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ラテンアメリカ政治経済のブログ

8.ラテンアメリカのポピュリズム ③モダン・ポピュリスト

2017-08-18 17:59:23 | 日記

さて、今回は、皆さんも恐らく一番よく知っているモダン・ポピュリスト(他の呼び方も色々とありそうですが)の話です。ポピュリストについて、というよりも、それぞれの国の左派政権を見ていきます。ポピュリストはその1部です。2000年代、中南米は、左派政権(中道左派含む)が占拠しました。その仲間たちはまとめて"Marea Rosa"「ピンク・タイド」と呼ばれました。

何だか、左派の集まりで団結力抜群に見えますね。

 
 
これまでのブログで見てきたように、ラテンアメリカ諸国は、制度を軽視し、個人性を重視するような統治スタイルが長年続けられてきたため、やはり、ポピュリストが政権を握りやすい土壌ができているといえるでしょう。ピンク・タイドにはポピュリストもいましたが、そうではないリーダーもいました。研究者らは、この左派の大統領を、2,3のグループに分け、議論しました。同じ左派といっても、ポピュリストならではのばらまきだったり、まともだったり、経済運営などにも大きく差がでたのです。
 
基本的に、研究者による主要国のグループ分けは以下のような感じです。
グループ①:チリ、ブラジル、ウルグアイ
グループ②:ベネズエラ、アルゼンチン、エクアドル、ボリビア
 
グループ①
(チリ:ミシェル・バチェレ 2006~2010年、2014年~)
(ブラジル:イグナシオ・ダ・シルバ 2003~2011年、ジルマ・ルセフ 2011~2016年)
(ウルグアイ:タバレ・バスケス 2005~2010年、2015~、ホセ・ムヒカ2011~2015)
 
 
 グループ②
 
(ベネズエラ:ウゴ・チャベス 1999年~2013年、ニコラス・マデュロ 2013年~)
 (アルゼンチン:ネストル・キルチネル2003~2007年、クリスチーナ・キルチネル2007年~2015年)
(エクアドル:ラファエル・コレア2007~2017年)
(ボリビア:エボ・モラレス 2006年~)
 
そして、①グループと②グループにつき、研究者らは様々な呼び名を付けました。
1.Mazzuca:
① Social Democratic Left 社会民主左派
② Populist Left ポピュリスト左派
 
2.Castaneda:
① Good (right) 良い(正しい)
②  Bad (wrong) 悪い(間違い)
 
3. Weyland:
① Moderate (穏健)
② Radical (過激)※
 
※Radicalというのは、ベネズエラのチャベス、エクアドルのコレア、ボリビアのモラレスのように、カリスマティックな権力によって統治を行い、行政府に権力を集中しがちであるということを意味しています。
 
この、Castanedaの Good and Badというのは面白いですね・・・!南米の良いこちゃんとワルとでもいったところでしょうか・・・。
 
さて、実際、①と②の違いについてどのように定義しているのでしょうか。
 
Levitsky and Robertsは、以下のように説明しています。
① Institutionalized and market oriented 政治システムが制度化されており、経済政策は市場より。
② Personalistic Leadership, statist economic policies 個人のカリスマによるリーダーシップ、国家介入型経済運営
 
他方、Roberts et al.は、①につき、複数の政党が安定して存在し、そうした政党が異なる社会の関心を示すことができている政権だとしています。逆に②については、政府は下層階級に属する小規模農業従事者による組合、インフォーマルセクターに属する労働者、および、都市部に住む貧困層による指示に頼っており、こうした政権は、強固な、まとまりのある政権に基づくものではない、と述べると共に、こうした国では、事実上、野党は崩壊しており、これに、国家の脆弱性も相俟って、ポピュリストリーダー、政治的アウトサイダーの活躍や大衆運動を引き起こす、としています。
 
①に代表されるチリとウルグアイは、2011年に先進国の仲間入りを果たしました。
 
他方、②のポピュリストならではのばらまきの代表選手はベネズエラのチャベスとマデューロでしょう。。
ベネズエラは膨大な石油資源を抱える資源大国で、チリのような堅実な経済運営を行えば先進国入りも夢ではなかったのですが、とにかく、ずっと石油価格が高いままであろうと信じ切っていたらしく?、原油の増産もせず、通貨統制(これを続ける限り政府は補助金を負担しなければりません)も続けばらまきを続けた結果、財政赤字が膨らみました。政府は紙幣の増刷によって赤字ファイナンスしており、その結果、ハイパーインフレに向かっています。価格統制及びハイパーインフレにより、国から食料やトイレットペーパー、薬など必需品が不足しています。チャベス大統領の死後、マデューロが後を継いだのですが、この状況を打破できず、独裁政権状態になっています。
 
このように、その経済政策の結果、今国が置かれている状況が大きく違うのです。
 
但し、ベネズエラと同様、②に仲間わけされるボリビアやアルゼンチンは、ベネズエラほど苦しんではいません。
Levitsky and Robertsは、必ずしも2グループにわけられるわけではないとして、以下のようなマトリックスに分類しています。
     
 
これをみると、「いい子」であるチリやウルグアイと対局にあるのがベネズエラで、その中間にあるボリビアやアルゼンチンは、ベネズエラと同じ運命はたどっていません(アルゼンチンはちょっとたどるか?という局面で、右派のマウリシオ・マクリ大統領に代わりました)。ボリビアのモラレス大統領は、チャベスと仲良しで、レトリックも似ていましたが、経済運営はかなり堅実です。また、「いい子」の仲間ブラジルは、汚職問題で政治クライシスです。よって、やはり、グループ分けにはちょっと無理がありますね。
 
ちなみに・・・前回のブログで議論したネオ・ポピュリストは、テレビを活用して国民との直接の対話の場を持ったとしましたが、モダン・ポピュリストは・・・そう、ツイッターです(現アメリカ合衆国のT大統領も活用していますね・・・)。チャベス大統領は、ボリビアのモラレス大統領に、「わが友よ、ツイッターは良いぞ」とかお勧めしていたという話もあります。2010年時点で、チャベス大統領のフォロワーは7万2000人、1日に2000人のスピードでフォロワーが増えたといいます。
 
さて、次回は、こうした南米の「良い子」と「ワル」の実際の経済政策や、その結果についてみていきます。
 


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