曾根崎キッドの日々

現実の街、大阪「曽根崎デッドエンドストリート」。そこで蠢く半架空の人物たちによる半現実小説、他ばか短編の数々。

あるパーティが・・

2009-07-14 09:46:17 | 半覚醒小説
 あるパーティが行われていた。前の日に現実に行われていたパーティの出席者たちの何人かもその中にいた。

 ホールとなっている立食のフロアがこちら側にあり、学校の講堂のような重たそうなドアのガラスから見える奥の部屋には学食の食堂のようなテーブルと椅子が整然と並べられ、そこそこの人数がそこで思い思いの食事をし,ワインなどを飲み,談笑していた。

 良く知っている、ほぼ身内の女の子と、おれもワインを飲みながら談笑していた。前日のパーティで会って話した長い髪のオトコとも話をしていた。何を話したのかは忘れてしまったが、概ねいいムードの中、話は続き、そのオトコは離れて話をしている時にはさほど大きく見えないのだが、近寄るとおれよりも30cmほど背が高く、おれは見上げ過ぎて首が凝ってしまった。そして目を離している隙に、そのオトコのシルエットが変化していた。驚くほどアタマが小さくなっていて、別人に見えた。

 なんだか今風の、両サイドを刈り上げ、残った髪を後ろで結んだスタイルに変わっていた。

 同じオトコなのだが、そうなると、もう見上げる必要は無く、首も凝らなくなった。

 おれは、尿意を覚え、周りに失礼して、トイレへと向かう。重たいドアを開け、思い思いに談笑する人々を横目に見ながら、その家を出る。トイレは別棟にあって、おれは「どうしてそんな造りなのだろう」と不思議に思う。どうしてその会場内にトイレがないのだろう。

 トイレに入る時に、不釣り合いな路を見た。パーティという概念からはとても不釣り合いな路だった。

 郊外も郊外の、その奥に温泉でも存在するか、というような言わば「田舎」の路だった。

 用をたして戻ってくると、パーティ会場は消えていて、その田舎の路はおれがやって来た方向・つまり、パーティ会場だった方向にも延びていた。そちらの方は鉄道の線路が走っている住宅街で、見覚えがあった。つい最近まで住んでいた街の近くによく似ていた。線路を左に曲がって上っていくと私立大学がある街だ。

 一人の女が、後ろ向きに立っていた。妙な身体の動きをしていたが、その動きには見覚えがあった。100%確信があったわけではなかったが、声をかけてみた。声をかけ、彼女が振り返る時に、おれが思っていた彼女のフォルムに再構成されるかのように輪郭が確定した。

 「ひさしぶりや。なにしてんの」

 彼女は何も言わず、ただ微かな微笑みを浮かべこちらへ近づいて来た。良く考えると、彼女の実家はこの路を少し降りたところだった。

 その時、少し向こうで悲鳴が聞こえた。その声は中年女性のもので、その声の方向の暗闇からねずみ色の集団が、現れた。10人ほどの集団が、人を蹴散らしながらこちらへ進んで来ている。緊張した。彼女を路端の窪みの少し高くなったところへ抱え上げ、そこへ座らせた。ねずみ色の集団からは死角になると思えたからだ。さらに緊張していると、ねずみ色の集団は進む方向を変えた。線路の踏切を渡った。その後には人が大勢倒れていた。動かない。みんな死んでしまったのだろうか。ねずみ色の集団には「慈悲」などというものは一切感じられず、クールな野蛮人そのもので、人を傷つけることに対する感情さえもなさそうに思えた。緊張は続いた。おれの手は彼女の内股に触れていた。そんな情況にも関わらず、彼女にそこまでの危機感はないようだった。ねずみ色の集団は、線路を挟んだ一本左手の路をこちらへと進んでくる。おれの手は彼女の体温を感じていた。彼女はおれの手が左右の太ももの間にあることを拒否していなかった。それはおれにセックスの予感をもたらした。

 その時に気付いた。自分はセックスそのものよりも、その資格や可能性こそを、求めているのだ、ということを。そして、これまでのほとんどすべての女の子との付き合いは「間違っていた」ということも。

 そんなことを考えている間にも、ねずみ色の集団はこちらへと近づいてくる。彼らのルックスが明らかになってくる。それでも街頭の灯りが逆行になって、はっきりとは見えない。その表情はわからない。しかし,全員がまったく同じであることはわかる。クローンかなにかだろう。そして感情は、ない。おれはセックスの予感と恐怖の感情の中で引き裂かれそうになる。ねずみ色の集団が全員同時に武器を振り上げる。鋭利ではない重たそうな刃物だった。それでつけられた傷は一生消えることはないだろう。左手の肉の温もりは相変わらずだ。このまま死んでいくのだろうか。いや、これは割にいい死に方ではないのか。鈍く光る刃物はおれの5mほどにまで迫っている。彼女だけは守らなければ。かなりこれは英雄的でもある。

 何かに罰せられることが必要なのだ・というヴィジョンが浮かんだ。おれは最後に彼女の太腿の温もりを確認した後、ねずみ色の集団の前に立ちはだかった。ねずみ色の集団はおれの2mほど前にまで迫って来ていた。おれの頭に、肩に振り下ろされるはずの刃物に街頭が反射し、鈍い光を放っている。おれは覚悟を決めて、その女の子の名を最後に叫ぼうと思ったが、名前も声も出てこなかった。ねずみ色の集団は、その集団の呼吸が聞こえるところまで迫っている。その呼吸も全員一致していた。二度吸って二度吐いていた。長距離走者のような一糸乱れない呼吸だった。おれは深く息を吸い、そこで止めた。その空気が一気に吐かれるときが、おれが死ぬときだった。

 しかし、頭にも肩にもいかなる衝撃は来ず、その代わりに胸と胃と股間に風圧を受け、おれは数m吹き飛ばされてしまった。腰と頭を強く打ち、しばらくは動けなかった。何が起こった?

 目を開けるのが怖かったが、静かに目を開けてみた。輪郭がぼやけて闇と街灯だけが見えた。頭が痛い。ずきんずきんと脈打つ血管が意識された。そのずきんずきんはねずみ色の集団の呼吸と同じビートだった。振り返ってみたがねずみ色の集団は姿が見えなかった。

 やつらはおれの血管の中に吸収されてしまったのかもしれない。


 

その3

2008-07-15 21:39:57 | 続き物お話
 昼間に見るデッドエンドストリートは光の飛んだ写真の中にあるような気がいつもする。その蜃気楼のようなはかない存在感はまた、そこを通る人間に、放っておけばそのまま消えてしまうのではないか、という気にさせる。地上げ関連の人間が昼間にこの界隈を歩いたならば、こんなもの、潰されて当然という感想を持つのかもしれない。仕事にヤル気がでるだろう。
 ただ、それが、陽が落ち夜がやってくると何故かその輪郭が際立ってくる。闇と建物の境目は夜の方がはっきりして、そこには露地の体温のようなものが立ち上がってくる。

「なんかにゃーにゃーうるさいなあ」
「駒芳んとこのネコやろ」
「おばはん、またネコ飼ってんの」
「ねずみ対策らしい」
「は、なんて言うた今」
「ねずみたいさく」
「いまどき?」
「なんかその発想、おばあちゃんの時代の薫りやんな」
「おばあちゃんやん」
「かんなりエロはいったおばあちゃんすけどねえ」
「だはは、で、閉じ込められてんの、閉め出しされてんの」
「今は閉じ込めちゃう。営業中は閉め出し」
「完全なるねずみ対策要員やな」
「今回はオスみたい。よう来んねん。トドムンド。かわいいよ」
 
 一匹目のネコはMタキが強奪した。虎子という名をきじ子に代えてナチュラリーで飼っている。ナチュラリーは2階・3階とあり、3階は物置及びMタキの寝室である。文字通りデッドエンドストリート住民と言える。トドムンドのユルフン・コックことN井もよく帰れなくなって泊まっている。最初の頃あまりに泊まり過ぎてSKG会のエラいさんであるN井のおかんが、息子は「拉致」されている・と騒いだことがあった。その犯人はN井のおかん曰く、トドムンドの社長だ・という話だったのだが、それを一度確かめに来た時に見た「チェ・ゲバラ」のポスターを見て「ほら・やっぱり」と、なにがほらやっぱりかわからないのだが、彼女の疑惑は深まってしまった。革命→キューバ→共産主義→日本共産党→SKG会の歴史的敵・なんて風に連想が進んだのだろう。その後、おかんはおとんを伴って、社長の家へと怒鳴り込みに来たらしく、社長は豊津界隈でおかんを見たなら、くるっとUターンをして逃げる習慣になっているらしい。

 曾根崎キッドはある日の昼間、ふらりと露地に来てしまい、たばこを吸っていたら、昼間なのにトドムンドの店内に灯りが見え、ドアの円形の窓から覗いてみるなら、こちらを向いた社長が4番テーブルに座っていたのだった。幸いに目は合わず、すっとしゃかんで耳をそばだてると声が聞こえてきた。社長の声ではなかった。
「まず、保証金の250万は引きなくすべてお返しします。そしてトータルで1000万、これねえ、そこの「あん」さんとかもこんな金額でやってもうてるんですわ」
「それに今即答はできませんけど、そんなことよりも、ここを潰す大義みたいなものをぼくは聞きたいんですわ。これよりいいものができるんですか? それともただ意味もなく潰すから潰すねん・ということなんですか? ここの人たちね、みんな好きなのよ、この露地。みんなの前で一回説明会開いてよ」
「いや、ここのみなさんにはまだ言えませんねん。なんでかいうたらね、土地はうちが取得したんやけど、ウワモンには家主さんちゅうのがいますやろ。そことの交渉が終わって店子さんはそこからですねん。マスターんとこはたまたまうちが上も下も所有したから、これを言いにこれますねん」

 曾根崎キッドはえらいもんを立ち聞きしてしまった・と思った。抜き足・差し足でその場を立ち去った。<つづく>
  

その2

2008-07-09 19:28:54 | 続き物お話
 デッドエンドストリートの地上げの話は5年ほど前からあった。ただ曾根崎コア再開発という会社が金がないらしく、少し盛り上がっては立ち消えになり、また盛り上がっては立ち消えになり、とそんなことが繰り返されるうちに、デッドエンド住民は、狼少年を見る村の人の感覚になり、「そんなん・ないない」という態度を取るようになっていたわけで、社長にとってもそれは正に青天の霹靂だったのだろう。A美によれば、デッドエンドストリートの土地を持っていた大家はトドムンドの大家でもあり、その土地とトドムンドの建物を曾根崎コア関連会社へと売り払ったらしく、他の店はそれぞれ建物は別の所有者がいるから、まずはトドムンドに来たんじゃないかな、という話だった。

 髪の毛を切ってもらって、A美は曾根崎キッドにそのまま残っとかないか、と誘ったが、曾根崎キッドは帰ることにした。ちょっとパチンコしないとお金がなかったし、本日は居酒屋気分だった。

 デッドエンドストリートを出て新御堂側まで歩く。そこはかつてシブい店が建ち並んでいた。物外館もあった。鰻屋もあった。テンプル・バーは残っている。曾根崎キッドは知らなかったが、この辺りをうろうろするようになって以来、学習したことは、このデッドエンドストリートへと続く露地はなかなかいい、ということだった。お初天神通りと新御堂を繋ぐ露地は数本あるが、この路が一番シブいと思う。一番暗く、一番すたれている。すたれてるのがいいぢゃん・と曾根崎キッドは思う。社長が言っていた。
「すたれてるっていうけど、すたれるためにはかつて賑やかでないとあかんわけよ。ここの露地はおれが来た頃は新御堂側の店はなんかちょっと昔ながらの敷居のやや高い店とかまだあったよ。大親分の妾さんの和食屋とか。行ったことないけど。あと物外館やテンプルバーにてんつくてん。コックピットはオヤジがアホやけど。どっちかいうとこのデッドエンドの方が絶望的やった」

 曾根崎キッドは梅田の地下へと吸い込まれていった。
                                <つづく>


曾根崎キッド地上げレジスタンス  1

2008-07-02 15:04:38 | 続き物お話

 2006年晩秋のある月の綺麗な夜、曾根崎キッドが「ふんふんふん」とロ・ボルゲスを鼻歌で歌いながらトドムンドのドアを開けたら、社長が二番テーブルに壁を背にして座っていた。
 曾根崎キッドはカウンターに座り、新しく出たミーツを見つけ、ページをぺらぺらめくり、ひさうちさんのエロねたでも読もうかと思ったその時、
「キッド、お前トドムンド好きか?」
と、後ろから声をかけられた。「おれのこと好きか?」じゃなくてほんとによかった、と内心ほっとした。
「うん、好きやで。ていうか、ないと困るってレヴェル」
「あ・そう」
「どうかした?」
「いや」
 話はそれで終わる。社長は赤ワインを飲んでいた。
 曾根崎キッドはいきなり、「は?」なことを訊かれ、そんな空気を社長が発しているときはこれまであまりいいことがなかったので、席を立ち「ミーツ持っていっていい?」と言い残し、ナチュラリーへ向かう。

 おみつのカラオケがうるさかったが、階段を上るともっとうるさかった。ミタキンが録音をしていた。「ヘタなベースやなあ」と思ったが、そんな印象は全部消して、
「お客なんですがー」とドアから中を覗くと、「はいはい」とベースを置き、横歩きしてカウンターの中へ入る。
「何しましょう」
「ラガー」
「はいよ」
「ヒマ?」
「見たまんま」
「はは」
「パチンコどう?」
「ぼちぼちかな」
「今日は?」
「一万円ぐらい」
「勝った?」
「負けた」
「ナガイが最近競艇凝ってんねん。一緒に行こか、今度」
「競艇かぁ。たまにはええかな」
「今はちょっと寒いかもしらんけど」
「夏とかよさそうやんな。涼しげで」
「そうそう。なんかリクエストある?」
「特に思いつかんけどね」
「では好きにさせていただきます」
 缶のままラガーを飲んでいると、かかったのはディヴィッド・バーンだった。
「ああ、そんな感じっす」
「今度ミーツの取材あんねん」
「ああそう、ナチュラリー?」
「いや、デッドエンドストリート全体かな。ていうてもトドムンド中心やろけど」
「いいやん」
「いいんかな。いいんやろけど、ここ紹介されてもあんまり客関係ないねんな」
「なるほど」
「まあ、なんもないよりましやけど」
「まいどー」
「もうサボりにきた?」
「ちゃうねん、今日はヒマ。それに社長なんか様子おかしいやんか。空気がどんよりしてんねん」
「アオミちゃん、髪の毛いつ空いてる」
「いつでもオッケーっすよ」
「明日でもいい?」
「昼間やんな」
「トドムンド」
「3時ぐらい?」
「切るだけやろ。じゃあ5時ぐらいでいい?」
「オッケー」
「あたしにズブロッカちょうだい」

 翌日曾根崎キッドはアオミから社長の陰鬱そうな顔の原因を聴いた。トドムンドに地上げ屋が来たのだった。                      <つづく>
 

その70(暫定最終回)

2008-05-11 22:52:49 | 続き物お話
on the 10th day
 さゆりは市大病院の集中治療室に搬送され、ひどかった出血は止まり、三日目に意識は戻り、正確に言うと目は開けたが、一言もしゃべらなかった。
 さゆりとオトコは「繋がったまま」救急車に乗せられた。さゆりの下になったオトコは哀れ右の睾丸が潰れ、左の睾丸も激しい損傷で、ペニスは、しかし、さゆりの肛門からなかなか抜けなかった。膣痙攣のような情況がさゆりの肛門に起こっていた。弛緩剤を打たれ、やっと外に出たオトコのペニスは「くの字」に曲がっていて、その後急激にくの字のまま萎んでいった。その後どうなったかは誰も他の誰かに尋ねなかった。
 
 さゆりはあの衝撃でさゆりから放り出され、またあの空間に閉じ込められてしまった。ただ、今回違うのは新世界のことだけは見えるのだ。もちろん下のさゆりのことも見える。さゆりがいる空間とはカメラからモニターへ至る電脳空間を含む空間だった。そこは空間とは言えないのかもしれない。粒子の流れの中の小さなポイントに閉じ込められているのかもしれない。あるいは、そのポイントは常に移動し続けているのかもしれない。ものすごい速さで。
 さゆりはその空間に閉じ込められて以来、曾根崎キッドを探し続けた。さゆりはすべてのモニターを見ることができた。しかし、曾根崎キッドはどのモニターにも現れなかった。

 ゆうはさゆりに献身的に尽くしている。三日間とも付き添っている。ゆうの顔の傷は回復し、唇が少し腫れているだけだ。ゆうはおじいさんとの関係を修復しようと思った。仕事を辞めようとは思わないけれど。

on the 12th day;
 さゆりはモニターをものすごい速さでチェックしていた。通天閣のふもと、ミファソの前を見覚えのある後ろ姿が歩いているのを見た。「キッド!!!」と叫んだ。すると、モニターの画像が乱れ、それはすべてのモニターがそうで、しばらくするとさゆりは自分の視界さえ失ってしまった。
 次に目が見えたとき、目の前にはゆうがいた。

 あるモニターに、斜めに三歩ほど歩いては平参平の真似をするオトコの姿が映し出されていた。そのオトコはその動作を数回して、最後に膝をぴーんと伸ばし、そのまま静止し、30秒ほどそのままキープすると首を傾げ、足を下ろすと、なんとなく不満げな様子で、とぼとぼ歩き、地下鉄堺筋線の入り口に消えていった。                          (おわり・続編へとつづく)
  


その69

2008-05-10 13:35:42 | 続き物お話
 さゆりは「また落ちる」と思ったが、その前のような孤独感はなく、何かに繋がれているという確信があり、そして落ち方にしても頭からではなく足や腰が何かに引きずられていくようだったから、危機感は感じなかった。そして時間が割れ続け、その外には出ることが出来ないような予感もあり、しかし、こだまし続ける声と同期する身体の奥の疼きにズレはなく、落ちながらも幸せなのだった。割れていく時間の中であるオトコのことを思い出しそうになった。やんちゃでばかで誠実でかわいくて、「でも一体誰だったのかな?」そんなヴィジョンが脳裏をよぎった時、疼きの中心を破滅的にえぐるような衝撃がさゆりを襲った。そして意識はなくなった。

 その横にはオトコがいて、しばらく立ち尽くし、小刻みな足音が始まり、しばらくするとその足音は遠ざかっていった。

 さつきとミファソのおじいさんが部屋の中に入って来た時、部屋の中に甘く気だるい匂いと血の匂いが充満していて、さつきは少し胃がムカムカした。廊下を通ってリヴィングまで行くと、その匂いはさらに強烈で、そしてそこにある光景もまたそうなのだ。さつきとミファソのおじいさんは倒れているさゆりを見て駆け寄った。さゆりはオトコの身体に重なるように倒れていた。ミファソのおじいさんが抱き起こそうとするとオトコの身体も一緒に付いてくる。
 「えらいことになっとんな」
 「さっちゃん,119番や」                                        (つづく)
 

その68

2008-05-09 17:01:46 | 続き物お話
 実際には数秒の出来事だったのかもしれない。
 しかし、さゆりは、時間の袋小路に嵌まり込んで出口のない迷路を彷徨っている。身体の奥の疼きと、そしてその声を伴いながら。時間はどこまでも割れていくのだった。
 
 曾根崎キッドはカーテンから「なんちゃって」と顔を出した。オトコと夏木マリと目が合ったが、「ニッ」と笑ってまたカーテンの中に隠れ、影絵を再開した。

 オトコは「うわっ」と声を出し、その際に足を滑らせ、さゆりの腰を抱いたままあん馬から落ちていく。さゆりとともに。夏木マリはキッチンの方へと走っていく。曾根崎キッドは影絵を熱心にやっている。オトコはひっくり返り、背中から床に落ちようとしている。さゆりとともに。夏木マリはキッチンの中へと走り込む。曾根崎キッドは影絵中である。オトコの背中が床に着く。背中に衝撃が走るが更なる衝撃とはその後のことである。さゆりは手であん馬に最後までしがみついていたから、尻餅をつくようにオトコの上にのしかかる。夏木マリはキッチンの中に隠れてしまう。曾根崎キッドは影絵に飽きてしまう。一体何をしているのか、自分でもわからなくなってきた。オトコは仰向けに落ち、さゆりの尻は繋がったままオトコの下半身を間髪入れず直撃する。男女の悲鳴が部屋中に響き渡る。

 曾根崎キッドは慌ててカーテンを開けるが、そこで見たものは曾根崎キッドをその後三日間、狂わせてしまう光景だった。

 曾根崎キッドはブラジルのサッカー選手がゴールした時によくやる「ゆりかごパフォーマンス」のような赤ちゃんを抱いて左右に揺するように手を動かしながら走ってドアまで行き、飛び出した。ドアの外にはさつきとミファソのおじいさんがいたが、曾根崎キッドの様子を見てただごとではないと思い、横によけようとしたが、その間をさつきとおじいさんを蹴散らすように「うぇー・きょえー・らぇー」と聞いたこともないような言葉を口走りながら階段のドアを開けどこかへいってしまった。                                (つづく)


その67

2008-05-08 16:21:56 | 続き物お話
 オトコのペニスの先端がさゆりの肛門に触れた時、カラダが緊張し、肛門が締まった。
「だいじょうぶ・チカラ抜いてごらんなさい」
 言われた通りにした。オンナの声はさゆりを支配していた。さゆりは自分のカラダがふわふわしていて、どこかに飛んでいきそうだった。どこかに留まりたかった。自分のカラダを串刺しにして、そこで固定して欲しいと思った。チカラを抜いてオトコが入ってくるのを待った。
 曾根崎キッドは腰の綱をほどき窓枠に手を掛けた。窓はロックされていなかった。ゆっくりと窓を開け、素早くカーテンと壁の間に滑り込んだ。
 中の三人はそれには気づかず、オトコのペニスを夏木マリが持ちさゆりの肛門へ導いて先端が吸い込まれたその時だった。
 「わんわんわん・わんわんわん」
 オトコと夏木マリはお互いに「ん?」という顔で目を合わせた。窓は西向きで夕日を受け、白いカーテンは黄金色に染まり、その中で動く影があった。それは犬のカタチをしていて「わんわんわん・わんわんわん」と鳴いていた。ただ、その犬は前足と尻尾がなかった。
 カーテンの裏で曾根崎キッドが精一杯の犬の形態模写を試み、結構うまくいった・と思いながら、手で犬の顔と口をこしらえ、「わんわんわん・わんわんわん」と鳴きまねをし、そしてその鳴き声は最後に「わん・わん・あおーーぅ」と何かに訴えるような遠吠えで終わった。

 さゆりは肛門の刺激に感じながら、自分が何かの意志に強く求められている気がしていた。そしてその意志はさゆりの中に入りたがっていて、それを受け入れることがすべてでその他の選択肢は考えられなかった。動物が何かを求めて鳴いているような気がした。意志とはその動物に由来するのかもしれない。それでもかまわない。むしろそれがいい・と思った。そしてその意志がさゆりを奥深く貫いたときに、その動物がひときわ高く吠えた。その感覚はしばらく同期した。だが、身体の奥からその感覚が失われていくその時にも動物の声はさゆりの耳奥でエコーし続けた。いつまでもどこまでもその声は消えず、繰り返され、フィードバックされその音量は増していくのだった。
(つづく)
 

その66

2007-01-04 17:22:18 | 続き物お話
さゆりは頬を皮に押し付け、そして背中を反った。それが挑発的なことも分かった上で自分もそうしたかった。もっと尻を高く上げたかったがあん馬のようなものを股で挟み込む形になっていてもどかしかった。しかし、片足ずつあん馬の上にのせようとしてもがいた。その様子にオトコが
「おお」
と声を上げた。夏木マリが
「わかったわ」といい片足を乗せることを手伝った。
 さゆりはあん馬の上にこれほどのいやらしい形はないというほど尻だけを高く上げてそこで静止した。しかし下腹の柔らかいカーブが波打っていた。注入されたアルコールはさゆりの腸壁から即座に吸収され体内を巡っていた。さゆりは酔い出していたのだ。
 周囲の赤い色は突然消え、さゆりは熱いものの中にいた。その熱いものとは自分のことだった。アルコールがめまぐるしく駆け巡っている自分のカラダの中にいた。さゆりは少し安心したが、アルコールはカラダの自由を利かなくさせ、カラダのすべての粘膜の快感を最優先させようとしていた。まだそれに抗うキモチは残ってはいたが、倫理は薬物にあっという間に負けてしまう。さゆりはひさしぶりに一人になった。そして自分のカラダを愛おしく思い、それが他人に最初は強制されていたとしても、自分の快感は自分だけのものであり、それに他人がどんな感情を抱こうと知ったことではなかった。どこまでも尻を高く上げ、内臓までも人目に晒してしまいたかった。そして誰でも何でもいいからその粘膜に刺激を与えて欲しかった。そう思ってさゆりは尻を振った。
「ほら・欲しがってるわよ、サトル」
「今度はそこをやるで。下に降ろすわ」
「ここでこのポーズがいいんじゃないの。あんたが上にのぼんなさいよ」
「そうか」
 オトコは斜めになったあん馬状皮の台の一番低いところに足をのせ、上からさゆりの小刻みに震えるカラダを見下ろした。頬を皮に押し付け呼吸が乱れ、その横顔は悩ましく、柔らかな背中には赤いラインが入り、腰の辺りでくびれ、そしてそこから急激な角度とヴォリュームで二つの丸い球体がそびえ立ち、それらは大きく開いていた。
「角度に無理があるわね・あたしが手伝ってあげる」
 そういうと夏木マリは立ち上がり、キッチンへと消え、エクストラ・ヴァージン・オイルのボトルを手に戻ってきた。掌にたっぷりと注ぎさゆりの尻のうえからそれは細い糸となって肛門に落ちた。さゆりの肛門にオイルが溜まり、そしてそれは呑み込まれた。
「おどろくな」
 残りのオイルをオトコのペニスに垂らし掌でぐるりと全体になじませ、二三度しごき、手で誘導した。窓際で影が動いた。(つづく)

その65

2006-10-15 16:15:28 | 続き物お話
「尻尾も素敵だけど、これ忘れてたわね」
 夏木マリは注射器を取り上げ、アナルバイブを一度ぐっと押し込みさゆりに「ひぃっ」という声を出させ、満足したように微笑んで、それからゆっくりと抜いた。「はぁっ」ともう一度さゆりから声が漏れ、頭と腕は完全に沈み、背中は反りその角度は頂点に向かうにつれて高く上りつめ、その腰の細さからは意外な双つの円く豊かな丘がそびえ立っていた。
「この子・いいカラダしてるわよね」
「こいつもそう思ってるみたいやな」
 オトコは股間を指差した。夏木マリがよく知っている、左にやや曲がり、反りあがるカタチに形状記憶されていた。

 曾根崎キッドは窓の出っ張りに足を掛け、よっこらしょ・と窓にへばりついた。そこはカーテンが掛かり中の様子は窺えない。次の次の窓にカーテンの隙間があった。曾根崎キッドは慎重に掌とつま先で窓枠を内側から押し上げるようにしてカラダを移動させた。ゆっくりでないと落ちてしまう。

 夏木マリはさゆりの真後ろに立ち、注射器の先端でさゆりの肛門をちょんちょんし、さゆりに小さな声を上げさせからかったあと、何も言わず先端をブスリと押し込んだ。注射器はほぼ直立し、ピストンを押さなくとも、赤い液体がさゆりの中へと入っていく。
「すごいな」
「いやらしいお尻ねえ」
 ワインがすべて注入されると、注射器を抜き、そのまま放置した。
「もうすぐおもしろくなるわよ」
 兆候はすぐに現れた。さゆりは酒が強くなかった。さゆりの頬に紅潮が見られ、目がとろーんとしてきていた。オトコがかなり興奮しているのが夏木マリにはわかった。先端が震えていた。

 さゆりは自分の存在が消えていく実感があった。下のさゆりとの間の膜が溶けていく・と思った。窓のカーテンに人影が映っていた。
(つづく)