で、ロードショーでは、どうでしょう? 第875回
「なんか最近面白い映画観た?」
「ああ、観た観た。ここんトコで、面白かったのは・・・」
『あやつり糸の世界』(第一部/第二部)
『マリア・ブラウンの結婚』、『「リリー・マルレーン』のニュー・ジャーマン・シネマの旗手、西ドイツの鬼才ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー監督が1973年にTV映画として、手がけた幻のSF作品。
日本では2016年3月に劇場公開が実現。
TVでは、第一部、第二部の二回に分けて放送されたため、劇場でも二部作として公開。
ダニエル・F・ガロイの小説『模造世界』を原作に、精巧なヴァーチャル世界を構築する最新コンピュータ・システムを巡って、主人公の周囲で巻き起こる謎の行方をミステリアスに描く。
物語。
サイバネティック未来予測研究所が開発中の<シミュラクロン1>は、スーパーコンピュータにより電子空間に仮想の人工世界を構築し、高度なシミュレーションによって政治や経済などの未来予測を行う画期的システム。
ある日、開発者で責任者の一人、フォルマー教授が急死し、後任にフレッド・シュティラー博士が任命される。
所長のジスキンス開催のパーティで、彼にフォルマーの最期の様子を伝えようとした保安主任のラウゼは、忽然と姿を消してしまう。
しかも、当日、ラウゼの目撃者もいなければ、そもそもラウゼのことを記憶している者がいないという不可解な状況に。
そこで、同僚で友人のハーンに聞いてみると、保安主任は前からエーデルケルンだと言われ、困惑する。
原作は、ダニエル・F・ガロイ『模造世界』(東京創元社刊)
脚本は、フリッツ・ミューラー=シェルツとライナー・ヴェルナー・ファスビンダー。
出演。
クラウス・レーヴィッチェが、フレッド・シュティラー博士。
バルバラ・ヴァレンティンが、秘書のグロリア・フロム。
ヨアヒム・ハンセンが、保安主任のハンス・エーデルケルン。
アドリアン・ホーフェンが、ヘンリー・フォルマー教授。
カール=ハインツ・フォスゲラウが、ヘルベルト・ジスキンス所長。
イヴァン・デスニーが、保安主任のギュンター・ラウゼ。
ギュンター・ランプレヒトが、フリッツ・ヴァルファング。
ヴォルフガンク・シェンクが、友人のフランツ・ハーン。
マルギット・カルステンセンが、秘書のマヤ・シュミット=ゲントナー。
ウーリー・ロメルが、記者ルップ。
クルト・ラープが、後任のマーク・ホルム。
ゴットフリート・ヨーンが、連絡個体のアインシュタイン。
エル・ヘディ・ベン・サレムが、ボディーガード。
特別出演に、イングリット・カーフェン、エディ・コンスタンティーヌ、クリスティーネ・カウフマン、ヴェルナー・シュレーター、マグダレーナ・モンテツマ、カトリン・シャーケ、ルドルフ・ヴァルデマル・ブレム、ペーター・カーン、など。
製作は、ペーター・メルテシャイマー、アレクサンダー・ヴェーゼマン。
撮影は、ミヒャエル・バルハウス。
鏡を多用したファシビンダー作品ですが、それもみなバルハウスの複雑なカメラワークならでは。
色の落ちたフィルムから本人自らデジタル修復。
もうね、うっとりしますよぉ。
美術は、クルト・ラープ。
古びないSF世界を見事に構築。
フランスで全面ロケをしたそうです。
ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー唯一のSF作品。
テレビ映画ですが、ミヒャエル・バルハウスの16mm撮影を本人がデジタル修復。
『マトリックス』の元ネタの一つである小説『模造世界』の実写化で、仮想現実世界を描いた初映画でもある。
演技と雰囲気だけで、バーチャルな世界であることを見せる丁寧な演出とそれに応えたキャスト陣の献身が見事。
思考とは何か?を問う哲学SFの隠れた逸品。
おまけ。
原題は、『WELT AM DRAHT』。
直訳だと、『ワイヤーの打った後』になるようです。
英語題が『WORLD ON A WIRE』で、『ワイヤーの上の世界』。
当時、コンピュータ描画はワイヤー状に表現されたり、接続のコードもワイヤーなどと言っていたようですし、グリッドなどの網目も意識してのことかと。
それを『あやつり糸』とした邦題の詩情はなかなか。
製作国は、西ドイツ。
長さは、第一部、第二部ともに100分少々です。
キャッチコピーは、「嘘だ、と言ってくれ・・・」
故意か偶然か、ザ・ブルーハーツの『悲しいうわさ』の歌詞のサビの歌詞と同じだったりします。
この歌、意味深な歌詞と曲調合わせて、この映画の主題歌のような趣。
こういうシンクロには胸がそわそわします。
ちなみに、堂島孝平の歌にも同タイトルのものがありますが、こちらは恋愛ソング。
さらにちなみに、『機動戦士ガンダム 機動戦士ガンダム0080 ポケットの中の戦争』の第5話サブタイトルが『嘘だと言ってよ、バーニィ』。
セリフっぽいですが、劇中では、少年アルが「「ウソだっ! バーニィはアイツが怖くなったんで、ウソをついてるんだっ」」とは言うが、こういうセリフは言われない。
ちなみに、この映画のリメイクが『13F』。
映画を観た感じだと、『インセプション』にもかなり似てます。
ピンボケの使い方が素晴らしい。
フィルターワークでのアナログなぼかしなど、見直すべき技法がいくつもあります。
ややネタバレ。
『マトリックス』のベースであるのは明らか。
(ただし、原作から映像化をイメージしたらしたら同じになったという可能性は大きいでしょうね)
中でも、電話ボックスが現実世界に戻る場所になっている。
カーブした階段、黒スーツの男たち、新聞の使い方、コンピュータの博士(ネオはプログラマー)、突然に別の部屋で目覚める、など多くの共通点がある。
『インセプション』では、夢の中のエキストラは独特のルールで行動するのだが、今作でも人々は独特の演出で行動しており、バーのシーンの印象などはかなり近い。
多層構造になっている世界や、夢から覚めてもまだ夢の中にいるような感じ、仮想現実の世界の不完全な感じなどにも類似点を見いだせる。