレポに感心しまくってました。
いやー、本当に良質の芝居を観れて幸せでしたわ♪
5人の登場人物のキャラが、役者達のイメージとぴったりで、
キャスティングの「技」を感じました。

>手を合わせた後、さっとルイーズの目のそばに指を持っていき、
>涙をぬぐってあげる仕草にポッ♪♪♪
ゴーギャンはそんなことをしてたんだ!
気付かなかったなぁ・・・。
私はゴーギャンがルイーズにキスをしようとした仕草に、
ドキっ♪としてました。
あまりにも自然な仕草だったので、あれが寺脇さん自身の「技」なのかと・・・(違)

>誇張せず、歪めることなく、人間の内面を深く真摯に見つめている・・・
本当にその通りですね。
誰の心にもある様々な感情を描いていたからこそ、
どのキャラにも感情移入が可能で、
より深く自身の胸に染み込んできた芝居だったと思います。
だから、あんなに泣けたんだろうなぁ~。

あぁー、できる事ならもう一度観に行きたかったです。
おかえり~(笑) (ムンパリ)
2007-05-20 02:22:53
麗さん。コラーゲンで見事復活、1週間おつかれさまでした~。
ゴッホな生瀬さんの髪に萌えなくてゴメンネ!(笑)
シュラちゃんと遊んだら「髪の毛は?」って聞かれた。シュラちゃんも髪萌えしてるよ、きっと♪

> キャスティングの「技」を感じました。
ほんとにね! アテ書きもあるのかもしれないけれど、とにかく全員が舞台で生きてましたもんね。5人がとっても素敵に見えました。

> 私はゴーギャンがルイーズにキスをしようとした仕草
> に、ドキっ♪としてました。
うっ! 私、それ見逃してるよ~(笑)。ゴーギャンのプレイボーイぶり、板についててよかったよね。寺脇さん自身のテクかどうかまでは見抜けなかったなあ~(爆)。寺脇さんの小芝居で面白かったのは、シュフネッケルの絵をみんなに見せる時。クルックルッと回して天地左右がわからないことを強調してたね(笑)。

> 誰の心にもある様々な感情を描いていたからこそ、
そうそう。これでしょうね! どの人物も自分に引き寄せて感じられたことが一番!
三谷さんの作品にしてはヘンに笑わせようとしない分、逆に自然に笑えたし。もちろん自然に泣けたしね。ほんとに良質なお芝居が見られてよかったと私も思います。
意味が深い! (ハヌル)
2007-05-30 23:59:13
ムンパリさん、お邪魔します♪
コメントありがとうございました。

「コンフィダント」にはそういう意味があったのですね。画家としては認められなくても、人としてとても大きな存在のシュフネッケルが、まさにそうだったというのが、本人としては、喜ぶべきなのか悲しむべきなのか・・・複雑だったろうなあ。

皆それぞれに印象深く面白かったけれど、スーラ役のコミカルな中井貴一さんがツボでした(笑)
私自身、ゴッホやゴーギャンのようにスーラやシュフネッケルを知っていたらあの不思議な関係を保ってきた4人の世界にもっと入り込めたんではないかと思いました。
コンフィダント・・・って (ムンパリ)
2007-05-31 01:38:54
ハヌルさん、ようこそこちらへ。
私も中井スーラがお気に入りです ♪
あんなにおかしさが出せる人とはメチャ意外でしたね。

それから「コンフィダント」の意味。私もイマイチ把握できてませんでした。フランス語やし。
おまけに、ハヌルさんと同じくシュフネッケルって誰?状態だったし(笑)。
でも、上記でコメントを下さったmidoriさんのブログを読んで、三谷さんは「コンフィダント=シュフネッケル」に敬意と愛情をこめてこの作品を書いたんだなあと思えて、いっそうこの作品が好きになりました。
シュフネッケルは自分の正しい居場所が早く見つけられて、結果的にはヨカッタのではと私は思っています。(勝手に)

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