三日月ライト

主にまもうさのセーラームーンのオリジナル小説を置いています。
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満月の夜 後編

2009-07-02 17:54:31 | その他小説
「ちびうさっ」

突然の衝撃と共に体がぐらつく。温かい。
少し懐かしい香りがする。

「ちびうさっ!!しっかりして、ちびうさ!!」

「うさ…ぎ?」

「ちびうさぁ…良かった、心配したのよ!!」

心配した?
そうだ、銀水晶。私はブローチを盗んだんだ。
しかられる…そう咄嗟に感じ取り、私は抱きつくうさぎに見えないようにブローチを隠した。


「ちびうさちゃん。どうして、こんな所にいたの?」

亜美ちゃんが尋ねる。隠したところで、当然みんなわかってるんだろう。
うさぎと一緒に上着をかけてくれたまもちゃんも、私の手元を見つめている。

それでも…

「ちびうさちゃん。…銀水…」

「美奈子ちゃん。」

核心を尋ねようと、美奈子ちゃんが口を開いたときだった。
うさぎはそれを遮って、小さく手で静止の合図を送ったのだ。


うさぎに怒られる。見放される。
そして未来に帰されて、私は全てを失ってしまう。

そう思い、私は固く瞼を閉じた。
うさぎから平手打ちが飛んでくることも、覚悟していたのだ。


「…ちびうさ?どうしてここに来たの?
何も言わずだったから、すごく心配しちゃったよ。
こんなに体を冷やしちゃって、風邪引いちゃうぞ?」

うさぎの声は穏やかだ。
私は、何も答えない。

「何か、よっぽど大切な探し物でもあったの?」

うさぎが、顔をのぞきこむ。

大きく青く澄んだ瞳は、おそらく何もかも貫き通す。
私が犯してしまった罪も、こうして逃げ出してきたことも。
何を言っても、私の嘘はばれてしまう。

私は為す術も思いつかず、流れ出した涙に声を出した。


「あらあら。よしよし。寂しかったね、怖かったね。よしよし。」

うさぎは一切、銀水晶について聞かなかった。
咎める言葉も見放す言葉も、優しい言葉以外のものは、少しも口にしなかった。

それが余計に痛く刺さって、私の涙は止まらなくなった。
その時だ。


「“満開の月に守られし君よ さぁ夜空を仰いでごらん
愛すべき彼方に浮かぶ光が 願いを叶えてくれるから♪”」

うさぎが口ずさみ始めたのは、懐かしい、あのメロディーだった。

「この唄…」

「“満開の月に包まれし君よ さぁ涙をこぼしてごらん
闇を耐え抜く白い光が そっと拭ってくれるから♪”」

やがてうさぎの優しい声は、二重…三重と重なっていく。
まもちゃんだ。
亜美ちゃん、レイちゃんもまこちゃんも、美奈子ちゃんも歌ってくれる。



―スモール・レディ。眠れないの?―

―じゃあ私たちが眠るまで、ずっと傍にいてあげるわね。―


「…っご、ごめんなさぁい…」

私は暗闇に目を凝らすように、精一杯の声を上げた。

「私が…私が銀水晶を盗んだの…ごめんなさ…
えっく…ママを…ママを助けてっ!!!」

銀水晶を差し出しながら、次のうさぎの声を待つまでが、とても長く感じられた。



「ちびうさ、ありがとう。大丈夫。私たちは、あなたの味方だよ。」

「あぁ。独りで抱え込まなくていい。俺たちを頼っていいんだよ。」

「ちびうさちゃん。」

「そうよ、ちびうさちゃん?」

みんなが手を差し伸べていた。
輪郭がぼやけて見えたのは、月光のせいかと思ったが、
うさぎに頬を拭われて初めて、それが涙のせいだとわかった。


「さぁ、まずは帰って、話を聞くところから始めましょう!!」

「うん、お腹も空いたしね♪」

「うさぎ~、夜に食べると太るわよー。」

「もォ、レイちゃんったらー。」

「うさ、ほどほどにしとけよ。」

「あぁん、まもちゃんまでぇー!!」


そんなやり取りを聞きながら、もう大丈夫だ…と私は思った。
私にはうさぎがいる。仲間がいる。
独りで眠る必要などない。

「うさぎ…」

「うん?」

「…お餅、食べたいな。」

「うん、食べよ。」


温かいまもちゃんの背中におぶさりながら、手を添えるうさぎの香りを感じ、

私は、

“満開の月に守られし君よー”

懐かしい唄を口ずさんだ。


【Fin】


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